2025年3月6日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵

気候ネットワークは、現在パブリックコメントが募集されている電力システム改革の検証結果と今後の方向性(案)について、以下の意見を提出しました。

意見内容

目標の検証について

電力システム改革の目標を修正するべき

電力システム改革で目標とする三つの柱、(1)安定供給を確保する (2)電気料金を最大限抑制する (3)需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大する、についての評価は修正すべきである。

まず第一に、「供給力については、主力であった火力発電は、再生可能エネルギーの導入に伴って稼働率が低下し収益性が低下したこと等を受けて、休廃止が進展している。(P7)」としているが、非効率の火力発電所については休止したものも増えているが、実際には新規石炭火力発電所が1,000万kW以上も新増設された上、LNG火力の新設も進んでおり、火力は依然として巨大な供給力となってしまっている。本来は、火力の休廃止を進め、脱炭素電源である再エネの普及こそ力を入れるべきだが、火力の休廃止を課題として設定することで誤った方向づけがなされているのではないか。

第二に、電気料金の最大限の抑制については、上記のような方向づけにより、結果的に「発電量のうち火力発電が大宗を占める中、こうした動きは、燃料価格高騰により 卸電力取引所の価格が高騰した際には、自由料金を中心に小売価格の水準を押し上げる方向へ作用(P7)」することになった。そして、電気料金の最大限の抑制という目標の達成にはほど遠い状況になった。火力の依存度を下げれば、様々な要因による化石燃料価格の高騰の影響も比較的軽度ですんだはずで、FITの初期の価格も大幅に下落していることから、再エネの普及を加速させて長期的には負担を軽くすることができたはずである。

第三に、需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大については、「2016 年4月の小売全面自由化以降、700 を超える事業者が小売電気事業に参入した」とされ、需要化の選択肢が増えたことはよかったが、参考図8にもみられるように、国際燃料価格が高騰し、卸電力取引所の価格が高騰した際には、供給実績のある事業者が小売電気事業から撤退したことがうかがえる。この背景には、国際燃料価格の高騰のみならず、後述するとおり、大手電力会社が電力システムの中で支配的な力を持つ中で価格を操作したことなども要因に考えられ、その検証がここでは不十分である。

方針について

再エネ3倍、火力の削減に向けた方針を明確にすること

日本の火力削減に関する方針は「非効率石炭火力のフェーズアウト」に留まっているが、1.5℃目標との整合のために先進国は2030年までに石炭火力を廃止しなければいけないことは、国際エネルギー機関(IEA)等が明らかにした。非効率石炭だけではなく、全ての石炭火力のフェーズアウトに向けて方針を打ち出し、確実に制度措置の強化を進めることを求める。

さらに、「脱炭素電源やトランジション手段としてのLNG火力への投資を進めていく必要がある」との整理がなされているが、2024年10月にガーディアン紙で報道されたように、LNG火力はライフサイクルでは石炭火力を上回る温室効果ガスを排出することが指摘されている。LNG火力の削減に向けた方針を打ち出すことを強く求める。

また、COP28で合意された再エネ3倍の目標に向け、日本としても再エネを最大限導入するよう、より強く方針を前に出すべきだ。今の日本では系統制約や大規模な再エネ事業の合意形成の問題、さらには部材費や工事費等のコストの高騰によって、再エネの導入が進みにくい状況である。再エネ普及に向けた課題を特定し、制度措置を講じることを求める。

なお、p.11「(2)電力システムを取り巻く経済社会環境の変化 ①世界的なDXや脱炭素化の流れの加速」 において、カーボンニュートラルへの国際的な潮流や、G7で合意した2035年の電力部門の脱炭素化について触れられているが、2024年にG7が合意した「2030年代前半までの石炭火力の段階的廃止」について記載されていない。日本の合意内容について、正確に記載をするよう求める。

容量市場について

火力・原発を維持させる仕組みとなっている現行の容量市場の廃止を求める

将来の供給力を確保する仕組みとして創設された容量市場について、すでに固定費を回収し終えている火力や原発などの大規模電源の維持につながっていることを強く懸念する。現に、2028年需給時点で落札した容量の7割近くを火力が占めるとみられ、脱炭素に真っ向から逆行していることは明らかだ。

p.17<火力の脱炭素化>において、「火力においては、非効率な電源を中心に発電量(kWh)を減らしながらも、安定供給に必要な発電容量(kW)を維持していく必要がある」とあるが、 火力のkW削減に取り組まずして日本の脱炭素化は進まない。

容量市場の資金は小売(需要家)の容量拠出金によって賄われる。発電と小売の資本が⼀体化している大手電力にとっては容量拠出金を同グループ内に提供するようなものだが、一方の新電力は容量市場で落札する電源を持っていないため負担が大きく、負担の公平性について以前から疑問の声が上がっている。

したがって、排出基準値の上限も設定されておらず、再エネの変動に対応する柔軟性に欠け、公平性にも欠ける現行の容量市場は廃止するべきである。

長期脱炭素電源オークションについて

「脱炭素」と称しながらLNG火力を1000万kWも新設させる市場の異常性

容量市場で新規の電源投資につながらなかったことから創設された「長期脱炭素電源オークション」であるが、実際は「脱炭素」を謳いながらLNG専焼火力の新設・リプレース分を計1,000万kWも募集し、「今後もさらに火力の供給力を確保する観点から、需給バランスの将来動向も見ながら、長期脱炭素電源オークションにおいても、追加的な措置を検討する」などとしている。

