エネルギー資源価格の高騰や気候変動への対策として政府が検討中の原発の運転期間延長や新増設・立て替えなどの原子力政策について、よくある疑問にお答えします。
※本記事は「気候ネットワーク通信148号(2023年1月号)」からの転載です。
政府はGX(グリーントランスフォーメーション)の中心に、発電時にCO₂を排出しない原発の活用を据えようとしているが、気候変動対策のためには原発を使い続けるしかないのか?
原発に頼らなくてもCO2排出量は削減可能であり、原発を気候変動対策とすべきではない。福島原発事故後に全国の原発が停止した後も日本のCO2排出量はほとんど変わらず、2014年以降は減少に転じている。これは再生可能エネルギーの普及と省エネが進んだことによるもので、多くの原発が停止していてもCO2排出量は減り続けている。
逆に、日本で原発が増加してきた過去50年を見ると、CO2排出量は増え続けてきた。原発の存在が、エネルギー大量消費とCO2排出量増加を促してきたという側面もある。さらに、原発は需要に合わせた出力調整ができないため、調整力として、またトラブル等による停止時のバックアップとして火力発電を必要とし、脱炭素の選択肢とはならない。
気候変動対策として優先すべきは、太陽光や風力といった再エネの導入拡大である。環境省による調査では、日本には現在の電力消費量の2倍もの再エネ発電ポテンシャルがある。再エネはコスト低下によってこの10年で導入が進み、日本でも再エネの電力のみで需要を賄える地域や時間帯が増えている。しかし送配電システムが原発の電力優先で再エネ電力の出力が制限されるなど、原発維持の政策が再エネ導入拡大の足かせとなっている。
また、地域が抱える原発事故のリスク、原発作業員やウラン採掘労働者が強いられる被ばく、増え続ける「核のゴミ」など、原発が抱える様々な問題にも目を向ける必要がある。犠牲となる人々や地域を生み出す原発は、弱い立場の人々や将来世代の暮らしを守る気候正義の観点からも受け入れることができない。
政府は2030年の電源構成の20~22%を原子力で賄うとしているが(第6次エネルギー基本計画)、それは本当に実現可能なのか。
電源構成の20~22%を原子力とする場合、1基あたりの設備利用率にもよるが26~33 基の原子炉を稼働させる必要がある。一方、日本では福島原発事故以降に多くの原子炉が停止し、2022年11月現在、稼働中の原子炉は7基に留まる。他に26基が定期検査中、3基が建設中で、そのほぼ全てが再稼働しなければ政府目標は達成されない。仮に再稼働が進んでも、多くの原発が老朽化しているため高い設備利用率の達成は難しく、トラブルによる停止や事故のリスクが高い。現在、原発の運転期間は原則 40年、原子力規制委員会が許可すれば最長60年までとされている。既存炉の多くは2050年までに運転期間60年を越えるため、将来も20~23%の原子力比率を保つのであれば、今から25~30 基程度の新設が必要となる。
福島原発事故の被害がまだ続くなか、住民が原発の新増設を受け入れ、地震等のリスクも低い地域を新たに見つけることは難しい。そこで政府は、停止中の原発の再稼働を進めると同時に、最長60年とする原発の運転期間について、審査などで停止している期間を除外して延長する方針を示している。しかし、原子炉圧力容器が中性子の照射でもろくなる「脆化」をはじめ、経年劣化によって原子炉の安全上のリスクは増大する。老朽化した原子炉は最新の原子炉と比べて設計が古いこともリスクとなる。原発比率20~22%は安全性や地元との合意を無視しない限り困難な目標であり、政府の見通しは甘いと言わざるを得ない。
化石燃料価格の高騰によって、電力料金が上昇している。原発の再稼働や運転期間の延長が認められれば電力料金は安くなるのか?
