計画全体について

 気候変動問題はより深刻化し、世界は2℃ではなく1.5℃の上昇に抑えるよう追求することが確認されている(COP26合意)。IPCC第6次評価報告書によれば、1.5℃目標の達成まで、残された選択肢はわずかであることが明らかになっている。

 今年開催のG7広島サミットでは、昨年サミットで合意した「2035年までに電力部門の全部または大宗を脱炭素化する」ことが踏襲され、排出削減対策の講じられていない化石燃料のフェーズアウトの加速について言及された。

 大量にCO2を排出するLNG火力発電所を今後建設することは、激甚化する気候変動の現状や国際的な合意内容を考えれば、許容されるべきものではない。化石燃料を使うことそのものが問題であり、脱炭素社会への速やかな移行が求められる中、エネルギー事業者は脱炭素型の電源を追求すべきである。

「九電グループカーボンニュートラルビジョン2050」との関係について

 貴社が策定した「九電グループカーボンニュートラルビジョン2050」では、2030年には国内事業の温室効果ガスの65%を削減(2013年度比)し、カーボンマイナスを2050年よりできるだけ早期に実現するとしている。

 しかしながら、この目標があるにも関わらず、現時点でも大量の温室効果ガス排出源である6か所の火力発電所について、貴社の具体的行動計画を見ても、「非効率石炭火力のフェードアウトに向けた対応」として水素・アンモニアの混焼が記されているのみで、実質的な削減計画は示されておらず、さらにLNG火力については混焼などによる高効率化が前提となっているように見受けられるため、目標達成の実効性には懸念を抱かざるを得ない。

 運転開始後約40年が経過したLNG火力のリプレースを行う本事業について、「事業環境に応じてカーボンフリー燃料を導入する等、二酸化炭素排出削減の取組みや、政府が地球温暖化対策の目指す方向として掲げる2050年カーボンニュートラルにも合致する」としているが、2030年/2031年に運転を開始し、2050年にカーボンニュートラルを達成するための計画がまったく示されていない。カーボンフリー燃料を導入する計画があると主張するのであれば、その内容および実現に向けたスケジュールも示すべきである。

 現在公開されている情報だけでは、本リプレース計画が、国際的合意である1.5℃目標の実現、2050年実質排出ゼロ、さらに政府目標との整合が図られていると評価することはできない。本計画を中止することを求める。

複数案の検討が不十分

 本計画は、老朽化したガス火力発電所のリプレースであるが、新たに建設しなければ、排出量は純減となり、大きな削減につながることは言うまでもない。そのため、事業計画の複数案の検討においては、煙突の高さのみを比較するだけでは複数案の検討としては、化石燃料からの脱却が急務とされている状況下では不十分である。効率化を図るとしても大量のCO2や大気汚染物質を排出する火力発電所へのリプレースが妥当であるか、再生可能エネルギーへの転換も含めて検討をするべきところ、まったく行われていないことは問題である。 環境アセスメントでは、重大な環境影響の回避・低減をはかるために複数案を検討するべきであり、 環境省も、過去の石炭火力発電所環境アセスの計画段階配慮書に対する意見で、そのような趣旨の指摘をしている。とりわけ、脱炭素社会の実現が国際的に要請されている状況では、事業を実施しない案についても複数案として設定するべきである。 また環境影響評価法は、配慮書段階で複数案を設定することが原則であるとしており、仮に複数案を設定しない場合には、合理的な理由を示すことが求められている。しかし、本配慮書で示されている理由は、事業者の想定した案しか検討するつもりがないかのように受け取れる。これは配慮書の趣旨を踏まえているとはいえない。ゼロオプションも含めて、複数案として示すべきである。

 また、電力の安定供給という点を見たとき、今年の上半期には再生可能エネルギー発電設備に対する出力制御(出力抑制)が急増したことなどを踏まえれば、出力制御実施方法の見直しと出力制御を減らすための取り組みを早急に進めるべきである。さらに、今後も世界情勢の変化によりLNGを含めた化石燃料の価格が大幅に変動する可能性や、カーボンプライシング導入のことも鑑みたとき、電力の供給価格も大きな影響を受けると予想される。日本のエネルギーの安定供給、安全保障面から見ても、新設のLNG火力発電には不安要素が多い。

 G7広島サミットでも再生可能エネルギーへの移行が強く打ち出されたことも踏まえ、LNG火力のリプレースではなく、再生可能エネルギーの活用に重点を置いた戦略を進めるべきである。

国際的な目標、国の削減目標と、本事業の整合性について

 本計画は、大型ガス火力発電所のリプレース計画であり、大量のCO2を排出することから、気候変動対策へ長期かつ大きな影響をもたらす事業である。

 今年、日本が議長として開催したG7広島サミットでは、昨年サミットで合意した「2035年までに電力部門の全部または大宗を脱炭素化する」ことが踏襲された。

 また、IEAが2021年5月に発表した「Net Zero by 2050」では、1.5℃の抑制に関するシナリオとして天然ガスについて「2030年までに発電量をピークとし、2040年までに90%低下させる」ことが示されている。先進国は脱石炭から、すでに脱化石燃料に向けて進んでいる。

