平成27年、御社による石炭火力発電所の建設計画の環境影響評価配慮書の手続きが始まり、その後石炭を燃料とする計画を中止とする判断をされたことは、英断だったと高く評価しています。
その後、世界各地の異常気象の多発が示す通り、地球温暖化による気候変動は予測を上回る勢いで悪化していることは明らかです。世界全体の排出をいかに2030年までに大幅に削減するかが将来の平均気温の上昇を1.5℃に抑えられるかの鍵だと言われ、2030年の排出削減目標をさらに引き上げることが各国に求められているところです。
燃料種がガスであることについて
気候変動問題が極めて深刻化し、地球の平均気温上昇を1.5℃に抑えるためのカーボンバジェット(炭素予算)をあとわずかで使いきってしまうと言われる中、石炭計画を中止した敷地で、あらためて天然ガス火力発電所の計画が示されたことは大変残念です。天然ガスは、石炭より単位あたりのCO₂排出が少ないとはいえ、大量のCO₂を排出する発電所であることにかわりありません。気候危機時代にとるべき対策とは逆行する計画です。すでに太陽光や風力などの発電コストが火力発電よりも安くなる中、電気は100%再エネを目指すべきであり、多くの人が再エネ電気を求める傾向は高まっていくでしょう。しかも、世界情勢に左右されるLNG価格は、今後も乱高下することが予想されるため、LNG火力で採算をとることが厳しいだけでなく、安定した価格で電力を供給することは難しいと考えられます。
基本的な発電設備が変更されずCO2排出は増加する
今回の方法書は、昨年に提示された準備書を撤回し、あらためて冷却方法を空冷式に切り替えた上での方法書ですが、設備容量自体は変えておらず、65万kWを3基(計195万kW)建設するものです。燃料はLNGのまま、設備利用率を90%と想定し、天然ガスを年間約175万トンも使用することを前提としており、CO₂の排出量は年間400万トン以上にのぼると推計されます。
また、本計画の営業運転開始は2029年から2030年度とされており、世界的に大幅なCO₂削減が実現しなければならないタイミングで大量のCO₂を排出することになります。既存の火力発電所(老朽化した石炭あるいはガス火力)の削減との相殺が確実ではない中、追加的にCO2排出をすることになる本計画は中止すべきです。
排出係数について
方法書には、2030年に向けた中期目標として、本計画が「電力業界全体の排出原単位の削減に貢献すると考えている」と書かれています。しかし、電力業界全体の2030年の原単位目標は0.25kg/kWhであり、②に記したように既存の火力発電所の大規模な廃止なくしてこの数字の達成は困難です。よって、石炭より高効率であるとはいえ、新たなガス火力を建設することは、貢献どころか原単位を増やすことになります。排出原単位の削減に貢献すると明記するのであれば、2030年の原単位目標0.25kg/kWhに貢献するとする具体的な根拠を示してください。
G7合意など国際合意との整合
今年2023年に開催されたG7広島サミットでは、「2035年までの完全又は大宗の電力部門の脱炭素化を図る」こと、「遅くとも2050年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」との文書(コミュニケ)が合意されました。2030年に稼働する予定の新規LNG火力発電所を建設することがこの合意に整合しているとは言えません。
2050年目標と水素混焼
方法書では、「2050年に向けた長期計画」として、「現時点で発電事業者として実装可能な対応として、本事業においては実証段階にある水素混焼が可能な最新のガスタービンを採用し、(中略)水素混焼に対応可能な発電設備とする計画である」としています。しかし、水素の「専焼」ではなく「混焼」では、ゼロエミッションになっていません。また、水素は、水を再エネ電気分解する「グリーン水素」でなければCO₂排出量を完全にゼロにすることはできません。グリーン水素の必要量の確保ができない場合、化石燃料由来のグレー水素を使用したのでは、水素を専焼させたとしてもライフサイクルを見たときにゼロエミッションにはなりません。グリーン水素の製造は、再エネの余剰電力が大量にあることが大前提となります。その点から考えても天然ガス火力を新設し、そこで燃焼するための水素を確保することは合理的ではありません。火力の新設ではなく、再エネへの大規模な転換に投資を集中することで、より持続可能なエネルギーの供給を目指すべきではないでしょうか。
参考
(仮称)千葉袖ケ浦天然ガス発電所建設計画 環境影響評価方法書(再手続版)の公表について
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