気候ネットワークは、現在パブリックコメントが募集されている電力システムの制度設計に関して、以下の意見を提出しました。
▼パブリックコメントはこちら
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620225018&Mode=0
(〆切:1月28日17時30分)
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全体への意見
今回とりまとめられた「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WG とりまとめ」は、全体として重大な構造的問題を抱えている。本来であれば電力システム改革の目的であるはずの「公正な競争環境の確立」「再生可能エネルギーの主力電源化」「需要家保護」「電力市場の透明性向上」といった原則が十分に反映されておらず、むしろ逆方向に作用する制度が多数盛り込まれている点である。
とりわけ、今回の制度設計は、結果として大手電力会社および大規模電源(原発・火力)に極めて有利な構造となっている。本来事業者が負うべき投資リスクや価格変動リスクが、託送料金や国費を通じて国民に転嫁される仕組みが強化・拡大しており、電力会社のリスクは社会に転嫁する一方で、利益は私有化される構造が強まっている。また、容量市場や供給力確保義務、系統整備費用の前倒し回収、値差収益の貸付優先化、GX貸付など、制度の多くが大規模電源の維持・延命を前提とした設計となっており、再エネ主力化や分散型エネルギーの普及を阻害する方向に働く。
さらに、競争環境が整わないまま経過措置料金の解除を視野に入れた議論が進められていること、最終保障供給の実務リスクが十分に解消されていないこと、低圧需要家のセーフティネットが不十分であることなど、需要家保護の観点からも深刻な懸念がある。これらは、電力自由化の理念である「公正な競争と多様な選択肢の確保」を損ない、結果として大手電力の市場支配力を強める方向に作用する。
以上のように、今回のとりまとめは、個別制度の技術的な改善を装いながら、全体としては大規模電源中心の旧来型システムを維持し、大手電力会社のリスクを国民に転嫁し、競争環境を弱める構造へと収斂している。電力システム改革の本来目的に立ち返り、再エネ主力化、公正な競争、需要家保護を軸とした制度設計へと抜本的に見直す必要がある。
以下に各意見をまとめるが、本案は抜本的に見直されるべきであり、現時点ではこのような案そのものを撤回すべきである。
電力システム改革の検証を踏まえた 制度設計WG とりまとめ(案)への意見
(1)安定供給確保を大前提とした、電源の脱炭素化の推進(P26~)
【検討事項①】安定供給に必要となる燃料の確保 (P27)
今回示された「安定供給に必要となる燃料の確保」に関する方針では、LNG長期契約の確保を中心に据え、2040年時点の我が国全体のLNG長期契約の在り方を検討することが示されている。しかし、気候変動対策および脱炭素化の観点から、以下の重大な懸念を指摘する。
- LNG長期契約の確保を前提とした制度設計は、脱炭素目標との整合性に欠ける。LNGの長期契約は通常15〜20年に及ぶため、2040年時点での契約は2055〜2060年頃まで継続する可能性が高い。これは、2050年カーボンニュートラルや2030年温室効果ガス削減目標と矛盾し、化石燃料依存を固定化する「カーボンロックイン」を生むおそれがある。
- LNG依存を前提とした電力安定供給策は、化石燃料価格変動リスクを国民に転嫁する構造を強める。燃料価格の急騰は、これまで電気料金の高騰や新電力の撤退を引き起こしてきた根本要因であり、リスクの源は化石燃料依存そのものである。本来はリスクを低減する方向に政策を転換すべきところ、長期契約の確保を制度的に支援することは、結果として国民負担の増大につながる懸念がある。
- 再エネ・蓄電池・デマンドレスポンス(DR)などの柔軟性リソースの活用が十分に位置づけられていない点も問題である。燃料消費量の季節変動やLNG火力の稼働率低下は、再エネの変動性を適切に吸収する仕組みが整っていないことの表れであり、本来は蓄電池やDR、バーチャルパワープラント(VPP)、分散型エネルギーの拡大によって対応すべき課題である。にもかかわらず、LNG長期契約の確保を中心に据えることは、再エネ主力化を阻害し、旧来型の電源構造を延命する方向に働く。
- 国際的な脱炭素潮流とも整合しない。IEAをはじめとする国際機関は、1.5℃目標と整合するシナリオでは新規の化石燃料投資を抑制すべきと指摘している。世界的に再エネ・蓄電池への投資が急拡大する中、日本が2040年以降のLNG長期契約を制度的に支援することは、国際的な脱炭素の流れに逆行する。
以上の理由から、LNG長期契約の確保を中心とした今回の方針は、電力安定供給の確保という目的に対して過度に化石燃料依存を固定化するものであり、気候変動対策・脱炭素化の観点から重大な問題を抱えている。安定供給の確保は重要であるが、その実現は化石燃料依存の延命ではなく、再エネ・蓄電池・DR等の柔軟性リソースの拡大、系統整備、需要側の効率化など、脱炭素と整合する手段を中心に据えるべきである。
【追加検討事項】供給力確保に向けた方策(P29~)
安定供給を名目とした化石燃料電源の延命に対する懸念
今回示された「供給力確保に向けた方策」では、2026年夏季以降の厳しい需給見通しを踏まえ、容量市場の見直しや不落札電源の維持、追加供給力の確保など、既存の大規模電源を中心とした供給力確保策の強化が示されている。しかし、気候変動対策および電力システム改革の理念の観点から、以下の重大な懸念を指摘する。
