ENEOS Power(株)が進める、天然ガス火力発電所の新設計画。現在行われている環境影響評価の方法書の手続きに対し、気候ネットワークは以下の意見を提出します。

(仮称)扇町天然ガス発電所についてはこちら:ENEOS Powerプレスリリース
https://www.eneos-power.co.jp/news/news-release/article002.html
(意見提出〆切:2026年2月12日(木)当日消印有効)

この計画の概要

  • 神奈川県川崎市に新たに天然ガス火力(約75万kW)を建設する計画
  • どのくらい温室効果ガスを排出するかはENEOSは明らかにしていないが、推計で150~170万トン近くものCO2を毎年排出
  • 将来的には水素の混焼発電やCCSを検討するとあるが、詳細は不明

意見

天然ガス火力発電所の新設に反対。地球温暖化を1.5℃の範囲に収めるためには、化石燃料インフラの新規建設の余地はない。

貴社は、2003年から電力小売り事業に参入し、日本各地に発電所を所有しています。その上に将来の国内における電力需要増加を見据えた電力の安定供給に貢献することを目的として新たな天然ガス火力発電所を建設するとの計画ですが、新たなCO2排出源を増やすことは自社の「サプライチェーン全体でのCO2排出を削減する」との方針にも反するものです。しかも、配慮書に対する意見への返答で「事業者として必要な温室効果ガス削減に係る目標及び対策を策定した後に、環境アセスメント図書に記載します。」との見解を記しているにも関わらず、今回の方法書においても「単位発電量当たりの二酸化炭素排出量をより一層低減することに努める」と記載するのみで、具体的な排出量は算出されていません。

IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書は、既存の化石燃料インフラが(2018年から)耐用期間終了までに排出する累積のCO₂総排出量を6,600億トン(報告書作成時点で計画されている化石燃料インフラからの累積総排出量を加えると8,500億トン)と予測しています。これは、同報告書において地球温暖化を50%の確率で1.5℃に抑えるための限度として示されたCO₂の累積総排出量である5,000億トンを既に大きく上回っています。つまり科学的な観点から見れば、既存の化石燃料インフラであっても耐用期間の終了を待たずに廃止する必要があり、ましてや新設の余地は残されていません。  

貴社が行おうとしているのは、「新規LNG火力発電所の建設」という、後戻りできない化石燃料への巨額投資であり、CO₂の大規模排出源のロックインです。本計画の撤回をもとめます。

化石燃料インフラの新設はG7合意など国際合意と矛盾する

2023年に開催されたG7広島サミットでは、1.5℃目標達成に向けて「2035年までの完全又は大宗の電力部門の脱炭素化を図る」こと、「遅くとも2050年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」との文書(コミュニケ)が合意されました。2033年に稼働する予定の新規LNG火力発電所は、この合意に全く整合していません。

経産省の委員会にて貴社は、LNGの脱炭素化にはさまざまなパスウェイが考え得るものの、実用化にはそれぞれ課題があり、事業者は脱炭素化技術の進展に応じカーボンニュートラルに必要な設備の実装を図って行く必要があるとの認識を示されたにも関わらず、本計画における脱炭素化の具体策およびその実行時期は記されていません。

ENEOSグループが脱炭素・循環型社会の実現に向けてサプライチェーン全体でのCO2排出削減を目指し、ENEOSホールディングスがClimate Action 100+の対象となっていることも踏まえ、これらの国際合意に対する責任を果たすことを求めます。

CO2排出係数が高すぎる

本計画では、最新の高効率ガスタービン・コンバインドサイクル発電設備を設置するとしていますが、LNG火力である以上、高効率であっても膨大な量のCO₂を排出します。

また、LNG火力の排出係数は、ガスコンバインドサイクルが0.32~ 0.36kg-CO2/kWh程度とされており、これは国際エネルギー機関(IEA)が2023年9月に「Net Zero Roadmap」【注】で示した1.5℃シナリオで求められている2030年の排出係数0.186kg-CO2/kWhと比べ約2倍にもなり、1.5℃目標に整合しないことは明らかです。

