Jパワーが一部石炭火力休廃止を発表
5基では不十分、1.5℃目標に整合する脱石炭の方針を打ち出すべき

2024年5月13日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵

 Jパワーは5月9日発表の中期経営計画の中で、国内火力トランジションの方向性として、2030年度までに松島火力1号機、高砂火力1・2号機の廃止を明らかにした。いずれも、稼働開始から40年~50年が経過する老朽非効率石炭火力であり、実質的に休止状態にあったものと思われる。また、竹原火力3号機(1983年)と松浦火力1号機(1990年)については休廃止もしくは予備電源化予定としている。これらも稼働開始から33年~40年が経過し、排出係数の高い発電技術(SC:超臨界)を用いた非効率石炭火力発電所であり、速やかに廃止すべきものである。
 また、現在同社が直接保有する磯子火力1,2号機、竹原火力1号機、橘湾火力1,2号機、松島火力2号機、石川火力1,2号機及び、共同出資会社である鹿島パワーが運営する鹿島発電所2号機の石炭火力について、水素またはアンモニア混焼、バイオマス混焼拡大、石炭ガス化複合発電(IGCC)とCO₂回収貯留(CCS)の導入方針が示されているが、その時期は2035年以降で、なお曖昧であり、その中には1980年代に建設された石炭火力発電所もある。
 Jパワーはこの中期経営計画で、ようやく石炭火力発電所のうち、老朽石炭火力の一部のフェードアウトを表明し、それ以外の石炭火力についての今後の方針を示したものであるが、廃止ないし休廃止・予備電源化を示した石炭火力発電所は5基(計2,700MW)に過ぎず、これらはJパワーが国内で保有する石炭火力の設備容量(計9,224MW)のうち約3割弱に止まる。それ以外は利用を継続するとするものであり、その方向性には以下の問題がある。

1.1.5℃目標や国際合意に整合しない

 1.5℃目標の達成のために2030年までに温室効果ガス排出量をほぼ半減させることが必要であり、IEAのネットゼロシナリオは、先進国が2030年までに削減対策のとられていない石炭火力を廃止することを求めている。今回のG7気候エネルギー環境大臣会合のコミュニケでも「2030年代前半、または各国のネット・ゼロの道筋に沿って気温上昇を1.5℃に抑えられるスケジュールで、エネルギー・システムにおける既存の排出削減対策がとられていない石炭火力発電を段階的に廃止する」と合意された。今回のJパワーのトランジションの方向性はこれらに整合していない。

2.2035年以降も多くの石炭火力を延命

 今回Jパワーが示した「方向性」では、7割の石炭火力を存続させる。しかし、それらへの水素、CCSの導入予定は竹原1号機のバイオマス混焼拡大+CCS、松浦2号機のアンモニア/CCS、橘湾1・2号機のアンモニア混焼は2030年より先に過ぎず、それ以外の発電所については2035年より先でしかない。

3.不確実な技術で環境適合性(CO₂削減)、実現性が乏しい

 想定されている水素、アンモニア、およびバイオマス混焼やCCSなど導入予定の技術にも多くの問題が指摘されている。
 第1に、IGCCについては石炭火力発電技術の中では高効率であっても、そのCO₂排出係数はLNG火力の約1.5倍であり、排出削減効果は低い。しかも、現状でIGCCが導入されている石炭火力発電所は頻繁に稼働停止するなど、安定性に欠けている。
 第2に、水素・アンモニアについては、化石燃料由来の水素・アンモニア混焼に排出削減効果は殆ど認められないことはかねて述べてきたところである。現状想定されているCO₂排出係数(3.4kg-CO₂/H₂)であっても20%混焼による削減効果は殆どない。
 第3に、バイオマス混焼についても、排出削減にならず、燃料の入手先における生態系への環境破壊や人権侵害等、様々な問題がある。
 第4に、CCSについては、IPCCによる国際的な定義で、排出するCO₂の90%以上が回収されている必要があるが、そのような水準でのCO₂回収・貯留は見込まれていない。貯留先の確保、高濃度CO₂を扱う事の安全性、貯留後の安定性や漏洩の可能性など多くの問題がある。
 第5に、水素、アンモニア、バイオマスなどの調達は大きく輸入に依存した計画であり、輸送における温室効果ガス排出も加わり、燃料の国外依存というエネルギー安全保障上の問題は解決できない。

4.いずれもコストアップに、ひいては消費者の電力料金引き上げに

 言うまでもなく上記の技術導入や燃料転換、CO₂の処理には多額の投資が必要となり、それらは電気料金に転嫁される形で消費者負担の上昇につながる。

 Jパワーは、設備容量の規模が国内第2位の発電事業者で、発電ポートフォリオの約34%を石炭が占めている。真のカーボンニュートラルの実現に向け、石炭火力発電の延命にかかる資金を再生可能エネルギーへの転換に向けるべきである。また政府は、着実に石炭火力の廃止を進めると共に、公正な移行に向けた地域支援を始めるべきである。

参考

<Jパワーの石炭火力発電所一覧>
発電所名所在地最大出力(MW)運転開始
磯子 新1号機
   新2号機
神奈川県横浜市1,200
(600×2)
2002.04.01
2009.07.15
高砂 1号機
   2号機
兵庫県高砂市500
(250×2)
1968.07.01
1969.01.18
竹原 新1号機 
3号機
広島県竹原市600
700
2020.06.30
1983.03.18
橘湾 1号機
   2号機
徳島県阿南市2,100
(1,050×2)
2000.07.27
2000.12.15
松島 1号機
   2号機
長崎県西海市1,000
(500×2)
1981.01.16
松浦 1号機
   2号機
長崎県松浦市2,000
(1,000x2)
1990.06.29
1997.07.04
石川 1号機
   2号機
沖縄県うるま市312
(156×2)
1986.11.07
1987.03.06
<Jパワー共同出資会社運営の石炭火力発電所>
発電所名所在地最大出力(MW)運転開始運営会社
鹿島 2号機茨城県鹿嶋市6452020年7月鹿島パワー(株)
土佐高知県高知市1672005年4月土佐発電(株)
<今回の休廃止対象の石炭発電所>
発電所名所在地最大出力(MW)運転開始
高砂 1号機
   2号機
兵庫県高砂市500
(250×2)
1968.07.01
1969.01.18
竹原 3号機広島県竹原市7001983.03.18
松島 1号機長崎県西海市5001981.01.16
松浦 1号機長崎県松浦市1,0001990.06.29

全発電所最大出力合計=9,224MW
休廃止対象発電所の最大出力合計=2,700MW

資料

Jパワー中期経営計画(2024年5月9日)

水素・アンモニアQ&A

CCS(CO₂回収貯留) Q&A

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