- 供給力不足を理由として、化石燃料電源の維持・延命を制度的に正当化する方向性が強まっている点である。石炭火力やLNG火力の休廃止は脱炭素に向けた不可避のプロセスであるにもかかわらず、これらの電源の減少を「危機」と位置づけ、追加的な供給力確保策を講じることは、結果として化石燃料依存を固定化し、脱炭素移行を遅らせるおそれがある。
- p.29「2030年代初頭まで厳しい状況が続く」可能性を前提とすることは、再エネ導入ペースの加速や蓄電池価格の低下、需要側リソースの拡大といった最新の技術動向を十分に反映していない。供給力不足を強調することで、火力の延命を正当化する方向に議論が誘導されることは避けるべきである。
- 発電事業者による電源休廃止の検討状況を10年前の段階で国や広域機関が把握する仕組みについては、競争環境および制度の公平性の観点から重大な懸念を抱く。第一に、事業者の退出判断に対して強い抑止力として働き、老朽火力の延命につながる。これは市場原理に基づく電源の新陳代謝を阻害し、再エネ導入の妨げとなる。供給力確保を名目にした火力延命制度となりかねず、制度の趣旨と整合しない。第二に、「秘匿性が高い」ことを理由に休廃止情報へのアクセスを限定する仕組みは、透明性の低下を招き、競争環境をさらに不利にする可能性がある。電源計画に関する情報が一部の主体にのみ集中することで、情報の非対称性が制度的に固定化され、電力市場の公正性が損なわれる懸念がある。
- 容量市場の見直しについては、容量市場の欠陥を是正するのではなく、むしろ強化する方向に向かっている点が問題である。容量市場はこれまで、既存火力への過大な補助、新規参入の阻害、再エネ・蓄電池に不利など、多くの構造的問題が指摘されてきた制度である。にもかかわらず、今回の方針では「指標価格の見直し」や「供出の求め」など、火力発電の維持を後押しする方向で制度を拡充する内容が示されている。これは、制度の根本的な課題を解消するどころか、既存火力への依存を制度的に強める結果となり、電力市場の健全な競争環境を損なうおそれがある。
- 市場で淘汰されるべき不落札電源を公的に保護する仕組みを検討している点も問題である。不落札となった電源は、経済性が低い、または需給上の必要性が低いことを示す市場からのシグナルである。本来は市場原理に基づき退出すべき電源であるにもかかわらず、個別事情の確認や維持の必要性の判断、さらには費用負担方法の検討まで行うことは、老朽火力の延命を国民負担で行う制度となりかねない。これは市場原理の否定であり、電力自由化の理念とも整合しない。逆に、容量市場では石炭火力を完全に対象外とした上で(将来的には全火力)、限定的に「予備電源」とするような措置は考え得る。
- 供給力確保策が「発電設備の確保」に偏り、再エネ・蓄電池・vDRなどの柔軟性リソースの活用が十分に位置づけられていない点も問題である。需給逼迫の本質的な要因は、再エネの変動性に対応する柔軟性リソースの不足や系統整備の遅れにあり、本来は蓄電池やDR、VPP、分散型エネルギーの拡大によって対応すべきである。供給力=大規模電源という旧来型の発想に基づく制度設計は、再エネ主力化を阻害し、電力システムの構造転換を遅らせる。
- 施工力制約を踏まえて国や電力広域的運営推進機関が発電事業者に対し補修時期の調整を依頼できる制度については、電力システムの公平性・柔軟性・脱炭素化の観点から重大な懸念を抱く。この制度は国や広域機関が発電事業者の運転計画に実質的に介入する仕組みとなり、発電事業者の運用自由度を不当に制限するおそれがある。特に、大規模電源の稼働を優先する方向に働きやすく、結果として既存の火力電源や原発の維持を制度的に後押しする構造となりかねない。再生可能エネルギーや分散型電源の柔軟性を軽視する方向に作用する点も問題である。再エネや分散型リソースは、需要変動や系統状況に応じた柔軟な運用が可能であり、本来は供給力確保の中心的な役割を果たすべき存在である。しかし、補修調整を大規模電源中心に行う制度が導入されれば、再エネの価値が適切に評価されず、電源構成の転換が遅れる懸念がある。
- また、施工力不足への対応として、補修時期の調整を制度化すること自体が本質的な解決策とは言えない。施工力不足は、本来、人材育成、工事計画の効率化、設備更新の促進、などによって解消すべき構造的課題である。施工力不足を理由に化石燃料電源の稼働を優先する制度を導入することは、問題の根本的解決を先送りし、脱炭素移行を阻害する方向に働く。施工力制約を理由とした補修調整制度は、大規模電源の稼働維持を制度的に支える結果となり、再エネ主力化や電力システムの柔軟性向上という政策目標と整合しない。施工力不足への対応は、化石燃料電源の優先維持ではなく、構造的な改善策を中心に検討すべきである。
- 「将来の電力需給シナリオ」およびエリア別シナリオ策定の方針については、電力システムの将来像を方向づける極めて重要な取り組みである一方、その前提条件や評価軸が大規模電源中心に偏るおそれがあり、脱炭素移行の観点から重大な懸念を抱く。
第一に、シナリオの前提が既存の大規模電源の維持を当然視する方向に傾きやすい点である。データセンター需要の増加や火力電源の休廃止などの課題が強調される一方で、再生可能エネルギーの急速なコスト低下、蓄電池の普及拡大、DRやVPPの高度化、省エネの進展といった脱炭素側の変化が十分に織り込まれない可能性がある。その結果、供給力不足を前提とした「火力延命ありき」のシナリオ形成につながりかねない。
