気候危機が深刻化するなか、地球の平均気温上昇を1.5℃に抑えるために、国や大規模排出企業の排出削減にもはや一刻の猶予もない…こうした危機感が、気候訴訟という新たな訴訟の一群を生み出しました。気候訴訟とは、UNEP によれば、「気候変動に対する緩和、適応及び気候科学に関する法又は事実を主要な争点とする訴訟」と定義されています。熱波による熱中症、極端な豪雨による洪水被害、熱波や豪雨、乾燥による農業などへの影響、相次ぐ山火事など、気候の異変は人々の生命、健康や個人の生活そのものを破壊します。これらの訴訟で一貫しているのは、子どもたちをこうした危険な気候変動の影響から護ろうとする市民の思いです。

気候危機を回避するには、化石燃料の使用をやめ、再エネに転換していくことが必要です。しかし、どの国にも十分な法的制度がないのが実情です。国や大量に排出する企業の排出削減が法的義務であることを確認する訴訟に、近時は若者自身が立ち上がり、声を上げています。その声を受け止めた裁判官たちが、各国で既存の法を活用し、現代の危機に即して解釈、運用する工夫をして、新たな地平を開いています。

国の削減目標の引き上げや対策の強化を求める訴訟に加えて、計画の具体化や実施を求めるなど、企業を被告とする訴訟でも注目すべき動きがあります。当初は米国や欧州が中心でしたが、ブラジルなど中南米、豪州などでも重要な動きがみられ、インドや東アジアにも広がってきました。日本でも、若者気候訴訟など新たな動きが生まれています。

本書では、気候訴訟に関わった弁護士が、この約10 年にみられた世界の特筆すべき動きやケースを紹介しています。それぞれの章で、若者など原告たちのたたかいとともに、将来世代のために勇気をもって職務を追行しようとする世界の裁判官たちの姿にも気づかれることでしょう。

2025 年7 月23 日には気候変動にかかる国の責任などについて、国際司法裁判所から重要な勧告的意見が出されたところです。こうした動きも含め、今後も注目すべき判決を随時、追加していきたいと考えています。

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世界の気候訴訟:危険な気候変動から護られる権利の確立へ
発行:気候ネットワーク(2025年7月)
A4判/全34ページ

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