2018年6月19日

第5次エネルギー基本計画(案)に対してのパブリックコメント提出
~再エネ100%・脱原発・脱石炭にむけた具体的で野心的な道筋を提示すべき~

気候ネットワーク

 

6月17日、第5次エネルギー基本計画(案)に対して、気候ネットワークは下記をパブリックコメント意見として提出しました。

 

1. 計画案全体に対して

◆意見概要◆

第4次エネルギー基本計画の内容をほとんど変えず、実現不可能な2030年電源構成を前提にして構成された「第5次エネルギー基本計画(案)」には反対する。再生可能エネルギーを主力電源化するならば、いつまでに100%を目指すのかを具体的な目標を示し、脱原発・脱石炭の方向性を打ち出すとともに、パリ協定を着実に実施するための将来ビジョンを示すべきである。化石燃料や原発を選択肢として残すべきではない。

 

◆理由◆

日本のエネルギーをめぐっては、原子力発電の甚大なリスクと安全神話の崩壊、気候変動に関するパリ協定の遵守、化石燃料利用に起因する大気汚染と健康被害、再生可能エネルギー成長の低迷による経済成長・雇用増の機会損失、エネルギー安全保障の確保や自給率向上など、様々な課題が顕在化している。しかし、現行のエネルギー基本計画やそれに基づいて作られた2030 年のエネルギーミックス(電源構成)は、「価格が低廉」であることを理由に原子力発電や石炭火力発電をベースロード電源と位置付け、2030 年の電源構成では原子力22~20%、石炭26%と過大な見通しをたて、旧来型の持続不可能な原発・化石燃料依存のエネルギーシステムを内在化しており、様々な現代の課題に対応しているとは言い難い。

世界は今、パリ協定のもと「脱炭素社会」の早期実現に向け、「原発・化石燃料」から「省エネ・再エネ」へとダイナミックにシフトする「エネルギー大革命」の中にある。脱石炭の宣言・達成や、再生可能エネルギー100%の宣言・達成といった動きは、国家レベルのみならず、地方自治体、企業、大学、民間団体など様々な主体が率先して取り組みはじめている。実際、この数年で、風力、太陽光をはじめとする再生可能エネルギーは、様々な専門機関の予測を遥かに上回る勢いで導入が進んできた。自然の変動が大きい太陽光発電や風力発電等を基幹電源とし、蓄電池や揚水発電などの調整電源を活用することで、1 日24 時間フル稼働させるベースロード電源を基軸にした電力システムから、フレキシブルに電源活用する電力システムへシフトしている。

日本は、「資源が乏しい」としているが、化石燃料の賦存量が脆弱なだけであって、自然資源(再生可能エネルギー資源)には非常に恵まれている。日照時間は長く一年を通して太陽に恵まれ、四方を海に囲まれ風力のポテンシャルも高い。また火山国だからこそ地熱を有効に活用でき、森林資源も豊富にあり、水力に活用できる水にも恵まれている。こうした豊かな資源を活かし、日本のエネルギー政策を見直し、地域社会を豊かにし、未来を切り開くエネルギー政策に切り替えていくことが、日本の未来を切り開くことにつながると考える。

 

2. 原子力の位置づけ

◆該当箇所◆

「燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産エネルギー源として、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源である。」

p.19 、原子力の位置づけ

◆意見概要◆

東京電力福島第一原子力発電所の事故による事故処理費用は年々積み上がり天井がない状況となり、被害者に対しての賠償も十分に支払われていない。福島での事故を踏まえれば「優れた安定供給性」や「コストが低廉」などとは決して言えないはず。原子力は重要なベースロード電源などとの位置づけは削除し、直ちにゼロにすることをエネルギー基本計画に位置づけるべきである。

 

◆理由◆

現行のエネルギー基本計画では、原子力をベースロード電源と位置付けており、これに基づいて策定された2030 年のエネルギーミックスでは、原発の発電量割合を「22~20%」と実現不可能な想定をしている。実際には、政府の政策である「40 年廃炉」を前提とすれば、既存の原発をすべて再稼働した場合でも発電量に占める割合は11%程度にしかならない。また、2014 年以降の原発再稼働の状況は、現状で5 基にとどまる。原発立地の状況を踏まえれば、再稼働前提となる事故発生時の避難計画などが十分に用意され、周知されている原発は1 基もない。もし、東京電力福島第一原子力発電所の事故のような過酷事故が再度国内で起きれば、日本は再生不能なダメージを受けることになるだろう。