「脱炭素」を標榜しながらLNG火力を1,000万kWも新設・リプレースさせ、石炭火力の改修すら支援する施策は極めて異常であり、即刻の廃止を求める。脱炭素に逆行することが目的かのごとく長期脱炭素電源オークションでは火力の落札枠を徐々に増やしており、現在はCCUS付火力の対象化まで検討されているが言語道断である。

真に脱炭素に資する追加性のある再エネ導入のための施策を求める。

出力制御の低減に向けて

市場価格の下限撤廃を求める

「電気料金を最大限抑制する」「需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大する」ことを目的に実施されてきた電力システム改革において、メリットオーダーやネガティブプライス(負の価格)導入が前向きに検討されてこなかったことには大きな違和感を覚える。

日本では、電力市場の下限価格が設定され、需給を一致させるために優先給電ルールのもとで出力制御が行われている。出力制御の増加は、再エネに対する投資停滞や事業者の撤退につながる恐れがある。

現行の優先給電ルールでは、原発や火力(出力制御後も出力30%を維持)が再エネよりも優先され、出力制御を行った再エネ事業者に対しては補償も発生しない。卸電力価格引き下げを期待できるメリットオーダーを導入するとともに、再エネ電力の出力抑制に対しては送配電事業者による補償を原則とすることが求められる。

また、太陽光が大幅に発電する昼間など、市場価格がマイナスになる時間帯が生じることで、需要家はその時間帯に電気を使うことが経済合理的になる。また、その時間帯の電気を蓄電して高需要期に供給し、需給ひっ迫を緩和するインセンティブを働かせることもできる。結果、DRや蓄電、天候予測等の技術の進歩にもつながり、より柔軟に、より効率よく電力システムを運用できるようになる可能性がある。

出力制御を徹底的に回避し再エネの大幅導入につなげ、消費者の経済合理性にもつながるネガティブプライスの導入が早急に求められる。

大手電力の独占体制に対して

公正な競争環境整備のために、送配電部門の所有権分離や発販分離を求める

2022年12月以降、大手電力の一般送配電事業者からの情報漏洩、小売部門による不正閲覧の問題が次々と明らかになった。これらの問題の根本は、発電、小売、送配電において大手電力の一体化、電力市場に対する独占体制が続いていることにある。

今回「⑥送配電部門の中立性・透明性向上」の整理では、「少なくとも現時点で制度的に所有権分離を求める必要はない」(p.21)としている。しかし、親会社や発電・小売部門による資本面の影響を取り除き、送配電事業者の中立性を真に確保するには、欧州や先進国で先行しているように所有権分離に踏み込む必要がある。

送配電部門の法的分離の上、行為規制を徹底するとされているが、それにかかる多大な人的・時間的・金銭的コストを考えると、早期に所有権分離を実現した方が社会的な総コストが少なくなるのではないか。大手電力のビジネスモデルの見直しや信頼回復のためにも、一刻も早く所有権分離について真剣に検討するべきだ。

また、この検証結果は、発電部門と小売部門を分社化する発販分離には触れてすらいない。

小売と発電が一体化している状態では、小売部門の損失を発電部門が補うこともでき、市場に対して価格支配力を行使することもできる。現に大手電力の市場価格の吊り上げや、内外無差別に反する行為が公正取引委員会によって指摘されてきた。

電力システム改革の根幹を揺るがす行為を続けてきた大手電力に対し、現在の検証結果は甘いといわざるを得ない。電力・ガス取引監視等委員会による監視が機能せず、取組を進めてもなお小売市場における公正な競争環境が確保されなかったことからも、発販分離・会計分離などの抜本的な対応の義務化が必要だ。

監視機能の向上

電気事業法上の電取委の監視機能と罰則の強化を

大手電力によるカルテル問題、新電力の顧客情報の情報漏洩及び不正閲覧、再エネ業務管理システムの不正閲覧など、この数年で公正な市場環境を揺るがす大手電力の不正行為が相次いで発覚したが、これらはいずれも電力・ガス取引監視等委員会(電取委)による定期的な監査で発覚しなかったものである。

また、2024年11月にはJERAが4年半にもわたって「相場操縦」を行っていたことが明らかになり、この件でも電取委の監視の甘さや電気事業法上の罰則規定のなさが指摘された。

これらの電力事業者の度重なる不正行為を重く受け止め、電気事業法上における電取委の行政上の権限を強化し、さらに罰則規定を設けることを求める。また、電取委の人事を経産省から切り離すことで独立性を担保し、合わせて常勤の職員を大幅に増やすなどの監視体制の強化も検討頂きたい。

参考

  • 東洋経済オンライン「発電最大手JERA、電力取引で「相場操縦」の深層 4年半もルール違反、ユーザーの利益侵害も」https://toyokeizai.net/articles/-/844143
  • 【共同抗議声明】JERAの電力市場の市場操作に対する業務改善勧告を受けて JERAは電力価格を吊り上げ消費者や新電力事業者に甚大な不利益をもたらした(2024年11月15日)https://kikonet.org/content/36859

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