気候ネットワークは、東北電力による「東新潟火力発電所1・2号機リプレース計画 環境影響評価方法書」についての意見聴取に対し、以下の内容の意見書を提出しました。

LNG火力発電所の建設に反対。老朽化した火力はリプレースではなく退出の対象とすべき。

世界気象機関によると2023年の世界の平均気温は観測史上最高となり、世界中で異常気象による災害が拡大しました。日本でも年平均気温および日本近海の平均海面水温がいずれも観測史上最高となり、記録的な大雨や熱中症などの被害が深刻化しています。国連のグテーレス事務総長は深刻化する状況を「地球沸騰化」と表現し、地球温暖化を1.5℃以内に抑えるための行動の加速を訴えました。COP28では、2030年までのエネルギー効率2倍と、再生可能エネルギー3倍が世界の目標として合意され、化石燃料からのエネルギー転換の重要性が強調されました。

本計画は6号機が2031年3月に、7号機が2036年3月に運転開始が予定されています。高効率コンバインドサイクル発電設備へのリプレースによって二酸化炭素排出を従来型に比べ3割程度削減できるとの見込みが示されていますが、LNG火力である以上、それでも膨大な量の二酸化炭素を排出します。また、LNG火力の排出係数は、ガスコンバインドサイクルが0.32~ 0.36kg-CO2/kWh程度とされており、これは国際エネルギー機関(IEA)が2021年5月に「Net Zero by 2050」で示した1.5℃シナリオで求められている2030年の排出係数0.138kg-CO2/kWhと比べ約2.5倍にもなり、1.5℃目標に整合しないことは明らかです。

配慮書への経済産業大臣意見では、「本事業に係わる二酸化炭素排出削減の取組の道筋が、1.5℃目標と整合する形で描けない場合には、稼働抑制や休廃止などを計画的に実施することも含め、あらゆる選択肢を勘案して検討すること」と述べられています。新たなガス火力発電施設へのリプレースを行わずに1・2号機を廃止し、より大幅な二酸化炭素排出量削減が可能となる太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの拡大を選択肢として検討すべきです。

環境影響評価配慮書に関する意見募集で提出した、複数の燃料種や1・2号機の廃止の検討を求める意見に対し、今回の方法書では「既に天然ガスの供給インフラが整っているため、燃料種については天然ガスの単一案とした」との回答が掲載されました。既存インフラの活用を短期的な経営戦略として合理性があるように主張し、将来的にカーボンニュートラル燃料への移行を目指すとしていますが、化石燃料からの脱却が急務とされている状況における気候変動対策としては不十分です。

IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書は、既存の化石燃料インフラが今後その耐用期間中に排出する累積の二酸化炭素総排出量を6600億トンと予測しています(計画されている化石燃料インフラからの累積総排出量を加えると8500億トン)。これは、同報告書で地球温暖化を50%の確率で1.5℃に抑えるための限度として示された二酸化炭素の累積総排出量5000億トンを大きく上回ってしまいます。つまり、科学的な観点から見れば、新規建設(リプレース)の余地はなく、既存の化石燃料インフラであっても耐用期間の終了を待たずに廃止する必要があります。

また、本計画について、電力の安定供給と発電コスト低減に貢献することが期待されるとしていますが、世界情勢の変化によりLNGを含めた化石燃料の価格が大幅に変動する可能性や、今後、カーボンプライシングが導入されることを鑑みたとき、LNG火力が発電コストの低減に貢献できるかは疑問です。

今年の長期脱炭素電源オークションでは落札電源となり、20年間に渡って多額の費用が支払われる分、発電コストの低減にはつながるかもしれませんが、そもそもの原資は結局小売り事業者の賦課金があてられるのであって、最終的にはそれが電力料金に上乗せされるなどして国民負担が増えることも明白です。

すでに太陽光発電や風力発電の発電コストが火力発電よりも安くなる中、日本のエネルギー安全保障面から見ても、新設のLNG火力発電には多くの不安要素があります。2050年ネットゼロ目標に向け、化石燃料からの脱却を加速させるべく、本計画の廃止および太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーの拡大についての検討を求めます。