第二に、将来需給シナリオが「大規模電源の必要性」を強調する形で共有されると、政策判断が特定の方向に誘導される危険がある。シナリオは本来、多様な選択肢を比較し、政策の柔軟性を確保するためのツールであるべきだが、特定の電源構成を前提としたシナリオが共通認識として固定化されれば、再エネ・蓄電池・需要側リソースの可能性が過小評価され、電力システムの構造転換が遅れるおそれがある。
第三に、シナリオ策定における透明性と検証可能性が十分に確保されていない点も問題である。前提条件、モデルの構造、需要予測の根拠、再エネ導入ポテンシャルの扱いなどが明確に示されなければ、シナリオが特定の電源構成を正当化するための“ブラックボックス”となり、政策の客観性が損なわれる。特に、データセンター需要の増加など不確実性の高い要素については、複数のケースを比較可能な形で提示することが不可欠である。
このように将来の電力需給シナリオは、大規模電源の維持を前提とした一方向の結論に誘導されることなく、再エネ・蓄電池・DR等の柔軟性リソースの可能性を十分に反映した多様な選択肢を提示し、透明性と検証可能性を確保した形で策定されるべきである。シナリオは政策を拘束するものではなく、むしろ脱炭素移行を加速するための柔軟な判断材料として位置づけることを強く求める。
- 今回の供給力確保策は、安定供給の確保という目的のもとで、化石燃料電源の維持・延命を制度的に支える方向に偏っており、脱炭素移行や再エネ主力化の観点から重大な問題を抱えている。安定供給は極めて重要であるが、その実現は化石燃料依存の継続ではなく、再エネ・蓄電池・DR等の柔軟性リソースの拡大、系統整備の前倒し、需要側の効率化など、持続可能な手段を中心に据えるべきである。
(2)電源の効率的な活用に向けた系統整備・立地誘導と柔軟な需給運用の仕組構築(P33)
【検討事項②】地内系統の計画的な整備を促す仕組み (P34)
一般送配電事業者の裁量集中と費用負担の公平性に関する懸念
地内系統の計画的な整備を進めるという方向性は、再エネ導入拡大や電力需要増加に対応するうえで重要な取り組みであり、その必要性は理解できる。しかし、今回示された制度設計の方向性には、一般送配電事業者の裁量への過度な集中、費用負担の公平性、再エネ主力化との整合性の観点から、以下の懸念を指摘する。
- 系統整備計画の策定主体が一般送配電事業者に限定され、国や電力広域的運営推進機関は「確認」にとどまる点である。どの系統を優先的に整備するか、どの需要家の接続を優先するかといった判断が、実質的に一般送配電事業者の裁量に委ねられる構造となる。これにより、大規模需要家や大規模電源が優先され、小規模再エネ事業者や地域分散型エネルギー事業者が不利になる可能性が高く、公平な競争環境を損なうおそれがある。
- 整備対象を「一定以上の容量・電圧を有する大規模・基幹系統」に限定する方針は、地域の分散型エネルギーや小規模再エネの接続環境改善を後回しにする構造を生む。再エネ主力化を掲げるのであれば、分散型電源の接続を促進するための系統整備も同時に進めるべきであり、大規模系統のみを優先する制度設計は望ましくない。
- 再エネ起因の系統整備は「2050年視点」、大規模需要起因の系統整備は「今後10年視点」という時間軸のずれも問題である。再エネ系統こそ前倒しで整備すべきであるにもかかわらず、大規模需要の迅速な接続を優先する制度となれば、再エネ導入の遅れを招き、脱炭素移行の妨げとなる。
以上の理由から、地内系統の計画的整備は必要であるものの、一般送配電事業者に過度な裁量が集中しないよう透明性を確保するとともに、費用負担の公平性、再エネ・分散型エネルギーの接続促進との整合性を十分に考慮した制度設計が不可欠である。
【検討事項③】大規模系統整備に係る資金調達の円滑化等 (P36~)
値差収益の柔軟化・GX貸付・託送料金前倒し回収は抜本的に見直すべき
今回示された、値差収益の柔軟化、GX政策における系統整備への貸付、託送料金の前倒し回収等の一連の制度方針について、以下の重大な懸念を指摘する。
- 値差収益の「貸付優先」化は制度の本来目的を逸脱するおそれがある。値差収益は本来、広域連系線整備による市場分断の解消を目的とした事後的な交付金である。しかし政府方針では、運転開始前の貸付を優先し、民間融資の返済を優先する仕組みまで検討されている。これは値差収益を事前融資の財源として転用するものであり、将来の交付財源の枯渇や返済リスクの国民負担化につながる。制度の透明性と公平性の観点から極めて問題が大きい。
- 値差収益の使途拡大は、再エネ主力化に必要な系統整備から資金を奪う懸念がある。政府は値差収益を、地内系統整備や大規模発電所の立地地域対策、供給力確保のための施策にも活用するとしている。しかしこれらは、再エネ導入拡大のための広域連系線整備という本来目的から大きく逸脱しており、結果として旧来型電源の維持や特定産業への利益誘導につながりかねない。再エネ主力化を掲げるのであれば、値差収益は本来の目的に厳格に限定すべきである。
- GX貸付の対象が特定産業に偏っている点も問題である。GX戦略地域の「コンビナート等再生型」や「データセンター集積型」が対象とされているが、これは特定企業・産業のための系統投資を国費で肩代わりする構造となる。需要側の「空押さえ」問題が指摘される中で、こうした貸付制度は過剰な需要申請を助長し、結果として不要な系統投資を誘発するおそれがある。費用回収は託送料金を通じて国民が負担するため、慎重な検討が不可欠である。
- 託送料金の前倒し回収は、国民負担の早期化・増大を招く。設備運転前から費用を回収する仕組みは、工期遅延や費用増額が生じた場合でも事業者が負担すべき費用を国民に転嫁する構造となる。特に大規模系統整備では前倒し額が巨額となる可能性があり、料金上昇圧力が強まる。再エネ主力化に必要な系統整備は重要であるが、費用負担の公平性と透明性が確保されないまま前倒し回収を認めることには強い懸念を抱く。