再エネのコストが急速に下がり続けている一方で、原発は安全基準の見直しにより、運転や新規建設のコストも上がり続けている。原発による発電比率が7割と高いフランスでも、原発の安全対策や新型原子炉の開発費上昇によって電気代が上昇している。世界のどこかで原発事故が起きれば安全基準がさらに強化され、さらにコストが上がることになる。
2021年に経産省が公表した電源別発電コストの試算では、2030年時点で原発のコストは1kW/hあたり11.7円以上となり、同8.2〜11.8円の事業用太陽光を上回った。さらに、この試算には原発事故の賠償費用、核燃料の再処理費用、廃炉で生じる廃棄物処理費用が十分に盛り込まれていない。国から原発立地自治体に支払われる交付金などの「国民負担」も含めれば、原発のコストは大きく膨らむことになる。
福島原発事故に伴う被災者への賠償や廃炉作業などの事故対応には、これまでに12兆円以上がかかっている。賠償額は今後さらに拡大する可能性があり、作業の見通しが立たない廃炉の費用も大きく膨らむ可能性が高い。賠償金は東電が支払うが、国がいったん肩代わりする。その一部は託送料金(送電線の利用料)への上乗せで回収されるため、東電以外の電力会社と契約する消費者も含め、国民が負担している。原発事故により、環境の破壊、健康被害、故郷の喪失など、貨幣換算しにくい被害が生じていることも忘れてはならない。
さらに、電力料金は大手電力会社の采配で設定され、原発が動かないことを理由に価格を吊り上げていく” 価格操作 ” が可能である。原発が動けば電力料金が安くなるというプロパガンダに惑わされず、直接的な電気料金が下がったとしても、交付金や事故対応などの社会的コストは上がるということを市民が理解する必要がある。
政府が原発新設の候補として示した次世代革新炉は、気候変動対策やエネルギー安定供給の切り札として期待できるか?
経産省が次世代革新炉として挙げるのは、革新軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合炉、小型軽水炉の5種類。その中で「最優先で取り組む」と本命視される革新軽水炉は、国内外で運転中の原発に安全対策を加えたもので、「革新」と呼べるほど新しいものではない。中国や英国、フランスで建設が行われているが、工期の大幅な遅れやコスト増を繰り返している。高速炉は燃料冷却材のナトリウムの扱いが難しく、日本ではトラブル続きだった高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決まった。高温ガス炉、核融合炉も開発が長年行われてきたが、技術が未確立で商用化の見通しが立たない。小型軽水炉は世界中で開発が行われているが、炉型や規模がばらばらで過当競争となっており、採算性が疑問視される。小型なので現在の原発と同じ発電量を確保するには多数建設する必要があるが、新たな候補地が見つかる保証はない。出力が小さいため運転の採算性にも疑問があり、電力会社にとってメリットは少ない。
気候変動対策の観点では次世代革新炉はいずれも、1.5℃目標達成のために必要とされる2030年までの取組に間に合わない。革新軽水炉の商用運転開始は2030年代が目標であり、高速炉と高温ガス炉は30年代、小型軽水炉は40年代に実証炉の運転を目指すとしている。核融合炉は実証炉の運転時期も示せていない。
電力の需給ひっ迫が心配されているにも関わらず、日本ではなぜ多くの原発が運転できないままなのか?
原子力規制委員会による安全審査に合格できていないことや、地元自治体や周辺住民の同意を得られていないことが理由である。
福島原発事故をきっかけに、原発を規制する原子力安全・保安院が、原発を推進する資源エネルギー庁と同じ経産省の下にあり、規制機関の役割を果たせていなかったことが問題視された。そこで2012年に環境省の外局として原子力規制委員会が設置され、独立性の高い中立な立場から原子力の安全規制を担うことになった。2013年には福島原発事故の教訓を活かし、地震や津波、テロ攻撃への対策を強化した新規制基準が設けられた。安全対策工事を行い、新規制基準に基づく審査に合格しない限り、原発の運転はできない。
安全審査に合格した原発でもトラブルによる停止や再稼働の遅れが相次いでいる。再稼働には地元自治体の同意も必要だが、安全審査における電力会社のずさんな対応、侵入検出装置故障の放置やIDカードの不正使用といった不祥事が次々と明らかとなり、信頼の回復は進んでいない。
住民らが原発の建設・運転の差し止めや廃炉を求める訴訟も相次いでいる。福島原発事故以降、事故対策の不備や、原告住民らの生命や健康といった人格権が侵害される恐れを理由として、関西電力の大飯原発3・4号機、高浜原発3・4号機、四国電力の伊方原発3号機、日本原子力発電の東海第二原発、北海道電力の泊原発1・2・3号機に対し運転差し止めが命じられた。
2022年の3月や6月に起きた電力需給ひっ迫は、原発がもっと動いていれば起きなかったという意見を聞いたが本当か?
