Kiko」は、温暖化問題の国際交渉の状況を伝えるための会期内、会場からの通信です。

会議場通信 Kiko バクーNo.1(2024年11月13日) 

COP29開幕 行動の加速と野心の強化に向けた交渉が始まる

11月11日、アゼルバイジャンの首都バクーにて、COP29が開幕した。各締約国による2030年以降の排出削減目標を記したNDC(国が決定する貢献)の提出を目前に控え、UNEPの排出ギャップ報告書は、今すぐ行動を加速させ、次のNDCの野心を大幅に向上させなければ、1.5℃はおろか2℃目標の達成も危ういと警告している。

議長国アゼルバイジャンはCOP29に際し、「Enhance ambition and enable action(野心を強化し、行動を可能にする)」を掲げてきた。野心の強化と行動の加速には、それを可能にする資金が欠かせない。途上国からの気候資金のニーズもますます高まっている。COP29では行動の加速と野心の強化に向けたいくつもの重要なテーマが話し合われるが、2025年以降の気候資金の目標(New Collective Quantified Goal; NCQG)が合意されるかどうかがCOP29の最大の焦点となる。

11日の開会式で、ババエフCOP29議長は「Enhance ambition and enable action」をあらためて強調し、公正で野心的な気候資金の合意を呼びかけた。COP初日は開会式に続き、会議のアジェンダが採択されることになっているが、アジェンダをめぐる意見の相違(アジェンダ・ファイト)により、会議は一時中断された。およそ8時間にわたる中断を経て、なんとか11日中にアジェンダの採択が行われ、同時にパリ協定6条に関する合意がなされた。多くの人が、昨年のCOP28で、会議初日に損失と損害基金の運用ルールが合意されたことを想起しただろう。COP29ではNCQGの議論の難航が予想されるなか、議長国アゼルバイジャンは会議初日に何かしらの形に残る成果をあげ、この後の交渉に弾みをつけたいというねらいがあったようだ。パリ協定6条に関する合意はなされたものの、ツバルの政府代表団からは、これから始まる2週間の会議での議論を経ずに、初日に合意するプロセスに疑問が投げかけられた。

アメリカ大統領選挙でのトランプ氏勝利により、アメリカの再びのパリ協定脱退が現実味を帯びるなか、気候資金へのアメリカの貢献も限定的となり、NCQGの合意に向けた議論がますます難しくなることが予想されている。しかし、世界の気温上昇を1.5℃に抑える可能性が急速に狭まっているなか、緊急に気候変動対策のスピードと規模を拡大させていく必要性に変わりはない。世界の市民社会からは、日本が本当の意味で(それは、今の日本のように化石燃料に依存し、化石燃料延命策にどんどん資金を使うということではない)、気候変動対策の議論をリードし、国際的な貢献度とプレゼンスを高めることに大きな期待が寄せられている。

翌12日からは「世界リーダーズサミット」が始まった。80カ国におよぶ世界のリーダーたちが、バクーの地でスピーチを行う予定になっており、英国のスターマー首相は12日のスピーチで「2035年までに温室効果ガス排出を81%削減する(1990年比)」という、野心的ともいえる新たな削減目標を発表した。このように、世界リーダーズサミットは各国のトップが世界に向けて気候変動対策への決意を表明し、取り組みをアピールする機会となるが、残念ながら日本の石破首相は参加しない。日本はこの2週間のバクーでの会議で、気候変動対策の議論をリードすることに対する期待にどう応えていくのかに注目が集まる。

日本のエネルギー政策に対して、世界の市民社会の目は

11日、COP会場内に世界各国の市民社会・NGOが集まり、現在の各国NDCの評価や次期NDCに対する市民社会の要望・期待とともに、政府のNDC策定プロセスにおける透明性や市民の意見を届ける機会の欠如、誤った解決策の推進や化石燃料からの脱却には不十分な排出削減計画といった課題を議論した。

多様なバックグラウンドを持つ参加者から多くの質問が寄せられたのは、日本のエネルギー政策であった。政策の現状と見通しに話が及ぶと、参加者からは驚きの声があがった。

参加者の多くは、日本は化石燃料からの脱却で世界をリードしていると想像していたが、日本の現在の電力構成に石炭が30%程度を占めていることや、2030年計画でも19%を占めること、しかもその不十分な目標すら達成できそうにないことを知って衝撃を受けたようだ。そして、GENESIS松島計画が進行中であることを知り、驚きと失望の声が上がった。世界の市民社会の驚きと失望は、日本政府への期待の裏返しでもある。KIKOは日本政府が世界の市民社会の声を受け止め、このギャップを縮めるべく、今こそ、1.5℃目標に整合する気候変動対策-脱化石燃料と再エネ拡大・省エネの徹底に転換することを期待したい。

