Kiko」は、温暖化問題の国際交渉の状況を伝えるための会期内、会場からの通信です。

会議場通信 Kiko ドバイNo.4(2023年12月12日- ドバイ時間6時) 

交渉会議も大詰め。COP28合意に向けた論点は何か

COP終盤、多くの交渉会議がオブザーバーには非公開となり、各議題の決定文書の議長案の提示を待っている。ここでCOP28での合意に向け、残された論点をいくつか紹介したい。

化石燃料の廃止がどのように盛り込まれるか

化石燃料の廃止について、グローバルストックテイク(GST)の決定文書にどのような文言が盛り込まれるかが最大の焦点の一つとなっている。10日の草案では、5つのオプションが提示され、「最良の利用可能な科学に基づいた化石燃料の段階的廃止」という強い文言のオプションもあった。さらに100カ国以上が化石燃料の廃止に関する文言を合意文書に入れることに賛同しており、踏み込んだ内容となることも期待された。しかし、11日に出された草案で提示された文言は10日の草案よりも後退した内容となった。

締約国に「排出削減対策のない石炭の段階的削減と、新規の排出削減対策のない石炭火力の許可を制限する」行動を「含むことも考えられる(could include)」と非常に弱められた文言となった。かつ、原子力やCCUSについても盛り込まれている。

これに対し、AOSIS(小島嶼国連合)は「化石燃料の段階的廃止への強いコミットメントのない文書に署名することはできない」と強く批判するなど、締約国からの厳しい声も多い。交渉は夜を徹して行われるだろう。巻き返しを期待したい。

適応に関する世界全体の目標(GGA)

2週目の交渉の行方に注目が集まっているのが、「適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation, GGA)である。GGAの交渉成果はGSTの決定文書にも反映されるため、GGAが合意に至らなければ、GSTの合意の行方にも影響が大きい。1週目に出された決定文書の草案は、各国の意見が反映されていないとして、締約国が受け入れなかった。10日に議長による草案が出され、ようやく内容を掘り下げる交渉がスタートしているが、適応資金倍増の達成に向けたロードマップが示されていないことなど、合意に向けた懸念は大きい。現状、2023年の適応資金目標(3億米ドル)に対し、プレッジされた金額は1.88億ドルにしかならない。

共通だが差異ある責任及び各自の能力(CBDR-RC)原則

ほか、複数の議題で「共通だが差異ある責任及び各自の能力(CBDR-RC)原則」が盛り込まれるかどうかも論点だ。途上国としては、先進国の歴史的排出責任や、排出削減や資金の約束が果たされなかったことを鑑みて、この原則を決定文書に入れることを求めている。先進国はこれに反対する立場だ。Kikoは市民社会・NGOの立場から、歴史的な排出責任を鑑みて、公正さや衡平性に基づいた気候変動対策の方向性が示されることを期待している。

※この記事は12月11日19時時点(ドバイ時間)の情報です。

COP会場内で気候マーチが開催される(12月9日)

12月9日は、市民社会による「気候正義を求める世界アクションの日」として、大規模な気候マーチが開催された。

例年、COP開催地では世界の市民の声を会議場の交渉官たちに届けるために、NGOの参加者と開催地の市民が一緒に街頭を行進し、その様子はメディアを通して世界中に発信されてきた。

しかし、昨年のCOP27に引き続き、COP28でもマーチは会場内の一区画での開催となり、参加者もNGOメンバーのみとなった。 限られたスペースではあったが、この日のマーチは「気候正義(Climate Justice)」「ガザの停戦」という2つのメッセージを掲げ、多くのNGOメンバーが参加した。パレスチナの抵抗の象徴であるスイカを描いた旗や、さまざまなバナーを掲げ会場を行進した。ガザでの即時停戦や、1.5℃目標のための化石燃料の廃止を求め、気候変動対策の「誤った解決策」にNO!をつきつける声、適応資金を求める声、共通だが差異ある責任を確認しようという声など、さまざまな声が会場に鳴り響いた。そして、この日の気候アクションは、COP会場だけでなく世界200か所以上で開催された。

ヨチヨチ歩きの緩和策では、気候変動の緊急性に対処できない(eco抄訳12/8)

今回のCOPも最終段階に入りつつあるが、信じられないという思いだ。ドバイの会場運営が迅速で完璧だから・・・ではない。多くの交渉過程が遅々として進まず、まだまだ課題が残っているからだ。

