2026年1月21日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵

 高市早苗首相は1月19日の記者会見で、1月23日に召集される通常国会の冒頭で衆議院を解散し、1月27日公示、2月8日投開票という日程で解散総選挙を行う考えを示しました。

 通常国会の冒頭での解散は、戦後においても極めて異例であり、本来、予算審議や重要政策について十分な議論が行われるべき国会の役割を事実上放棄するものです。さらに、解散から投開票までの期間はわずか16日間と極めて短く、政党間の論戦や政策の検証が十分に行われないまま選挙が行われることになります。なぜ今、解散・総選挙を行う必要があるのか、その明確な理由や争点が国民に示されていません。これは、国民に信を問うという名目とは裏腹に、実質的には「大義なき解散」と言わざるを得ません。

 選挙までにほとんど日がなければ、候補者や政党だけでなく、私たち有権者が各政策を比較・検討し、自らの意思で判断する時間もなくなります。このような選挙のあり方は、民主主義の根幹である熟議と選択の機会を軽視するものです。

 一方、2020年以降の政権与党は、「2050年カーボンニュートラル」をかかげながら、石炭火力の温存や化石燃料依存を前提としたエネルギー政策を続け、気候危機への本来あるべき対策を先送りし、石炭火力の延命や水素・アンモニア・CCSなどの高コストでほとんど削減効果の見込めない技術開発、原子力回帰に投融資を振り向けてきました。その結果、日本の温室効果ガス削減目標や政策の実効性は非常に不十分なものとして国内外から批判にさらされてきました。

 そして高市政権下では自公連立の解消から自民・維新の連立政権誕生により、原発推進・化石燃料維持・再エネ抑制の方向性がさらに加速した側面があります。

 今回の選挙では、気候変動対策とエネルギー政策のあり方を重要な争点として捉え、各党・各候補者が示す政策や姿勢を丁寧に比較し、将来世代に責任ある選択を行うことが、市民に強く求められる選挙になると考えています。

 話は少し遡りますが、2025年7月23日、国際司法裁判所(ICJ)は気候変動に関する国家の義務についての勧告的意見を発表しました。今回の解散総選挙は、この勧告的意見の発表後、はじめての国政選挙となります。

 ICJの勧告的意見では、各国は、気候系の保護のために適切な措置を講じる義務があること気候変動に悪影響を与える排出を行う民間企業を規制しなかった場合、各国は責任を問われる可能性があることなどが示されました。日本の気候変動政策は、この勧告的意見が示す義務を遂行できるよう、すみやかに転換していくことが求められており、各党の政策においては、どれだけこの国際法を遵守した公約を出せるかが鍵を握っています。

 近年、GX関連法に代表されるような、将来世代に長期的な影響を及ぼす重要な法律が相次いで成立しています。しかしそれらの多くは、法律では制度の大枠のみを定め、具体的で本質的な内容を政令に委ねる構造となっています。しかし、政令は国会の議決を経ることなく、内閣が決定できます。そのため、法律が成立した後に、国会で十分な公開の議論や説明がなされないまま、政策の核心部分が決まっていく状況が生じています。

 政令への委任そのものは、制度上否定されるものではありませんが、どこまでを法律で定め、どこからを政府に委ねるのか。その線引きを判断し、国民に説明する責任は、立法府である国会、そして国会議員一人ひとりにあります。

 今回の衆院選では、政策の賛否だけでなく、重要な制度を国会でどこまで議論し、どのように責任を持って決めてきたのか、その姿勢と覚悟が、国会議員の責務として問われるべきではないでしょうか。

 気候ネットワークでは、気候変動を抑制するためにはどのような政策が必要なのか、以下に評価のポイントをまとめました。

各党や候補者の政策で確認すべき論点

  • 気候目標   
    パリ協定の1.5℃目標に向け、2030年や2035年の削減目標を引き上げること
  • キャップ&トレード型排出量取引
    排出量取引制度の実施において1.5℃目標に見合った上限枠を設定すること
  • 石炭火力
    2030年代前半までに国内の石炭火力発電所を全廃すること
  • LNG火力(LNG=液化天然ガス)
    新規LNG火力の建設は止め、遅くとも2040年までには原則利用中止とすること
  • 水素・アンモニア
    水素・アンモニア混焼による火力延命策を認めない
  • 再生可能エネルギー
    2035年の電力部門の脱炭素化と再生可能エネルギー100%を目指すこと
  • 原子力
    脱原発を掲げ、小型原子炉など含めた原発新増設を認めないこと
  • 省エネルギー
    2050年にエネルギー消費量の半減をめざす

