2022年度温室効果ガス排出・吸収量の公表にあたって
-「過去最低記録」でも対策は不十分 長期的視野で効果的な対策を講ぜよ-

2024年4月16日
特定非営利活動法人気候ネットワーク
代表 浅岡美恵

 2024年4月12日、環境省は2022年度の我が国の温室効果ガス排出・吸収量を公表した。排出量はCO2換算で約10億8,500万トンとなり、2021年度比2.3%減少(▲約2,510万トン)、2013年度比22.9%減少(▲約3億2,210万トン)とされた。この排出量は「過去最低値を記録」したとして、「オントラック(2050年ネットゼロに向けた順調な減少傾向)」だと説明している。そして、これらの要因として、「コロナ禍からの経済回復により輸送量が増加し、運輸部門の排出が増加した一方、産業部門、業務その他部門、家庭部門等については節電や省エネ努力等の効果により、各部門の排出量は減少したと考えられる」と分析している。

 また、2004年以来、年々増加していたハイドロフルオロカーボン類(HFCs)の排出量がはじめて減少したことも明らかになった。さらに、今回から世界で初めて、海草藻場・海藻藻場といったブルーカーボン生態系における吸収量を約35万トンと算定、報告したことや、環境配慮型コンクリートによる吸収量(CO2固定量)として合計約 17トンを報告したことが公表されている。

 今回の結果を受けて、以下5点を指摘しておきたい。

 第一に、環境省は今回の排出量を「2050年ネットゼロに向けた順調な減少傾向」を「オントラック」だとして、現時点での削減が十分であるかのように評価している点である。1.5℃目標の実現には2030年までに世界全体のCO2排出量を2010年比で約半減させる必要がある。先進国である日本の2030年目標(2013年度比46%削減)は、1.5℃目標に対して「不十分」であり、60%以上の削減が求められている。1.5℃目標に合意する日本として、この削減経路に沿っているかどうかを評価軸とするべきである。実際、2023年の世界の平均気温が1.45℃上昇したことが報告されており、ほとんど残余バジェットがない中、現状の削減量で十分だとするような評価をすべきではない。

 第二に、1990年以降で排出量が最低値となったことは、決して気候変動政策の効果ではなく、あくまでも人口や世帯数の減少などを背景とする自然減の範疇と、環境省も指摘する国民の「節電や省エネ等」の結果だったという点である。この間、産業部門では対策を業界の自主行動計画にゆだね、石炭火力の新規建設は増加の一途をたどり、カーボンプライシングも導入されず、効果的な排出規制はとられなかった。また運輸部門では、2022年1月からガソリンの補助金制度を導入、他国のようなEV化の加速を促さなかった。こうした状況から、国際的合意にあるような「電源の脱炭素化」「石炭火力のフェーズアウト」「再エネ3倍、省エネ2倍」に必要な施策は何一つとられてこなかった。2020年以降に国際合意に基づく積極的な気候変動政策を実施していれば、もっと大幅な削減ができた可能性は高く、また今後のさらなる削減の加速にもつながっただろう。

 第三に、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)の排出量がはじめて減少した点についてである。これは、HFCsの用途の大半を占める業務用冷凍空調機器の冷媒を、2013年のフロン排出抑制法の制定以降、HFC32(GWP=771)等への転換を進めてきた結果、それまで主に使用してきたHFC410A(GWP=2,256)やHFC404A(GWP=3,920)の使用が減ってきたことなどが要因として考えられる。しかし、10余年を経てようやく減少(2021年比で1.6%減少)に転じたという状況は、地球温暖化対策計画などで2030年目標とする2013年度比マイナス44%にはほど遠い状況だ。本来とるべき冷媒のノンフロン化、フロン回収率の向上などが進んでおらず、対策の見直しが必要である。

 第四に、ブルーカーボンにおける吸収量の算定についてである。現在、浅海の岩礁・転石域においては、藻場が季節的消長や多少の経年変化の範囲を超えて著しく衰退または消失して貧植生状態となる「磯焼け」現象が大変深刻な問題となっており、各地で報告されている。こうした状況からその回復に向けた取り組みが推進されることは重要な取り組みだが、温室効果ガスの吸収量として算定することは慎重になるべきである。藻場の育成あるいは回復には時間がかかることに加え、気候変動や海水温の上昇などに直接的にさらされているブルーカーボン生態系が破壊(消失)された場合に貯留されていた炭素が再び放出されることで新たな排出源になるリスクも否定できず、一時的な対策で吸収量として算定することには慎重になるべきだ。

 第五に、「環境配慮型コンクリート」による吸収量の算定についてである。そもそもこれらは、原料としてセメントの代わりに製鉄所から排出される高炉スラグや石炭火力発電所から排出されるフライアッシュなどの副産物を使い、炭酸カルシウムに変換したCO2を混ぜこむ方法などを含み、結局大元でCO2が大量に排出されていることに変わりはなく「環境配慮型」などとするのは問題である。また、CO2を固定化することについても持続可能性などの検証が不十分な中で、CO2の吸収量を算定することに対してはもっと慎重になるべきである。

現状の気候変動対策を短期的に1.5℃目標に整合するよう見直し、2030年以降の取り組みでさらなる削減につながるような抜本的な方向転換が求められる。2025年のNDC提出に向け、現状の削減で十分であるかのような評価をせず、対策見直しに向けた議論を早急に進めるべきである。

以上

参考

環境省 報道発表資料:2022年度の我が国の温室効果ガス排出・吸収量について

環境省 2022年度の温室効果ガス排出・吸収量(詳細)(PDF)

特定非営利活動法人 気候ネットワーク

(京都事務所)〒604-8124 京都市中京区帯屋町574番地高倉ビル305号(→アクセス
(東京事務所)〒102-0093 東京都千代田区平河町2丁目12番2号藤森ビル6B(→アクセス
075-254-1011 075-254-1012 (ともに京都事務所) https://kikonet.org