- 新たに創設される「特定系統整備準備引当金」は、事業者のリスクを国民に移転する制度となりかねない。建設期間中の費用を託送料金で回収し引当金に積み立てる仕組みは、事業者のキャッシュフロー確保を目的化し、工事遅延や需要減少による設備の不要化が生じても国民が負担する構造を生む。市場原理が働かず、投資判断の甘さを助長するモラルハザードも懸念される。
以上のように、この方針は再エネ主力化のための系統整備を支える仕組みというよりも、旧来型電源や特定産業のための資金スキームとなっている側面が強い。国民負担の増大、制度の透明性の欠如、事業者リスクの国民転嫁など、看過できない問題が多い。再エネ主力化と公正な費用負担の原則に立ち返り、制度全体の抜本的な見直しを強く求める。
【検討事項④】短期の最適な需給運用を可能とする市場整備 (P49~)
今回のとりまとめでは、電力(kWh)と調整力(ΔkW)を一体的に最適化する「同時市場」の構築が将来的な方向性として示されている。しかし、この方向性のままでは、再エネ主力化や電力自由化の理念と整合しない重大な懸念がある。
- 同時市場は大型火力を優遇し、柔軟性リソースを阻害するおそれがある。日本の現行制度では、LNG火力が最も柔軟性を持つ電源として扱われやすい一方、再エネ+蓄電池、DR、VPPなどの柔軟性リソースは制度的に過小評価されている。このまま市場統合を進めれば、火力依存が固定化し、再エネの価値が低下し、脱炭素化が遅れる可能性が高い。国際的には柔軟性リソースを市場の中心に据える制度設計が主流であり、日本の方向性はこれと逆行している。
- 再エネの価値が適切に評価されず、出力制御が増える懸念がある。現案の同時市場では調整力を持たない再エネが不利に扱われる可能性があり、その結果、再エネの優先給電が弱まり、出力制御が増加し、投資インセンティブが低下するおそれがある。再エネ主力化を掲げるのであれば、まず柔軟性リソースの市場参加を拡大し、再エネの価値を正当に評価する制度設計が必要である。
- 市場の複雑化により小規模事業者の参入障壁を過度に高めないよう、制度設計時に配慮が必要である。同時市場は高度な需給予測やITシステムを必要とするため、地域新電力や小規模小売、VPP事業者などの参入障壁が高まる。結果として、旧一般電気事業者や大規模発電事業者の市場支配力が強まり、電力自由化の理念である「競争促進」「選択肢の拡大」と矛盾する状況を招きかねない。
- 価格高騰の原因は市場が複数存在することではなく、制度運用の不備に起因するという点については、実際の不正事例からも明白である。特に、日本最大の発電事業者であるJERAが、4年半にわたり市場での売り惜しみを通じて相場操縦を行っていた事実は、制度運用の脆弱性と市場支配力の偏在が価格形成に深刻な影響を与え得ることを示す典型例である。
経済産業省・電力・ガス取引監視等委員会は、JERAが2019年4月から2023年10月までの間、JEPX翌日市場において、発電可能な余剰電力の一部を意図的に市場に供出せず、市場相場を変動させる認識を持ちながら売り惜しみを行っていたと認定し、2024年11月12日に業務改善勧告を行っている 。
また、東洋経済オンラインの調査報道によれば、JERAの東京エリアの担当部署は、余剰電力を市場に出さないという行為を4年半にわたり継続し、相場操縦に該当する行為を組織的に放置していたことが明らかになっている 。
この事例は、以下の点を示している。- 供出義務が十分に機能していない場合、市場支配力を持つ事業者が価格形成を歪めることが可能である。
- 市場が複数存在するかどうかとは無関係に、制度運用の不備が価格高騰を引き起こし得る。
- 市場統合を行っても、供出義務の強化・監視体制の厳格化・市場支配力の抑制がなければ、同様の不正が再発する可能性が高い。
したがって、価格高騰の再発防止に必要なのは市場統合ではなく、
①供出義務の厳格化、②市場支配力の監視強化、③不正行為への厳罰化、④予備力確保の制度的強化といった制度運用面の抜本的な改善である。
- 系統制約を市場に組み込むと、再エネが不利になる懸念がある。再エネが多い地域ほど系統制約が大きく、その制約を市場価格に反映すると再エネの価値が低く評価され、投資が抑制される。本来は先に系統整備を行い、接続制約を減らすべきであり、現状のまま市場統合を進めるのは適切ではない。
- 前日市場への依存強化は変動性再エネと相性が悪い。前日市場は予測誤差の大きい再エネやDRに不利であり、世界では15分市場やリアルタイム市場への移行が進んでいる。前日市場への依存を強める日本の方向性は国際潮流と整合しない。
- 同時市場は中央集権的な運用を強め、分散型エネルギーの普及を阻害するおそれがある。分散型電源や地域主導のエネルギー、VPP・DR・蓄電池など、脱炭素時代の電力システムに不可欠なリソースが十分に活かされない可能性がある。
以上の理由から、同時市場の構築は、火力依存の固定化、再エネ主力化の阻害、小規模事業者の排除、市場支配力の集中、脱炭素化の遅延といった深刻な問題を引き起こすおそれがある。再エネ主力化と柔軟性リソースの活用を中心に据えた制度設計へと、抜本的な見直しを強く求める。
(3)市場を通じた、安定的な価格での需要家への供給に向けた小売事業の環境整備(P59 )
【検討事項⑤】量的(kWh)な供給能力の確保含む小売電気事業者の責任・役割の遵守を促す規律
(a)小売電気事業者の量的な供給力確保の在り方(P60~70)