 本計画は、これらの年限のかなり近い時期に運転開始を計画しており、高効率化といいつつLNG火力である以上、再生可能エネルギーに比べて膨大な温室効果ガスを排出する。本配慮書では、CO2の総排出量や「高効率のガスタービン・コンバインドサイクル発電設備」への更新によって既設の3、5号機の現状の運転状況に比べてどの程度削減効果があるのかすら示されておらず、情報開示と削減の検証が不十分であり、大規模排出者としての説明責任を果たしていない。2023年の今ですら気候変動が世界各地で激甚化しているのに、このように排出規模を明らかにしない発電所を今から建設し、2030年に運転開始させるべきではない。

カーボンフリー燃料について

 本計画では、「事業環境に応じてカーボンフリー燃料を導入する等、二酸化炭素排出削減の取組みや、政府が地球温暖化対策の目指す方向として掲げる2050年カーボンニュートラルにも合致する」としているが、カーボンフリー燃料とは何なのか、本配慮書は明らかにしていない。

 「九電グループカーボンニュートラルビジョン2050」では、水素混焼や、CCUSの導入について触れられているが、2030年・2031年に運転開始が予定される発電所において、どの時期から、どの程度、カーボンフリー燃料を導入しうるのかについて、一切記述がない。 本事業は、現時点で全く見込みが立っていない“カーボンフリー燃料の導入”といった構想を口実に、火力発電所の建て替えを正当化しようとしている。

 水素利用は、他に脱炭素化の手段がない分野に優先して使うべきとされており、用途を特定したうえで、必要量、供給体制等を検討する必要があるとされている。 今年のG7広島サミットにおいても、水素・アンモニアの利用は1.5℃の道筋やG7で合意された2035年までの電力部門の脱炭素化に整合する場合など多くの厳格な条件を付されており、脱炭素技術としてG7で承認されたわけではない。

 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、2022年1 月に公表した報告書の中で、水素利用のあり方について「水素は製造、輸送、変換に多大なエネルギーが必要で、水素の使用がエネルギー全体の需要を増大させる。したがって、水素が最も価値を発揮できる用途を特定する必要がある。無差別的な使用は、エネルギー転換を遅らせるとともに、発電部門の脱炭素化の努力も鈍らせる。」と指摘している。

 また、国際エネルギー機関(IEA)が発表した2050 年までの CO2排出ネットゼロに向けたロードマップ「Net Zero by 2050」において、技術別の累積排出削減量として、太陽光、風力、電動車による削減への貢献度が高いことが示されている。一方で、CCUSや水素は実証/試験段階かつ削減の貢献度が低いとされている。

 現状、供給されている水素のほとんどは、化石燃料から生成する「グレー水素」であり、大規模火力発電所の需要を賄える量のカーボンフリー水素を供給できる目途は立っていない。水素製造時の排出量まで含めて考慮されなければ、地球温暖化対策として有効に機能するとは限らないことから、カーボンフリー燃料については、どのように作られたのかまで含めたライフサイクル全体での削減効果について定量的に評価することができなければならない。こうしたサプライチェーンのことも踏まえれば、「カーボンフリー燃料の導入」を見越しているだけの本計画を進めることは、日本の2050年カーボンニュートラルにも合致するとは言い難く、国際的な見解からも賛同は得られないものである。

天然ガス火力インフラにおけるメタン漏れの可能性について

 天然ガス火力は、石炭火力と比べればCO2排出量が少なく、カーボンニュートラルへの「つなぎ役」として新設やリプレースが正当化されがちであるが、天然ガス火力のインフラからの温室効果ガス漏出が石炭火力に匹敵するとの研究結果が明らかになっている。天然ガスの主成分はメタンであり、CO2の28~34倍もの温室効果をもつ強力な温室効果ガスである。今年7月Environmental Research Letters誌に掲載された論文によると、天然ガスの井戸、生産施設、パイプラインなどから少量のメタンが漏出するだけでも石炭と同程度の排出量になる可能性がある。メタン漏れの量とそれが気候変動に及ぼす影響の大きさは世界的に軽視されており、メタン漏れを完全に予防することは困難である。

 メタン漏れの影響を考慮すれば、天然ガス火力の利用を地球温暖化対策になるとはみなすことはできない。また、世界各地ではガス採掘、パイプラインの設置などにおいて環境破壊や人権侵害が生じており、大きな問題となっている。

 2030年以降にLNG火力発電所の運転を開始させるなどもっての外であり、カーボンニュートラルまでのつなぎ役どころか、気候変動を悪化させている主要因であることを忘れてはならない。本計画を中止することを求める。

参考

(仮称)新小倉発電所6号機建設計画に係る計画段階環境配慮書の公表について

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