気候ネットワークは、北陸電力による富山新港火力発電所 LNG2号機建設計画に係る環境影響評価の計画段階配慮書(意見書の提出期限は2025年3月31日消印有効)に対し、意見書を提出しました。
富山新港火力発電所LNG2号機の環境影響評価計画段階配慮書に関する資料閲覧や意見提出はこちらから
この計画の概要
- 北陸電力は、富山新港火力発電所において、石炭2号機および休止中の1号機(石油)を廃止し、LNG2号機を導入する計画の検討を開始。LNG2号機の運転開始時期は2033年度の予定。
- 新設するLNG2号機の出力は60万kWで、廃止する石炭2号機(25万kW)、石油1号機(24万kW)の合計を上回る。
- 北陸電力は、中長期的には燃料としてアンモニア・水素を導入する等により、2050年カーボンニュートラルを目指すとしている。
- 北陸電力はLNG2号機の建設計画と同時に、2024年度までとしていた富山新港火力発電所の石炭1号機の廃止を2028年まで延期すると発表。北陸電力はもともと、石炭1号機はLNG1号機の導入に合わせ2018年までに廃止するとしていたが、廃止時期を2024年まで延期していた。今回の延期は2度目の約束違反となる。
気候科学の観点からみれば、化石燃料インフラの新規建設の余地はない
IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書(2022年4月公開)は、既存の化石燃料インフラが(2018年から)耐用期間終了までに排出する累積のCO₂総排出量を6,600億トン(報告書作成時点で計画されている化石燃料インフラからの累積総排出量を加えると8,500億トン)と予測しています。同報告書で地球温暖化を50%の確率で1.5℃に抑えるための限度として示されたCO₂の累積総排出量である5,000億トンを既に大きく上回っているため、科学的な観点から見れば、既存の化石燃料インフラであっても耐用期間の終了を待たずに廃止する必要があります。
LNG火力については、再エネ100%を目指す過程での経過措置として既設の発電所が一定数必要ですが、新規建設を進めるべきではなく、段階的廃止を目指すべきです。富山新港火力発電所LNG2号機が計画通り2033年に運転開始した場合、LNG火力発電所の運用年数を40年とすると、2050年を超えて大量のCO₂を排出するため、この新設を許容する余地はありません。
また、LNG2号機建設計画と同日に発表された石炭1号機の2028年度までの運転期間延長も、上記の気候科学の観点から受け入れられません。石炭1号機は旧式の亜臨界方式で、二酸化炭素排出量が多い発電施設であり、廃止を急ぐ必要のある非効率石炭火力です。
貴社は2010年に、石炭1号機を2018年度までに廃止する計画を発表していますが、2017年に廃止時期を2024年度まで延期しており、今回は2度目の延期となります。さらに、2018年に営業運転を開始したLNG1号機は、石炭1号機からのリプレースとして環境影響評価簡略化の対象とされています。それにもかかわらず、石炭1号機の廃止が計画通り行われないことは、浅尾慶一郎環境大臣が2月28日に「大変遺憾」と述べている通り、非常に問題です。
LNG2号機建設によって発電所全体の規模が増加するのに、減るように見せかけているのは問題
本事業の「あらまし」では、LNG2号機の建設によって富山新港火力発電所の合計出力は現状の166.47kW(石炭1号機・石炭2号機:各25万kW,1号機:24万kW,2号機:50万kW,LNG1号機:42.47万kW)から、約152.47kW(2号機:50万kW、LNG1号機:42.47万kW、LNG2号機:60万kW)に減ると示されています。
しかし、2020年10月から休止中の1号機(石油)を除けば現状の合計出力は142.47kWであり、LNG2号機の建設によって合計出力が増加することになります。さらに、本来は既に廃止されているべき石炭1号機が稼働し続け、「現状」に含まれていることも問題です。
2023年に日本が議長として開催したG7広島サミットでは、「2035年までの完全又は大宗の電力部門の脱炭素化を図る」こと、「遅くとも2050年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」との文書(コミュニケ)が合意されました。気候危機回避のために化石燃料からの脱却が必要とされるなか、火力発電インフラの規模を拡大させる本計画が認められる余地はありません。
計画段階環境配慮事項の項目に温室効果ガスの排出を含めるべき
二酸化炭素等の温室効果ガスについて、「最新鋭の高効率ガスタービン・コンバインドサイクル発電設備へのリプレースであり、発電電力量当たりの二酸化炭素排出量を削減する計画であることから、計画段階配慮事項として選定しない」[配慮書p.209]としているのは適切ではありません。
