今年は新たなエネルギー基本計画(略してエネ基)の策定に向けた議論が始まる予定です。気候ネットワーク通信155号(2024年3月号)では、エネ基に関するよくある疑問への答えを用意しました。ここでは、気候ネットワーク通信の誌面に掲載しきれなかった分も含め公開しています。

Q:そもそも、エネルギー基本計画って何?

 エネルギー基本計画とは、日本のエネルギー政策の基本方針のことです。エネ基は基本的視点や将来の電源構成などの中長期的な方向性を示し、これを土台として具体的なエネルギー政策が検討されるため、気候変動対策にも大きな影響を与えます。2002年に成立した「エネルギー政策基本法」に基づき、少なくとも3年毎に検討し、必要に応じて見直しすることになっています。2003年に最初のエネ基が閣議決定されて以降、5回にわたり計画の見直しが行われ、現在は2021年10月に閣議決定した「第6次エネルギー基本計画」が日本のエネルギー政策の土台となっています。2024年中には第7次エネ基の検討が開始される見込みです。

Q:現在のエネルギー基本計画はどんな内容?

 第6次エネ基の策定に先立ち、2020年10月、当時の菅首相は2050年カーボンニュートラルを宣言しました。さらに2021年4月には、2030年度において温室効果ガス(GHG)の46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明しました。これらを受け第6次エネ基では、2050年カーボンニュートラルを実現するため、再エネを主力電源として最優先の原則の下で最大限導入すること、水素やCCSの社会実装を進めること、原子力は安全性確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用すること等が記されました。また原子力については、福島第一原発事故から10年となることを受け、事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて取り組むことがエネルギー政策の原点であり、安全を最優先とすると述べ、可能な限り原発依存度を低減するとしました。
 第6次エネ基には、2030年の電源構成の目標値が示されています。主力電源化するとした再エネの比率は36 ~ 38% で、全電源のうちの最大を占めます。原子力は20~22%、天然ガスは20%、石炭は19%、水素・アンモニアは1%程度です(図)。

Q:第7次エネ基に求められることは何でしょうか?

 2025年に開催されるCOP30の9カ月前までに、各国は2035年のGHG排出削減目標を提出することになっています。したがって第7次エネ基では、日本の2035年の目標を示すことが期待されます。
 昨年ドバイで開催されたCOP28の成果文書は1.5℃目標の重要性を掲げ、GHGを2019年比で2030年までに43%削減、2035年までに60%削減するというIPCCの提言に沿った目標を取り入れました。さらに、化石燃料から「脱却」することや、2030年までに世界で再エネ設備容量を3 倍に、エネルギー効率改善を2 倍にすることも盛り込まれました。また、昨年日本が議長として開催したG7 広島サミットでは、「2035年までの完全又は大宗の電力部門の脱炭素化を図る」こと、「遅くとも2050年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」との文書が合意されました。
 第7次エネ基では、こうした国際合意や1.5℃目標に整合し、世界第5 位の排出国としての責任に見合ったGHG排出削減目標やそれを可能とする電源構成を示すことが必要です。

Q:2030年電源構成の再エネ比率は十分なの?

 第6次エネ基で示された2030年の電源構成の再エネ比率は36~38%で、2019年の実績である18%と比べると2倍の数値です。しかし、カーボンニュートラル実現に向けた目標としては不十分であり、日本が持つ再エネ導入のポテンシャルや諸外国の目標と比べると高い目標ではありません。
 環境省は2022年、日本の再エネの発電ポテンシャルは、最大で現在の電力供給量の約2倍だとする試算を示しました。建物の屋根への太陽光パネル設置、ソーラーシェアリング、洋上風力の拡大など、日本にはまだまだ再エネの発電を増やす余地があり、2050年には電力の100%近くを再エネで発電できるとのシナリオも示されています。
 国際エネルギー機関(IEA)は、世界の発電量に占める再エネの比率は、2050年に88%まで上昇すると予測しています。再エネのコストの大幅な低下も背景に、EUでは現在の再エネ比率が既に30%を越えており、オーストリアやデンマークでは70%以上に達しています。EUは2030年の再エネ比率の目標を65%以上としており、日本でもこれに準じた高い目標の設定が求められます。再エネ比率を引き上げるためには、送電網の強化による系統制約の克服や地域と共生する形での適地確保などにも取り組む必要があります。

Q:2030年の電源構成の原子力の比率は現状の3倍以上ですが、これから原発を増やすのでしょうか?

