気候ネットワークは、九州電力が進めている福岡県北九州市の新小倉ガス火力6号機建設の環境影響評価方法書(意見書の提出期限:4月15日)に対して、以下の意見を提出しました。

計画全体について

LNG火力発電所の建設に反対する

 気候変動問題はより深刻化し、昨年はリビアでの洪水により数万人の方が死亡、行方不明となり、ナイジェリアでは洪水や干ばつの影響で土地の収奪が発生し武装勢力によって多くの方が犠牲となった。日本でも高温で多くの方が熱中症で亡くなり、農水産物は甚大な被害を受け、夏場の子どもの部活動やウィンタースポーツも影響を受けている。2023年は史上最高気温を記録し、国連のグテーレス事務総長は「地球沸騰化の時代」と形容した。今年も世界の平均気温は史上最高を記録し続け、チリやコロンビア、オーストラリアで大規模な山火事が発生している。

 G7サミットでは、「2035年までに電力部門の全部または大宗を脱炭素化する」ことが合意されており、排出削減対策の講じられていない化石燃料のフェーズアウトの加速について言及された。COP28では、再生可能エネルギー3倍、エネルギー効率2倍とともに、エネルギーシステムにおける化石燃料からの脱却が合意された。

 激甚化する気候変動の現状やそれによる被害・損害や生態系への影響、国際的な合意内容を考えれば、大量にCO2を排出するLNG火力発電所の新設は早急に中止するべきである。化石燃料を使うことそのものが問題であり、脱炭素社会への速やかな移行が求められる中、エネルギー事業者は脱炭素型の電源を追求すべきである。

国際的な目標、国の削減目標と、本事業の整合性について

1.5℃目標の達成のためには2035年までの電力の脱炭素化が必要であり、本計画はそれら目標との整合性がない

 本計画は、大型ガス火力発電所のリプレース計画であり、大量のCO2を排出することから、気候変動対策へ長期かつ大きな影響をもたらす事業である。

 IEAが2021年5月に発表した「Net Zero by 2050」では、1.5℃の抑制に関するシナリオとして天然ガスについて「2030年までに発電量をピークとし、2040年までに90%低下させる」ことが示されている。G7が合意した電源の脱炭素化の目標年は、2035年である。

 本計画は、これらの年限のかなり近い2030年/2031年年度に運転開始を予定しており、高効率化といえどLNG火力である以上、再生可能エネルギーに比べて膨大な温室効果ガスを排出するにも関わらず、後述するように予測される排出量が示されていない。2024年の今ですら気候変動が世界各地で激甚化していることを踏まえ、先進国は脱石炭から、すでに脱化石燃料を進めている中、このように排出規模を明らかにしない発電所の新設を計画し、2027年度から建設、2030年以降に運転開始させるべきではない。

「九電グループカーボンニュートラルビジョン2050」との関係について

計画段階環境配慮書から引き続き削減計画が曖昧であり、実効性に重大な懸念がある

 貴社が策定した「九電グループカーボンニュートラルビジョン2050」では、2030年には国内事業の温室効果ガスの65%を削減(2013年度比)し、カーボンマイナスを2050年よりできるだけ早期に実現するとしている。

 しかしながら、この目標があるにも関わらず、現時点でも大量の温室効果ガス排出源である6か所の火力発電所について、貴社の具体的行動計画を見ても、火力発電の低炭素化として「非効率石炭火力のフェードアウトに向けた対応」や「水素1%・アンモニア20%の混焼に向けた検討・技術確立」が記されているのみで、詳細な削減計画は示されていない。さらにLNG火力については混焼などによる高効率化が前提となっているように見受けられるため、目標達成の実効性には懸念を抱かざるを得ない。

 本方法書では、予定されるCO2の総排出量すら示されておらず、情報開示と削減の検証が不十分であり、大規模排出者としての説明責任を果たしていない。第7.1-3表「配慮書について述べられた一般の意見及び事業者の見解」(325)において、1kWhあたりのCO2排出量を約3割程度削減できると回答されているが、残りの7割をどうするのか、削減計画はカーボンフリー燃料(水素)の活用を視野に検討と触れているのみで、具体的な削減策は示されていない。よって、計画段階環境配慮書に対してあげられた「削減計画の具体的な内容やスケジュールについても示すべき」との意見に対する回答とはなっていない。

 現在公開されている情報だけでは、本リプレース計画が、国際的合意である1.5℃目標の達成、2050年実質排出ゼロ、さらに政府目標との整合が図られていると評価することはできない。本計画を中止することを求める。

計画段階環境配慮事項について

温室効果ガス等の環境要素が配慮事項に含まれていない

 第4.1-1表「計画段階配慮事項の選定」において、温室効果ガスが配慮事項に含まれておらず、さらに第4.1-3表「計画段階配慮事項として選定しない理由」にも記載がない。

