気候ネットワークは、愛知県知多市で計画されている、知多ガス火力7,8号機の建設計画の準備書(意見提出期限:2024年12月2日)に対し、意見書を提出しました。

この計画の要点

  • 7、8号機はそれぞれCO2を毎年167万トンを排出する。既存の5号機が廃止になっても、6号機が廃止にならなければ計541万トンものCO2を毎年排出させることになる。(以下図)
  • 7、8号機は将来的には水素の導入検討(長期脱炭素化ロードマップより、2030年代半ばから10%混焼)

科学的観点からみれば、化石燃料インフラの新規建設の余地は全くない

 IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書(2022年4月公開)は、既存の化石燃料インフラが耐用期間中に排出する累積のCO2総排出量を6600億トンと予測していた(報告書作成時点で計画されている化石燃料インフラからの累積総排出量を加えると8500億トン、現在はさらに増加していると見られる)。すでに同報告書で地球温暖化を50%の確率で1.5℃に抑えるための限度として示されたCO2の累積総排出量5000億トンを大きく上回っているため、科学的な観点から見れば、既存の化石燃料インフラであっても耐用期間の終了を待たずに廃止する必要がある。本計画の7、8号機は、2029年 /2030年に運転開始後、長期にわたってCO2を排出するため、この新設を許容する余地は全くない。

CO2排出係数が高く、1.5℃目標と整合しない

 7、8号機の二酸化炭素排出係数は約0.321 kg-CO2/kWhとされているが、これは国際エネルギー機関(IEA)が2021年5月に「Net Zero by 2050」で示した1.5℃シナリオで求められている2030年の排出係数0.138kg-CO2/kWhと比べ約2.5倍にもなり、7、8号機の排出量が1.5℃目標に整合しないことは明らかである。

国際合意に整合しない

 2023年に開催されたG7広島サミットでは、「2035年までの完全又は大宗の電力部門の脱炭素化を図る」こと、「遅くとも2050年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」との文書(コミュニケ)が合意された。2029-30年に稼働する予定の新規LNG火力発電所は、この合意に全く整合していない。

天然ガスはライフサイクルで石炭火力よりも多く温室効果ガスを排出するという調査が出ている

 2024年10月ガーディアン紙は、「輸出された天然ガスは石炭よりもはるかに多くの温室効果ガスを排出している」という研究について報道した。報道によれば、天然ガスは石炭よりも燃焼時にクリーンだとしてエネルギー転換の「つなぎ」として使われがちだが、20年間の温室効果ガス排出量では、LNGは石炭に比べて33%も大きい。天然ガスの掘削作業によるメタン漏れが推定をはるかに上回っていること、パイプラインによる輸送時に大量の排出があること、液化・タンカーによる輸送を含めれば石炭よりもはるかに大きなエネルギーを要することなどが指摘されている。LNGの使用を終わらせることは世界的な優先事項であるべきと研究者は主張しており、気候科学者は石炭と天然ガスはどちらも排除する必要があると述べた。

 世界的には天然ガスからの撤退が進められている中、貴社は本事業を「経済性と環境性に優れたLNGを燃料として、2029年度の運転開始を予定」(準備書p.3)と評価しているが、これらの研究を踏まえれば天然ガス事業を環境性能に優れると主張することは、明らかにグリーンウォッシュである。天然ガスを利用し続けることは気候に甚大な影響を及ぼす可能性があり、貴社はほかのLNG事業とあわせて本計画から撤退するべきである。

本建設計画で検討されている水素混焼の問題 準備書内に重要な情報がない

 電力広域的運営機関の長期脱炭素電源オークションに向けて提出された長期脱炭素化ロードマップでは、当該発電所は2030年代前半から水素を10%混焼するとしている。

 しかし、本計画は2025年/2026年に着工し、2029年/2030年に運転を開始する予定であるにも関わらず、本準備書の中には2030年代前半に水素混焼を行う具体的な計画は何も記載されていない。どのような水素を混焼し、水素を導入することでどの程度の排出削減が見込めるのか(ライフサイクルで評価されるべきである)、調達した水素をこの発電所内のどこに保管するのか、水素保管に際してどのような保安対策がなされるのか、水素混焼によって環境影響評価上の項目に何らかの影響(変化)が出るかどうかをどう評価するかなど、重要な情報が何も書かれていない。このような将来的に起こりうる重大な変更について、何も情報提供しないまま本計画を進めることは問題だ。

