このページではCCSに関するよくある質問をまとめています。

Q:そもそも、CCSとは何ですか?

Carbon Capture and Storageの略で、二酸化炭素回収貯留と訳されます。
CCSは大きく分けて分離回収、輸送、貯留の3段階に分けられます。
・分離回収の段階では、排出源で化石燃料の燃焼によって生じる排ガスから二酸化炭素(CO₂)を何らかの方法※で分離します。
※現在一般的な方法はアミンを用いた化学吸収法で、他にも膜分離や物理吸着といった方法も研究開発されています。
・輸送の段階では分離回収地点から貯留サイトまで、その距離や立地に合わせてタンクローリー、船舶、パイプライン等で運びます。
・貯留の段階では、圧入井と呼ばれる二酸化炭素を圧力をかけて送り込む施設を通じて、地下または海底下の貯留層に注入します。

出典:2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討より作成

Q:世界のCCSの現状は?

 世界のCCSプロジェクト情報を収集しているGlobal CCS Instituteが2023年に発行したレポートによれば、CCS施設が稼働中のものが41ヶ所、建設中が26ヶ所、計画段階のものが325ヶ所となります。これらのCCS施設の中で、現在稼働中の41施設を見ると、分離した二酸化炭素の圧入によって原油の採掘量を増やす石油増進回収(Enhance Oil Recovery: EOR)が行われているのが29ヶ所あります。これらの施設で行われているCCSは結果的により多くの化石燃料の生産および利用につながることから、大気中からのCO₂の削減にはつながりません。

 また、地層への貯留のみを行う(Dedicated Geological Storage: DGS)施設が12ヶ所ありますが、それらの内、施設全体では天然ガスの精製や化学プラントなど、化石燃料を利用する産業の施設が8ヶ所、石炭火力発電所に付随する施設が1ヶ所あります。それらの施設のCO₂の回収率は100%ではないことから、これらの施設で行われるCCSも大気中のCO₂の増加につながります。残り3施設の内2ヶ所はアメリカでバイオエタノールの生産に伴うCO₂のCCSを行っている施設ですが、原料栽培時や燃料製造時の温室効果ガス排出、そして食料生産との競合を考えると、その実質的な削減効果や社会への影響を検証する必要があります。従って現在大気中からのCO₂の削減に確実につながると考えられるCCSを行っているのは残りの1ヶ所、アイスランドで地熱を利用して直接大気中からCO₂を回収して貯留している施設のみとなります。

Q:日本政府のCCSの計画は?

 2023年3月に発表されたCCS長期ロードマップ検討会最終とりまとめでは、「2050年時点で年間約1.2~2.4億tのCO₂貯留を可能とすることを目安に、2030年までの事業開始に向けた事業環境を整備 しコスト低減、国民理解、海外CCS推進、CCS事業法整備、2030年以降に本格的に CCS 事業を展開する」(P.12)ことを目標としています。そしてこの目標に基づき、政府は2030年から2050年の20年間に年間50万トン圧入可能な圧入井を年12本〜24本のペースで増やして行くことが必要と試算しています。

出典:CCS長期ロードマップ検討会最終とりまとめ説明資料

そして具体的なプロジェクトとしては2023年6月にJOGMECが「先進的CCS事業」として以下の7事業を選定しています。

出典:経済産業省HP(日本のCCS事業への本格始動~JOGMECが「先進的CCS事業」を選定しました~

Q:CCSで脱炭素化は出来るの?

 現在世界で稼働中のCCS施設の大半が石油増進回収(EOR)を伴うもので、それらはさらなる化石燃料の採掘、利用につながります。また、CCS施設が石炭火力発電所や化石燃料を利用する他の産業のプラントに設置されるものであれば、それらは設置前に比べて排出の抑制はしても化石燃料の継続的利用につながります。そのような形でのCCSの利用はあくまでも脱炭素化に目処がつくまでの便宜的な手段と考えるべきです。特に石炭火力発電所は太陽光発電のような低コストの再エネ発電技術がある中で、CCSを行ってまで継続すべきものではありません。

Q:政府のCCSの目標はそもそも実現可能なの?

 政府は2050年時点で必要とするCCS貯留量を年間約1.2億トン~2.4億トンとし、2030年から2050年までの20年間で、50万トンの圧入井を毎年12本~24本ずつ増やしていく必要が生じるとしています。また、日本の周辺海域などに11地点約160億トンの貯留可能量があるとも推定しています。
 しかし、これまでの日本国内でのCCSの実績は実証試験で3年かけて30万トンの圧入をしただけです。また貯留候補地に関しても広大な地域、海域を含むエリアを示したにすぎません。実現可能性が非常に危ぶまれる目標で、再検討が必要です。
 また、現在プロジェクトとして検討されているマレーシアへのCO₂の輸送および貯留のように、日本で出たCO₂を海外に運んで行うCCSは、歴史的に見て日本のような経済発展の過程で多くのCO₂を排出してきた国がより重い責任を負うべき温室効果ガス削減努力を他国に押し付けるものであり、気候正義の原則に反するものです。

Q:CCSはどれくらいコストがかかるの?

