G7気候・エネルギー・環境大臣会合での石炭火力廃止合意をうけて
日本は1.5℃目標実現への貢献を明言し、石炭火力の廃止に踏み出すべき
2024年5月1日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵
2024年4月28日から30日までイタリアのトリノで開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合が閉幕し、コミュニケ(共同声明)がとりまとめられた。コミュニケでは、気候変動、生物多様性の損失、汚染という3つの世界的危機に立ち向かい、行動するための重要な10年であり、科学に基づくアプローチの重要性を確認した。
気候危機への対応としては、昨年のG7気候・エネルギー・環境大臣会合で、日本が石炭火力の廃止の期限をコミュニケに盛り込むことに強く反対して合意に至らず、広島サミットのコミュニケでも「1.5℃への道筋及び2035年までの電力セクターの完全又は大宗の脱炭素化」との記載に留まった。しかし、今回のコミュニケでは「2030年代前半、または各国のネット・ゼロの道筋に沿って気温上昇を1.5℃に抑えられるスケジュールで、エネルギー・システムにおける既存の排出削減対策がとられていない石炭火力発電を段階的に廃止する」とし、初めて2030年代前半との期限を付して既存の石炭火力の段階的廃止に踏み込み、石炭火力の時代を終えるという意思がG7諸国で確認されたと言える。ただし、2030年代前半では、科学に基づかず、遅すぎる。
日本は石炭火力の廃止年限を定めず、水素・アンモニア混焼やCCSを掲げて2050年までも利用を継続する方針を邁進している。本会合後に齊藤経済産業大臣は、「エネルギーをめぐる状況は各国で千差万別なので、道筋は多様であることを認めながら共通のゴールを目指していく。日本として今回、合意した内容に沿って排出削減に着実に取り組んでいきたい」と述べたと伝えられる(NHK)。なおも、これまでの方針を継続する意向が窺われるが、2030年の削減目標(NDC)の引上げとともに、以下の点から、石炭火力温存の政策を速やかに転換し、本コミュニケの本旨に沿って石炭火力の廃止に踏み出すことが、国際的信頼のためにも急務である。
第1に、コミュニケにいう「排出削減対策のとられていない(Unabated)石炭火力発電所」とは、「CCSによりCO2を90%程度回収するような対策がとられていないもの」(IPCC第6次評価報告書)をいう。IEAも同旨である。実際のところ、CCSのCO2回収率は60~70%に過ぎず、日本国内の既存の石炭火力においてCO2回収が可能となる時期も不明である。ライフサイクル全体でこの要件を満たさないアンモニア混焼やバイオマスはもとより、「排出削減対策がとられた(abated)」とはされていない。求められているのはCO2の実質的な排出削減であるからである。G7合意の解釈として日本独自の解釈を国内的に強弁することは、日本の気候変動対策を誤るだけでなく、国際的信用を損ない、経済全体への悪影響も懸念される。
第2に、各国の排出削減の道筋にも言及されてはいるが、1.5℃目標の実現が大前提であることである。今回のコミュニケは、1.5℃目標達成のために、2030年までに温室効果ガスを2019年比43%削減、2035年までに60%削減することの緊急の必要性を再確認したうえで、既存の石炭火力からの排出量だけで1.5℃の限界を超えてしまうと述べて強い懸念を示し、年限を示して段階的廃止の必要性を確認したものである。これは、1.5℃目標の実現のための残余のカーボンバジェットが急速に減少していることへの懸念(グラスゴー気候合意)を踏まえたものである。本年4月9日、欧州人権裁判所は、各国に、その残余のカーボンバジェットを算定し、これを踏まえて国の排出削減目標を策定、実現すべきことを明らかにした。日本の石炭火力でのアンモニア混焼やCCS依存方針は残余のカーボンバジェットを踏まえた1.5℃目標と全く整合しない。無きに等しいカーボンプライシングも、政策措置の欠如を象徴している。
日本は、第六次エネルギー基本計画においては、石炭を「重要なエネルギー」と位置づけ、2030年に電源構成のうち19%を占める見通しをたてている。次期エネルギー基本計画では、今回、日本も参加したG7合意を受け、科学と国際社会の常識に基づき、これまでのエネルギー政策を抜本的に見直し、2030年にも石炭火力の段階的廃止に踏み込むことが、まず、求められている。今国会で審議されている「水素社会推進法案」で石炭火力のアンモニア混焼用のアンモニアの価格差補填の支援策などが講じられようとしているが、これらは論外である。
今回のG7気候・エネルギー・環境大臣会合の合意を受け、「脱石炭」の政治的な決断を求める。
以上
参考
Climate, Energy and Environment Ministers’ Meeting Communiqué
https://www.g7italy.it/wp-content/uploads/G7-Climate-Energy-Environment-Ministerial-Communique_Final.pdf
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