この発電所を設備利用率70%で稼働させた場合、年間150~170万トン近くもの排出が新たに発生します。CO2排出量がどの程度になるのか、その値がどのように貴社のカーボンニュートラル基本計画と科学的に整合するのか示すことを求めます。

【注】IEA “Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach”(2023年9月)https://www.iea.org/reports/net-zero-roadmap-a-global-pathway-to-keep-the-15-c-goal-in-reach

LNG火力インフラはライフサイクルで石炭火力よりも多くの温室効果ガスを排出する可能性がある

LNG火力は、石炭火力と比べれば燃焼時の二酸化炭素排出量が少なく、カーボンニュートラルへの「つなぎ役」として新設やリプレースが正当化されがちですが、ライフサイクルで見ると、LNG火力インフラからの温室効果ガス漏出量は石炭火力よりも多い可能性を指摘する研究結果が示されているといます。本件を配慮書時点でも指摘しましたが、「LNG 火力が気候変動に与える影響について継続的に評価していく」と不十分な回答がなされたため[方法書7.1-26]、継続して指摘いたします。

ENEOSグループは、マレーシア、インドネシア、パプアニューギニアといった各国でのLNGプロジェクトに参画しているだけでなく、国内のLNG受入基地計画にも出資しています。近年、こうしたLNG火力インフラからのGHG排出も考慮した上での排出量を策定する方向に進んでいることを踏まえれば、本計画における燃焼時の排出量が多少減少したとしても、ライフサイクル全体での排出量は増加する可能性が高いと言えます。

また、天然ガスの主成分はメタンであり、二酸化炭素の28~34倍もの温室効果をもつ強力な温室効果ガスです。「Environmental Research Letters」誌に掲載された論文【注1】によると、天然ガスの井戸、生産施設、パイプラインなどから少量のメタンが漏出するだけでも石炭と同程度の排出量になる可能性があります。また、2024年に「Energy Science & Engineering」誌に掲載された別の研究【注2】は、LNGは掘削作業によるメタン漏れが推定をはるかに上回っていることや、パイプラインによる輸送時の排出、液化・タンカーによる輸送を含めれば石炭よりもはるかに大きなエネルギーを要することなどを指摘し、20年間の温室効果ガス排出量を比較するとLNGが石炭よりも33%も大きいと明らかにしています。

こうした研究の指摘を考慮すれば、LNG火力の利用が地球温暖化対策になるとみなすことはできません。また、世界各地ではガス採掘、パイプラインの設置などにおける環境破壊や人権侵害が大きな問題となっているだけでなく、脱化石燃料への動きも高まっています。 2030年以降に新規のLNG火力発電所の運転を開始させるなどもっての外であり、LNG火力はカーボンニュートラルまでのつなぎ役どころか、気候変動を悪化させている主な要因の一つであることを忘れてはいけません。

LNGによる気候変動への増長はすでに科学において十分指摘されており、今後は削減に向かうべきです。

【注1】Deborah Gordon et al [2023], “Evaluating net life-cycle greenhouse gas emissions intensities from gas and coal at varying methane leakage rates,” Environmental Research Letters, Volume 18, Number 8. 
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/ace3db

【注2】Howarth RW. [2024] “The greenhouse gas footprint of liquefied natural gas (LNG) exported from the United States,” Energy Sci Eng, Volume12, Issue1112: 4843-4859.
https://scijournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ese3.1934

天然ガスにまつわる人権侵害・環境汚染の問題

貴社が参加するパプア LNG 事業を含めた上流でのLNG事業の人権侵害・環境汚染の問題について配慮書時点でも指摘しましたが、本件について十分な回答が得られなかったため、継続して指摘いたします。

LNGに関連する事業は全体でGHG排出および大気汚染の問題を引き起こすだけでなく、上流で生態系破壊や人権侵害、中流で海洋汚染などを引き起こしています。例として、貴社が出資するパプアLNG事業では、パリ協定1.5度目標と整合しないこと、影響を受ける先住民の「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」が欠如していること、事業地域の60種以上が調査されたことがなく生物多様性への深刻なリスクを及ぼすことなどが指摘されており、環境団体らからは貴社に対して要請書も提出されています。これらの面からも、本計画を含め、LNGの使用を減らすことが急務です。