気候変動による被害が激甚化するなか、世界はパリ協定とグラスゴー合意の下で、地球の平均気温の上昇を産業革命前から1.5℃に抑えることを目指しています。そのためには、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を2050年に実質ゼロにするだけでなく、2030年までに半減させなければなりません。IPCC第6次評価報告書によれば、1.5℃目標達成までの残余のカーボンバジェットは限られており、残された選択肢や時間はわずかであることが明らかになっています。一方で、国連環境計画(UNEP)が2024年10月に公表した「排出ギャップ報告書2024」【注1】では、世界の温室効果ガス排出量は増加し続けており、現在のような排出が続けば、今世紀中に地球の平均気温は最大3.1℃上昇する可能性が指摘されています。
こうした危機的な現状において、個別の発電所が排出する温室効果ガスは、気候変動の加速、さらには人々の生活環境に対し多大な影響があると考えるべきです。最新式のガスコンバインドサイクルであっても1.5℃目標に整合する二酸化炭素排出係数の約2.5倍の排出があり(IEAが上記の報告書で示した1.5℃シナリオで求める2030年の排出係数は0.138kg-CO2/kWhだが、LNG火力の排出係数はガスコンバインドサイクルが0.32~ 0.36kg-CO2/kWh程度)、LNG火力インフラのライフサイクルを考慮すると石炭火力よりも多くの二酸化炭素を排出する可能性も示されています。本計画の実施による二酸化炭素等の温室効果ガス排出量やその影響は配慮事項に含まれるべきであり、二酸化炭素の排出係数すら示されていないことは問題です。
また、「中長期的にはアンモニア・水素といったゼロエミッション燃料の導入等により,更なる二酸化炭素排出量の削減を視野に入れる」[配慮書p.16]と記載されていることを踏まえ、アンモニア・水素燃料の導入開始時期や、導入後の推定温室効果ガス排出量を公開すべきです。
【注1】https://www.unep.org/resources/emissions-gap-report-2024
化石燃料インフラの新設はG7合意など国際合意と矛盾する
2023年に日本が議長として開催したG7広島サミットでは、「2035年までの完全又は大宗の電力部門の脱炭素化を図る」こと、「遅くとも2050年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」との文書(コミュニケ)が合意されました。
また、IEAが2021年5月に発表した「Net Zero by 2050」では、1.5℃目標に関するシナリオとして天然ガスについて「2030年までに発電量をピークとし、2040年までに90%低下させる」ことが示されています。
本計画はLNG火力である以上、再生可能エネルギーと比べ膨大な量の二酸化炭素を排出します。LNG火力の排出係数はガスコンバインドサイクルが0.32~ 0.36kg-CO2/kWh程度であり、これはIEAが上記の報告書で示した1.5℃シナリオで求める2030年の排出係数0.138kg-CO2/kWhと比べ約2.5倍にもなる数値です。2033年度に新規のLNG火力を運転開始する予定の本計画は、国際的な合意やシナリオに整合しているとは言えません。
LNG火力インフラはライフサイクルで石炭火力よりも多くの温室効果ガスを排出する可能性がある
LNG火力は、石炭火力と比べれば燃焼時の二酸化炭素排出量が少なく、カーボンニュートラルへの「つなぎ役」として新設やリプレースが正当化されがちですが、ライフサイクルで見ると、LNG火力インフラからの温室効果ガス漏出量は石炭火力よりも多い可能性を指摘する研究結果が示されています。
天然ガスの主成分はメタンであり、二酸化炭素の28~34倍もの温室効果をもつ強力な温室効果ガスです。「Environmental Research Letters」誌に掲載された論文【注2】によると、天然ガスの井戸、生産施設、パイプラインなどから少量のメタンが漏出するだけでも石炭と同程度の排出量になる可能性があります。また、2024年に「Energy Science & Engineering」誌に掲載された別の研究【注3】は、LNGは掘削作業によるメタン漏れが推定をはるかに上回っていることや、パイプラインによる輸送時の排出、液化・タンカーによる輸送を含めれば石炭よりもはるかに大きなエネルギーを要することなどを指摘し、20年間の温室効果ガス排出量を比較するとLNGが石炭よりも33%も大きいと明らかにしています。
こうした研究の指摘を考慮すれば、LNG火力の利用が地球温暖化対策になるとみなすことはできません。また、世界各地ではガス採掘、パイプラインの設置などにおける環境破壊や人権侵害が大きな問題となっているだけでなく、脱化石燃料への動きも高まっています。 2030年以降に新規のLNG火力発電所の運転を開始させるなどもっての外であり、LNG火力はカーボンニュートラルまでのつなぎ役どころか、気候変動を悪化させている主な要因の一つであることを忘れてはいけません。
【注2】https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/ace3db
【注3】https://scijournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ese3.1934
◆カーボンニュートラル燃料について
