気候ネットワークは、千葉県袖ケ浦市で計画されている、(仮称)千葉袖ケ浦天然ガス発電所の建設計画の準備書(意見提出期限:2025年1月15日)に対し、意見書を提出しました。

この計画の概要

  • 本計画は株式会社千葉袖ケ浦エナジーが計画していた石炭火力発電所の環境影響評価手続きを2019年に設立した袖ヶ浦パワー(東京ガス株式会社が100%出資)が引き継ぎ、燃料の種類を石炭から天然ガスに変更したうえで、環境影響評価の再手続きを進めているものである。
  • 本計画は当初復水器の冷却方式を海水冷却の採用を予定していたが、空気冷却方式に変更することとしたため、再度環境影響評価の再手続きを行い、2024年11月に環境影響評価準備書が届け出られた。
  • 計画されている千葉袖ケ浦天然ガス発電所(以下当該発電所)の発電規模は195万kW(65万kW✕3基)、運転開始時期は2030年である。

①気候科学の観点からみれば、化石燃料インフラの新規建設の余地は全くない

 本計画の環境影響評価準備書(再手続版)あらましによれば、千葉袖ケ浦天然ガス火力は、3基計で195万kWとなる計画であり、年間約476万トンのCO₂を排出することになる(P.21)。

 IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書(2022年4月公開)は、既存の化石燃料インフラが耐用期間中に排出する累積のCO₂総排出量を6,600億トンと予測していた(報告書作成時点で計画されている化石燃料インフラからの累積総排出量を加えると8,500億トン、現在はさらに増加していると見られる)。すでに同報告書で地球温暖化を50%の確率で1.5℃に抑えるための限度として示されたCO₂の累積総排出量5,000億トンを大きく上回っているため、科学的な観点から見れば、既存の化石燃料インフラであっても耐用期間の終了を待たずに廃止する必要がある。  

 仮に本計画通り本発電所が2030年に運転開始した場合、ガス火力発電所の運用年数を40年とすると、2050年を超えて大量のCO₂を排出するため、この新設を許容する余地は全くない。

②国際合意に整合しない

 2023年に開催されたG7広島サミットでは、「2035年までの完全又は大宗の電力部門の脱炭素化を図る」こと、「遅くとも2050年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」との文書(コミュニケ)が合意された。2030年に稼働する予定の新規LNG火力発電所は、この合意に全く整合していない。

CO₂排出係数が高く、1.5℃目標と整合しない

 本発電所(1~3号機)の二酸化炭素排出係数は約0.310 kg-CO₂/kWh(準備書P.992 12.1.8-2)としているが、これは国際エネルギー機関(IEA)が2021年5月に「Net Zero by 2050」で示した1.5℃シナリオで求められている2030年の排出係数0.138kg-CO₂/kWhと比べ約2.25倍にもなり、当該発電所の排出量が1.5℃目標に整合しないことは明らかである。

 また、本計画は実証段階にある水素混焼が可能なガスタービンを採用するとしているが、現時点で実証段階である技術であるため導入時期の確定は困難であり、混焼が可能になった場合のCO₂排出係数なども示されていない。2030年の稼働開始後の削減策および導入時期が具体化されない以上、将来的にも1.5℃と整合しない。

④天然ガスはライフサイクルで石炭火力よりも多く温室効果ガスを排出するという調査結果が出ている

 2024年10月ガーディアン紙は、「輸出された天然ガスは石炭よりもはるかに多くの温室効果ガスを排出している」という研究について報道した。報道によれば、天然ガスは石炭よりも燃焼時にクリーンだとしてエネルギー転換の「つなぎ」として使われがちだが、20年間の温室効果ガス排出量では、LNGは石炭に比べて33%も大きい。天然ガスの掘削作業によるメタン漏れが推定をはるかに上回っていること、パイプラインによる輸送時に大量の排出があること、液化・タンカーによる輸送を含めれば石炭よりもはるかに大きなエネルギーを要することなどが指摘されている。LNGの使用を終わらせることは世界的な優先事項であるべきと研究者は主張しており、気候科学者は石炭と天然ガスはどちらも排除する必要があると述べた。

 世界的には天然ガスからの撤退が進められている中、貴社は本事業について「出資会社である東京ガスを通じてより多くのお客様に安価かつ環境負荷の小さい電気を安定してお届けすることを目的」(準備書p.2.1-1(3))としているが、これらの研究を踏まえれば天然ガス事業を環境負荷が小さいと主張することは、明らかにグリーンウォッシュである。天然ガスを利用し続けることは気候に甚大な影響を及ぼす可能性があり、貴社はほかのLNG事業とあわせて本計画から撤退するべきである。

2024年10月ガーディアンによる報道:https://www.theguardian.com/us-news/2024/oct/04/exported-liquefied-natural-gas-coal-study

2024年3月スタンフォード大学による報道:https://news.stanford.edu/stories/2024/03/methane-emissions-major-u-s-oil-gas-operations-higher-government-predictions

 さらに、メタンは、強力な温室効果ガスでもあり、その効果は二酸化炭素の25倍に達するとされている上、ガス田、貯蔵タンク、パイプラインといったガス供給インフラのあらゆる段階で漏出していることが指摘されている。漏出量は生産・供給される量の1.5~4.9%になるとの研究結果も報道されており、LNGガス火力発電所の燃焼におけるCO₂排出量が石炭より少ないからといって、LNGガス火力を脱炭素電源と位置付けること自体が問題である。