 配慮書の際に、「上流から下流に至る人権問題やGHG排出量(メタン漏れの懸念も含む)を含めた環境負荷はプロジェクトによっても異なるため、国内のLNG火力発電所で使用するLNGの産地および入手経路およびライフサイクルGHG排出量を算出して頂きたい」と指摘しました。これについて引き続き情報公開を求めます。

・Asian People’s Movement on Debt and Development (APMDD)ら:プレスリリース「13の機関投資家がパプアLNGの環境・人権問題を精査」を発表(2025年3月24日)
https://jacses.org/2637/

・ENEOS株主総会でネットゼロ目標年の大幅後退に批判の声 ~環境NGOがパプアLNG事業の中止も要請~
https://mekongwatch.org/PDF/pr_20250626.pdf

・パプアLNG事業における環境・人権規範の違反と融資責任 ~撤退する海外銀行と執着する日本の金融機関~
https://fairfinance.jp/media/gbhnaemm/papua_lng0716.pdf

不確実で合理性のない水素・アンモニア燃料の導入やCCS・CCUSの活用を前提に、化石燃料インフラに投資すべきではない

本計画では、「水素・アンモニア、CCUS 等を活用した火力の脱炭素化について、技術開発やコストなどを踏まえて時間軸や排出量にも留意し、事業者の予見性を確保しながら進めていく」[方法書2-2]としていますが、この方針についても問題があります。

まず、配慮書に対する横浜市長の意見では、水素混焼やCCSについて時期や内容を示すよう指摘されていますが[方法書7.1-12]、この方法書内にはその指摘が反映されていません。貴社は「準備書以降に示す」と回答されていますが、「水素の混焼発電や CCS 等の採用について検討し、発電設備の稼働に伴う排ガス中の温室効果ガスの排出削減に最大限取り組みます」などと、これら技術をあてにしていることが方法書内の多くの箇所にて読み取れます。この回答を繰り返すのであれば、横浜市長意見の指摘通り方法書時点で示すべきであったと考えます。

貴社は日本国内でのCCS・CCUS事業計画に名を連ねていますが、実際に本計画が稼働した際のCO2回収・貯留についての検討が行われているのか明示されていません。本計画がCCSを念頭においたものであるのであれば、CCSのための追加設備の建設計画、輸送、貯留までの実効性を踏まえた削減策を明らかにしてください。

CCSについては多くの問題が指摘されており、現実的にはCO2の6~7割の回収しかできていないばかりか【注1】、年々貯留率が下がっている事業も見られます【注2】。こうした状況も踏まえた検討を求めます。

また、発電における水素・アンモニアの利用は、気候変動対策の面でも発電コストの面でも望ましくありません。

当発電所で将来の利用を想定しているのは水素燃料だと考えられますが、現状では商用発電に利用可能な水素のほとんどは化石燃料から生成されており、水素の製造時や輸送時の温室効果ガス排出量まで含めて考慮すれば、地球温暖化対策として有効に機能するとは言えません。水素燃料は、どのように作られたのかまで含めたライフサイクル全体での削減効果について定量的に評価することができなければなりません。さらに、大規模火力発電所の需要を賄える量の水素燃料を供給できる見通しは立っていません。

水素燃料は、他に脱炭素化の手段がない分野に優先して使うべきとされており、用途を特定したうえで、必要量、供給体制等を検討する必要があるとされています【注3】。

国際エネルギー機関(IEA)が発表した2050 年までの CO2排出ネットゼロに向けたロードマップ「Net Zero by 2050」において、技術別の累積排出削減量として、太陽光、風力、電動車による削減への貢献度が高いことが示されています。一方で、水素やCCS・CCUSは実証段階であり、削減貢献度は低いとされています【注4】。

本方法書に記載された貴社の方針を改めてみると、現時点で本発電所の脱炭素化に関する具体的な計画が存在しないことを自ら認めているに等しいのではないでしょうか。技術の実現や経済合理性等の条件が整わなかった場合の想定リスク・代替策が言及されておらず、化石燃料利用による運転が長期化する可能性を含めて説明責任が果たされていません。