また、原子力のコストを「低廉」だとする根拠として、しばしば2015 年の「発電コスト等検証ワーキンググループ」の試算が使われるが、福島原発事故費用などを含む本当のコストが示されていない。2011 年の東京電力福島第一原子力発電所事故の費用は、当初政府が示したよりも大きく膨らみ、損害賠償費用、原状回復費用、事故収束廃止費用、事故対応費用などで23 兆円にのぼると試算されている1。過酷事故を踏まえたコストを前提とすれば、原発は低廉な電源とは言えない。

 

2030 年のエネルギーミックスで原子力の割合を20%以上と高く設定したため、これにあわせた非常に不健全な原発延命策がとられている。例えば、この間の総合資源エネルギー調査会貫徹小委員会では、ベースロード電源市場、非化石価値取引市場など原子力を温存する市場がつくられたり、損害賠償費用などを送配電料金に上乗せできるしくみがつくられたりと、“自由化”と相反する原発優遇策と言うべき電力システムが敷かれようとしている。これらもすべて見直しをすべきである。

 

加えて、エネルギー基本計画で原発をベースロード電源としているために、原発の方が再生可能エネルギーよりも優先されている。再生可能エネルギーは、現在原発がほぼ運転されていないにもかかわらず、フル稼働していることを前提に接続可能量が設定された。これによって、太陽光や風力の系統接続が拒否される事態が頻発したり、接続空き容量ゼロ問題、再エネ導入には高額な接続工事費用が再エネ事業者に求められる問題など、再エネ事業者にとって不利な状況が作られており、再生可能エネルギーの普及を阻害している。

 

原発に関して極めて不健全な優遇政策が次々ととられ、再生可能エネルギーには不利な政策がとられている、その最大の根拠であり元凶となっているのが現行のエネルギー基本計画である。これを全面的に見直し、原発ゼロの早期実現を明記する必要がある。

 

3. 再エネが脱炭素化技術になりうる

◆該当箇所◆

「再生可能エネルギーは火力に依存しており、それだけで脱炭素化は実現できない。蓄電・水素と組み合わせれば脱炭素化電源となりうる。」ほか

p.3

◆意見概要◆

再生可能エネルギーだけで100%賄う地域や国があり、蓄電や水素と組み合わせているわけではない。「それだけで脱炭素化は実現できない」というのは明らかに間違いであり、再生可能エネルギー100%を目指し脱炭素社会の構築をめざすべきである。

 

◆理由◆

 再生可能エネルギーによる発電の中でも、時間により変動する太陽光発電や風力発電の導入が世界で急速に進んでいる。この 10年間で再生可能エネルギーの導入が進んだヨーロッパの国々では広域で送電網や電力市場を整備することで、電力の需要や供給の変動に対する調整が可能となり、年間発電量に占める再生可能エネルギーの割合を 30% 以上に高めることに成功している。デンマークやドイツなどでは、すでに再生可能エネルギーの供給が需要の 100% に相当する時間帯もある。日本国内でも、九州電力エリアでは 2017 年 5 月 14 日に再生可能エネルギーの割合が電力需要の 87% に達している。日本全体でも再生可能エネルギーの割合が電力需要の 50% 以上に達する時間帯があり、すでに揚水発電や電力会社間の連系線が、電力系統の調整力として活用されている。

将来的には電力需要を調整する仕組み(デマンドレスポンス)や、電力をガス(水素、メタンなど)に変換して貯蔵・利用したり、熱に変換して蓄熱・熱利用するセクターカップリングの技術を活用したりすることで、化石燃料を使う火力発電を最小限にすることが可能になる。より広域に電力系統を運用することは平準化効果をもたらす。現在、揚水発電による蓄電機能も活用した上で、火力発電の出力調整が行われているが、広域な系統活用や、多様な電力市場の整備により、効率的な調整が可能となる。