原発再稼働が進んでいないことと、今回の電力逼迫について、直接的な関連はない。昨年3月の電力逼迫は、直前に起きた福島沖地震で火力発電所が故障していたときに、季節外れの寒波が重なって電力消費が急増したことで発生した。6月も故障した火力発電所の修理が終わっておらず、季節外れの猛暑による電力消費急増によって電力逼迫が起きた。もともと、3月や6月は真冬や真夏のピークを避けて点検に入る発電所が多く、すぐに動かせる発電所が限られていたという事情もある。
原発は大規模な電源なので、地震などで故障すると一度に大きな電力が失われ、電力需給逼迫のリスクが大きい。多数の原発が稼働していた2000年代には、地震による原発停止で電力需給不安が生じている。地震などの災害に強いのは広い地域に分散した再エネ電力のネットワークであるが、これまで原発の再稼働に固執し、再エネなど必要な代替電源の整備に十分取り組んでこなかったことも電力逼迫の遠因だと言える。
放射性廃棄物の処分に解決の見込みはあるのか?
放射性廃棄物の管理は非常に難しく、最終的な処分方法は見つかっていない。
原発を稼働させると、様々な放射性廃棄物、いわゆる「核のゴミ」が発生する。放射性廃棄物には使用済み核燃料のほか、作業員が使った防護服や廃炉時の建物の残骸なども含まれる。日本では使用済み核燃料をフランスに送って「再処理」し、取り出したプルトニウムとウランを再び燃料として使用する「プルサーマル」を行っているが、その過程で発生する廃液は人が近づくと数十秒で死んでしまうほど放射能レベルが高い。放射性廃棄物は放射能レベルが下がるまで、安全な場所で長期間(最も高レベルの放射性廃棄物は10万年も)保管しなければならない。原発を保有する各国は、地下深くに埋める処分方法を計画しているが、最終処分場の建設を始めたのはフィンランドのみで、処分が始まった国はまだない。スウェーデンで建設場所が決まった他は、どの国も処分場所探しに難航している。
日本も地下300mより深い場所での埋め立て処分を計画しているが、地震や火山が多いため適地を探すのは難しい。原子力発電環境整備機構(NUMO)が処分場の候補地となり得る地域を示した「科学的特性マップ」を2017年に公表して調査を受け入れる自治体を募集し、これまでに北海道の2自治体が調査受け入れを表明した。しかし3段階全ての調査の終了には20年かかるとされており、着工できたとしても完成には10年程度、全ての放射性廃棄物を埋め終わるまでには100年以上かかる。
現状では全国の原発の敷地内で放射性廃棄物が保管され、一部は建設中の六ケ所村再処理工場に搬入されている。使用済み核燃料は放射線と熱を長期間出し続けるため、原発敷地内のプールで冷却を続けている。だが全国の原発の使用済み核燃料プールは既に満杯に近い状態で、再稼働すれば数年で空き容量が埋まってしまう。原発はおよそ1年に一度の定期検査の際に核燃料を使用済み核燃料プールに移し、核燃料を交換する必要があるため、プールが満杯になれば運転できなくなる。使用済み核燃料の受け入れ先となるはずの六ケ所村再処理工場はトラブル続きで完成が20年以上遅れており、その貯蔵プールも既に97%以上が埋まっている。放射性廃棄物の処分先が存在しない以上、原発を運転し続ける計画は現実的ではない。
また、日本が再処理で取り出しているプルトニウムは核兵器の材料でもある。日本は核兵器保有国以外で唯一、再処理を認められており、約 46トンのプルトニウム(核兵器数千発分に相当)を保有している。プルサーマルで消費するプルトニウムの量は限られており、日本のプルトニウム大量保有は核不拡散の観点からも、長らく国際的な懸念の的となっている。