今後の方針について、改めて具体的に情報開示することを求めます。

【注1】IFFFA ”Carbon Capture and Storage”
https://ieefa.org/ccs

【注2】IEEFA ”Gorgon shows CCS aims are built on technical uncertainty”
https://ieefa.org/resources/gorgon-shows-ccs-aims-are-built-technical-uncertainty

【注3】IRENA “Geopolitics of the Energy Transformation: The Hydrogen Factor” (2022 年1月) https://www.irena.org/publications/2022/Jan/Geopolitics-of-the-Energy-Transformation-Hydrogen

【注4】IEA “Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach”(2023年9月)
https://www.iea.org/reports/net-zero-roadmap-a-global-pathway-to-keep-the-15-c-goal-in-reach

国際司法裁判所によれば、化石燃料の生産・消費は国際法違反行為に当たる可能性がある

国際司法裁判所(ICJ)は、2025年7月に気候変動に関する国の義務についての勧告的意見を発表しました。この中でICJは、国家の義務には民間事業者の活動を規制する義務が含まれ、化石燃料の生産、消費、化石燃料探査許可の付与、化石燃料補助金の提供等、国家が温室効果ガス(GHG)の排出から気候システムを保護するための適切な措置を講じないことは、国際法違反行為を構成することを明記しています。さらに、気候系への重大な損害防止義務は「すべての人(erga omnes)の義務である」こと、この義務が国際社会全体に対して負う義務であることも確認されています。

このICJの意見を踏まえれば、貴社が国内外で化石燃料事業に関わる以上、人権保護義務の水平効果により、気候系への重大な損害防止義務を負っているとなります。

国際社会における排出事業者の責任を問う判決の一例としては、氷河湖の決壊の危険にさらされたペルーの農夫がエネルギー企業であるRWEに対して提起した訴訟があげられます。2025年5月、ドイツ裁判所は「被告の排出と氷河湖の決壊の危険との間の因果関係に関する原告の主張には正当な根拠がある」と判断しました。

つまり、貴社が生じさせた排出は個別具体的な気候変動による被害と紐づけられ、世界の市民から訴訟を提起される可能性があり、国際司法の場ではその可能性が高まってきています。

既に多数の発電設備を有し、世界各地で化石燃料事業を展開している上に、排出削減目標およびそのための具体的な削減策を明確にしないまま本計画を進めることは、会社として負うべき義務を軽視していると見られかねません。訴訟リスクおよびレピュテーションリスクといった気候リスク回避の観点からも、本計画の撤回を求めます。

・【プレスリリース】国際司法裁判所「気候変動に関する国家の義務についての勧告的意見」暫定和訳の公開について(2025年8月20日)
https://kikonet.org/content/38281

・German Court Ends Landmark Climate Case Brought By Peruvian Farmer, But Affirms Liability Potential For Major CO2 Emitters
https://www.climateinthecourts.com/german-court-ends-landmark-climate-case-brought-by-peruvian-farmer-but-affirms-liability-potential-for-major-co2-emitters

二酸化窒素濃度の目標下限値を満たしていない地点への天然ガス火力新設は、大気汚染を悪化させる

本事業は川崎市長意見 [方法書7.1-15]において、「川崎市における一部の大気環境の測定地点で、川崎市公害防止等生活環境の保全に関する条例に基づく二酸化窒素の対策目標値の下限値を達成していないことから、燃焼条件等の検討の際には窒素酸化物の排出量に留意するとともに、可能な限り優れた環境性能を備えた施設の採用及び効率的な運転管理を踏まえた対象計画を策定すること。」と指摘されています。
貴社はこれに対し「事業の実施に当たり、窒素酸化物の排出量に留意するとともに、可能な限り、優れた環境性能を備えた施設の採用及び効率的な運転管理を踏まえた事業計画を策定します。」という回答にとどめており、具体的にどのような改善策を設けるのかは不明なままです。
NO2濃度がすでに対策目標値の基準を満たしていない地点でさらなる火力発電所を建てることは、地元の大気汚染を悪化させ、地域住民の健康を損なう可能性があります。この地域で複数の火力発電所が近接していることによる大気汚染への影響は、横浜市長意見でも懸念されているとおりです。当地点において火力発電所を建設するべきではありません。本計画は撤回されるべきです。

参考

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