2025年6月16日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵

 2025年7月の参議院議員の任期満了に伴い、第27回参議院議員選挙が行われます(投開票日は7月20日(日)の見込み)。昨今、高温化や豪雨などの異常気象の頻発にみられるように、気候変動問題が深刻化する中、候補者や各政党がどのような気候変動政策を考えているのかを確認することがとても重要な選挙と言えます。実際、都議選を含め、この夏に行われる選挙では、有権者の3人に1人が気候変動対策を重視する候補者を選びたいと考えているという調査結果も出ており、多くの市民が気候変動の危機感を感じていることも明らかになっています。

 そこで、気候ネットワークでは、気候変動対策を進めるためにはどのような国の政策が必要なのか、何に重点をおくことが最も費用対効果が高くCO2の削減ができるのか、そして国民負担を極力回避できるのか、長期的に持続可能な社会につなげることができるのかという点で候補者や政党の考え方を確認するために、評価のポイントをまとめました。

 選挙の公約が出そろい次第、各党のマニフェスト評価も発表する予定ですが、一人一人の候補者がどのように考えているのかを確認していくことも必要です。国際社会では、まず電力分野を化石燃料から再エネに転換することで脱炭素化し、その後産業や交通分野では電化することによって、2050年までの早い時期にCO2の排出を実質ゼロにする対応がとられています。そこで、ここでは日本における対応が遅れている電力分野を中心に論点をあげてみました。ぜひ、多くの方に参考にしていただけたらと思います。

1.気候目標

パリ協定の1.5目標に向け、2030年や2035年の削減目標を引き上げること

 地球の年間平均気温は2024年、産業革命前に比べて1.5℃以上の上昇を記録しました。今後、一刻も早くCO₂をはじめとする温室効果ガスの排出を大幅に減らし、2050年までの早い段階で実質排出ゼロにする必要があります。重要なことは、2030年や2035年という近い将来にどれほど多くのCO₂など温室効果ガスを減らせているかという点です。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気温上昇を産業革命前に比べて1.5℃に抑えるというパリ協定の目標を達成するには、世界全体で2019年度比で2035年までに60%以上の削減が必要だとしています。日本は歴史的排出量の多さや一人当たり排出量が多いことから、世界全体の目標以上に大幅な削減をしなければ、先進国としての責任を果たしたとは言えません。2030年に少なくとも50%以上の削減、2035年には75~80%程度の削減が必要です。

 政府が今年国連に提出した「2035年60%削減、2040年73%削減(2013年度比)」は1.5℃目標に整合しているとは言えません。目標を見直し、大幅な削減を法定目標とし、その目標に向けて化石燃料から早く脱却し、持続可能な再生可能エネルギー(再エネ)100%の社会を目指していくことが不可欠です。各党の公約では、温室効果ガスの削減目標をかかげているか、その削減目標は1.5℃目標に見合うものかを確認してみましょう。

2.石炭火力

2030年代前半までに国内の石炭火力発電所を全廃すること

 気候変動対策としてまずやるべきことは何でしょうか。それは、再エネという代替手段がある電力部門において、CO₂の排出量が大きい石炭火力を廃止し、CO₂をほとんど排出しない再エネに切り替えることです。

 1.5℃目標を達成するには、世界全体で石炭火力を段階的に廃止し、先進国は2030年までに全廃、途上国も遅くとも2040年までに全廃することが不可欠だとされています。G7首脳会議の合意文書には、2030年代前半もしくは1.5℃目標に整合する形でCO₂排出削減対策が講じられていない石炭火力を段階的に廃止することが合意されています。しかし、2025年2月に閣議決定した「第7次エネルギー基本計画」では、石炭火力の全廃が示されないどころか、燃料種別の具体的な見通しを曖昧にし、2040年の電源構成で火力を3~4割程度とするとしています。

 また現行の施策においては、既存の石炭火力が延命される様々な措置が講じられています。具体的には、「省エネ法」で既存の石炭火力にバイオマスやアンモニアを混焼して見かけ上の発電効率を高く見えるようにしたり、電力の供給力を確保するために創設された「容量市場」で既存の石炭火力発電所を対象に事実上多額の補助金を設備容量に応じて電力会社に支払うしくみがつくられたり、2023年度からスタートした「長期脱炭素電源オークション」で既存の石炭火力にアンモニア混焼設備をつけることを「新規電源開発」と同等に位置づけて、20年間に渡って財政支援し続けるしくみがつくられているのです。