論点の詳細

1.気候目標

パリ協定の1.5℃目標に向け、2030年や2035年の削減目標を引き上げること

 2025年は、2024年・2023年に続く史上3番目の暑さを記録したといわれています。次々と最高平均気温を塗り替えている中、産業革命前に比べて1.5℃以内に気温上昇を抑えるというパリ協定の目標はますます困難な状況になっています。

 この1.5℃目標達成には、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、世界全体で2035年までに60%以上の削減が必要だとしており(2019年比)、COP合意にも盛り込まれています。日本は歴史的排出量や一人当たりの排出量が多いことから、世界全体の目標以上に大幅な削減をしなければ、先進国としての責任を果たしたとは言えません。2030年に少なくとも50%以上の削減、2035年には75~80%程度の削減が必要です。

 しかし、政府が2025年2月に国連に提出した目標「2035年60%削減、2040年73%削減(2013年度比)」はIPCCが示す水準を下回り、1.5℃目標に整合しているとは言えません。

 ICJの勧告的意見では、各国は1.5℃目標達成に最大限の努力を払わなければならないとされています。そして、締約国の国別削減目標(NDC)は「その締約国が達成できる最高水準の野心」を反映しなければならないこと、新しいNDCの策定にあたっては、以前のものより高い目標を掲げていかなければならないことを示しました。

 日本も大幅な削減を法定目標とし、その目標に向けて化石燃料依存から早く脱却して持続可能な再生可能エネルギー(再エネ)100%の社会を目指していくことが不可欠です。各党の公約で、温室効果ガスの排出削減目標をかかげているか、その目標は1.5℃目標に見合うものかを確認してみましょう。

2.キャップ&トレード型排出量取引

排出量取引制度の実施において1.5℃目標に見合った上限枠を設定すること

 日本の温室効果ガスの約6割は電力、鉄鋼、窯業土石、化学、石油精製といった大規模排出事業者によるものです。2026年から、これら大規模排出事業者を対象とした日本版排出量取引制度(GX-ETS)がスタートします。

 現在、その詳細な制度設計について、経済産業省と環境省の合同審議会での意見がとりまとめられました。しかし、政府の制度案では、排出量取引制度の法律上の規定に温室効果ガスの排出量の上限(キャップ)やNDCとの関係が明確に示されていないことや、科学的根拠に基づく十分な削減レベルの設定と透明性が欠如していることが問題です。また、石炭火力等の高排出源を温存する設計となり、実効的な削減効果が期待できません。排出量取引制度を少なくとも国際的な水準に高め、実効性あるものへと早急に見直す必要があります。

 排出量取引制度は日本以外の国ではすでに10年以上前から導入されて、様々な課題を乗り越えてきています。こうした各国の経験などもふまえ、IPCCなどの科学的知見に基づき、1.5℃目標に整合した水準で上限枠を設定することが不可欠です。上限が緩ければ、排出枠が余剰となり、企業に削減努力を促す価格シグナルは働きません。1.5℃目標に見合った上限を段階的に引き下げていくことで、制度は初めて脱炭素への確かな道筋を示すものとなります。日本の温室効果ガス排出を削減できるかどうかは、排出量取引制度が鍵を握っているといっても過言ではありません。

3.石炭火力

2030年代前半までに国内の石炭火力発電所を全廃すること

 日本の温室効果ガス排出量のうち、最大の排出源となっているのが石炭火力発電です。

 1.5℃目標を達成するには、先進国は2030年までに全廃、途上国も遅くとも2040年までに全廃することが不可欠だとされています。2024年のG7プーリア・サミットの合意文書には、2030年代前半もしくは1.5℃目標に整合する形で、CO₂排出削減対策が講じられていない石炭火力を段階的に廃止することが合意されています。

 ICJの勧告的意見は、国家が化石燃料の「生産、消費、探査許可の付与、補助金の提供」を規制しないことは国際法違反行為になる可能性を示しています。これによれば、火力発電国家が規制するべき対象となります。

