2025年3月19日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵
2025年3月11日、「環境影響評価法の一部を改正する法律案(アセス法改正案)」が閣議決定された。再生可能エネルギーである陸上風力発電の導入にあたって、事業実施想定区域を広く設定し、以降の手続きの中で環境影響を回避・低減していくために事業実施区域を絞り込んでいく、いわゆる位置・規模のみなし複数案の設定が主流となっている実情などをふまえ、配慮書手続きの実施を任意とすることなどにより、スムーズな運用を図るねらいがある。
しかし、審議会の審議終盤で公有水面の埋立て及び干拓を除くすべての第一種事業に拡大することとされ、建替事業の場合、計画段階配慮事項ごとの調査・予測・評価を省略することを、原子力や火力を含め適用するとしたことは看過できない。また、情報開示についても非常に不十分な内容で問題が多い。以下にその詳細を指摘する。
原発・火力発電の建替え時のアセスを簡略化
今回のアセス法改正は、再生可能エネルギーの拡大が急がれる中、風力発電事業について、近年、環境影響評価手続の件数が増加傾向にあり、今後も更なる導入拡大が期待されていることから、「風力発電事業に係る環境影響評価の在り方について」中央環境審議会での審議がはじまった。 また、2020 年に内閣府特命担当大臣(規制改革)主宰で開催された「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」からの指摘等を経て、2021年に閣議決定された規制改革実施計画を踏まえ、陸上風力発電事業における「効果的・ 効率的なアセスメントに係る制度的対応の在り方」について検討が進められることになった。 このように今回のアセス法改正は、風力発電事業において効果的・効率的にアセスメントを行うための制度対応に主眼がおかれていた。
しかし、「今後の環境影響評価制度の在り方について(答申)」では、配慮書手続きのあり方の項目において、「なお書き」として「建替事業に係る配慮書手続の見直しに当たっては、風力発電事業以外の他の事業種においてもそれぞれの事業特性を考慮し、対象となり得る制度とすることが適当である。(答申P11) 」と、風力発電以外の他の事業種についても対象とする一文がどさくさ紛れに書き加えられた。
原発・火力発電の建替え時のアセス簡略化の問題
東日本大震災での東京電力福島第一原子力発電所事故の後、国内すべての原子力発電所が停止したことにともない火力発電所の建設ラッシュが続くことになったが、それを見込んで環境省は2012年に「火力発電所リプレースに係る環境影響評価手法の合理化に関するガイドライン」を策定し、火力発電所のリプレースを進めやすくした。
事業者はこれを活用し、本来実施すべきアセスを簡略化することで、各地で火力発電所の建設を進めてきた。簡略化の条件として現状よりも環境影響を低減することが求められていた。しかし、横須賀石炭火力発電所の新設に関する訴訟で明らかになったように、老朽化などで長期的に計画休止中の発電所を「リプレース」することで、実際には十年来の状態から環境影響が拡大する場合でも、その環境影響の調査、予測、評価を行うことなく、数十年前の高稼働率・高環境負荷の状態と比較して環境影響が低減するとみなされて、簡略化されてきた。
また、本来であればこのリプレースガイドラインを活用し、リプレースとして新規建設した場合には、それまで稼働していた発電所を廃止する必要があるが、北陸電力の「富山新港火力発電所石炭1号機」のように、計画された廃止時期から10年も延期させようとする例もあり、事業者による現行のアセス制度の悪質な運用が散見される。
今後、このようなことが原子力発電にも適用されることが想定され、非常に問題が多い。
アセス情報の開示も改善とはいえない
一方、今回のアセス法改正では、事業者による縦覧期間後でも、環境大臣がアセス図書を入手した上で、インターネットにより継続公開することを可能とする内容が盛り込まれた。しかし、条文では「この場合においては、あらかじめ、当該書類を作成した事業者等の同意を得なければならないものとすること。」と事業者の同意がなければ公開できないと定めている。
これまでの環境アセスにおけるアセス図書の閲覧は、閲覧期間中であっても事業者によってきわめて限定的とされることがたびたびあり、PDFでのダウンロード保存やコピーができないよう細工されていた。本来、アセス図書は誰もが自由にいつでもアクセス・閲覧できるよう法的に位置づけるべきである。またその公開期間については政令で定めるとしているが、少なくとも当該施設の廃止、廃炉が終了するまでは継続的に公開されるべきである。
参考
環境影響評価法の一部を改正する法律案の閣議決定について(2025年3月11日)
中央環境審議会「今後の環境影響評価制度の在り方について(答申)」及び「風力発電事業に係る環境影響評価の在り方について(二次答申)」について(2025年3月7日)
火力発電所リプレースに係る環境影響評価手法の合理化に関するガイドラインについて(お知らせ)2012年4月2日
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