国際協力銀行
代表取締役総裁 林信光様
要請書
国際協力銀行(JBIC)はベトナム・ブロックBガス田開発事業への支援を見送るべき
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
マーケット・フォース
オイル・チェンジ・インターナショナル
気候危機が加速する中、日本を含むG7は2022年、「1.5度目標やパリ協定の目標に整合的である限られた状況以外において、排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援の2022年末までの終了にコミットする」としました。しかし、貴行は、2022年にG7のコミットメントが表明された後も新規の化石燃料エネルギー事業への融資を継続しています。気候危機を食い止め、損失と被害を拡大させないためには、化石燃料事業への融資停止が不可欠です。
現在、貴行はベトナムにおけるガス田開発事業への融資を検討していると理解しています。三井物産の完全子会社である三井石油開発(MOECO)によるブロックBガス事業は、海上のブロックBガス田(Block B&48/95、52/97)のガス開発・生産事業を行なうものです。貴行は、ガス田からのパイプライン建設の融資を検討されていると理解しています。
ガスが送られるオモン発電所は4つの発電所で構成され、合計3,810MW規模です。うち一つ(660MW)は既に建設され、現在は緊急時に燃料油を用いて稼働していますが、他はまだ計画段階です。大規模発電所でのガス燃焼は大量の温室効果ガスを今後数十年間にわたり発生させ気候危機を助長することとなります。
国際エネルギー機関(IEA)は2021年に、世界が2050年までにネットゼロを達成する経路において、2021年以降の新規の石油・ガス田開発は整合しないと示しました。IEAが先日発表した同経路の2023年更新版では、このことが再確認され、「新規の、長期リードタイムを要する従来型の石油およびガス事業は2023年以降は承認されない」としています。更新版ではさらに「2050までのネットゼロ達成に必要な石油およびガス需要の減少率は、とても急激で、それは既存の石油・ガス田の早期閉鎖を意味する可能性がある」としました。既存の採掘の早期閉鎖すら示唆される今、新規事業であるブロックBガス田は2050ネットゼロ経路から明らかに逸脱しています。
また、ガスは主にメタンで構成されており、地球温暖化係数20年値で見ると、二酸化炭素の80倍もの温室効果があります。メタンはガス産業のサプライチェーン全体で漏れ出しており、大気中のメタン濃度は記録的なレベルに達しています。IPCCの報告によると、温暖化を1.5℃程度に抑えるためには今後数年間が重要であり、メタン排出も2030年までに3分の1と大幅に削減する必要があります。日本でもこの夏、連日の猛暑が続き、水害が頻発していることから、気候変動は身近で喫緊の課題として認識され始めています。ベトナムでも記録的熱波が続き、5月には史上最高気温を観測しています。日本もベトナムもグローバル・メタン・プレッジの参加国で、メタン排出量の削減が必要であることを認識しています。ガスを含む化石燃料利用を一刻も早く削減し、エネルギー転換を行う必要があります。
2023年5月15日にベトナムの第8次国家電力開発基本計画(PDP8)が発効していますが、PDP8は、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという国際公約を果たすために、2030年だけでなく2050年の目標値も記載しています。国産のガスによる発電を2050年にはゼロに近づけると表明し、加えて、2031年以降はガス発電の依存度を段階的に減らすとしており、当ガス田からの投資回収の可能性に対して懸念の声が高まっているとも報じられています。オモン第2-4発電所の操業開始は、大幅に遅れている現状もあり、事業の投資回収期間はより短くなるでしょう。
ベトナムの人口は9,818万人(2022年)で、GDPは3,662億米ドル(2021年)、発電設備容量は8,070万kW(2022年)です。一方、ASEAN域内の近隣国タイでは、人口は7,169万人(2022年)と少ないものの、GDPは4,952億米ドル(2022年)とベトナムの約1.3倍ですが、発電設備容量は4,286万kW(2022年)と、5割強でしかありません。ベトナムの電力不足は長年の問題とされていますが、発電量を増やすよりも送電網の整備など他に改善の余地があることが窺える数値です。
更に、ブロックBガス田のガスを供給しようとしているベトナム南部は太陽光、風力、洋上風力のポテンシャルが高いです。このような可能性を考慮せず、ガス田開発に公的資金を提供することは、JBICが地球環境保全業務として、温室効果ガス排出量削減効果が大きいなど、地球環境保全効果が高い事業と認める事業に投資金融を含める旨を2018年に表明していることと矛盾し、さらに2021年に発表したESGポリシーで掲げた2050年までに投融資ポートフォリオをGHG排出量ネットゼロにするという目標の達成も危うくさせます。また冒頭で述べたように、日本政府のG7でのコミットメントとも矛盾します。
事業は人権面からも問題があります。ベトナムではここ数年、環境活動家らが相次いで逮捕されており、環境・エネルギー政策について市民が自由に発言できない状況が続いています。こういった状況は貴行が『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』に記載している「当該プロジェクトの影響を受ける地域住民や現地NGOを含むステークホルダーの参加」が困難である可能性を示唆しています。
さらに、ノルウェー政府年金基金は、2022年5月にタイ石油公社(PTT)をミャンマーでの人権侵害により投資対象から除外していますが、これは、タイ石油公社(PTT)傘下の資源開発会社(PTTEP)が、非人道的な行為を続けるミャンマー軍の資金源の一つとなっているミャンマーの石油ガス公社とのビジネスを行っていることが理由です。本事業には、PTTEP傘下のPTTEPキムロンベトナムが参画しています。本事業への出資者が重大な人権侵害に加担していないか精査し、貴行としても人権デューデリジェンスを強化する必要があると言えます。
新規のガス事業開発はパリ協定の1.5度目標に整合しておらず、本事業に融資することはG7エルマウ首脳コミュニケにおけるコミットメントと矛盾します。気候危機への対応と人権侵害への間接的な加担を避けるため、事業への融資検討を取り下げるよう、貴行に強く要請します。
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本件に関する連絡先
メコン・ウォッチ info@mekongwatch.org
国際環境NGO FoE Japan info@foejapan.org