2026年4月27日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵
2026年3月、政府は中東情勢の緊迫化によってLNG調達の不確実性が高まっていることを理由に、2026年度に限り非効率石炭火力の稼働抑制措置を解除すると発表した。
ここでいう「稼働抑制措置」とは、容量市場において非効率石炭火力(設計効率42%未満)の発電量を抑える仕組みを指す。従来は非効率石炭火力の設備利用率が50%を超えた場合、容量確保契約金を20%減額することで稼働を抑制していたが、今回の方針ではこの制約を一時的に撤廃する。
今回、この方針による追加的なCO2の排出量について、気候ネットワークが概算したところ、約170万トンを超える可能性がある。稼働抑制措置の解除によって削減されるLNGは約50万トンとされ、発電電力量に換算すると約43億kWhに相当する。石炭火力は燃焼時にLNGの約2倍のCO2を排出するため、この分が石炭に置き換われば、年間で約170万トンの排出増になるとの計算である(排出係数は石炭:0.8 kg-CO2/kWh、LNG:0.4 kg-CO2/kWhとした)。LNGの高騰で石炭火力の稼働が増えればさらに排出量は増える。
この170万トンという排出量は、太平洋やカリブの小島嶼国、アフリカの低所得国など、気候変動に対して特に脆弱な国々の年間排出量を上回る規模である。歴史的に大量の温室効果ガスを排出してきた先進国である日本が、省エネルギーの強化や節電の徹底といった対策を講じることなく、安易に石炭火力の抑制策を緩和することは、気候正義の観点から看過できない。
さらに、中東情勢の悪化が長期化した場合、現行の化石燃料依存のエネルギー政策が見直されないまま、石炭火力への回帰が進む懸念もある。来年度以降も同様の措置が継続されたり、老朽化した石炭火力の延命が図られたりすれば、第7次エネルギー基本計画に掲げられた「非効率石炭火力のフェードアウト」方針は事実上骨抜きになる。加えて、大手電力事業者の間で「非効率石炭火力のフェードアウト」の撤廃の必要性に言及する動きや、4月24日に自民党のイラン情勢に関する関係合同会議より「旧式の石炭火力発電所の活用」が提言されたことも、強い懸念材料である。
そもそも、化石燃料をめぐる争奪は歴史的に繰り返されてきた問題であり、化石燃料には今後も深刻な地政学リスクが伴い続ける。調達先の分散や燃料間の代替といった対症療法では、エネルギー安全保障が国際情勢に左右される構造は変わらない。それどころか、資源依存が紛争への関与を招く可能性すらある。さらに、化石燃料の使用による気候変動の進行が、新たな不安定要因や紛争を引き起こすことも否定できない。
真に持続可能で安全保障に資するエネルギーとは、地域で生産・消費する再生可能エネルギーである。すでに多くの国がその重要性を認識し、省エネルギーと再生可能エネルギーの導入拡大を加速させている。日本においても、この危機を転機と捉え、速やかに再生可能エネルギー中心のエネルギーシステムへと転換していくことが求められる。
以上
参考資料
- 資源エネルギー庁「燃料調達をめぐる動向と電力・ガスの安定供給について」(2026年3月27日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/pdf/005_07_00.pdf
- 電力広域的運営推進機関「容量市場 非効率石炭火力の稼働抑制措置(対象実需給年度:2026年度)の取り扱いについて」(2026年4月3日)
https://www.occto.or.jp/news/011823.html
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