「小売電気事業者の責任・役割と規律の在り方」に関する方針については、安定供給の確保という目的は理解できるものの、制度設計の方向性が競争環境の悪化や需要家負担の増大につながる可能性が高く、以下の点について重大な懸念を抱く。
- 量的供給力確保義務を小売電気事業者に課す制度は、旧一般電気事業者に有利に働き、新電力に過度な負担を強いる構造となっている。旧一般電気事業者は自社発電を大量に保有しているため義務を容易に満たせる一方、新電力は発電設備を持たず、中長期契約へのアクセスも限定的である。その結果、制度が新電力の退出を促し、競争を弱め、需要家の選択肢を減らすおそれがある。
- スポット市場依存の抑制や中長期契約の確保義務化は、新電力のビジネスモデルを実質的に否定するものである。中長期契約の価格形成は旧一般電気事業者の影響力が大きく、新電力は不利な条件で調達せざるを得ない状況が続いている。こうした状況で義務を強化すれば、新電力のコスト増と競争力低下を招き、結果として市場の寡占化が進む。
- 規律強化や経営基盤の強化要求は、旧一般電気事業者は容易に対応できる一方で、小規模新電力には過度な負担となり、参入障壁を高める。規律強化が新電力の退出を加速させれば、市場競争が弱まり、最終的には需要家の料金上昇につながる可能性が高い。
- 中長期取引市場の拡充は、現状の市場支配力の偏在を是正しない限り、旧一般電気事業者の価格支配力を強める方向に作用する。発電の大部分を旧一般電気事業者が握る状況では、中長期市場を拡大しても価格形成の透明性は確保されず、新電力が不利な立場に置かれる構造は変わらない。
- 間接送電権の見直しや調達手段の制限は、新電力の調達コストをさらに押し上げ、競争環境を悪化させる可能性がある。需要家保護を目的とした制度であるにもかかわらず、結果として競争が弱まり、料金上昇を招く逆転現象が生じかねない。
以上の理由から、「(a)小売電気事業者の量的な供給力確保の在り方」に示された方針は、安定供給の確保という目的に対して、競争環境の悪化、需要家負担の増大、旧一般電気事業者への過度な優位性付与といった重大な副作用を伴う可能性が高い。制度設計にあたっては、新電力の健全な競争参加を確保し、卸市場の透明性向上や市場支配力の是正を優先することが不可欠である。
(b)小売電気事業者による安定的な事業実施の確保(P74~86)
「小売電気事業者による安定的な事業実施の確保」に関する方針は、安定供給や需要家保護の観点から一定の必要性があるものの、制度全体の流れと照らし合わせると、競争環境の悪化、再生可能エネルギーの普及抑制、そして需要家負担の増大につながる構造的な問題を含んでいると考える。
- 「安定的な事業実施」を名目とした規律強化が、新電力、とりわけ再エネ中心の小売事業者に対して過度な負担となる点である。経営基盤の強化やリスク管理体制の整備は重要であるが、資本力と人員を有する旧一般電気事業者に比べ、再エネ系の新電力は事業規模が小さく、これらの義務が重くのしかかる。結果として、再エネ中心の小売事業者が市場から退出し、再エネ電力の販売チャネルが縮小することで、再エネ導入そのものが抑制される懸念がある。
- 経営基盤の強化を重視する制度設計は、資本力のある事業者を優遇し、自由化の理念である「多様な事業者による競争」を損なう可能性がある。特に再エネ小売事業者は、環境価値を重視する需要家に対して多様な選択肢を提供してきたが、規制強化によってこうした事業者が淘汰されれば、需要家の選択肢が減少し、再エネ需要の伸びが阻害される。
- 事業継続計画(BCP)の整備義務化は、形式的には妥当であるものの、小規模事業者にとっては作成・維持のコストが大きく、実質的な参入障壁となり得る。よって、事業計画等の適切性や実行性を確認できる枠組を構築するのと同時に、小規模事業者へのBCP整備を支援する仕組みを整えることが必要。
- 供給力確保義務の遵守状況の監視強化は、旧一般電気事業者に有利な制度構造をさらに強める可能性がある。供給力確保義務そのものが大手に有利な制度である以上、その監視強化は新電力に対する「二重の負担」となり、再エネ小売事業者の退出を加速させるおそれがある。
- 小売事業者の退出時の対応や最終保障供給の確保に関する方針は重要であるが、規律強化によって新電力の退出が増えれば、最終保障供給の負担が増大し、最終的には託送料金等を通じて国民負担が増える可能性がある。需要家保護を目的とした制度が、結果として需要家の負担増につながる逆転現象には十分注意が必要である。
以上の理由から、「小売電気事業者による安定的な事業実施の確保」に示された方針は、制度全体としては再エネ中心の小売事業者に過度な負担を課し、競争環境を弱め、再エネ普及を抑制し、需要家負担の増大につながる懸念がある。制度設計にあたっては、事業規模に応じた柔軟な規律、卸市場の透明性向上、市場支配力の是正など、競争環境の健全性と再エネ普及の両立を確保する観点をより重視すべきである。
【検討事項⑥】中長期取引を促進する市場等 (P87~104)
市場整備が大手寡占の固定化と再エネ普及の阻害につながる懸念
「中長期取引の活性化に向けた市場整備」は、価格安定や調達手段の多様化という目的のもとに整理されているが、現行の市場構造を踏まえると、制度の方向性が競争環境の悪化や再生可能エネルギーの普及抑制につながる重大な懸念がある。
- 中長期市場の拡充は、現状の市場構造では旧一般電気事業者の価格支配力を強化する方向に働く。発電量の大半を旧一般電気事業者が保有しているため、中長期契約の価格形成においても大手の影響力が極めて大きい。こうした状況で中長期市場を拡大しても、価格の透明性や競争性が高まるとは限らず、むしろ大手が事実上価格を決定する市場が拡大する可能性がある。