 

4. パリ協定とカーボンバジェット

◆意見概要◆

 パリ協定の内容を組み込み、1.5~2℃目標を明記し、脱炭素社会の実現を目指すことを明記するとともに、国内での長期の削減を目指して直線的に排出を減らす道筋をつくるべきである。

 

◆理由◆

 パリ協定の目標達成をエネルギー政策の中心に位置付け、2050年に温室効果ガスを少なくとも80%削減する目標をエネルギー基本計画に明記し、2030年の削減目標の引き上げを前提とするべきである。2015年12月、気候変動枠組条約第21 回締約国会議(COP21)において「パリ協定」が採択され、2016年11月4日に発効した。パリ協定は、気温上昇を産業革命前に比べて2℃を十分に下回り1.5℃の上昇に抑えることを目的としており、今世紀後半には人為的な温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを求めている。日本もこれを締結した国として、大幅削減に向けて舵を切る必要がある。21 世紀後半の早い段階には世界の温室効果ガスの排出がゼロになることを前提に、2050 年少なくとも80%削減をする目標をエネルギー基本計画にも明記し、2030年目標の引き上げ、および2040年の更なる大幅削減に向けた経路を示すべきである。日本の温室効果ガス削減目標は、2020年度に2005年度比で3.8%以上削減(90年比5.8%増加)、2030 年度に2013年度比26%削減(90 年比18%削減)と設定されている。2020 年目標は、東日本大震災後に策定されたものだが、すでに超過達成している。2030年目標は、パリ協定採択以前につくられた現行のエネルギー基本計画に整合するよう設定された目標だが、パリ協定の達成に沿わない、「とても不十分(highly insufficient)」な目標と科学者に評価され、国際的にも批判されている。現在、各国が提出している削減目標はすべて足し合わせても1.5~2度未満目標に到達しない。そのため、2017 年のCOP23(気候変動枠組条約第23 回締約国会議)の合意に基づいて、2018 年には、世界の温暖化対策の進捗をチェックし、その後の目標・対策の強化につなげる「タラノア対話」のプロセスが進められている。今後の国際交渉では2019 年に日本としても正式な国別約束(NDC)の提出が求められている。さらに、2023 年から、5年毎に温暖化対策の進捗チェックと目標・対策の引き上げのサイクルが行われることになっており、各国の削減目標の深掘りが強く求められている。現在、経済産業省のエネルギー基本計画を検討する基本政策分科会では、2050年80%削減の目標に対しては、革新的技術が開発されなければ到達できない目標かのような議論が行われている。しかし日本においても長期的な大幅削減とその先の脱炭素社会は必ず実現しなければならない課題である。国際協定と最新の科学的知見に基づき、NDCの提出に際しては現在の2030年目標引き上げを前提にする必要があり、さらに長期には、革新的技術に過度に依存し対策を遅らせるのではなく、今ある省エネや再エネの技術で着実に目標達成する方針が必要である。エネルギー基本計画でも、それらの方針が明記される必要がある。

さらに、パリ協定を締結済みの日本は、国際的な温暖化対策の進捗チェック(タラノア対話やグローバル・ストックテイク)を踏まえて国内の気候変動・エネルギー政策を抜本強化し、国連に再提出することが求められている。それにもかかわらず、エネルギー基本計画見直しの検討が、かかる国際合意とプロセスをまったく踏まえないタイミングと手法で進められていることには大きな問題がある。パリ協定への対応として、エネルギー政策は、経済産業省のみならず、環境省及び関連省庁を含め、市民参加の下で気候変動政策を一体的に見直すという方針を明記すべきである。

 

5. 石炭(脱石炭の世界の潮流・パリ協定との整合性)

◆該当箇所◆

「温室効果ガスの排出量が大きいという問題があるが、地政学的リスクが化石燃料の中で最も低く、熱量当たりの単価も化石燃料の中で最も安いことから、安定供給性や経済性に優れた重要なベースロード電源の燃料として評価されており、高効率化を前提として、石炭火力発電の有効利用等により長期を展望した環境負荷の低減を見据えつつ活用していくエネルギー源である。」

p.20

◆意見概要◆

 石炭火力発電は2030 年までに全廃することを位置づけるべきである。また、石炭価格の安さゆえに拡大する石炭火力発電所建設計画を止め、パリ協定に遵守すべきである。

 