 現在、特に既存の石炭火力を活用し続けるために、アンモニア混焼が推進されていますが、アンモニアは製造時に大量のCO₂を排出するため、ライフサイクル全体で見るとCO₂削減効果はほとんどありません。また化石燃料を原料にしているため、化石燃料価格よりも数倍から数十倍も高額になり、電気代や国民負担の高騰を招きます。このような不条理な石炭火力の延命策を全面的に見直し、早期に石炭火力からの脱却を目指すことが求められます。

3.LNG火力

新規LNG火力の建設は止め、遅くとも2040年までには原則利用中止とすること

 LNG 火力については、石炭火力よりも排出係数が低いため、政府は再エネの調整力や脱炭素社会への移行期の燃料として重視してきました。2013年以降、古い施設が廃止される一方、新たに約2,400万kWのLNG火力発電所の運転が開始されています。さらに2024年以降も約715万kW の新設計画があります。このうち 647.9万kWが長期脱炭素電源として長期脱炭素電源オークションで落札されており、建設段階から経済的支援が行われています。

 しかし、新しいLNG 火力を利用し続けることは、1.5℃目標に整合しません。IPCC の第6次評価報告書統合報告書によれば、2019年時点で世界は既に工業化以降の温暖化レベルを、50%の確率で 1.5℃以内に抑えるためのカーボンバジェットの約8割を使い尽くしています 。IEA(国際エネルギー機関)は「2050ネットゼロ・ロードマップ」において「2030年までに1.5℃目標と整合的な排出経路に近づけるためには、電源の脱炭素化の促進が特に排出削減効果が大きく、単一での最重要な方法(the single most important way)」としており、「先進国は2035年まで、その他の国は2040年までに電力分野ネットゼロ」が求められるとしています。日本は1.5℃目標の実現に向けて、今後のLNG火力新設計画を中止し、今からLNG火力のフェーズアウトの道筋を描き始めなければなりません。そうでなければ、2010年代に1,000 万kW を超える石炭火力を新設し、石炭火力の延命策に拘泥している現状の二の舞となることは避けられないでしょう。

4.水素・アンモニア

水素・アンモニア混焼による火力延命策を認めない

 気候変動の最大の元凶と言われる石炭火力の脱炭素の施策として、日本は欧米各国のように石炭火力を廃止するのではなく、水素・アンモニアの混焼を推進することによる排出削減を目指しています。政府はこれを「トランジション技術」と位置づけ、2030年までに石炭火力で最大20%のアンモニア混焼を目指しています。

 しかし、この施策は実質的に石炭火力の継続利用を正当化するもので、根本的な脱炭素とは言えません。混焼率20%では、残る8割の石炭の燃焼によるCO₂排出が固定され、抜本的な削減にはなりません。しかも現時点で使われるアンモニアの多くは、化石燃料由来の「グレー・アンモニア」であり、その製造過程でも多くのCO₂が排出されます。ライフサイクルで見れば、温室効果ガス削減効果は極めて限定的です。

 仮に再エネ由来の「グリーン・アンモニア」を利用するとしても、その多くは海外からの輸入が前提となり、従来の化石燃料と同様にエネルギー安全保障の課題を抱えることになります。そもそも大量のグリーン・アンモニア燃料のインフラも整っておらず、その構築に時間と費用を要します。

 経産省は石炭火力へのアンモニア混焼を「GX(グリーントランスフォーメーション)戦略」の柱とし、JERA碧南火力をはじめとした事業に対して数千億円規模の支援を行っています。石炭火力へのアンモニア混焼を推進するため「省エネ法」「水素社会推進法」「GX推進法」「長期脱炭素電源オークション」など様々な制度で支援策を講じています。しかし、削減効果も限定的で高コストな水素やアンモニア燃料は対策困難な工業分野などに限定して利用すべきで、代替策のある電力分野での使用は制限することを政策的に位置付けるべきです。

5.再生可能エネルギー

2035年の電力部門の脱炭素化と再生可能エネルギー100%を目指すこと。

 日本の現在の再エネ導入目標は、電力割合で「2030年度までに36%、2040年度までに4~5割」となっています(第6次および第7次エネルギー基本計画)。しかし、これでは火力が多く残り、気候変動を抑えるには到底間に合いません。2035年には電力部門の大部分を脱炭素化する必要があることから、2035年までには9割程度を再エネで賄うようにし、遅くとも2050年には再エネ100%を目指す必要があります。