 個別の発電所が排出する温室効果ガスは、気候変動の加速、さらには人々の生活環境に対し多大な影響がある。本計画の実施による二酸化炭素等の温室効果ガス排出量やその影響は配慮事項に含まれるべきであり、二酸化炭素の排出係数すら示されていないことは問題である。本計画は二酸化炭素排出量を従来型に比べ3割程度削減すると見込んでいるものの、カーボンニュートラルに向けた大幅削減とは言い難い。LNG火力の排出係数は、GTCC(ガスタービン複合発電)で0.32~0.36kg-CO2/kWh程度とされているが、日本政府の2030年度の排出係数0.37kg-CO₂/kWhという目標をかろうじて満たしているといだけで、国際エネルギー機関(IEA)が2021年5月に「Net Zero by 2050」で示した1.5℃シナリオで求められている2030年の排出係数0.138kg-CO2/kWhと比べれば約2.5倍にもなる高排出であり、1.5℃目標に整合しないことは明らかである。本方法書には予測される排出係数が記載されていないが、排出削減をリプレースの理由とするのであれば、国際的に求められている基準を満たすべきであり、実施的な削減ができない場合には本計画を中止すべきである。

複数案の検討について

1.5℃目標に整合しているとはいえない計画にもかかわらず、事業の休廃止を含めた複数案が検討されていない

 本計画は、老朽化したガス火力発電所のリプレースであるが、新たに建設しなければ、排出量は純減となり、大きな削減につながることは言うまでもない。そのため、事業計画の複数案の検討においては、煙突の高さのみを比較するだけでは不十分である。効率化を図るとしても大量のCO2や大気汚染物質を排出する火力発電所へのリプレースが妥当であるか検討をするべきところ、まったく行われていないことは問題である。とりわけ、脱炭素社会の実現が国際的に要請されている状況では、LNG火力のリプレースではなく再生可能エネルギーへの転換も複数案として設定するべきである。2023年11月の環境大臣意見では、「二酸化炭素排出削減の取組の道筋が1.5℃目標と整合する形で描けない場合には、事業の休廃止も含め、あらゆる選択肢を勘案して検討すること」とされているが、本計画は環境大臣が言及する1.5℃目標と整合する具体的道筋が示されていない。休廃止も含めた選択肢を勘案すべきである。

カーボンフリー燃料について

計画段階環境配慮書から引き続き「カーボンフリー燃料」への道筋が曖昧であり、ライフサイクル全体で温室効果ガス排出が実質的に削減できるのか不明

 第7.1-3表「配慮書について述べられた一般の意見及び事業者の見解」において、「カーボンフリー燃料として水素を使用する」「発電分野における水素利用で需要拡大と供給コスト低減の推進役となる」との回答がなされた。現在、水素は海外で化石燃料から製造されたグレー水素が主流であり、それを船で大量に日本に運ぶという構想がなされている。発電時点の排出削減ばかりがフォーカスされているが、原料に化石燃料を使うことも含め、ライフサイクル全体での排出は実質的な削減にならない。「カーボンフリー燃料」を作るためにコストやエネルギーを膨大に使用し、しかも気候変動対策やエネルギー安全保障に寄与しないというのでは本末転倒である。本書には、「カーボンフリー燃料」とされる再生可能エネルギーから製造するグリーン水素の確保、利用についてはまったく言及されていないことから、先進国に求められている「2035年までの電力部門の脱炭素化」には貢献しない。

 しかも、水素利用は、他に脱炭素化の手段がない分野に優先して使うべきとされており、用途を特定したうえで、必要量、供給体制等を検討する必要があるとされている。 2023年のG7広島サミットにおいても、水素・アンモニアの利用は1.5℃の道筋やG7で合意された2035年までの電力部門の脱炭素化に整合する場合など多くの厳格な条件を付されており、脱炭素技術としてG7で承認されたわけではない。

 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、2022年1 月に公表した報告書の中で、水素利用のあり方について「水素は製造、輸送、変換に多大なエネルギーが必要で、水素の使用がエネルギー全体の需要を増大させる。したがって、水素が最も価値を発揮できる用途を特定する必要がある。無差別的な使用は、エネルギー転換を遅らせるとともに、発電部門の脱炭素化の努力も鈍らせる。」と指摘している。

 また、国際エネルギー機関(IEA)が発表した2050 年までの CO2排出ネットゼロに向けたロードマップ「Net Zero by 2050」において、技術別の累積排出削減量として、太陽光、風力、電動車による削減への貢献度が高いことが示されている。一方で、CCUSや水素は実証/試験段階かつ削減の貢献度が低いとされている。

 さらに2024年にNature Communicationsに掲載された論文によれば、水素混焼は主に変動する再生可能エネルギーの調整電源として使用されるため、混焼発電設備の稼働時間は太陽光・風力発電の出力が低下する限られた時間に限定され、世界の総発電電力量の1%程度に留まると記されている。特に九州エリアは再生可能エネルギーの出力抑制が問題視されており、配慮書に対する経済産業大臣の意見にも、状況を踏まえた取組みを検討するよう指摘されている。にもかかわらず、本方法書には、出力抑制への対応を踏まえてLNG火力の稼働率を抑えるといった対策は考慮されていない。