 さらに、排出削減の実効性にも大きな疑問が残る。

 2030年代に水素の10%混焼を開始すれば、燃焼時の温室効果ガスが10%減り、排出削減になると考えているのだろうが、90%はガスを燃焼させることになる。いずれにせよ大量のCO2を排出する火力に対して、このような小手先の排出削減では不十分であることは明確である。

 水素は海外で化石燃料から製造されたもの(グレー)が主流であり、それを船で日本に運ぶため、製造・輸送のプロセスを加味すると、そもそもライフサイクル全体では削減にならない。製造時のCO2を回収・貯留するブルーも検討されているが、現実的には6割程度の回収にとどまり、大規模な貯留技術は開発途上である。

 水素利用は、他に脱炭素化の手段がない分野に優先して使うべきとされており、用途を特定したうえで、必要量、供給体制等を検討する必要があるとされている。 2023年のG7広島サミットにおいても、水素の利用は1.5℃の道筋やG7で合意された2035年までの電力部門の脱炭素化に整合する場合など多くの厳格な条件を付されており、脱炭素技術としてG7で承認されたわけではない。

 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、2022年1 月に公表した報告書の中で、水素利用のあり方について「水素は製造、輸送、変換に多大なエネルギーが必要で、水素の使用がエネルギー全体の需要を増大させる。したがって、水素が最も価値を発揮できる用途を特定する必要がある。無差別的な使用は、エネルギー転換を遅らせるとともに、発電部門の脱炭素化の努力も鈍らせる。」と指摘している。

 また、国際エネルギー機関(IEA)が発表した2050 年までの CO2排出ネットゼロに向けたロードマップ「Net Zero by 2050」において、太陽光、風力、電動車は技術別の累積排出削減の効果が高いとされている一方で、CCUSや水素は削減の貢献度が低いとされており、かつ現状では実証/試験段階にある。

 このように国際機関からも実効性が疑問視されている技術を強行することは、コスト増大にもつながり、ひいては消費者の負担増にもなる。

財務上のリスクをJERA自身が指摘

 本電源は長期脱炭素電源オークションで落札しているが、事業者自身が「将来の燃料価格の変動等から投資収益の回収が見込めない」として落札を返上する可能性を示し、「経産省に制度上での取り扱いの修正を求める意向を示唆した」と報じられている。

 本発電所は事業者にも財務上のリスクがあると同時に、社会的なコストを増大させる要因でもある。長期脱炭素電源オークションの費用の原資は小売事業者らの容量供出金であり、小売事業者において電力料金に上乗せされる可能性がある。結果的に、消費者の意思に関わらず負担を強いられ、選択の自由が狭められてしまう恐れがあるため、財務リスクと落札返上の真偽につき事業者として真摯な説明を求める。消費者の負担、環境負荷の面を考慮すれば、本事業は脱炭素社会の早期実現に不適切である。落札を返上し、本計画を中止することを求める。

準備書の閲覧方法および意見提出方法について

 本準備書の環境影響評価手続きのページには、ウェブ(PDF)以外の閲覧方法が記載されていない。貴社のプレスリリースには記載があるものの、紙媒体での縦覧場所の情報が非常に探しにくい状況となっている。住民など縦覧を希望する市民に対し不親切だと思われるので、わかりやすく情報提供していただきたい。

 また、本準備書に対する意見書のひな形としてPDFが用意されているが、PDFでは編集しにくく、市民の意見を集めるという意識に欠けている。フォームやメールなどオンラインで提出できるようにすること、郵送なら最低限Wordファイルをひな形として掲載することを求める。

参考

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