政府はGX基本方針、GX推進法案を閣議決定し、「ゼロエミッション火力」の燃料として水素・アンモニア燃料を強く推進しています。そうした水素・アンモニア燃料について、疑問点や問題点をQ&A形式でわかりやすくまとめました。
※本記事はニュースレター「気候ネットワーク通信149号(2023年3月号)」からの転載です。

Q:燃やしてもCO₂を排出しない水素・アンモニアは火力発電の燃料に使えば気候変動対策になる?

A:現状の政策では、気候変動対策とは程遠い

 水素・アンモニア燃料は炭素を含まないため、燃焼時にCO2が排出されることはありません。しかし、現在は水素・アンモニアの製造は化石燃料(石炭、石油、天然ガス)を原料としているため、製造時に大量のCO2を排出します。日本の政策では技術開発・普及の観点から水素・アンモニアの製造過程は問わないとしているので、グレー水素・グレーアンモニアも推進対象とされています(図表 1)。
 そして、現在構想されている水素・アンモニアの供給体制は東南アジア・オーストラリア・中東など海外で化石燃料から製造されるもので、その運搬時にも膨大なエネルギーが必要です。にもかかわらず、現状の政策では、日本国内で水素・アンモニアを利用しても海外での製造・運搬時のCO2排出はカウントされないことになっています。これではCO2排出量を海外へ押し付けているだけで全く意味がありません。水素・アンモニアは製造・運搬時に大量のCO2を排出するので、気候変動対策にはなりません。また、エネルギー自給率やエネルギー安全保障にも寄与しません。

図表1 水素・アンモニアの製造方法で色分けした分類と特徴(気候ネットワーク作成)

Q:製造時にもCO₂を出さないグリーン水素・グリーンアンモニアであれば、火力発電の燃料として期待できる?

A:現時点では非常に高コスト、普及まで待つ意味はない

 再生可能エネルギー由来であるグリーン水素・グリーンアンモニアは現時点で非常に高価です。グリーンアンモニアに関しては2030年時点で石炭火力に20%混焼した場合、石炭の15倍の燃料費になると推計されています。さらに、商用レベルでのグリーン水素・グリーンアンモニアは需要に対応できる大規模な製造方法は確立できていません。
 グリーン水素は今後、再エネが安くなり続けるため、2030年までには日本を含む主要国で化石燃料起源の水素より安くなると見込まれています。しかし、再エネの電力を直接利用した方がより安価です。気候変動対策が待ったなしの状況において、省エネルギーや再エネの推進を後回しにして、グリーン水素・グリーンアンモニアのコスト低下やサプライチェーン整備を待つ意味があるのでしょうか。
 加えて、電力セクターにおける水素・アンモニア燃料の利用は有効なのか疑問です。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)によれば、水素は脱炭素化が難しく代替手段がない用途を対象とすることが望ましいと結論づけています。欧州ではグリーン水素を重視しつつ、鉄鋼分野等の脱炭素化といった限定的な用途を想定しています。一方、アンモニアの世界全体の消費量約2億トンのうち約8割は農業用肥料として使われています。今後、国内で石炭火力での混焼が進められた場合、石炭火力に20%混焼する場合で約2000万トン、専焼する場合で約 1 億トンが必要と試算されています。グリーン水素・グリーンアンモニアを電気エネルギーに変換することは非効率なので、電力セクターにおいて燃料利用することはメリットがありません。

Q:グレー水素・グレーアンモニアでも火力発電で混焼・専焼すれば少しはCO₂削減効果が見込める?

A:削減効果は乏しく、コストは高く、実現していない

 アンモニアの製造過程は、水素と窒素を高温高圧化で触媒反応させるハーバー・ボッシュ法という工業的な製造が主流です。原料ならびに製造時のエネルギー源によって、1トンのアンモニアを製造する際に1.58トンのCO2が排出されると推計されています。政府目標では、2030 年に石炭火力へのアンモニア混焼率 20%(石炭80%)を目指すとしています。石炭火力にアンモニアを20%混焼したとしても製造段階でのCO2排出を含めると元々の石炭火力の排出量からわずか4%の削減にしかなりません(図表 2)。

図表2 アンモニア混焼時の CO2 排出削減効果(100 万 kW 石炭火力発電の場合) 出典:気候ネットワーク

 水素は褐炭から生産しCCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)でのCO2回収を前提にすれば、直接石炭を燃焼した際のCO2排出量と比べて65%ほどと少なくなります。しかし、CCSなしでは石炭をそのまま使う場合と比べてCO2排出量は224%と、逆に排出が大きく増える可能性があります。現在CCS実用化の見通しは立っていません。
 さらに、水素・アンモニアはグレーであっても非常に高価です。英国シンクタンクのTransition Zeroが発表したレポートでは、2030年時点でグレーアンモニアの20%混焼の燃料費は石炭の2倍になります。原料となる化石燃料価格より下がることはないので、他のエネルギーに比べて価格競争力は劣ります。
 現状では、アンモニア混焼は愛知県の碧南火力一か所での実証試験にとどまり、2021年実験開始時の混焼率は燃料比でわずか0.02%です。政府は2030年までに石炭火力へのアンモニア混焼率20%を目指し、将来的に専焼化するとしていますが、先行きは不透明な状況です。

Q:このまま水素・アンモニア政策を推進するとどうなる?

A:火力発電を温存・延命させてしまう

 現状の水素・アンモニア政策は火力発電への混焼・専焼を目指していますが、CO2削減量は乏しく、化石燃料より高コストで再生可能エネルギーに対する価格競争力は将来も見込めません。そればかりか実用化・商用化は先行き不透明であり、時間軸の観点からも気候変動対策としては程遠い状況です。結果として、水素・アンモニア政策推進は火力発電を温存・延命させてしまいます。
 こうした状況下でGX基本方針、GX推進法案が閣議決定されました。今後10年間で150兆円超の投資によって「次世代革新炉」計画や原発稼働期間の延長、火力発電における水素・アンモニアの活用、CCSの事業化といった、不確実な技術の開発、導入を目指すことを中心とした取組となっています。その中でも水素・アンモニア燃料関係の開発は投資先の柱となっていて、混焼のためのインフラ整備を公的資金で支援しようとしています。
 水素・アンモニア燃料による発電は切り札でもなければ、最善策でもありません。火力発電の温存・延命を促し、将来に大きなツケを残すことになりかねません。脱石炭を目指す国際的潮流に逆行し、電力セクターにおける2035年までの脱炭素化といったG7での合意にも反するものです。そのような技術ではなく、省エネルギーや再生可能エネルギーの普及に注力し、より持続可能で公正な脱炭素社会への移行を目指すべきです。

▼参考資料

  • Japan Beyond Coal(2022)「水素・アンモニア燃料─解決策にならない選択肢」
  • TransitionZero(2022)「日本の石炭新発電技術 日本の電力部門の脱炭素化における 石炭新発電技術の役割」
  • 気候ネットワーク(2021)「水素・アンモニア発電の課題:化石燃料採掘を拡大させ、石炭・LNG 火力を温存させる選択肢」
  • 気候ネットワーク(2023)「燃料アンモニアに関するポジションペーパー『ゼロエミッション火力への挑戦』が石炭火力を延命し気候変動を加速する」