- 相対取引の活性化は、情報の非対称性が大きく、価格透明性が低いという構造的問題を抱えている。特に旧一般電気事業者は自社グループ内での相対取引を活用できるため、市場外での価格形成が進み、透明性がさらに低下するおそれがある。これは新電力にとって不利な環境を固定化し、競争を阻害する。
- 価格指標の整備が掲げられているが、発電量の大部分を握る大手事業者が市場供出量を左右する現状では、価格指標の客観性が確保される保証がない。価格指標が大手の供出戦略に影響される構造が残る限り、指標の信頼性は限定的であり、価格安定の根拠としては不十分である。
- 新電力の調達多様化は理念としては重要であるものの、実効性に乏しい。中長期契約の供給者は旧一般電気事業者が中心であり、新電力は不利な条件で契約せざるを得ない状況が続いている。先物市場も流動性が低く、実質的なヘッジ手段として十分に機能していない。結果として、新電力は依然として不利な調達環境から抜け出せず、競争力を失うおそれがある。
- 再エネ電源の中長期取引(PPA等)が十分に位置づけられていない点も問題である。再エネPPAの普及には、系統制約の解消や非化石価値市場の簡素化などの制度的支援が不可欠であるが、資料ではこれらの課題への対応が十分に示されていない。中長期市場が大手火力電源を中心に形成される構造が続けば、再エネ中心の小売事業者は調達面で不利となり、再エネ普及そのものが抑制される懸念がある。
- 市場整備の議論が、過去の価格高騰の根本原因を十分に踏まえていない点も指摘したい。価格高騰の主因は、市場支配力の偏在、供出義務の弱さ、予備力確保の不十分さなど制度運用上の問題であり、市場を整備するだけでは再発防止にはつながらない。市場構造の偏りを是正しないまま市場整備を進めれば、同様の問題が繰り返される可能性が高い。
以上の理由から、検討事項⑥に示された市場整備の方向性は、現状の市場構造を前提とした場合、旧一般電気事業者の市場支配力を強化し、新電力の競争力を低下させ、再エネ普及を阻害するおそれがある。制度設計にあたっては、価格指標の客観性確保、相対取引の透明性向上、再エネPPAの普及支援、市場支配力の是正など、競争環境の健全化と再エネ普及の両立を重視した検討が不可欠である。
【検討事項⑦】経過措置料金の解除に係る課題等の整理 (P105~111)
競争環境の未成熟、需要家保護の不十分さ、再エネ普及への悪影響から、拙速な経過処置料金の解除には強い懸念
「経過措置料金の解除に係る課題整理」および今後の検討方針について、以下の重大な懸念を指摘する。
- 競争環境が整っていないにもかかわらず、経過措置料金の解除を前提とした議論が進められている点である。政府自身が、2019年に策定された解除基準に照らしても、2025年時点で基準を満たす地域は一つも存在しないと明記している。スイッチング率の低迷、有力な独立競争者の不足、卸市場の流動性不足など、競争環境は依然として脆弱である。それにもかかわらず、「解除することになった場合の課題」を先行して検討する姿勢は、解除ありきの制度設計と受け取られかねず、電力小売自由化の理念である公正な競争環境の確立と矛盾する。
- 経過措置料金が果たしてきた需要家保護の役割が過小評価されている。三段階料金による低所得層の保護、農事用・街路灯など公共性の高い需要への低廉料金、燃料費調整制度の上限による急激な値上がりの抑制など、経過措置料金は実質的に重要なセーフティネットとして機能してきた。これらは自由料金では代替が難しく、単純に「競争を妨げる」として廃止することは、生活インフラとしての電気料金の公共性を軽視するものである。
- 最終保障供給の実務リスクが深刻であるにもかかわらず、制度設計が不十分である点である。政府は、低圧部門で数十万〜百万規模の最終保障供給が発生した場合、一般送配電事業者の現行システムでは対応困難であると明記している。これは、経過措置料金を解除した場合に大量の需要家が最終保障に流れ、供給混乱が生じる可能性を示している。しかし、委託の可否を「検討する」とするのみで、具体的な制度案や費用負担の整理が示されておらず、需要家保護の観点から極めて不十分である。
- 経過措置料金の存在が競争を妨げているという指摘がある一方で、その因果関係は明確ではない。新電力の撤退・破綻が相次いだ背景には、燃料価格高騰や市場価格の急変動、大手電力の市場支配力、卸市場の流動性不足など、より構造的な要因が存在する。経過措置料金を競争阻害要因として扱う前に、これら本質的な課題の解決が優先されるべきである。
- 外生的要因(燃料費・インフレ等)の価格転嫁を容易にする方向性が示されている点も懸念される。事業者の努力が及ばない費用変動を柔軟に価格転嫁できる仕組みを検討するとされているが、これは電力会社のリスクを需要家に転嫁する制度につながりかねない。経過措置料金の解除と組み合わされれば、電気料金の急騰を抑える仕組みが失われ、家庭や小規模事業者への影響が極めて大きくなる。
- 経過措置料金の解除は再生可能エネルギーの普及にも悪影響を及ぼす。再エネ中心の小売事業者は、卸市場価格の高騰を直接受けやすく、経過措置解除後は大手の低コスト電源(原子力・大規模水力)と比較され、価格競争で不利になりやすい。結果として、再エネ小売事業者の撤退が進み、再エネ電力の販売チャネルが縮小する。これは、需要家が再エネメニューを選択しにくくなるだけでなく、再エネPPAの需要減少や新規再エネ投資の停滞を招き、政府が掲げる「再エネ主力電源化」とも整合しない。
