2025年3月26日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵
3月24日から25日にかけて、日本経済新聞およびNHKが、パブリックコメントに1万件以上の意見が寄せられていることを問題視する報道を行っている。記事によれば、「政府は民意の正確な把握を阻害しかねないとの懸念を踏まえ、各省の官僚トップが集まる会議などで対策を練り始めた(日本経済新聞)」と報じられている。
記事では、パブリックコメントへの件数増加による、行政側の負担増が強調されているが、市民参加の意義や民主主義の視点を欠いたものである。また、「同じ意見が多数寄せられる」ことが負担の一因とされているが、多くの市民が同様の疑念を抱いていることを示すものであり、それだけ政府は説明責任が問われてるというべきである。
本来、国民生活や生存に関わる環境や社会的コストに直結する気候政策やエネルギー政策は、一部の「有識者」や既得権益のある関係者のみで決めるものではなく、その実効性を確保するためにも、市民参加のプロセスを経た政策形成がきわめて重要である。
しかし、今回、年末・年始を挟む形でパブリックコメントが実施された気候・エネルギー政策関連の「第7次エネルギー基本計画案」「地球温暖化対策案」「GX2040 ビジョン案」は、それらの政府案がとりまとめられる経緯で、メンバー構成が産業界寄りに偏っていることや、一部の委員の意見が無視されるなどの問題が多く指摘されてきた。結果的に、ほぼ原案どおりの内容で2月18日に閣議決定された。結論ありきであったと言わざるを得ない。
国際社会では、オーフス条約に代表される「市民参加」の政策形成プロセスが重視されている。しかし日本は市民参加や国民的議論の機会が皆無といってよく、ほぼ唯一とも言える国民が意見を提出できる機会がパブリックコメントであるが、これも形式的に扱われている現状がある。こうした、市民参加を軽視した政策形成プロセスこそが問題である。にもかかわらず、政府および一部報道機関は、パブリックコメントに多数の意見が集まることへの行政側の負担のみを問題視し、今後のパブコメのあり方に制約を加える方向で検討しようとするもので、本末転倒の対応である。
政府は、重要政策の決定における実質的な市民参加を確保し、国民的議論・熟議をふまえた政策形成プロセスの実現に向けた対策を講じるべきである。オーフス条約への参加こそが求められ、少なくとも、司法的救済も含め同条約で定める内容が実質的に実現されることが急務である。
参考
日本経済新聞「パブコメ「異常件数」相次ぐ SNSで動員、かすむ民意」(2025年3月24日)
NHK「パブリックコメント1万件超も 職員の負担増 AIなど対策検討へ」(2025年3月25日)
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