◆理由◆

日本国内では、福島原発事故後の石炭火力発電所の多数の新設計画が正当化され、大小あわせて約50 基もの計画が浮上した。このうち、計画が中止となったものが4 基あるが、6 基はすでに運転が開始され、現在も40 基が建設中もしくは計画中となっている。石炭火力発電は、火力発電の中でも最もCO2 排出が大きく、高効率であってもLNG の約2 倍に相当する。そのため、欧米諸国では、最大のCO2 排出源である石炭からの脱却を目指し、2030 年までの石炭全廃に向けた動きが加速している。

日本には、現在既存の石炭火力発電所が約100 基あり、その設備容量の合計は、少なく見積もっても4230 万kW になるが、これに現在の計画を加えると、2030 年頃をピークに石炭火力発電所の設備容量が最も大きくなる。環境省の調べによると、新規計画の合計は約 1850 万kW(2018 年(平成 30 年)3 月時点)に上る。仮にこれらの計画が全て実行され、原子力発電所が長期停止し再エネの導入が低調である等の場合において、稼働率 70%で稼働し、かつ、既存の老朽石炭火力発電所が稼働から45 年で一律に廃止されると仮定すると、石炭火力発電からの CO2 排出量は、2030 年度の削減目標や電源構成と整合する排出量(約 2.2~2.3 億トン)を6800 万トン程度(2030 年度の排出量全体の約 7%に相当)超過する。海外に目を向けると、フランスは2023 年、英国は2026 年、カナダは2030 年に石炭火力発電所の撤廃を宣言し、これらの国が中心となって脱石炭を目指す国際連盟(PPCA)も創設されている。日本のエネルギー政策はこうした世界的な潮流に逆行している。パリ協定の遵守に向けて、日本でも、石炭火力発電所の新規建設を見直すと共に、既存についても2030 年までの全廃を掲げ、撤退を急速に進めるべきである。

 

6.ベースロード電源

◆該当箇所◆

「3.一次エネルギー構造における各エネルギー源の位置付けと政策の基本的な方向」

p.17

◆意見概要◆

 石炭や原発をベースロード電源とするのは止め、再生可能エネルギーを主力電源化し、再生可能エネルギーの系統接続と給配電を優先する方針を明記し、2030 年以降、将来的に再生可能エネルギー100%の社会を目指すことを明記すべきである。

 

◆理由◆

 日本では、2012 年に再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が導入され、太陽光発電の導入などが進んだが、その後の系統接続の拒否など再生可能エネルギーの阻害要因やFIT 制度の見直しなどによって、再エネ導入に向けた動きが失速している。現行のエネルギー基本計画では再生可能エネルギーについて「最大限導入」することが記載されているものの、2030 年の電源構成における再生可能エネルギーの割合は22~24%とかなり抑え目に見積もられている。また、その内訳は、既存の大規模ダムが中心の水力発電が8.8~9.2%と最も高く、地熱1~1.1%、バイオマス2.7~4.6%、風力1.7%程度、太陽光7%程度とされ、特に風力は、日本の再生可能エネルギーの賦存量では最も高いと環境省が報告したにもかかわらず、非常に少ない見通しである。近年、日本を含め、世界レベル、あるいは国レベルで再生可能エネルギー100%を2050 年頃までに達成することが可能であることを示す研究成果4が次々と発表されている。パリ協定と整合させるためには、日本においても再生可能エネルギー100%を目指すことが不可欠である。計画では、再生可能エネルギー100%の長期ビジョンを示し、再生可能エネルギーの加速度的導入のための優先接続と優先的な給配電の方針を定め、100%へ向けて必要な系統連系増強や柔軟な系統利活用や需要側管理、蓄電池の利用などの環境を整備するべきである。

 