以上のように、現時点で経過措置料金の解除を前提とした議論を進めることは、競争環境の未成熟、需要家保護の不十分さ、最終保障供給の実務リスク、価格転嫁の加速、そして再エネ普及の阻害など、多くの問題を孕んでいる。まずは競争環境の整備、料金制度の歪みの是正、最終保障供給の制度設計、需要家保護の枠組みの強化、再エネ小売事業者の事業継続支援といった基礎的課題の解決を優先すべきである。
経過措置料金の在り方については、需要家保護と公正な競争環境、そして再エネ普及の促進を最優先とし、拙速な解除ではなく、慎重かつ段階的な検討を行うことを強く求める。
(4)共通する課題( P112)
【検討事項⑧】電源・系統への投資に対するファイナンス
原子力に対する実質的に際限のないファイナンス案は撤回すべき
「電源・系統への投資に対するファイナンス」に関する方針は、脱炭素化と安定供給の両立を目的とするものの、制度設計の方向性には重大な懸念がある。特に、日本では今後大規模水力の新規開発がほぼ見込めないことから、本制度が実質的に「原子力を中心とした大規模電源への公的支援スキーム」として機能する可能性が高い点は看過できない。
- 政府の信用力を活用した融資制度は、事実上、電力会社の大規模投資リスクを国民に肩代わりさせる仕組みとなりかねない。大規模電源や大規模系統投資は、費用超過・工期遅延・需要変動などのリスクが大きいが、これらを公的融資で支えることは、民間の投資判断の失敗を国民負担に転嫁する構造を生む。特に原子力は、建設期間の長期化やコスト高騰が顕著であり、公的資金による支援は慎重であるべきである。
- 融資対象が「一定規模以上の電源」「長期脱炭素電源オークション対象電源」などに限定されている点は、大規模集中型電源を優遇し、分散型再エネを排除する制度設計となっている。日本では大規模水力の新設はほぼ不可能であるため、実質的に原子力が主対象となる。一方で、地域分散型の再エネや需要家側リソース(蓄電池・DR等)は制度の対象外となり、再エネ主力化の方向性と逆行する。
- 融資制度の実施主体として電力広域的運営推進機関(OCCTO)を位置づける点は、制度の中立性・透明性の観点から重大な懸念がある。OCCTOは電気事業法に基づく認可法人として設立されているが、その職員の多くが旧一般電気事業者からの出向者で構成されており、実務部門においては特に大手電力出身者が多数を占めることが広く指摘されている。こうした構造の下で、投資判断・融資判断・返済確保といった極めて重要な権限をOCCTOに集中させることは、利害関係の偏りや透明性の欠如を招くおそれがある。制度の公平性を担保するためには、OCCTOのガバナンス強化や人事構成の見直し、中立性確保のための仕組みが不可欠である。
- 返済確保の仕組みとして、リスクプレミアム徴収、一般送配電事業者からの拠出金、国からの財政措置などが示されているが、これらは最終的に託送料金や税金を通じて国民負担に転嫁される。大規模投資が短期間に集中すれば、託送料金の上昇や電気料金の高騰を招き、家庭や中小企業への影響が大きくなる。GXの名の下に電気料金が上昇する構造を制度化すべきではない。
- 系統整備の遅れや接続制約といった再エネ普及のボトルネックは、本来、制度改革や運用改善によって解決すべき問題であるにもかかわらず、金融支援の拡大が優先されている点も問題である。資金供給だけでは、接続検討の遅延、ノンファーム運用の限界、既存電源の優先接続などの構造的課題は解決しない。金融支援を拡大する前に、制度的・運用的な改革を優先すべきである。
- 「脱炭素電源」という概念が曖昧であり、実質的に原子力を中心とした支援に偏る懸念がある。原子力はCO₂排出が少ない一方で、建設リスク・事故リスク・バックエンド費用など、再エネとは異質のリスクを抱える。これを再エネと同列に扱い、公的融資の対象とすることは、再エネ主力化政策との整合性を欠く。また、長期脱炭素電源オークションの対象電源を融資制度の対象として参考にするとあるが、LNG火力新設や水素アンモニア火力が明確に排除されていない。
以上の理由から、本制度案は、大規模電源偏重・原子力優遇・国民負担の増大・再エネ分散型電源の排除・OCCTOの中立性欠如といった重大な問題を孕んでおり、現状のまま導入すべきではない。むしろ、
- 再エネ分散型電源への公平な支援
- 国民負担の抑制
- OCCTOのガバナンス強化と中立性確保
- 東京電力福島第一原子力発電所事故の反省に立った原子力政策の見直し
- 系統整備の制度改革の優先
といった前提条件を整備することが先決である。
(5)その他
将来の課題として再エネの出力制御や系統混雑の増加が挙げられているが、その解決策としては主に「同時市場」の導入による効率的な電源配分や、系統制約を考慮した約定(SCUC・SCED)が中心となっている。
その一方で、市場価格というシグナルを使って需要家や蓄電池の挙動を直接変えるためのネガティブプライシングについては一切触れられていない。ネガティブプライシング(マイナス価格)の導入は、供給過剰という物理的な需給状況を強力な経済的シグナルとして市場に伝え、蓄電池への充電や需要家側の電力消費(DR)を直接的に促すことで物理的な出力制御を最小化するために非常に有効な方策である。改めてネガティブプライシングを再エネの最大限の活用と需要側の柔軟性を引き出すための価格シグナルの在り方として位置づけ実施するべきである。
次世代の電力システム構築へ向けて ~中間整理~(案)への意見
上述の繰り返しになるが、今回公表された「次世代の電力システム構築へ向けて(中間整理)」および「制度設計WGとりまとめ」は、電力システム改革の目的であるはずの 公正な競争環境の確立、再生可能エネルギーの主力電源化、需要家保護、市場の透明性向上 といった基本原則が反映されておらず、むしろ逆行する制度が多数含まれている。