 本計画はカーボンフリー燃料の使用で水素の需要を拡大することを名分としているが、「水素の需要拡大」という手段を目的化して火力発電所の建て替えを正当化している。地球温暖化対策への効果はむしろマイナスであり、九州エリアの再エネ拡大を阻害することになりかねない本計画の見直しを求める。

天然ガス火力インフラにおけるメタン漏れの可能性について

ライフサイクルで天然ガスは石炭に匹敵するほどの温室効果ガスを排出している可能性がある

 天然ガス火力は、石炭火力と比べればCO2排出量が少ないことから、日本ではカーボンニュートラルへの「つなぎ役」として新設やリプレースが正当化されているが、天然ガス火力のインフラからの温室効果ガス漏出が石炭火力に匹敵するとの研究結果が明らかになっている。ガス供給および発電のための施設が建設されてしまえば、少なくとも数十年の稼働期間の温室効果ガスの排出が固定される。特に天然ガスの主成分はメタンであり、CO2の28~34倍もの温室効果をもつ強力な温室効果ガスである。昨年7月Environmental Research Letters誌に掲載された論文によると、天然ガスの坑井、プラント、輸送パイプラインなどから少量のメタンが漏出するだけでも石炭と同程度の排出量になる可能性がある。メタン漏れの量とそれが気候変動に及ぼす影響の大きさは世界的に軽視されており、メタン漏れを完全に予防することは困難である。

 ガス供給におけるメタン漏れの影響を考慮すれば、発電所での燃焼時に約3割程度の二酸化炭素排出が削減される程度にしかならない天然ガス火力の利用を地球温暖化対策になるとみなすことはできない。また、世界各地ではガス採掘、パイプラインの設置などにおいて環境破壊や人権侵害が生じており、大きな問題となっている。

 第7.1-3表「配慮書について述べられた一般の意見及び事業者の見解」において、天然ガスのインフラにおけるメタン漏れの影響の指摘に対し、貴社は「九州地域の発電設備の低・脱炭素化に貢献できる」と回答しているが、ライフサイクルの観点が抜けている。もはや低炭素化を図る段階ではなく、しかも九州地域限定で削減を目指すのでは真の脱炭素化につながらない。天然ガス火力を使い続ける以上、ライフサイクル全体、地球全体での温室効果ガス増加に寄与することになる。

 2030年以降にLNG火力発電所の運転を開始させるなどもっての外であり、カーボンニュートラルまでのつなぎ役どころか、気候変動を悪化させている主要因であることを忘れてはならない。本計画を中止することを求める。

「調整力としての火力」について

多大なコストをかけて新設をする必要があるのか疑問

 現在、国際的には、供給力は大規模火力から風力・太陽光を主とする再エネの導入拡大と柔軟性の組み合わせへとシフトしている。サウスオーストラリア州のように、これにより電力供給を量的に充足させ、安定を保てている事例も出てきている。日本でも安定供給力=大規模火力という認識を早急に改めるべきである。

 柔軟性としては、送配電網の拡大、ディマンドレスポンス、揚水、蓄電池など多様な手段があり、そちらの深化が急がれる。温室効果ガス排出を何十年にもわたってロックインさせ、燃料を輸入に依存し続ける火力発電を調整力と位置づけて新たに建設することは社会全体の便益にならない。再生可能エネルギーの拡大によりガス火力発電設備の利用率が低く抑えられれば、これは本来進めるべき方向だが、2030年以降に運転開始する本設備は座礁資産化のリスクを抱えている。さらに、今後も世界情勢の変化によりLNGを含めた化石燃料の価格が大幅に変動する可能性や、カーボンプライシング導入を考えれば、電力の供給価格も大きな影響を受けると予想される。日本のエネルギーの安定供給、安全保障面から見ても、新設のLNG火力発電には不安要素が多い。

 COP28でも再生可能エネルギーへの移行が強く打ち出されたことも踏まえ、LNG火力のリプレースではなく、再生可能エネルギーの活用に重点を置いた戦略を進めるべきである。

参考

(仮称)新小倉発電所6号機建設計画に係る環境影響評価方法書の公表について(意見書提出期限:4月15日)

お問い合わせ

本意見書についてのお問い合わせは以下よりお願いいたします。

特定非営利活動法人 気候ネットワーク

(京都事務所)〒604-8124 京都市中京区帯屋町574番地高倉ビル305号(→アクセス
(東京事務所)〒102-0093 東京都千代田区平河町2丁目12番2号藤森ビル6B(→アクセス
075-254-1011 075-254-1012 (ともに京都事務所) https://kikonet.org