たとえば、緩和作業計画 (WMP)だ。1週間の交渉の末、締約国は緩和に関する実質的な内容を欠いた文書を1つ作成しただけだ。MWPは、パリ協定の目的に沿って「緩和の野心の規模を緊急に拡大する」ために、締約国が実行可能な措置の合意に向けて交渉する場であり、私たちを取り巻く気候危機の深刻度と、今後の行く末を示す暗い科学的見通しを考えると、この死活問題にカタツムリのようなペースで取り組むなどということはあり得ない。

現在の文書は実に薄っぺらい。既存の言葉を繰り返しているだけで、まだ多くの課題が手つかずに残されている。締約国は、1.5℃目標を確実に達成する必要がある。つまり、最大限の野心と衡平性、利用可能な最善かつ最新の科学を念頭に置きながら、2030年までに世界全体の排出量を43%、2035年までに60%削減しなければならない。そのためにこそ、締約国の手元には、グローバル対話の年次報告書がある。ECOは締約国が責務を全うし、解決策を練るためにこの報告書を活用することを求めている。

また、グローバル・ストックテイクにおけるエネルギー・パッケージとの関係について明確な文言を示し、実施手段のコミットメントが何を意味するか、わかりやすく説明する必要がある。ヨチヨチ歩きでは埒が明かない。しっかり地に足を付けて大きく前進していかなければならないのだ!

アフリカのことわざ:GGAをバオバブの木になぞらえて(eco抄訳12/10)

アフリカの知恵が織りなす豊かなタペストリーの中で、ことわざは長い間、複雑な考えをシンプルかつ力強い比喩によって伝えるために用いられてきた。ここで、適応に関する世界全体の目標(GGA)をなぞらえてみよう。

バオバブの木がしっかりと大地に根を張り、空に向かって枝を広げるように、私たちはGGAの達成に向けても、力強く高みを目指していかなければならない。

バオバブの木が大きく頑丈な幹で多くの枝を支えるが如く、GGAのフレームワークもさまざまな行動と目標を支えられるよう、強固なものでなければならない。アフリカの知恵によれば、行動が足りないことは、作物にとって雨が少ないのと同じようなものだ。適応が遅れれば遅れるほど適応の限界に近づき、取り返しのつかない損失や損害につながるリスクが高まる。GGAフレームワークが強固であれば、厳しい変化の風から私たちを守ってくれる。しかし、適応資金の不足という厳しい現実が立ちはだかっている。

村の長老たちが助言や知恵を与えてくれるように、GGAは気候変動の多国間協調を具体化し、最も弱い立場にある人々の声に耳を傾け、解決策を提供する。そして、様々な国際合意やイニシアティブを糸のように織り込みながら、より大きなタペストリーを編み上げる助けとなるものなのだ。

GGAフレームワークの考案と実施は、野心的かつ迅速でなければならない。気候変動の課題に共に立ち向かい、グローバル共同体の信頼と団結を深めるためのものなのだから。

化石燃料フェーズアウトへの鍵は、気候正義だ(eco抄訳12/11)

科学は明白である。私たちは少なくともあと25年で全ての化石燃料を段階的に廃止しなければならない。これがパリ協定の中核である1.5℃目標を達成する唯一の道だ。

このCOPが成功するのに必要不可欠なのは、十分な資金支援のもと、全ての化石燃料の生産と使用から完全に、かつ迅速に、そして公平に脱却することに合意することだ。これは再エネ3倍などと共に包括的なエネルギーパッケージの一部であり、このパッケージは公正な移行作業計画において、人権や参加、実践的な行動を供するものなのだ。

化石燃料に別れを告げ再エネの未来を導く内容が、決定文書にもりこまれる機運があることにECOは勇気づけられている。しかし、最も裕福な国々には、何十年も化石燃料を貪り続け、経済的に潤ってきた事実を棚上げにして、誰もが同じ役割を担っていると見せようとしている国もある。先進国がやるべきことを行い、歴史的責任を果たし、公正なエネルギー移行への資金支援を行うかにかかっている。

断言しよう。野心的行動と化石燃料の段階的廃止への鍵は気候正義である。①差異ある責任を認め、途上国へ公平な資金・技術移転をし、②気候変動対策の基盤が社会的正義に根ざしていること確認し、③GGAにおいて、来年の「資金COP」あるいはその前に資金拠出を行うと約束するべきだ。

ECOは、不公正な現状を深刻化させるだけのエネルギー転換には反対する。段階的廃止についての不当な合意、あるいは資金不足状態での合意は、段階的廃止を全く意味しないのが現実だ。

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