 しかし、2025年2月に閣議決定した「第7次エネルギー基本計画」では、石炭火力の全廃は示さず、「非効率石炭火力のフェードアウト」を行うとしています。しかし、全ての石炭火力を廃止することは明言されておらず、根本的な排出削減が望めません。各党が石炭火力を早期に段階的廃止することを明言しているか、確認してみましょう。

 「火力発電の高効率化」や「石炭火力へのアンモニア混焼」「火力発電から排出されるCO2を回収する」などの表現には要注意です。これらは火力発電を今後も使い続けることを想定しており、CO2の大量排出につながります。また、アンモニア混焼やCO2回収は技術的な課題も大きく、安全性に課題がありコストも高いため、消費者の負担を増やします。

 石炭火力の削減は気候変動対策の一丁目一番地です。石炭火力の段階的廃止や支援措置、投融資の停止を掲げているかを評価してみてください。

4.LNG火力(LNG=液化天然ガス)

新規LNG火力の建設は止め、遅くとも2040年までには原則利用中止とすること

 LNG火力は石炭火力よりも排出係数が低いため、政府は再エネの調整力や脱炭素社会への移行期の燃料として位置づけられています。現在もLNG火力の新設は相次いでおり、削減に向けた政策的動向は見られません。「長期脱炭素電源オークション」という脱炭素を謳う制度では、新設を支援している状況です。

 しかし、LNGはライフサイクルでみれば「石炭火力よりも環境に良い」とは言えないほどの温室効果ガスを排出していることが明らかになりつつあり、近年ではLNG火力に関わるインフラ全般でのメタン漏洩も大変問題になっています。

 2023年に日本が議長として開催したG7広島サミットでは、「2035年までの電力部門の完全又は大宗を脱炭素化」、「遅くとも2050年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」との合意がなされました。

 火力発電の削減なくして温室効果ガスの大幅な削減は見込めません。石炭火力だけでなく、LNG火力の削減も政策的に位置づける必要があります。LNGの新設なしを含む実質的なネットゼロに向けて化石燃料の段階的廃止の方針を掲げているかを確認してみましょう。

5.水素・アンモニア

水素・アンモニア混焼による火力延命策を認めない

 気候変動の元凶と言われる火力発電からの排出削減対策として、日本は発電所を廃止するのではなく、水素・アンモニアの混焼することを推進しています。政府は水素・アンモニア混焼を「トランジション技術」と位置づけ、2030年までに石炭火力で最大20%のアンモニア混焼、天然ガスで最大10%の水素混焼を目指しています。

 しかし、この施策は実質的に火力の継続利用を正当化するもので、根本的な脱炭素とは言えません。アンモニア20%混焼といっても、残る80%は石炭が燃焼され、大量のCO2排出を固定化します。しかも現時点で使われる水素やアンモニアの多くは、化石燃料由来の「グレー水素/ アンモニア」であり、その製造過程でも多くのCO₂が排出されます。ライフサイクルで見れば、グレーアンモニアを混焼する場合は石炭専焼よりも排出が多くなる恐れもあります。

 仮に再エネ由来の「グリーン水素/ アンモニア」を利用するとしても、その多くは海外からの輸入が前提となり、従来の化石燃料と同様にエネルギー安全保障の課題を抱えることになります。そもそも大量のグリーン水素/ アンモニア燃料のインフラも整っておらず、その構築に時間と費用を要します。

 経産省は石炭火力へのアンモニア混焼を「GX(グリーントランスフォーメーション)戦略」の柱とし、JERA碧南火力をはじめとした事業に対して数千億円規模の支援を行っています。火力への水素・アンモニア混焼を推進するため「省エネ法」「水素社会推進法」「GX推進法」「長期脱炭素電源オークション」など様々な制度で支援策を講じています。しかし、削減効果も限定的で高コストな水素やアンモニア燃料は対策困難な工業分野などに限定して利用すべきで、代替策のある電力分野での使用は制限することを政策的に位置付けるべきです。

6.再生可能エネルギー

2035年の電力部門の脱炭素化と再生可能エネルギー100%を目指すこと。

 日本の現在の再エネ導入目標は、電力割合で「2030年度までに36%、2040年度までに4~5割」となっています(第6次および第7次エネルギー基本計画)。しかし、これでは火力が多く残り、気候変動を抑えるには到底間に合いません。2035年には電力部門の大部分を脱炭素化する必要があることから、2035年までには9割程度を再エネで賄うようにし、遅くとも2050年には再エネ100%を目指す必要があります。