「本事業では、火力電源の脱炭素化に向け,中長期的にはアンモニア・水素といったゼロエミッション燃料の導入等により,更なる二酸化炭素排出量の削減を視野に入れ,2050年のカーボンニュートラルの実現を目指す」[配慮書p.3, p.16]としていますが、発電における水素・アンモニアの利用は、気候変動対策の面でも発電コストの面でも望ましくありません。
富山新港火力発電所LNG2号機で将来の利用を目指しているのは水素燃料だと考えられますが、現状、入手可能で商用発電に利用可能な水素のほとんどは、化石燃料から生成する「グレー水素」であり、水素の製造時や輸送時の排出量まで含めて考慮すれば、地球温暖化対策として有効に機能する「ゼロエミッション燃料」とは言えません。水素燃料は、どのように作られたのかまで含めたライフサイクル全体での削減効果について定量的に評価することができなければなりません。さらに、大規模火力発電所の需要を賄える量の水素燃料を供給できる目途は立っていません。
再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を製造すれば、その水素は理論上、CO2を排出しない「グリーン水素」燃料と言うことができますが、これが実現できるのは再生可能エネルギーによる電力が有り余っていることが前提となります。それだけの量の再生可能エネルギーがあれば、それを直接、電力として利用した方が高効率で低コストです。
水素燃料は、他に脱炭素化の手段がない分野に優先して使うべきとされており、用途を特定したうえで、必要量、供給体制等を検討する必要があるとされています。 2023年のG7広島サミットにおいても、水素・アンモニアの利用は1.5℃の道筋やG7で合意された2035年までの電力部門の脱炭素化に整合する場合など多くの厳格な条件を付されており、脱炭素技術としてG7で承認されたわけではありません。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、2022年1 月に公表した報告書の中で、水素利用のあり方について「水素は製造、輸送、変換に多大なエネルギーが必要で、水素の使用がエネルギー全体の需要を増大させる。したがって、水素が最も価値を発揮できる用途を特定する必要がある。無差別的な使用は、エネルギー転換を遅らせるとともに、発電部門の脱炭素化の努力も鈍らせる。」と指摘しています。
また、国際エネルギー機関(IEA)が発表した2050 年までの CO2排出ネットゼロに向けたロードマップ「Net Zero by 2050」において、技術別の累積排出削減量として、太陽光、風力、電動車による削減への貢献度が高いことが示されています。一方で、水素やCCUSは実証/試験段階かつ削減の貢献度が低いとされています。
以上をふまえると、水素・アンモニア等の「ゼロエミッション燃料」の将来的な導入を検討することを口実に本計画を進めることは、日本の2050年カーボンニュートラル目標に合致するとは言い難く、国際的な見解からも賛同は得られないものと考えます。
複数案の検討が不十分。再エネを含む複数の燃料種やリプレースを伴わない廃止についても検討すべき。
本計画について、「高経年化が進んでいる石炭2号機及び休止中の1号機(石油)を廃止し、二酸化炭素排出量が少ない最新鋭の高効率ガスタービン・コンバインドサイクル発電設備(LNG2号機)の導入について検討を開始」[あらましp.1]としていますが、新たなLNG火力発電施設へのリプレースを行わずに石炭2号機と1号機を廃止すれば、より大幅な二酸化炭素排出量削減が可能です。気候変動対策として化石燃料からの脱却が急務とされている状況下では、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーへの転換や、リプレースを伴わない石炭2号機と1号機の廃止、さらに運転期間延長を発表した石炭1号機の廃止についても複数案として検討すべきです。
本事業の目的として「電力の安定供給を確保しつつ環境負荷の低減を図っていく」[配慮書p.3]と説明されていますが、今後も世界情勢の変化によりLNGを含めた化石燃料の価格が大幅に変動する可能性や、カーボンプライシング導入のことも鑑みたとき、電力の供給価格も大きな影響を受けると予想されます。すでに太陽光発電や風力発電の発電コストが火力発電よりも安くなる中、LNG火力で採算をとることは厳しいだけでなく、日本のエネルギーの安定供給や安全保障面から見ても、新設のLNG火力発電には多くの不安要素があります。
また、今後の電力需要の増加を見越していますが、RE100や気候変動イニシアティブ(JCI)、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)等に加盟する多くの日本企業が、競争力確保のためにも再生可能エネルギーの拡大を要望していることを踏まえれば、化石燃料によって作られた電気の需要は減少し、その経済性は悪化する可能性があります。
よりエネルギー安全保障に寄与し、発電コストが安く需要が高まると考えられる太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーの導入を含めた複数案の検討を求めます。