 CO₂の削減手法を考えるうえでコストは重要な要素ですが、IPCCの第6次評価報告書第III作業部会報告書ではCCSはライフタイムコストが高く、2030年段階での排出削減に貢献しない技術と書かれています。

出典:IPCC第6次評価報告書第III作業部会報告書

 CCS長期ロードマップ検討会最終とりまとめ(以下最終とりまとめ)に記載されている資料(RITE CCSバリューチェーンコスト)の試算でも、日本国内の貯留で最も見込まれるケースである船舶での輸送と海底下への貯留の場合、20,200円/tCO₂と非常に高額となっています。
 また今後のコストダウンの可能性についても、これまでの政府の取り組みではCCSのコスト削減目標を達成できないことが続いています。例えば現在最も大きなコスト削減が見込まれている分離回収コストを見ると、2015年段階では2020年には2,000円/tCO₂を目指していたものが(次世代火力発電に係る技術ロードマップ 技術参考資料)、7年後に作成された資料(RITE CCSバリューチェーンコスト)では達成時期が10年後ろ倒しされて2030年となるなど進捗が見られず、実現可能性が低いと言わざるを得ないでしょう。
 政府としては最終とりまとめに記されている国内貯留での試算だけでなく、国外貯留も含め、より具体的な根拠に基づく試算を行ってライフタイムコストを示すべきでしょう。

Q:CCSは安全なの?

 地震国であり、地下活動が活発な日本の地底や海底下にCO₂を貯留することは、その安定性に大きなリスクを抱えることとなります。また海外ではEORで注入したCO₂が噴出する事故で作業員が病気になったり、CO₂パイプラインの事故に伴う地元住民の健康被害なども生じたりしているなど、高濃度CO₂には安全上様々なリスクがあります。さらに現在検討されているプロジェクトのように、日本から輸出したCO₂の海外貯留でそのような事故が発生すれば、道義的にも大きな責任を負うこととなります。

Q:二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)案はどのような法案ですか?

 この法案は、CO₂の貯留をするための試掘・貯留事業の許可制度の創設、試掘・貯留事業の実施計画の認可制度の創設を定めるものです。この法案では経済産業大臣が、貯留層が存在する可能性がある区域を「特定区域」として指定した上で、特定区域において試掘やCO₂の貯留事業を行う事業者を認可します。試掘・貯留の実施計画を策定して経済産業大臣の認可を受けた事業者は、 試掘や貯留事業を行うことが認められる一方で、貯留層の温度・圧力等のモニタリングや、 貯留停止後に必要な引当金の積立て等が義務付けられます。しかしその期間は一時的で、 貯留したCO₂の挙動が安定したと確認されればモニタリング等の貯留事業場の管理業務をJOGMECに移管することとなっています。

Q:CCS事業法案にはどのような問題があるの?

 CCSはすでに述べたように、世界でもEOR(石油増進回収)などの実施が中心で、日本では実用化に程遠い状況です。また高濃度CO₂は生命を危険にさらすリスクが高い物質です。そして貯留が失敗し、CO₂が漏れ出た場合のリスクは気候変動にとって取り返しがつかないほど大きなものとなる可能性があります。そもそもこの法案の前提となるべき地震大国日本における地下貯留の適地は、非常に広大な地域、海域が示されているのみです。そのような状況にもかかわらず、今回の法案は認可された事業者に試掘権や貯留権を与え、特定区域および特定区域外でも事業を実施することができるようにするものです。なおかつ、半永久的に必要なモニタリングについては、終了後エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)に責任を移管する形となっていることも、事業者の責任を極めて限定的なものとするもので、問題です。

Q:CCS事業法案に必要な修正点はどのようなものですか?

この法案に対して気候ネットワークは以下の4点の修正を提言しています。

1.CCS事業は環境アセスメントを実施すること
 本法案では、試掘・貯留事業にあたって事前に環境アセスメントを実施することとされていません。地中数キロメートルもの掘削をし、CO₂を圧入し、安定化させるというすべての行為が環境に大きく負荷を与えるものであり、事前に環境アセスメントを実施するべきです。また許認可にあたっては、事前に安全性や環境保全の観点から客観的に評価する体制が不可欠です。

2.発電分野で発生するCO₂は対象外とすべき
 発電分野は、再生可能エネルギーへの代替が経済的にも安価でポテンシャルも高く、脱炭素化が容易な分野です。電力分野の脱炭素化は、2030年から事業に着手するというようなCCS事業のスピード感とは相いれず、再エネシフトに注力すべきです。CCSの技術等が将来的に確立することを期待して、CCSを前提に火力発電で使い続けることは、CO₂排出の固定化にしかならず、気候変動対策に逆行します。

3.貯留事業場のモニタリング等は事業者が責任を持って対応すべき
 法案は、貯留後の継続的に必要なモニタリングをJOGMECに移管するような体制としています。しかし、貯留したCO₂は、永久的に地中にとどめておくことが必要で、その永続的な保管に対しての責任を伴った上で、事業者は事業を行うべきであり、安易に責任を移管するべきではありません。

4.高コストでリスクの高いCCSは極めて限られた分野に限定すべき
 CO₂削減策としては、電力分野の再エネシフト、その他エネルギー分野においても電化や再エネ導入を優先的に行い、CCSの導入は、どうしても技術的に不可能な分野に限定すべきです。

より詳しく知りたい方

プレスリリース:
【プレスリリース】水素社会推進法案とCCS事業法案を閣議決定~再エネ代替がある電力分野(火力)はすべて対象外とすべき~(2024年2月13日)
【意見書】産業保安基本制度小委員会/カーボンマネジメント小委員会「中間取りまとめ(案)CCS に係る制度的措置の在り方について」に対する意見(2024年1月5日)

ポジションペーパー:
【ポジションペーパー】 CO2 回収・利用・貯留(CCUS)は魔法の杖ではない:日本においてもアジアにおいても気候変動政策の柱にはなり得ない(2023年1月)


ファクトシートJapan Beyond Coal):
【ファクトシート】二酸化炭素回収貯留(CCS)ーその甚大なリスク

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