気候ネットワークは資源エネルギー庁による水素社会推進法の基本方針と施行令案(低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する基本的な方針(案)および脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律施行規則(案))に対して以下の意見を提出しました。

1.低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する基本的な方針(案)等

2.脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律施行規則(案)

1.低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する基本的な方針(案)等に対する意見

【案文】低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する基本的な方針(案) について

第1 意義及び目標

①意義(P2~)

 「低炭素水素等の供給及び利用の促進の意義」として「エネルギーの安定供給・経済効率性・環境適合を同時に実現」していくことがあげられているが、本来水素を普及する前提として国内で再生可能エネルギー電気を大幅に拡大し、余剰電力を生み出した上で水電解によるグリーン水素を製造する形が望ましい。しかし、こうした視点がなく、水素の供給拡大だけが先行し、海外から調達するようなサプライチェーン構築が目指されている時点で、海外からの燃料輸入に依存し続けることになる。これではエネルギー自給率は向上せず、経済効率性・エネルギー効率も悪く、気候変動対策にもならない。再エネを前提としない水素利用には何ら意義を見出すことはできない。

 水素利用の促進の前に、再生可能エネルギー電力を十分に導入することを目指した上で、グリーン水素の利用拡大を図るべきである。

②政策の方向性・目標(P3~)

 人類が直面する気候危機を回避するため向かうべき方向性は気候の安定化であり、パリ協定やその後のCOPでの合意で位置付けられている地球の気温上昇を1.5℃の上昇におさえる「1.5℃目標」に整合するCO2の削減経路をたどることである。COP28では、「化石燃料からの脱却」を目指すことが合意されており、このことを踏まえた水素の供給及び利用の促進である必要がある。

 第6次エネルギー基本計画などで位置付けられた水素・アンモニアの導入目標は、2030年の電源構成でわずか1%であり、石炭は19%、LNGは20%とされているため、化石燃料に代わる役割を果たせないことは明らかである。2030年までの大幅削減が不可欠とされる中、水素等に過度に期待するのではなく、電力システムの抜本的な見直しで再エネを拡大し、その後対策困難な分野での電化、水素化を目指すという位置づけとすべきである。

 また、経済産業省は、2050年の電源構成について、これまで参考値として「再エネ5~6割、原発+CCS火力 3~4割、水素・アンモニア 1割」と示していた。本方針案では、2040年や2050年に向けて、発電分野における水素・アンモニアの火力発電の拡大が示されており、現在審議中の「第7次エネルギー基本計画」に向けた電源構成の布石を打つことは非常に問題である。

③発電部門における水素等の混焼について(P9)

 「発電分野では、水素・アンモニアの火力発電について、将来的な専焼化を見据えつつ、20%程度のアンモニア導入及び10パーセント程度の水素導入による燃料転換を進めていく。特にアンモニア発電については、石炭火力への依存度が高いアジア諸国における脱炭素化と経済成長を両立する現実的なソリューションとして展開し、アジア全体での脱炭素化に貢献していく。」としているが、「1.5℃目標」に向けて石炭火力は2030年までに国内の既存石炭火力を全廃することが求められており、アンモニア20%混焼、水素10%混焼では全く不十分である上、国内のどの発電所で混焼を行うのか具体的な計画は示されていない。発電部門におけるCO2削減で最も効率が良く、効果も確実で、経済的にも安い方法は太陽光や風力といった再エネであり、水素等を混焼して既存火力を維持すべきではない。

 また、これまでアジア諸国で石炭火力の建設を積極的に推進してきた日本は、気候変動を悪化させた国としての責任を果たすべきであり、石炭火力の廃炉と再エネ普及にこそ力を注ぐ必要がある。水素やアンモニアなど化石燃料に比して圧倒的に価格が高い燃料を導入することなど全く現実的ではなく、しかも排出削減にもならない。アジア諸国で再エネの拡大が進められていることも踏まえれば、水素等の混焼が前提であっても石炭およびガス火力の展開を図ることには、世界から反感を買うだけである。

第2 低炭素水素等の供給・利用の促進に関する事項(P12~)

①低炭素水素の利用を特に促進すべき事業分野

 電力部門は「代替技術が少なく、転換が困難な分野」ではない。「特に促進すべき分野」に位置付けるべきではない。代替困難な分野でグリーン水素を普及するためには、電力部門を原子力・火力から再エネにシフトし、余剰電力でグリーン水素を供給する体制を早急に構築し、他の産業に供給するインフラを構築すべきである。

 また、2040年に向けて国内資源からの水素製造を最優先するにあたって、再生可能エネルギーのほか、原子力、廃プラスチック、メタンハイドレード等から水素を製造することが示されているが、地震大国の日本において原子力は福島原発事故の例にみられるように甚大な放射能汚染のリスクが高く、コスト的にも見合わず動かすべきではない。太陽光・風力など多様な再生可能エネルギーに特化して推進していくべきである。

 「再生可能エネルギーの変動性を補う調整力や供給力を確保する観点等から火力発電は引き続き重要」などと位置付けているが、再生可能エネルギーの変動性は系統連系の強化や蓄電池等の拡大、ディマンドレスポンスなど需要側の対応でかなり補うことができるため、火力の役割を過剰評価し、混焼による延命を図るべきではない。ましてや水素等の価格は蓄電池などに比べて圧倒的に高く、水素やアンモニア混焼の火力電源を残すことは、今まで以上の電気代の高騰につながり国民負担を増やすだけである。

②価格差に着目した支援・拠点整備支援の評価項目(P14~)

