2025年2月7日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵
電力セクターにおける石炭火力からの脱却は、化石燃料の中でも石炭が最もCO2排出が大きいことから気候変動対策の一丁目一番地であるとされる。
石炭火力は日本の温室効果ガス排出で最大の割合(23%、2022年度直接排出)を占めるとともに、2011年東日本大震災の東京電力福島第一原子力発電所の事故後、各地で次々と新規建設計画が浮上し、国内設備容量は2023年までに過去最大となった。2020年以降に進めるとした「非効率石炭火力のフェードアウト」も遅々として進まず、そのことすら今うやむやにされ「安定供給」を「錦の御旗」に掲げてあらゆる石炭火力を温存する方向に進みだしている状況にある。
「非効率石炭火力のフェードアウト」
2020年、パリ協定がスタートし、脱石炭に向けて国際的な要請が高まる中、7月3日、当時の梶山弘志経済産業大臣は「非効率石炭火力のフェードアウトに向けた検討」を指示したことを大臣会見で述べた。
この指示は、第6次エネルギー基本計画でも記されていた「非効率石炭火力のフェードアウト」を、具体的に「2030年に向けてフェードアウトを確かなものにする新たな規制的措置の導入や、安定供給に必要となる供給力を確保しつつ、非効率石炭の早期退出を誘導するための仕組みの創設、既存の非効率な火力電源を抑制しつつ、再エネ導入を加速化するような基幹送電線の利用ルールの抜本見直し等の具体策について、地域の実態等も踏まえつつ検討を進め」るとしていた。
しかし、実際に進んだことは、900万kWに及ぶ大規模な「高効率石炭火力」の新規建設であり、既に稼働している。非効率石炭火力の割合が小さくなっただけで、全体の石炭火力からのCO2排出量はむしろ増え、根本的な対策には全くつながっていない。そして、非効率石炭火力も2020年からスタートした容量市場の対象とされ、その維持のための支援策が導入されたことで、むしろ早期退出の方針は後退し、2030年までの廃止計画はほとんどない。
第7次エネルギー計画でも規制強化打ち出せず
日本政府は、第7次エネルギー基本計画案においても「脱石炭火力」には触れず、第6次エネルギー基本計画で触れていた「電源構成における比率は(中略)低減させる」との方針も封印した。2040年電源構成において、火力を3~4割も残し、火力全体をまとめての曖昧な表現にすることで、非効率な石炭火力を含む石炭火力の延命に対する国際社会からの批判をかわそうとしている。
「非効率石炭火力のフェードアウト」がこの間十分に進んでこなかったとの認識を示しつつも、具体的な規制強化を打ち出すのではなく、省エネ法や容量市場など非効率石炭火力を温存してきた枠組のもとでの事業者の自主的取組みに委ねている。
【第7次エネルギー基本計画案の石炭火力についての記載(抜粋)】
- 2030年に向け、非効率な石炭火力について、省エネ法や容量市場等の制度的枠組みを活用し、引き続き、事業者の自主的な取組によるフェードアウトを促進
- 非効率な石炭火力のフェードアウトをより一層促進するため、制度的な措置の強化を検討
- アンモニアやCCUS等を活用した脱炭素化を、長期脱炭素電源オークション等を通じて促進
- 既存火力への追設等を念頭に、脱炭素化を見据え、石炭ガス化複合発電(IGCC)等の次世代の高効率火力発電技術の開発を推進
経団連から石炭火力の確保を求める意見
2025年1月、経済産業省下の電力・ガス基本政策小委員会で示された「電力システム改革の検証結果と今後の方向性(案)」における第7次エネルギー基本計画と同様の、非効率石炭火力からのフェードアウトに関する「足下では、非効率な石炭火力のフェードアウトは必ずしも十分に進展していない」との文言について、同委員会の専門委員として参加している経団連所属委員から、「国として安定供給に必要な石炭火力を維持する姿勢を内外に明確に示されなければ、 退出圧力がさらに強まり、実際に過度な退出が加速し、安定供給へ支障をきたすことが懸念される。本記述は削除した上で、脱炭素化とあわせてトランジション期に必要な石炭火力を確保する方針を明確に記載いただきたい」などと、非効率石炭火力の撤退ではなく、延命させる位置づけの明記を求める意見書が提出された。
政府は、「官民連携」の名のもとに経団連や大手電力事業者の提言や方針を、ほぼ全て受け入れて政策に落とし込んできた。この政府の姿勢こそが、日本が石炭火力から撤退できず、脱石炭の世界の流れから落後してきた最大の要因であり、真の脱炭素と経済成長の好循環を生み出すことを阻害している。この期に及んで非効率石炭火力をも温存させようとする業界の意見を取り入れ、気候政策をこれ以上後退させるような愚策を断じて許してはならない。
まずは「非効率石炭火力」の完全撤退を
2024年はすでに1.5℃を超えた。さらにCO2の排出が続くことで、気候変動はさらに加速される。年間数百万トン規模の排出となる火力から2035年までに脱却することは、既に、G7合意でも確認されてきたことである。2020年の大臣が指示した「非効率石炭火力」の撤退が5年で全く進んでいない現状を踏まえ、再生可能エネルギーの拡大を加速させるとともに、以下の点を実施すべきである。
- 石炭火力の維持にインセンティブを与える容量市場の廃止
- 省エネ法における曖昧な効率設定とバイオマス・水素アンモニア等の混焼の禁止
- 電力会社の「非効率石炭火力フェードアウト計画」の強化と具体的計画の開示
- アンモニア混焼等を経済的に支援する、水素社会推進法の見直し
第7次エネルギー基本計画の策定は最終盤に入っているが、世論を踏まえた国会での審議を経て、少なくとも、石炭火力の段階的削減に踏み出すことを強く求める。
参考資料
- 「梶山経済産業大臣の閣議後記者会見の概要」(2020年7月3日)
- 気候ネットワーク「【ポジションペーパー】アベイトメント・排出削減対策とは」(2024年7月)
- 第7次エネルギー基本計画(案)(2024年12月)
- Japan Beyond Coal「石炭火力発電所マップ&データ」
- 電力・ガス基本政策小委員会「電力システム改革の検証結果と今後の方向性 ~安定供給と脱炭素を両立する 持続可能な電力システムの構築に向けて~ (案)」(2025年1月)
- 第 85 回電力・ガス基本政策小委員会に関する意見 2025 年1月 27 日 一般社団法人 日本経済団体連合会 資源・エネルギー対策委員会 企画部会長 武田孝治専門委員意見(2025年1月27日)
お問い合わせ
本プレスリリースについてのお問い合わせは以下よりお願いいたします。
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
(京都事務所)〒604-8124 京都市中京区帯屋町574番地高倉ビル305号(→アクセス)
(東京事務所)〒102-0093 東京都千代田区平河町2丁目12番2号藤森ビル6B(→アクセス)
075-254-1011 075-254-1012 (ともに京都事務所) https://kikonet.org