7.水素

◆該当箇所◆

「引き続き石炭の利用が拡大していくことが見込まれる。こうした背景を踏まえ、海外においても、再生可能エネルギーや水素なども含め、CO2排出削減に資するあらゆる選択肢を相手国に提案した上で、環境負荷の低減と両立した形で石炭の利用が行われるよう・・・」ほか水素関連部分

p.56

◆意見概要◆

 水素社会の構築は化石燃料を原料とするのではなく、再生可能エネルギーからの余剰電力を利用してつくる水素に限定して開発を進めるべきである。

 

◆理由◆

水素社会構築に向けた開発を行っていく方向性が示されているが、石炭をはじめとする化石燃料を電気分解してつくる水素では、結果的にCO2 の排出につながるだけであり、全くクリーンではない。しかし、現状では、オーストラリアの褐炭を利用した水素燃料の開発・輸入が進められようとするなど、脱炭素社会に向けた解決策となっていない水素技術が推進されている。たとえ、CCS(二酸化炭素固定貯留化技術)の利用を前提にしたとしても、CCS は技術的にも課題が多く、実用化は保証されていない。自動車の動力についても、ガソリン車からのシフト先として水素の燃料電池車が候補の一つにあがるが、石炭ベースの水素を利用しているのではCO2 削減にはつながらない。水素技術は、再生可能エネルギー利用のみに限定して進めるべきである。

 

8.政策決定プロセス

◆意見概要◆

エネルギー政策の検討プロセスにおいては、国民の意見を広く反映させることのできるプロセスへと大幅に見直すべきである。また、国の重要なエネルギー政策でありながら、国会審議も経ずに、民意無視で決定するのは民主主義への冒涜である。

 

◆理由◆

第1 に、エネルギー基本計画の審議会のメンバー構成を、社会の幅広い構成員を代表するよう抜本改正することが必要である。東京電力福島第一原発事故後、様々な世論調査によって国民の脱原発の意思が一貫して確認されているにもかかわらず、審議会の大多数は原発推進を支持する委員や業界団体によって占められ、議論において「いかに原発推進を国民に『理解』してもらうか」に腐心している。このことは著しくバランスを欠いていると言わざるをえない。第2 に、エネルギー政策について、普段から国民の意見を集め、審議会で配布するだけでなく、検討に着実に反映させるための仕組みを整備すべきである。エネルギー政策の意見箱やパブリックコメントで意見を集めて終わりではなく、かかる「国民的議論」をふまえた上で、「改正エネルギー基本計画」のとりまとめを行うべきである。

 

9.2030年の温室効果ガス削減目標

◆該当箇所◆

「パリ協定におけるNDC(自国が決定する貢献)として、国連気候変動枠組条約事務局に提出された削減目標(温室効果ガスを2030年度に2013年度比▲26%)の基礎となっており、民間の中期的な投資行動に対して一定の予見可能性を与え、そのよりどころとなっている重要な指針である。」

p.10

◆意見概要◆

 2030年の温室効果ガスの削減目標は非常に低い目標であると国際社会から評価されているものであり、今後引き上げを前提に見直しをするべきである。温室効果ガス削減目標とエネルギー政策を整合させることが極めて重要で、本計画にも削減目標見直しの必要性を言及するべきである。

 

◆理由◆

 現在の各国が掲げる温室効果ガス排出削減目標・行動の効果を全て足し合わせたとしても、パリ協定がめざす1.5~2℃未満という目標には全く届かない。世界各国の排出削減の努力や野心の向上が課題となっている。パリ協定では2023年から5年毎に「グローバル・ストックテイク」と呼ばれる機会が持たれ、世界全体の気候変動対策の進捗確認を行い、更なる目標や行動の引き上げが目指されている。日本の2030年2013年度比26%削減は、1990年比にすると約18%削減程度にしかならず、1.5℃目標の達成に向けた経路としても不十分であり、かつて長期目標「2050年に80%削減」に直線的に結ぶこともできずに将来世代につけを回すものである。日本が国際社会や将来世代にも恥じない目標を打ち出す必要があり、それを前提にしたエネルギー基本計画でなければならない。

 

10.高効率火力発電について

◆該当箇所◆

「(1)高効率石炭・LNG火力発電の有効活用の促進」

p.56

◆意見概要◆

高効率火力発電を推進する記述はすべて削除するべき。

 