温室効果ガスの影響評価においては、地球温暖化を1.5℃に抑えるためのカーボンバジェットを考慮すべき

方法書の環境影響評価項目に入っている施設稼働による温室効果ガスの排出について、将来的にカーボンニュートラル燃料を導入することでさらに二酸化炭素排出を削減する計画については具体的に示されていません。また、「カーボンニュートラルチャレンジ2050」における東新潟火力発電所の位置づけも示されていません。本計画による温室効果ガス排出の影響を評価する際には、従来型に比べて3割程度削減できると見込むだけでなく、地球温暖化を1.5℃に抑えるための残余カーボンバジェット(許される残余の炭素排出量)を考慮すべきです。

IPCC第6次評価報告書(第1作業部会)は残余カーボンバジェットについて、地球温暖化を50%の確率で1.5℃に抑える場合は5000億トン、67%の確率で1.5℃に抑える場合は4000億トンと示しています。さらに同報告書は、すでに地球規模で大気中の二酸化炭素濃度が高くなっており、そこに追加的な二酸化炭素排出が1トン増えるたびに気候変動がさらに進行し、悪影響を増加させると評価しています。この1.5℃目標の達成のためには、2050年にカーボンニュートラルを実現するだけでは不十分です。残余カーボンバジェットの範囲内でいかに早く排出量を削減できるかが重要であることを踏まえれば、既存の火力の出力抑制策や早期廃止も含めた二酸化炭素排出削減手段を示すべきです。

水素やアンモニアを「カーボンニュートラル燃料」とすることについて、慎重な評価が必要

貴社は、「火力の脱炭素化に向けては、当社として火力電源におけるカーボンニュートラル燃料(水素、アンモニア)の利用に係わる実証や研究を進めており、リプレース後の発電設備においては、将来的にカーボンニュートラル燃料を導入する場合に必要となる設備対策や、それに伴うサプライチェーン構築などの調達面の課題について、検討を進めていく」としていますが、発電における水素・アンモニアの利用は、気候変動対策の面でも発電コストの面でも望ましくありません。

現状、入手可能な水素、アンモニアのいずれもそのほとんどは、化石燃料から生成する「グレー水素(アンモニア)」であり、製造時や輸送時の排出量まで含めて考慮すれば、地球温暖化対策として有効に機能するとは言えません。燃料水素・アンモニアがどのように作られたのかまで含めた、ライフサイクル全体での二酸化炭素排出量を踏まえた削減量を定量的に評価できなければなりません。現時点では、大規模火力発電所で水素・アンモニアを燃料として使用するための技術はまだ発展途上にあり、その需要を賄える量の燃料供給の目途も立っていません。配慮書への経済産業大臣意見にも、「水素やアンモニア等の導入に当たっては、発電所稼働時に二酸化炭素を排出しないことのみに着目せず、燃料の製造や輸送等も含む事業のサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を算定し、サプライチェーン全体にわたる温室効果ガスの排出量を適切に削減していくこと」と指摘されているように、水素・アンモニア燃料のライフサイクル全体の温室効果ガス排出量を含めた評価を求めます。

調整力としての火力発電設備の必要量は少ない。再生可能エネルギーによる安定供給は可能であり、火力発電設備の新規建設よりも再生可能エネルギーを中心とした電力システムへの投資を進めるべき。

配慮書段階で提出した、発電における水素・アンモニアの利用は望ましくないとする意見に対する貴社の見解として、安定供給や再生可能エネルギーの調整力確保のために、カーボンニュートラル燃料を利用した火力電源が一定程度必要であると述べられています。しかし、再生可能エネルギーを中心とした安定供給は可能であり、調整力は既存の火力発電設備で十分にその必要量に対処することができると見込まれていることから、新たな火力発電設備の建設には慎重であるべきです。

現在、国際的には、供給力は大規模火力から、風力・太陽光を主とする再エネの導入拡大と柔軟性の組み合わせへとシフトしています。日本でも安定供給力=大規模火力という認識を早急に改めるべきです。

