Kiko」は、温暖化問題の国際交渉の状況を伝えるための会期内、会場からの通信です。

会議場通信 Kiko バクーNo.3(2024年11月18日) 

COP29 第1週目の動きをふりかえる

COP29第1週の交渉は、その多くの議題において、各国交渉団が意見を出し合い、本日から始まる閣僚級会合で検討する文書を整理していった。第1週の最終日となる16日の本会議では各議題のとりまとめが行われたが、17時開始予定が大幅に遅れ、21時を過ぎてようやく始まった。適応議題の一部、損失と損害、緩和作業計画は、今回の閣僚級会合での議論は見送られ、翌年6月の補助機関会合に先送りされること(ルール16)が結論となるなど、全体として進展のなさが目立った。

緩和作業計画の議論は先送りに?

共同ファシリテーターが提示した文書案にグローバル・ストックテイク(GST)の緩和の成果の統合が盛り込まれていることに対し、一部の締約国が作業計画の範囲を超えているとして反対。この文書案をもとに議論を進めることを受け入れず、今後の進め方の意見の一致が見られなかったため、翌年6月の補助機関会合に先送りされることとなった。結論後も、多くの国が遺憾を表明し、閣僚級会合での議論継続を求める発言をしており、最後まで意見がまとまらなかった。(18日の会議で2週目の議論は継続となった。)

公正な移行作業計画(JTWP)

公正な移行作業計画(JTWP)は今年のCMA決定に盛り込むべき内容の議論が進められた。先進国は緩和の役割やGSTの成果の取り入れを主張し、途上国は適応の重要性や実施ギャップの解消を主張した。共同議長が用意した第2案では締約国と非締約国ステークホルダーにJTWPの具体的な成果に関する提案の提出を呼びかける内容が含まれ、市民社会から大きな支持を得た。しかし、結論には至らず、閣僚級会合で議論が継続される。

2025年以降の気候資金目標(NCQG)

2025年以降の気候資金目標である新規合同数値目標(NCQG)も閣僚級会合での議論が続けられるが、合意に向け、各国政府はさまざまな国内事情を抱えるなかで大きな政治的判断を迫られることになるだろう。第1週目では文書の整理が行われたが、閣僚級会合に送られる文書は未だ20ページ超の分量で、目標金額やタイムフレーム等、多くのオプションやカッコ書きが残る。

第2週の交渉では気候資金の合意をまとめ上げることにより集中することになるのかもしれない。議長国アゼルバイジャンが、どう各国に働きかけ合意をまとめていくのか、手腕が問われる。そして、G7を含む先進国には、歴史的な排出責任を果たし、公正さや公平さを担保した気候資金目標の合意に向けた議論をリードしていくことを期待したい。

エネルギーの日 持続可能な未来を見据えたエネルギー転換に向けて

COP29では、各日にテーマが設定され、そのテーマに関連したイベントが数多く開催される。11月15日は「エネルギーの日」として、再生可能エネルギー、エネルギー転換、エネルギー効率向上など、気候目標達成に向けた取り組みを中心に、さまざまなイベントやアクションが行われた。

再エネ大量導入に向けて、具体的な「誓約」が公表される

その中で特に注目すべきは、議長国アゼルバイジャンの呼びかけによる「The COP29 Global Energy Storage and Grids Pledge(世界的なエネルギー貯蔵および電力網に関する誓約)」だ。
前回のCOP28で、議長国UAE及びEUの主導で「世界全体での再生可能エネルギー3倍・エネルギー効率改善率2倍」宣言がなされたことは記憶に新しいが、再エネ大量導入実現のカギとなるのが調整力である。「世界的なエネルギー貯蔵および電力網に関する誓約」は、同じく2030年までにエネルギー貯蔵の容量を2022年比6倍に相当する1兆5000億ワット時まで増やすこと、送電および配電ラインを2500万キロメートル以上追加または更新により、調整力の向上を求めている。エネルギー貯蔵というとリチウムイオン電池などがすぐに思い浮かぶが、需給調整に貢献するのは必ずしもこれらのバッテリー類だけではないため、今後は多様な形態のエネルギー貯蔵の議論が進むことを期待したい。

