Kiko」は、温暖化問題の国際交渉の状況を伝えるための会期内、会場からの通信です。

会議場通信 Kiko バクーNo.2(2024年11月15日) 

資金の日 先進国からの野心的な資金援助を求める多様なアクション

COP29の第1週も半ばに差し掛かり、各交渉議題では、第2週の閣僚級会議に向けた議論が続いている。各国代表団の意見や見解がまとめられた交渉テキストをたたき台に、文章を整理していく作業の真っ最中で、今週末に閣僚級会議に送る文書の完成を目指す。

11月12日~13日の世界リーダーズサミットが終わり、ようやく14日から市民社会が交渉団にメッセージを伝えるアクションが本格的に始まった。14日のCOP会場には、朝早くから多くの参加者が集まり、資金にちなんだアクションを行った。ちなみに、COP29では、各日にテーマが設定され、そのテーマにちなんだイベントが数多く開催される。11月14日は「資金の日」。COP29は「資金のCOP」ということで、世界リーダーズサミットの直後に設定されたようだ。

Climate Action Network(CAN)などが主催する 「Climate Finance Invoice」というアクションでは、先進国からの資金援助を求める声があがった。長さ10メートルに及ぶInvoice(請求書)には、先進国がこれまでに気候危機を引き起こしてきた”債務”を支払うべきだとして、途上国に対し、緩和、適応、そして損失と損害を含め、年間1〜5兆米ドルを支払う必要があると記されていた。

ACT Allianceなどが主催する「Climate Financed Unwrapped」のパフォーマンスでは、先進国による有償資金協力(ローン)や民間資金の擁護に対する批判、また1,000億ドルの気候資金の約束が守られなかった点などが触れられた。そのうえで、無償資金協力(グラント)や公的資金による支援などを求め、会場を行きかう人々にメッセージを伝えていた。

この日は交渉会議をしている部屋にまでアクションの声が聞こえてくることもあった。COP会場でアクションをするにはさまざまな制限もあるが、交渉会議のすぐそばで市民社会が声を上げることも重要なイベントの一つである。

Climate Finance Invoiceの様子
Climate Finance Invoiceの様子
Climate Financed Unwrappedの様子

危機的な状況を迎える前に、化石燃料からの脱却を確実に

11月12日、ハーグ高等裁判所はシェルに対する訴えを退けたが、危険な気候変動からの保護は人権であること、シェルのような気候変動に影響を与える企業には国の法に定めがなくても排出削減の義務があること、そしてシェルは化石燃料生産者として特別な責任を負っていることを明らかにした。日本の若者気候訴訟の被告企業(主要電力会社10社)にもいえることだ。そのためには政府が1.5℃目標に整合した野心的な目標とロードマップを掲げ、実現のための実効性のある施策を導入することが欠かせない。

14日には、COP27(2022年)で国連の専門家グループが発表した、企業等の非国家アクターのネットゼロ宣言への提言のふりかえりイベントが開催された。イベントでは、COP27での提言発表後、企業等の取り組みに一定の進捗は見られるものの、彼らの自主的な行動頼みでは、気候変動対策のスケールが十分に拡大されないので、制度作りなどが必要だと指摘する発言があった。

グテーレス国連事務局長はイベントの締めくくりに「ネットゼロ社会への移行は避けられない。だが、様々な障害により時期が遅れてしまえば、この地球は危機的な状況を迎える」と今すぐの行動を促した。危機的な状況を迎えつつある今、各国政府はこのバクーの地で、資金、緩和など様々な面から化石燃料からの脱却や再エネの拡大、省エネを確実に進めるための合意を追求すべきだ。

※ハーグ控訴審判決についての気候ネットワークプレスリリースはこちら

バクーは化石燃料のない余生を与えてくれるのか? (eco抄訳11/13)

11月12日、オランダ・ハーグ高等裁判所は、Milieudefensieが石油大手シェルを訴えた画期的な気候訴訟に判決を下した。裁判所は、シェルはパリ協定に整合するようにCO2排出量を削減する人権上の義務があることを明確に示した。