 水素やアンモニアの事業を実施する支援の対象として炭素集約度が低いことを必須条件としていないのは、この法律の趣旨に反する。この基本方針案で示された2つの支援の評価項目の必須条件が、価格差支援では「安全性」と「安定供給(最低供給量年間千トン)」、拠点整備支援では「安全性」と「安定供給(最低供給量年間1万トン)」のみで、そのほかは必須とされていない。

 法施行令では、水素、アンモニア、合成メタン、合成燃料の炭素集約度の要件を定めておきながら、支援体制の評価項目には反映せず、「炭素集約度が相対的により低いこと」などとあいまいな表現で記載し、しかもそれが必須条件にすら規定されていないのは非常に問題である。

③国の努め

 事業に必要な資金確保は国がやるべきことなのか。極めて排出量が少ないもしくは排出がゼロの事業であれば国が資金を確保するべきだが、そうではないものも含めて国が資金を確保する意味はない。再生可能エネルギーと比べても明らかに価格が高いかどうかを判断することなく、事業者の積み上げた金額をなぜ国が支援しなければならないのか合理的な説明がなされていない。また、コスト目標を達成するためにも、国の潤沢な支援は価格競争力を阻害し、コスト低減のインセンティブが働かず、安易に国が支援をするべきではない。事業の支援を国が支援したとしても、水素等の燃料費が高ければ、消費者は高額な電気料金を支払い続けることになる。国の資金は、再エネの開発・拡大、インフラの整備に振り向けるべきである。

【案文】経済産業大臣が定める年度(案) について

・第7条5項ロ「当該低炭素水素等供給等事業計画に従って行う低炭素水素等供給事業者による低炭素水素等の供給が、低炭素水素等の供給及び利用の促進の目標を勘案して経済産業大臣が定める年度までに開始され、かつ、経済産業省令で定める期間以上継続的に行われると見込まれるものであること。」に定められた年度を令和12年、すなわち2030年としているのは遅すぎる。今回の甘い低炭素水素等の排出係数を前提とする場合の計画は、少なくとも2年以内に開始されるべきである。

 かつて、再生可能エネルギー固定価格買取制度において、認定時と事業実施時にタイムラグがあったことで問題が起きた反省をふまえるべきである。それは、自然環境の乱開発につながりかねない太陽光設置登録事業計画が乱立する一方、太陽光パネルの価格が計画当時よりも大幅に下がるのを待ち、あぶく銭で儲ける事業者が一定数いたことや、当初実態のない事業計画が急増して、電気代に上乗せされる再エネ賦課金が「国民負担」となったことが問題になったことである。再生可能エネルギー固定価格買取制度においては、調達価格算定委員会による第三者が価格を設定しており、算定価格は急激にコストを下げていったので、国民負担は一時的なもので、むしろ今その反動で価格が安くなりすぎて、再エネ普及を阻害している状況になっている。

 本法においては、第三者機関による価格算定ではなく、当事者である事業者が基準価格を算定することができ、原料開発事業、建設費、電力費用、燃料費(再エネに限定しない)、コンサル費、人件費などなどあらゆるものを盛りこむことができることも問題であるし、認定された後、事業実施までに例えば再エネ価格などが下がっても当初の金額で15年間固定価格で支払われる構造も問題である。また何よりも基準価格を事業者が様々な形で水増し請求することすら可能な制度であり、事業者の言い値で国民負担が増幅する懸念がある。しかも、電気代に上乗せされた再エネ賦課金のように目にみえる形ではなく、政府が負担する税金から支払われ、国民負担として実感しにくい構造になっており、問題の根は深い。

2.脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律施行規則(案)に対する意見

脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律施行規則(案) について

・低炭素水素の要件(第3条1)

低炭素水素の要件として、水素は3.4㎏-CO2/kgH2、アンモニアは0.87㎏-CO2/kgNH3、合成燃料は製造、輸送、貯蔵及び利用に伴い排出される排出量が39.9g-CO2/MJ、合成メタンについては製造、液化、輸送、貯蔵及び利用に伴う排出量が49.3g-CO2/MJとされている。グレーの製造物から約7割削減に相当するとされているが、不十分である。脱炭素を目指すにあたっては、段階的にゼロにする、もしくはグリーン水素等に促すしくみとしておくべきである。

・他国で実施した製造時のCO2回収分を日本の排出削減量とする件(第3条4)

合成メタンや合成燃料を製造する場合、海外での製造時に二酸化炭素を回収すればそれを我が国の排出量の削減と認められることを条件としているが、削減分を算定するというなら、製造時に排出される二酸化炭素の排出量も日本の排出としてカウントし、現地での排出と回収分を算出すべきである。回収分だけを我が国の削減とするなら、当該国にとって製造に伴う排出分を押し付けられることになり、不公正かつダブルカウント等の抜け道になりかねない。また、製造時のCO2排出および回収量を報告または開示するといった詳細については何ら規定がないことも問題である。

・規定要件は改正前に認定された全事業者に適用すること(第3条6)

 第3条6で示された「第一項から第四項までに規定する要件が改正された場合において、当該改正前に法第七条第一項の規定 により認定を受けた低炭素水素等供給等事業計画に係る低炭素水素等については、引き続き改正前の要件 に該当する限り、法第二条第一項の要件に該当するものとみなす。」としているが、低炭素水素等の要件を改定した場合に、改定前に認定をうけた事業者に適用されないような文言は削除すべきである。この規定がある限り、グリーン水素などへの移行に向けたインセンティブなど一切働かなくなることになる。

参考

1.低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する基本的な方針(案)等に対する意見公募
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620124031&Mode=0

資源エネルギー庁:【案文】低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する基本的な方針(案)

資源エネルギー庁:【案文】経済産業大臣が定める年度(案)


2.脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律施行規則(案)等に対する意見公募
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620124028&Mode=0

資源エネルギー庁:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律施行規則(案

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