 第6次エネ基の通りに原子力の比率を20~22%にするには、26~33基の原子炉を稼働させる必要があります。福島原発事故以降、日本では多くの原子炉が定期検査やトラブルのため停止していますが、そのほぼ全てが再稼働しなければ達成できません。仮に再稼働が進んでも、多くの原発が老朽化しているため、トラブルで停止する可能性や事故のリスクがあります。さらに放射性廃棄物は最終処分場が見つからず、原発敷地内で保管されているため、多くの原発は再稼働から数年で放射性廃棄物の置き場がなくなり、運転できなくなります。
 政府は原発をGX(グリーントランスフォーメーション)の中心に位置づけ、これまで原則40年だった原発の運転期間を最長60年まで延長し、次世代革新炉の開発・建設に取り組む方針も示しました。しかし原発の運転期間延長は、設備の経年劣化などによる安全上のリスクを高めます。新規建設は時間がかかり、経済効率性が低く、住民の反発も予想されます(本誌148号「原発Q&A」に詳細)。第6次エネ基に示された電源の原子力比率は現実的とは言えません。高い原子力比率を掲げることで、再エネの導入が抑制されてしまう問題もあります。

Q:2030年もLNG や石炭など化石燃料による火力発電の比率が41%もあります。このままで日本の気候変動対策は大丈夫なの?

 第6次エネ基は、電源構成に占める火力発電比率をできる限り引き下げ、非効率な火力の削減を進めるとしていますが、2030年でも発電の41%を火力に頼る計画です。特に問題なのは、火力の中で最もCO2排出量が多く、先進国には2030年までに廃止が求められている石炭火力が19%を占めていることです。昨年、脱石炭連盟(PPCA)に米国が加盟したことで、主要先進7か国でPPCAに加盟せず、石炭火力の廃止年限を示していないのは日本だけとなりました。2024年2月現在、171基もの石炭火力発電が運転を続けています。
 政府や発電事業者は水素・アンモニアの混焼やCCSによって火力発電を「脱炭素化」できるとして、2030年の電源構成に1~ 2%を含めています。しかし当面は海外で化石燃料から水素やアンモニアを製造することが想定されており、製造・輸送時に大量のCO2が排出されるため、気候変動対策になりません。また、こうした火力の「脱炭素化技術」はまだ確立しておらず、実用化できても非常に高コストなことも問題です。
 政府は容量市場や長期脱炭素電源オークションといった仕組みで火力発電設備の温存や「脱炭素化」改修を支援し、GXでも約20兆円を火力の「脱炭素化」を含む研究開発や事業の支援に充てます。さらに2024年通常国会では、水素・アンモニアの化石燃料との価格差を補填する法案も議論されます。このように水素・アンモニア混焼やCCSを手厚く支援しても火力発電の延命にしかならず、気候変動対策として国際的にも認められていないため、無駄な投資になってしまう可能性が極めて高いと言えます。今必要なのは、政府や民間の限られた投資を、再エネや省エネといった実用化済みでコストも安い気候変動対策に集中させることです。

Q:エネ基はどうやって決まるの?私たちにできることは?

 エネ基はこれまで、経済産業省の諮問機関である基本政策分科会(2013年以前は名称が異なる)で審議されてきました。審議を行う委員のメンバー構成を決める権限は経産省にあり、化石燃料業界や原子力業界に近い委員が多数を占めます。第6次エネ基を審議した2021年の基本政策分科会では、委員24 名のうち、経産省の方針に追随する立場の委員がほとんどです。審議の様子はインターネットで中継されましたが、国民が議論に参加する機会は案が固まった後の形式的なパブリックコメントと意見箱の設置のみであり、国民の意見を反映させる意図は見られませんでした。
 過去には、民意をより反映させようとする試みもありました。民主党政権は2012年、福島原発事故を受けたエネルギー・環境政策の見直しを図るため、2030年の発電電力量における各電源の割合で分けた3 つのシナリオを提示し、パブリックコメントと全国での意見聴取会、さらに討論型世論調査を実施しました。同時期に各地で市民が主催し、政府職員も出席する自主公聴会も開催されました。こうした一連の国民的議論を経て、2030年代の原発ゼロを明記した「革新的エネルギー・環境戦略」が2012年9 月に閣議決定されました。しかし、2012年の国民的議論の結果は自民党の政権復帰後に無視され、第4 次(2014年)以降のエネ基では一言も触れられていません。
 気候変動・エネルギー政策の議論は、社会システム全体を考える議論であり、今後のエネ基の議論には幅広い国民の参加が求められます。今年はエネ基の議論に合わせ、多くのNGOや市民団体が、再エネの導入加速や国民の議論参加を求めるキャンペーンや情報発信を行います。気候ネットワークも参加する「ワタシのミライ」キャンペーンでは現在、再エネを増やす抜本的な気候変動対策を政府に求める署名を行っています。こうした動きをフォローし、国全体での議論を盛り上げていきましょう。