2025年7月23日に国際司法裁判所(ICJ)は「気候変動に関する国家の義務」に関する勧告的意見を示した。これをふまえれば、今回の制度設計案は国際法上の要請とも整合しない重大な問題を抱えている。
(1)原案が抱える構造的問題
1)ICJ勧告的意見との整合性欠如 ― 国際法上の義務に反する方向性
2025年7月23日、国際司法裁判所(ICJ)は、国家の気候変動に対する法的責任について以下の点を明確に示した。
- 各国は、条約上および慣習法上、気候システムに対する重大な危害を防止する義務を負う。
- 気候変動に悪影響を与える排出を行う民間企業を規制しない場合、国家は責任を問われ得る。
- 国家が化石燃料の「生産、消費、探査許可、補助金」を規制しないことは、国際法違反となる可能性がある。
火力発電は化石燃料の消費行為そのものであり、国家が規制すべき対象である。しかし今回のとりまとめは、火力を含む既存電源の延命を制度的に支える内容が多く、 ICJが示した国際法上の義務と真っ向から矛盾する。気候変動はすでに激甚化しており、電力部門は最優先で脱炭素化が求められる分野である。 国際社会の要請に応えるためにも、脱化石燃料への明確な転換が不可欠である。
2)再エネ主力化・分散型エネルギーの軽視
容量市場、供給力確保義務、値差収益の貸付優先化、GX貸付など、制度の多くが大規模電源の維持・延命を前提としており、 再エネや分散型リソースの普及を阻害する方向に働いている。再エネ主力化を掲げながら、制度設計がその方向に整合していない点は問題である。
3)公正な競争環境の欠如と市場支配力の固定化
制度の多くが大手電力会社および大規模集中電源(原発・火力)に有利な構造となっており、本来事業者が負うべき投資リスクや価格変動リスクが、託送料金や国費を通じて国民に転嫁される仕組みが拡大している。結果として、 「リスクは社会化され、利益は私有化される」 という逆進的な構造が強まり、競争環境の健全性が損なわれている。
4)需要家保護の不十分さ
競争環境が整わないまま経過措置料金の解除が議論されていること、 最終保障供給の実務リスクが十分に解消されていないこと、 低圧需要家向けのセーフティネットが脆弱であることなど、需要家保護の観点から深刻な問題がある。
5)制度設計プロセスの透明性不足
制度の影響評価(競争への影響、再エネ導入への影響、需要家負担など)が十分に示されておらず、 前提データや検証プロセスの透明性が不十分である。
(2)次世代電力システムに向けた提案
次世代電力システム構築に向け、以下を提案する。
1)公正な競争環境の再構築
- 電力の送配電完全分離(所有権分離)
- 大手電力の市場支配力を監視・是正する仕組みの強化
- 卸市場・小売市場の透明性向上
- 経過措置料金解除の前提条件の明確化
- 新規参入・分散型事業者への参入障壁の体系的な見直し
2)再エネ主力化・分散型エネルギーを前提とした制度設計
- 容量市場の抜本的見直し(既存大規模電源の延命ではなく、再エネ・蓄電池・DRを適切に評価)
- 分散型リソースの市場参加を制度的に保障
- 長期脱炭素電源オークションを再エネ中心のポートフォリオ型に再設計
- 系統側の追随義務を原則化し、再エネ接続制限を回避
- 優先給電ルールにおいてメリットオーダーを導入し、再エネ事業者に対しては補償を行う
- ネガティブプライシング(マイナス価格)の導入
3)脱化石燃料の明確なロードマップ策定(ICJ勧告的意見を踏まえて)
- 火力発電の段階的フェーズアウトの時期を明示
- 化石燃料補助金の縮減・廃止
- 化石燃料消費・生産・探査許可に対する規制強化
- 再エネ主力化を前提とした電力市場・料金制度の再構築
4)リスク・コスト配分の公正化と透明化
- 投資リスクは原則として事業者が負担する制度へ回帰
- 系統整備費用の「受益者負担」原則と社会全体で広く薄く負担する仕組みの導入
- GX貸付や値差収益の使途の透明化と第三者検証
- 託送料金・小売料金への転嫁プロセスの可視化
5)需要家保護・セーフティネットの強化
- 最終保障供給のリスク分担の見直し
- 低圧需要家向けセーフティネットの拡充
- 生活困窮世帯や中小企業へのターゲット型支援
- 情報提供・スイッチング支援の強化
6)ガバナンス・透明性の強化
- 制度設計プロセスの透明化
- 審議会への小規模事業者・再エネ事業者・環境NGO等の参画
- 電力・ガス取引監視等委員会の独立性担保、不正の続く大手電力への監視強化
- 規制影響評価(RIA)の強化・徹底
- 主要制度への定期的な検証・見直し条項の導入
(3)今後に向けた提案
電力システム改革の目的は、 公正な競争、再エネ主力化、需要家保護、透明性の高い市場 を通じて、持続可能で強靭な電力システムを構築することにある。今回の中間整理案は、その理念と整合しない部分が多く、さらにICJ勧告的意見が示した国際法上の義務にも反する方向性を含んでいる。次世代の電力システムにふさわしい制度となるよう、脱化石燃料と再エネ主力化を中心に据えた抜本的な見直しを強く求める。
参考
【意見書】電力システム改革の検証を踏まえた制度設計に対して(2025年10月8日) | 気候ネットワーク
【意見書】電力システム改革の検証結果と今後の方向性(案)について(2025年3月6日) | 気候ネットワーク
音声解説
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音声解説は以下からお聴きいただけます。
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