柔軟性としては、送配電網の拡大、ディマンドレスポンス、揚水、蓄電池など多様な手段があり、それらの深化が急がれます。温室効果ガス排出を何十年にもわたってロックインさせ、燃料を輸入に依存し続ける火力発電を調整力と位置づけて新たに建設することは、社会全体の便益になりません。既存のガス火力発電設備を再生可能エネルギーの拡大までのつなぎ役として利用することは選択肢となり得ますが、2030年以降に運転開始する本計画は座礁資産化するリスクが高くなります。さらに、LNGを含めた化石燃料の価格が大幅に変動する可能性や、今後のカーボンプライシング導入を考えれば、電力の供給価格も大きな影響を受けると予想されます。日本のエネルギーの安定供給、安全保障面から見ても、LNG火力発電の新設には不安要素が多いのが現状です。

COP28で再生可能エネルギーへの移行が強く打ち出されたことも踏まえ、LNG火力のリプレースではなく、再生可能エネルギー拡大に向けた投資を進めるべきです。

火力発電設備の新規建設はG7合意など国際合意と整合しない

IEAが2021年5月に発表した「Net Zero by 2050」では、1.5℃目標に関するシナリオとして天然ガスについて「2030年までに発電量をピークとし、2040年までに90%低下させる」ことが示されています。また、2023年に日本が議長として開催したG7広島サミットでは、「2035年までの完全又は大宗の電力部門の脱炭素化を図る」こと、「遅くとも2050年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」との文書(コミュニケ)が合意されました。

本計画は、従来型に比べ3割程度の二酸化炭素排出の削減を見込んでいますが、LNG火力である以上、再生可能エネルギー発電設備を採用する場合や、リプレースを行わず廃止する場合と比べ、膨大な量の二酸化炭素を2030年以降も排出し続けることになります。LNG火力の排出係数はガスコンバインドサイクルが0.32~ 0.36kg-CO2/kWh程度であり、これはIEAが上記の報告書で示した1.5℃シナリオで求める2030年の排出係数0.138kg-CO2/kWhと比べ約2.5倍に相当します。2031年3月に6号機、2036年3月に7号機を稼働させる予定の本計画が、以上のような国際的な合意やシナリオに整合しているとは言えません。

LNGインフラの温室効果ガス排出について

LNG火力は、石炭火力と比べれば燃焼時の二酸化炭素排出量が少ないためにカーボンニュートラルへの「つなぎ役」としての位置づけが正当化されがちですが、上流まで含むLNGのインフラ開発・運営においてはさまざまな問題が指摘されており、インフラからの温室効果ガス漏出もそのひとつです。LNGインフラからの温室効果ガス漏出量を考慮するとLNGは石炭に匹敵するとの研究結果が明らかになっています。天然ガスの主成分はメタンであり、二酸化炭素の28~34倍もの温室効果があります。2023年7月にEnvironmental Research Letters誌に掲載された論文(注)によると、天然ガスの井戸、生産施設、パイプラインなどから少量のメタンが漏出するだけでも石炭と同程度の排出量になる可能性があります。メタン漏れの量とそれが気候変動に及ぼす影響の大きさは世界的に軽視されていますが、メタン漏れを完全に予防することは困難であり、ガス火力発電所が温暖化対策に貢献するとは言えません。

また、世界各地ではメタン漏出だけでなく、ガス採掘、パイプラインの敷設による環境破壊や人権侵害が大きな問題となっています。2030年以降にLNG火力発電所の運転を開始する発電所をいまから建設するなどもっての外です。配慮書へのメタン漏れを懸念する意見に対し、新設設備の建設や運用にあたって、極力、天然ガスが漏洩しないよう努めると回答されていますが、ガスインフラ全てのプロセスにおけるメタン漏れを完全に予防することは困難です。よって、従来型よりわずかに排出削減効果があるという理由のみでリプレースとする本計画を中止し、1・2号機を廃止とするべきです。

(注)Deborah Gordon et al [2023], “Evaluating net life-cycle greenhouse gas emissions intensities from gas and coal at varying methane leakage rates,” Environmental Research Letters, 18 (8).

参考

東北電力株式会社:環境影響評価方法書の公表・意見聴取・説明会の公告について(意見の受付は郵送/提出期限:2024年6月28日当日消印有効)

気候ネットワーク:【意見書】東新潟火力発電所1・2号機リプレース計画 計画段階環境配慮書に対する意見(2023年12月8日)

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