 現行の電力システムや電力市場の仕組みは、火力や原発を存続させる方向にインセンティブが働いているため、これを今後再エネ最優先の制度へ抜本的に変更することが必要です。

 具体的には、火力や原発などの大型電源が優先され、再エネ増加につながらない現行の容量市場は廃止すること、現行の優先給電ルールを見直し、卸電力価格引き下げを期待できるメリットオーダーを導入することがあげられます。また、再エネ電力の出力抑制に対して補償をつけるなど、再エネの持続性を確保することも必要です。そして、太陽光発電量が増加する昼間の電気を最大限活用できるよう、ネガティブプライス(負の価格)や、送電線や蓄電、ディマンドレスポンスなどの拡充によって柔軟性を高め、同時に省エネルギーを進めるための政策の充実化を目指すべきでしょう。抜本的な制度変更を行えば、海外諸国のように短期間で再エネを伸ばすことは可能です。

 これらの施策は、年間数十兆円にも上る化石燃料の輸入コストを減らし、地域分散型の雇用を生み、大気汚染や自然開発を減らしていくことにもつながります。

7.原子力

脱原発を掲げ、小型原子炉など含めた原発新増設を認めないこと

 原子力発電は気候変動対策になるでしょうか。答えは、否です。1.5℃目標達成には、2035年に電力部門の大半を脱炭素化する必要があります。政府は2040年の電源構成における原子力の比率を、現状の約8%を大きく上回る2割程度としています。しかし実現には既設原発の再稼働や老朽原発の運転延長に加え、25~30基程度の新増設が必要です。原発の建設にかかる時間は、既存のタイプであっても平均で10年を越えており、気候変動への取組みに間に合いません。福島原発事故後の安全基準の強化や採算性の悪化により、原発建設期間はさらに長期化しています。

 次世代革新炉と呼ばれる革新軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合炉、小型原子炉などの技術については、技術や採算面での課題が大きく、実用化が見通せないのが現状です。

 第7次エネルギー基本計画やGX2040ビジョンでは、原子力を脱炭素電源のひとつと位置づけ、「最大限活用」する方針が示されました。2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故をうけて第4次エネルギー基本計画以来示されてきた「原子力依存の低減」の文言は削除され、原子力回帰の姿勢が強まっています。

 しかし、原子力を推進することは結果的に火力に頼らざるをえない状況をつくりかねません。原子力の導入の遅延や、不測の事態を含む原発の休停止が起きた場合、発電量の不足は大規模火力が補うと考えられ、結果として温室効果ガスの排出が続きます。

 気候変動対策のために優先すべきは、太陽光や風力といった再エネ発電の導入拡大です。再エネは原子力と比べより安全で、より安価で、より短期間で導入することができます。福島の原発事故のような悲惨な事故を二度と起こさないため、そして再エネの導入や省エネの推進など、本来必要な気候変動対策に貴重な資金や人材を割くためにも、脱原発を早期に実現する政策が必要です。

8.省エネルギー

2050年にエネルギー消費量の半減をめざす

 化石燃料依存度を減らすために、エネルギー消費量を抜本的に減らすことは非常に重要です。日本が「省エネ大国」などと言われていたのは過去の話です。エネルギーを浪費する老朽化設備や、断熱性や気密性が低くエネルギー効率の悪い住宅・建物などが多数残っています。

 2013年以降、日本のエネルギー消費量は下降傾向にありますが、政府は「データセンターや半導体工場のため電力需要が増加する」というシナリオを強調し、原発や火力の必要性をうたっています。エネルギーや水を大量に使用するデータセンターを国内に設置する必要性が本当にあるか、それは実態に基づいた検証かどうかもきちんと比較検討するべきと考えます。

 また、GX推進法において、排出量取引制度が導入されることになりましたが、1.5℃目標と整合するような排出枠の上限(キャップ)がかけられていません。排出総量(キャップ)の設定、ベンチマークの再設定、追加割当の透明化と抑制、バンキング規制、市場監視機能の強化など、制度の根幹部分を含む抜本的な見直しが不可欠です。

 さらに、運輸部門での排出を削減するためには、EUなどで実施されているようなハイブリッド車を含む化石燃料車の新車販売を終了することや、電気自動車の普及、公共交通の維持・利便化を支援し、自転車や徒歩で移動しやすいまちづくりの推進、コンパクトシティ化などを進めることが必要です。

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