しかしECOは、2021年の地裁判決を覆し、シェルの言い分を認めたことにひどく失望した。これは死に物狂いになっている業界にとっての命綱となるようなものだ。ECOが知る限り、地裁判決は石油およびガスへの新たな投融資が国際的な目標とは相容れず、人権上の義務に違反する可能性があると裁判所が認めた初めてのケースだからだ。

各国は2025年までに、化石燃料を公正かつ公平にフェーズアウト(段階的廃止)するための経路を設定しなければならない。非国家アクターもまた、化石燃料事業を新たに拡張しないことを手始めに、新たな国が決定する貢献(NDC)にもとづいてサプライチェーン全体の排出量排出量を削減しなければならない。

各国がNDCで着実な削減目標を示さなければ、市民は司法に訴えるだろう。既にそうした気候訴訟の動きは各地で起きているし、大手石油・ガス企業を訴える動きも高まっている。11月12日には、英国で英領北海ローズバンク油田とジャックドーガス田での掘削計画に反対する人々がシェルを提訴した司法審査が行われている。

交渉担当者は、裁判所の判断に委ねるか、あるいは踏み込んで化石燃料のフェーズアウト計画を含めた確実性のあるNDCを定めるかの選択を迫られるわけだ。もちろん、ECOは後者となることを願っている。

※ECOは、気候変動問題に取り組むNGOの国際ネットワークClimate Action NetworkがCOPなどで発行しているニュースレターです。

ブラジルの新たなNDCは、まるでシュレーディンガーの猫 (eco抄訳11/14)

COP30のホスト国としてUAE(COP28議長国)、アゼルバイジャン(COP29議長国)と「COP議長国トロイカ」の一員であるブラジルが、次期NDCを発表した。しかも、約束通り予定より早く発表したわけだ(拍手!)。ECOは、シュレーディンガーの猫のパラドックスを彷彿させるこの44ページの文書に目を通した。何が言いたいかといえば、このNDCは満足できる程度に野心的ではあるが、同時に驚くほど野心的ではないということだ。

最初に指摘したいのは「削減幅(bandwidth)」の問題だ。削減目標が1つではなく、2つある。1つは850MtCO2(2005年比で59%削減)で、もうひとつが1.050MtCO2(同じく2005年比で67%削減)だ。これはベルギーの排出量に匹敵するほどの差だ。ブラジル政府は、最も野心的な数字を目指すと言っているが、NDCからはそう読めない。死んだ猫と生きている猫の両方が同時に存在している、まさにシュレーディンガーの猫状態だ。森林伐採も同じく、ルーラ大統領が約束したように、ゼロになるか、ならないのかのいずれかだ。

ブラジルは化石燃料の生産については沈黙を守っている。しかし、NDCにはお宝が隠されている。それは「先進国が主導して、公正かつ秩序正しく公平な方法で、エネルギーシステムにおける化石燃料からの脱却のスケジュールを具現化するための国際的な取り組みを始めることを歓迎する」というものだ。ブラジルの機転の利く外交官たちが、この言葉を実行に移し、COP30の場を利用して化石燃料の段階的廃止を進めるなら、箱の中の1.5℃という猫は生き残れるかもしれない。

※シュレーディンガーの猫のパラドックス
量子学的に相反する状態が重なり合って存在するという説を、箱に入れられた猫の生死を確認するまでは(生きている猫と死んでいる猫の)両方の状態が存在している、と表したもの

ECOは、気候変動問題に取り組むNGOの国際ネットワークClimate Action NetworkがCOPなどで発行しているニュースレターです。

会場通信Kiko COP29 CMP19 CMA6 No.2

2024年11月15日 アゼルバイジャン共和国 バクー発行
執筆・編集:浅岡美恵、鈴木康子、榎原麻紀子、稲葉裕一、森山拓也、ギャッチ・エバン、中西航、田中十紀恵