目を引く数字だけでは不十分だ(NCQG)(eco抄訳11/1)

9年前、パリ協定は、気候変動対策の目標となる共通のビジョンとなった。昨年、ドバイのCOP28で実施された「グローバル・ストックテイク(GST)」は、パリ協定で示されたビジョンを実現するためのツールを世界に示した。今年、我々は新たな一歩を踏み出せるかどうかの崖っぷちに立っている。

「資金のCOP」と称されるCOP29。締約国がGSTの成果を実行し、パリ協定で定めた目標を実現するための公正かつ十分な気候資金目標に今回のCOPで合意し、その目標を達成していくことが気候変動対策の未来を大きく左右する。この意味で、今この瞬間が極めて重要であるにもかかわらず、締約国は今までのところ楽観的だ。NCQGに関しては、この3年間で計14回の会合が開催されたが、締約国が会合に参加するために燃焼させたジェット燃料に見合う実質的な成果は得られなかった。結果として、COP29に向けた草案は、さまざまな選択肢、ブラケット(カッコ書き)、矛盾する言動だらけで、バランスの悪い文章のままである。

我々は、何度も、世界が数億ドルではなく、数兆ドルレベルの資金を必要としていることを確かめてきた。NCQGは主に無償資金援助を通して、少なくとも1兆ドルの公的資金を提供する必要がある。税制改革や化石燃料産業への補助金のような有害な分配金の流れを変えることなどによって調達は可能だと、ECOは強調しておく。欠けているのは、政治的な意志だけだ。

野心には資金が要るし、志を高く保つには質の高い資金が要る。資金の質的な要素を問うことなく、単に金額を掲げても意味がない。直接的な被害にあい、周縁化されているコミュニティにより多くの資金を提供することに重点を置き、アクセスを簡略化し、向上させることを忘れてはならない。人権に基づくアプローチとジェンダー対応をNCQGの中心に据えるべきである。

追跡可能で透明性の高い資金目標とするためには、緩和、適応、損失と損害における明確な分野別目標の設定、さらに5年ごとの目標見直しのための年次レビューのメカニズムの構築が不可欠だ。特に損失と損害における分野別目標は、損失と損害基金にとって極めて重要だ。締約国の中には、従来の公的資金に加え、民間資金投資を含むマルチレイヤー目標の設定に熱心な国もあるが、公的資金が中心である気候資金の強みを危うくするだけでなく、民間資金を集めるために公的資金を動かすリスクをはらむ目眩しであることを強調したい。国際間の合意に対して責任を負っているのは民間部門ではなく、締約国なのである。

さらに、先進国が繰り返し自分たち以外の締約国にも資金拠出するように求めているが、パリ協定は新規資金目標を決定する義務と、途上国に実施手段を提供する義務を明確に先進国に課している。資金提供者の拡大の検討は、進行中の交渉を脱線させない形で、NCQGとは別のプロセスで行われなければならない。

公平で公正かつ十分な気候資金は、パリ協定の目標の成否を左右する多くの側面と切り離せない中心的な要素だ。NCQGなしではGSTの成果とパリ協定は内容のない形だけのもの、歴史的脚注に過ぎない装飾品となってしまう。

※ECOは、気候変動問題に取り組むNGOの国際ネットワークClimate Action NetworkがCOPなどで発行しているニュースレターです。

COP会場より

COP29が開催されているのは、アゼルバイジャンの首都であり、カスピ海に臨む港湾都市のバクー。アゼルバイジャンは長年にわたり石油資源にその経済を支えられており、UAEのドバイに続き、化石燃料資源の産出国でのCOP開催となった。バクーに今も残るバクー油田は、「ノーベル賞」のアルフレッド・ノーベルのノーベル一族が石油生産で巨万の富を得たことでも有名である。歌手、音楽家、長年アゼルバイジャンを大統領として主導した政治家であり現大統領の父のヘイダル・アリエフなど、歴史上の人物の銅像が街のあちこちで見られ、旧ソ連時代の名残も感じられる街並みも残る。

COP29会場はバクーにあるオリンピック・スタジアムである。昨年のCOP28の会場と比べると、とてもコンパクトで移動しやすいが、世界中から数万人の参加者が集まるといわれており、会場内はすでに多くの人でにぎわっている。温暖な地での会議では良い結果が出やすいというジンクスのあるCOPだが、寒空の下で開催されるCOP29でも良い結果を望みたいところだ。

肌寒い天気のなか、COP会場に向かう参加者たち

会場通信Kiko COP29 CMP19 CMA6 No.1

2024年11月13日 アゼルバイジャン共和国 バクー発行
執筆・編集:浅岡美恵、鈴木康子、榎原麻紀子、稲葉裕一、森山拓也、ギャッチ・エバン、中西航、田中十紀恵