 現行の電力システムや電力市場の仕組みは、火力や原発を存続させる方向にインセンティブが働いているため、これを今後再エネ最優先の制度へ抜本的に変更することが必要です。

 具体的には、火力や原発などの大型電源が優先され、再エネ増加につながらない現行の容量市場は廃止すること、現行の優先給電ルールを見直し、卸電力価格引き下げを期待できるメリットオーダーを導入することがあげられます。また、再エネ電力の出力抑制に対して補償をつけるなど、再エネの持続性を確保することも必要です。そして、太陽光発電量が増加する昼間の電気を最大限活用できるよう、ネガティブプライス(負の価格)や、送電線や蓄電、ディマンドレスポンスなどの拡充によって柔軟性を高め、同時に省エネルギーを進めるための政策の充実化が必要です。

 これらの施策は、年間数十兆円にも上る化石燃料の輸入コストを減らし、地域分散型の雇用を生み、大気汚染や自然開発を減らしていくことにもつながります。

6.原子力

脱原発を掲げ、小型原子炉など含めた原発新増設を認めないこと

 原子力発電は気候変動対策になるでしょうか。答えは、なりません。1.5℃目標達成には、2035年に電力部門の大半を脱炭素化する必要があります。政府は2040年の電源構成における原子力の比率を、現状の約8%を大きく上回る2割程度としています。しかし実現には既設原発の再稼働や老朽原発の運転延長に加え、25~30基程度の新増設が必要です。原発の建設は、既存のタイプであっても平均で10年を越える長期間を要し、気候変動への取組に間に合いません。政府が示した原発2割の目標は絵に描いた餅です。福島原発事故後の安全基準の強化や採算性の悪化により、原発建設期間はさらに長期化しています。次世代革新炉と呼ばれる革新軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合炉、小型原子炉などの技術については、技術や採算面での課題が大きく、実用化が見通せないのが現状です。

 原子力の導入の遅延や、不測の事態を含む原発の休停止が起きた場合の発電量の不足は大規模火力が補うと考えると、結果として温室効果ガスの排出が続きます。

 第7次エネルギー基本計画やGX2040ビジョンでは、原子力を脱炭素電源のひとつと位置づけ、「最大限活用」する方針が示されました。2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故をうけて第4次エネルギー基本計画以来示されてきた「原子力依存の低減」の文言は削除され、原子力回帰の姿勢が強まっています。しかし、原子力を推進することは結果的に火力に頼らざるをえない状況をつくりかねません。

 気候変動対策のために優先すべきは、太陽光や風力といった再エネ発電の導入拡大です。再エネは原子力と比べより安全で、より安価で、より短期間で導入することができます。福島の原発事故のような悲惨な事故を二度と起こさないため、そして再エネの導入や省エネの推進など、本来必要な気候変動対策に貴重な資金や人材を割くためにも、脱原発を早期に実現する政策が必要です。

7.省エネルギー

2050年にエネルギー消費量の半減をめざす

 化石燃料依存度を減らすために、エネルギー消費量を抜本的に減らすことは非常に重要です。日本が「省エネ大国」などと言われていたのは過去の話です。エネルギーを浪費する老朽化設備や、断熱性や気密性が低く、エネルギー効率の悪い住宅・建物などが多数残っています。

 2013年以降、日本のエネルギー消費量は下降傾向にありますが、政府は今後について十分な比較検討もせずに「データセンターや半導体工場のため電力需要が増加する」というシナリオを強調し、原発や火力の必要性をうたっています。

 また、GX推進法において、排出量取引制度が導入されることになりましたが、1.5℃目標と整合するような排出枠の上限(キャップ)がかけられることにはなっていません。キャップ&トレード型の排出量取引として制度を改正する必要があります。

 さらに、交通部門での排出を削減するためには、EUなどで実施されているようなハイブリッド車を含む化石燃料車の新車販売を終了することや、電気自動車の普及、公共交通の維持・利便化を支援し、自転車や徒歩で移動しやすいまちづくりの推進、コンパクトシティ化などを進めることが必要です。

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