2023年7月nprによる報道:https://www.npr.org/2023/07/14/1187648553/natural-gas-can-rival-coals-climate-warming-potential-when-leaks-are-counted

⑤e-methane(合成メタン)、水素、CCSの運転開始時期が不確定で遅い

 事業者は「(出資会社である)東京ガスは、「CO₂ネット・ゼロへの挑戦」を掲げ、電力分野においては、再生可能エネルギーの取扱量拡大と共に、ガス火力についてもe-methane(合成メタン)、水素、CCS(Carbon dioxide Capture andStorage)等のあらゆる選択肢の活用を検討し、ゼロエミッション化を目指す方針を宣言している」とし、「東京ガスグループの一員である当社は、現時点で発電事業者が実装可能な対応として、本事業においては実証段階にある水素混焼が可能な最新のガスタービンを採用し、水素インフラ整備後には発電設備の大規模な工事を必要とせずに水素混焼を可能とする計画」(準備書p.2.1-1(3))としている。

 しかし、事業者が脱炭素電源オークションの落札に際して電力広域的運営推進機関(OCCTO)に提出している脱炭素化ロードマップを見ると、燃料種または脱炭素化技術としてe-methane(合成メタン)、水素、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)のいずれを採用した場合も運転開始は早くても2040年代前半を見込んでおり、2030年の稼働開始から10年以上従来のLNGによる発電が行われることとなる。2023年のG7広島サミットで合意された、「2035年までの完全又は大宗の電力部門の脱炭素化を図る」こととは全く整合しない。またe-methane(合成メタン)および水素の混焼、CCSによるCO₂回収等の開始想定時期は同業他社の開始時期と比べても10年近く遅いものであり(JERA知多火力発電所7、8号機脱炭素化ロードマップ参照)、その妥当性について事業者は説明すべきである。

脱炭素化ロードマップ

袖ケ浦火力(PDF):https://www.occto.or.jp/market-board/market/jitsujukyukanren/boshuyoukou_long/files/2023_tokyogas_chibasodegaurapowerstation1goki.pdf

知多火力7号機(PDF):https://www.occto.or.jp/market-board/market/jitsujukyukanren/boshuyoukou_long/files/2023_jera_chitakaryokuhatsudensho7goki.pdf

知多火力8号機(PDF):https://www.occto.or.jp/market-board/market/jitsujukyukanren/boshuyoukou_long/files/2023_jera_chitakaryokuhatsudensho8goki.pdf

 また早くても2040年代前半となる稼働開始時に想定されている混焼率または回収率は、合成メタンで10%混焼、水素で20~50%混焼、CCSでは回収率50%である。合成メタンや水素の原料の製造・輸送過程や、CCSの実施に際して二酸化炭素の分離、輸送、貯留に必要となるエネルギー消費に伴う温室効果ガスの排出を考えれば、実質的に温室効果ガスの削減にはならないのではないか。これらの手段によって想定される削減効果を事業者は具体的に示すべきである。

⑥高まる再エネ需要への対応を

 2019年に袖ヶ浦パワーが設立された時点では、東京ガスと九州電力が50%ずつ出資をし、事業計画を作成していたが、九州電力は2022年6月に本計画から撤退する方針を発表している。撤退方針発表時の九州電力のプレスリリースには「燃料市場、電力市場を含め当該プロジェクトを取り巻く諸情勢を総合的に判断した結果」と記されているが、ガス供給の安定性に加えて、再生可能エネルギーが普及することで火力の稼働率が下がり、採算性が低下する可能性も考慮したものと見られる。再エネ大量導入には、蓄電池増強、ディマンドリスポンス(DR)など電力網の柔軟性強化が求められており、火力による調整は既存の電源で最低限で賄うべきだ。政府は今後の電力需要の増加を見越しているが、RE100に加盟している多くの日本企業が再エネの拡大を要望していることを踏まえれば、化石燃料によって作られた電気の需要は減少し、その経済性は悪化する可能性が高い。日本政府は、独自解釈でガス火力を「脱炭素電源」と主張して本計画を単独で継続するよりも、再生可能エネルギーの供給にシフトすべきである。

⑦アセス図書の公開をするべき

 環境影響評価にかかるアセス図書は、事後でも検証できるよう公開が環境省から呼びかけられており、実際に以下の通り、公開に応じる事業者もみられる。

・環境影響評価情報支援ネットワーク:http://assess.env.go.jp/2_jirei/2-5_toshokokai/index.html

 さらに、環境アセスメント学会からも、環境アセスメント図書の制度的公開について提言がなされている。この提言の「(2)著作権との調整と公開の制度的位置づけ」によれば、アセス図書は「そもそも環境影響評価法の義務に基づいて作成されたものであり、事業者にアセス図書作成のインセンティブを与える必要性とは特に関係しない」、「公的環境情報も用い、制度に基づいて提出された市民等の外部の意見や情報も取り入れて関係者と知見を共有して作成された公的文書である」。したがって「著作権についての利益保護以上に公開の義務づけによる国民的利益が大きい」。

・環境アセスメント図書の制度的公開について(提言):https://www.jsia.net/3_activity/proposal/230508_proposal.html

 発電事業は公共事業であり、事業者は責任を持ち情報開示に応じる必要がある。今回を機に情報開示を徹底していただきたい。

参考

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