15日の発表時点から約30か国の支持がある。昨年のCOP28での再エネ拡大宣言に比べ、賛同国数が少ないとの指摘もあるが、同誓約の関係者によると、今後も支持を拡げていきたいとしている。また、単なる誓約への支持にとどまらず、電力網の整備は各国のNDCにも反映されるべきだとの期待も滲ませた。

途上国にとってはまずは電化が課題である場合もあるが、技術力のある国にとっては力の見せ所であろう。(諏訪亜紀)

※The COP29 Global Energy Storage and Grids Pledgeについてはこちら

本会議場前で「Global Days of Action for Climate Justice」アクションを実施

COP29の開幕からすでに1週間が経過し、交渉会議が進む傍らで、市民社会・NGOによるアクションも活発だ。11月15日と16日は「Global Days of Action for Climate Justice」。気候変動問題に対して同じ志を持つ市民社会・NGOなどが世界中で同時にアクションを行う日である。

16日にはCOP29の会場においても、本会議場の目の前で様々な市民社会・NGOの集団によるアクションが行われた。参加者たちはヒューマンチェーンを作り、本会議場前の空間を囲むパフォーマンスを行った。先進国から発展途上国に対する年間5兆ドルの野心的な資金援助などの資金コミットの要求が主要なメッセージであったのは「資金のCOP」ならではだ。それだけでなく、化石燃料の段階的廃止や、女性の権利、先住民の権利擁護などのバナーを持つ団体もあり、それぞれの団体が思い思いのメッセージを伝えた。一貫して先進国の資金コミットに焦点を当てつつ、文化的持続可能性から環境的持続可能性まで、幅広く多様なメッセージを含むアクションであった。本会議場周辺では声を発するパフォーマンスは禁止されていたため、参加者たちはハミングによって連帯を示した。

「Global Days of Action for Climate Justice」は、毎年COP期間中に行われている恒例行事であるが、COP会場における市民社会・NGOによるアクションに対する措置が、ここ数年は少し厳しい傾向にある。過去のCOPを振り返ると、2019年にスペイン・マドリードで行われたCOP25では、会場外でマーチが行われCOPに参加している関係者だけでなく地元の市民もアクションに加わり、約50万人が参加した。グラスゴーで行われたCOP26においても、合計15万人が参加したとされている。だが今回は、関係者のみ会場内の限られた場所でアクションの実施となった。主催者によると、今回のアクションの参加人数は600人超とされている。COP会場内のみのアクションとなるのはCOP27シャルム・エル・シェイク会議、そしてCOP28ドバイ会議に続いて3回目で、いずれもCOP開催に際して市民活動の制限に懸念が示されてきた。来年ブラジルで開催されるCOP30ベレン会議では、市民社会およびNGOの役割はどのように受け止められるのだろうか。

COP29 化石賞の第1号はG7へ (eco抄訳11/16)

COP29バクー会議において、最初の化石賞の受賞者となったのは、アメリカ、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、そして日本で構成されるG7諸国だ。G7は20年間にわたり、発展途上国に対して膨れ上がる気候資金の責任から逃れ続けていたことが、受賞理由となった。彼らは新規合同数目標(NCQG)の具体的な数値を持たずに、COP29に参加し、交渉の進行を妨げている。また、気候変動の影響がますます深刻化しているにもかかわらず、決定的な10年の半分を過ぎても、G7諸国は、1.5℃目標を達成し、恐竜のような絶滅を防ぐため必要な行動を阻んでいる。そして、日本はパリ協定の1.5度目標に整合させるため、2035年までに81%(2013年比)の排出削減をしなければならないのだ。

※受賞理由に関するCAN-Internationalの説明はこちら
※受賞理由の日本語訳はCAN-Japanウェブサイトにて公開

会場通信Kiko COP29 CMP19 CMA6 No.3

2024年11月15日 アゼルバイジャン共和国 バクー発行
執筆・編集:浅岡美恵、鈴木康子、榎原麻紀子、稲葉裕一、森山拓也、ギャッチ・エバン、中西航、田中十紀恵