気候ネットワークは、産業保安基本制度小委員会/カーボンマネジメント小委員会による「中間取りまとめ(案) CCS に係る制度的措置の在り方について」に対して以下の意見を提出しました。

1.CCSは「省エネルギー化や電化・水素化等による脱炭素化を最大限進めてもなお二酸化炭素の排出が避けられない分野で利用が検討される技術オプション」であって、とりわけ発電部門においてCCSの利用を前提とすべきでないこと

(1) 中間とりまとめ(案)(以下、本案という。)におけるCCSの位置づけは、「2050年カーボンニュートラル」に言及するのみで、1.5℃目標の実現のための2030年の排出削減等の削減の経路を看過ないし無視したもので、CCSの利用によって危険な気候変動への対応ができるかの誤解を国民に与えるものであること

いうまでもなく、地球沸騰化に直面し、危険な気候変動を回避するために、気温上昇を1.5℃未満に抑える努力を追求するとの日本も参加する国際合意(COP26及びCOP28決定)のもとに、そのための排出削減の経路として、温室効果ガスの排出量を2030年には世界全体で2019年比43%、2035年には60%の排出削減が必要であることが確認されている。CO₂では、2030年に48%、2035年に65%削減が必要とされている(IPCC第6次評価統合報告書)。CCSは、このような危険な気候変動を回避するための対策の一つとして議論されているものであるが、後述するように、2030年までにCO₂を確実かつ安定的に分離・回収、輸送、貯留できて商用化されている技術ではなく、高コストであり、2030年及び2035年までに必要な排出削減を実施するための方策は、既存の確立した技術である省エネルギーや再生可能エネルギーの導入を中心とするものである。とりわけ日本ではCCSの適地も限られ、地震などのリスクも高い。

しかるに、本案には、危険な気候変動についても、その回避についての1.5℃目標についても全く言及がなく、「2050年カーボンニュートラル」に「不可欠」、「CCSなくしてカーボンニュートラルなし」(P.3)との誤った前提をおき、「2050年カーボンニュートラル」の実現のみが現下の気候変動に対する対策であり、不当にCCSの重要性を誇張し、国民にその旨誤認させかねないものである。

(2) CCSの技術選択は、「省エネルギー化や電化・水素化等による脱炭素化を最大限進めてもなお二酸化炭素の排出が避けられない分野での利用が検討される技術オプション」であるが、大量のCO₂を排出し続ける火力発電事業でのCCSの利用を促進することを目的とすることは、石炭火力などの早期廃止の国際的要請に逆行するものであること

本案の、「2050 年カーボンニュートラルの実現のためには、省エネルギー、再生可能エネルギー、電化や水素エネルギーの活用などではCO₂ の排出が避けられない事業分野が存在する。この分野においても、確実にCO₂ 排出を抑制する必要があるが、CCS(二酸化炭素の地中貯留)はこれを解決するに当たり重要な取組」(P.3)であるとの記述につき、本案に「電化」の言葉が登場するのはこの箇所だけであるが、電化や水素エネルギーの活用などの後に「、」が加えられているため、「これを解決する」との「これ」とは何か明確でない。しかしながら、P.27には、2030年までに年間貯蔵量600万~1,200万トンの確保の目途をつける」として、2030年までに開始させる「先進的CCS事業」として7件を選定したとし、その中に火力発電所も加えられている。また、経済産業省の2050年の電源構成の参考値においては、原子力とCCSによる火力発電の割合を30~40%としていること、CCSを前提とする電力価格に言及していることなどに照らせば、本案は、CCSを省エネルギー、再生可能エネルギーと並ぶもの、もしくはより優れた技術と位置付け、「電化や水素エネルギーの活用」において「CO₂の排出が避けられない分野が存在」すると印象づけ、「CCSは発電においての重要な取組」とするのが本意と窺われる。これは国際的な石炭火力の早期廃止の要請に逆行するものである。

(1)で述べた1.5℃目標の実現に求められる削減の経路にてらせば、2030年及び2035年目標の実現のためには、省エネルギーや再生可能エネルギーの加速が最大の選択肢である(IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告)。別途のパブコメ募集中である「今後の海底下への二酸化炭素回収・貯留に係る海洋環境の保全の在り方について(案)」において、「省エネルギー化や電化・水素化等による脱炭素化を最大限進めてもなお二酸化炭素の排出が避けられない分野を中心に活用が見込まれる重要な技術オプション」(同P.1)と記載されているのは、技術選択における優先順位や規模を示すものとして適切である。なお、ここに、「電化・水素化等」とあるのは、CCSのことを指すのではないことは、文脈上も明らかである。電化とは、エネルギー源を化石燃料から電力に転嫁することであり、その電力や水素も、再生可能エネルギー起源とするものであって、CCS付帯の火力発電をいうのではない。

本案P.15においても、検討の方向性として「CO₂の排出削減が困難なセクターにおける脱炭素化に向けた取組を促す」こととしており、COP28決定でも、CCSは「排出削減が困難なセクターにおける技術」と位置づけられている。発電事業は「CO₂の排出削減が困難なセクター」ではなく、最初に実現することが可能なセクターである。  