◆理由◆

パリ協定の「1.5~2℃目標」を達成するためには、早期の脱炭素社会の実現が不可欠であり、既存の火力発電所もできる限り廃止していくことが求められる。石炭やLNGなどの火力発電設備はどんなに効率を高めたところでCO2の排出をゼロにすることは不可能。この開発に投資を振り向けるよりも、CO2排出ゼロの再生可能エネルギーへの転換や、そのために必要な送電網の整備などに国の予算や民間の投融資も集中させる方針が必要である。

 

11.石炭火力発電の導入支援について

◆該当箇所◆

「世界最新鋭である超々臨界圧(USC)以上の発電設備について導入を支援する」

p.56

◆意見概要◆

石炭火力発電の導入支援の記載は削除するべき。

 

◆理由◆

日本が途上国への石炭火力発電の支援を続けていることに対しては厳しい批判が繰り返されてきている。気候変動枠組条約締約国会合の場でも途上国向け石炭事業支援を理由に繰り返し、「最悪のことに最善を尽くす国」として「本日の化石賞」を繰り返し受賞している。また、日本が支援する途上国への石炭火力発電事業は、現地住民の人権侵害、周辺環境の破壊などの深刻な環境社会問題も引き起こしているため、繰り返しエネルギー政策での方針転換を求められてきた。今回のエネルギー基本計画(案)にもこの文言を残すことは非常に問題である。 

海外では、すでに再生可能エネルギーの価格が競争力を持ち、原発や化石燃料の火力発電所よりも下回ってきているところも多い。途上国では再生可能エネルギー100%を宣言する国も増えている。今更、石炭火力発電所の導入を支援するということは、世界のCO2排出量を増加させるだけであり、脱炭素社会の実現を遅らせることになる。

12.容量市場、非化石価値取引市場について

◆該当箇所◆

「今後、中長期的に適切な供給力・調整力を確保する容量市場や、電源の環境価値の取引を可能とする非化石価値取引市場といった電源・インフラ投資が維持・促進される仕組みの創設や、調整力を広域的に調達・運用することで需給調整の効率化を図る需給調整市場の創設に取り組む。」

p.66

◆意見概要◆

既存および新増設の火力発電所や原発の保護につながるような「容量市場」をつくるべきではない。また、非化石価値取引市場に原発は含めるべきではない。

 

◆理由◆

電力システム改革で健全な自由化を促すためには、既得権を保護するような火力発電所や原子力発電所を保護するような政策をとるべきではない。石炭やLNGの火力発電所の新増設が急増する中、本来は挫傷資産リスクも考慮して計画をすすめるべきところを、事業者が計画に前のめりで進めているのが現状である。「発電所の維持・建設投資全体が過少となり、供給力・調整力が不足する懸念がある」としているが、高効率火力建設も容認し、本計画でも推進している現状において容量が足りなくなるという心配は不要である。

非化石価値取引市場の名称は、再エネも原発も同様に扱うわかりにくい表記であり、原発を温存させる非化石価値取引市場は不要である。

 

13.ドイツの政策に関する記述について

◆該当箇所◆

「ドイツは、省エネルギーと再生可能エネルギー拡大のみで脱炭素化を実現するシナリオを選択しているが、省エネルギーによる需要削減は大きな成果を今のところ挙げていない一方で、再生可能エネルギーの量的拡大と裏腹に原子力が減少しているため、結果として石炭への依存が減らず、CO2削減が停滞し、電気代も高止まりしている。」

p.92

◆意見概要◆

この表記は次のように書き換えるべき。

「他方、ドイツは、省エネルギーと再生可能エネルギー拡大のみで脱炭素化を実現するシナリオを選択しており、省エネルギーによる需要削減を着実に実施し、脱原発を選択し、さらに2018年6月には脱石炭に向けた委員会を立ち上げて、年末までに「脱石炭」の実施年を決定する方向を打ち出し、CO2削減にも野心的に取り組んでいる」

 

◆理由◆

 第5次エネルギー基本計画(案)にかかれているドイツの表記には間違いがあり、「脱石炭」に向けた動きも、このパブコメ期間中に新たな動きとしてあったので、正確な記載の変更が必要だから。

 

 

以上

 

 

 

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