しかるに、パブリックコメントを募集するにあたり、上記の欺瞞的な書きぶりによって発電部門におけるCCSの推進を見えにくくされており、国際社会の潮流に沿う提案であるかのように国民を誤導しかねないものである。発電部門でのCCS利用促進を必要とするのであれば、その必要性の根拠を示し、意見を求めるべきである。

(3) 本案の「CCSなくして、カーボンニュートラルなし」(P.3)について加えられている注記のIPCC及び英国の取組についての記述は不正確で、国民に誤解を与えるものであるので、訂正ないし補充されるべきこと

「CCSなくして、カーボンニュートラルなし」(P.3)との表現の問題については既に指摘したが、その注で引用しているIPCCの第6次評価統合報告書(Summary for Policymakers)には、ネットゼロに向けて、世界規模でモデル化された排出削減経路においてCCSが含まれているものの、あわせて、削減できる排出量は限られており、しかも高コストな手法であるとしている(P.27)ことも明記するべきである。

さらに同注で、英国政府の報告書における記載を引用しているが、英国の2030年削減目標は1990年比78%減であり(https://www.theccc.org.uk/wp-content/uploads/2021/10/Independent-Assessment-of-the-UK-Net-Zero-Strategy-CCC.pdf)、その達成に向けて2025年までに対策措置の取られていない石炭発電の停止(https://poweringpastcoal.org/members/united-kingdom/)、2035年までの発電部門の脱炭素化を公約しており(https://www.gov.uk/government/news/plans-unveiled-to-decarbonise-uk-power-system-by-2035)、本案において引用されている報告書において英国内での削減努力で達成することを目指すともしている(P.257)。即ち、発電におけるCCS利用は想定されていない。

他方で、日本は2050年ネットゼロを掲げるものの、2030年に46%削減(2013年比)にとどまり、石炭火力の廃止時期やフェーズアウト計画も示していないだけでなく、GX基本方針では石炭・天然ガス火力でのCCSの利用及びグレー水素・グレーアンモニア混焼の推進や、海外へのCO₂輸出など、発電における化石燃料利用の延命を図ろうとするものである。これらを注記するのであれば、その違いこそ、明記すべきである。 

2. 高濃度CO₂は毒性が高く、CCSの分離・回収、輸送、貯留に係る技術は確立されておらず、地震多発国である日本においてはとりわけ、国内のCO₂貯留適地の選定は厳格に行われるべきであること

(1)CCS事業のリスク、とりわけ地震の影響リスクを含む貯留の確実性の検討が不十分であること

高濃度CO₂の漏洩は極めて危険である、また、日本には油田やガス田跡地が乏しく、EORやEGRの手法でのCCS事業の適地はほとんど存在しないこと、及びこれまでの世界のCCS事業の実績はCO₂-EORやEGRによるものであり、石炭火力発電所に独立して設置されたCCSの事例は世界でも1ヶ所しかないこともよく知られている。

日本において予定されているCO₂-EORやEGRではないCO₂貯留事業は、より高コストであるだけでなく、近海や陸上部で大きな押出圧力をかけてCO₂と水とを置換させることで、地中に必ず存在する地層の弱線部には液状のガスや水が侵入し、新たな弱線を作ることになるリスクが大きい。本案でも、「CO₂-EOR、EGRに比して、地下構造・状況等を考慮することが必要であることから、・・CO₂の貯留に伴う地下構造の保護についての必要なリスクマネジメントの実施や貯留作業への反映を事業者に求めるべき」(P.21)としている。加えて日本では、分離・回収、輸送、貯留の各セクターにおいて地震のリスクへの対応が不可避であり、とりわけ貯留においては深刻である。しかし、本案には、それらについて何ら具体的な記載がなく、「リスクは十分に低下しており、実施すべきモニタリング内容も限定されていると『考えられ』(P.14)る」と、驚くべき楽観性である。

コストについても、本案に記載されたCO₂分離・回収コストの見込みは極めて高コスト(P.29)であるが、これも「苫小牧でのCCS 実証(陸上施設から傾斜井を通して海底下への貯留を行うケース)を基に試算しているが、日本では、苫小牧CCUS と同様のケースは貯留ポテンシャルが限られる可能性」(P.29)があると示されている。さらに、CO₂貯留には多くのリスクがあるため、人々が居住等で利用している陸地の大深度地下を利用して行う選択はありえず、海底下での貯留が想定されているようであるが、「貯留層の所在を推定するために活用可能な地質構造のデータは、石油・天然ガス探鉱のために取得されたものが利用されているに過ぎず、それらには沿岸地域のデータが乏しい」(P.30)というのである。パイプラインによる輸送時のリスクやコストもあり、どれだけのコストになるかの試算もできないのが実情というべきである。

(2)CCSによる国内の貯留適地は極めて限定的であることを前提とすべきこと

このように、日本における経済合理性のあるCO₂の分離・回収、輸送、貯留及び長期間にわたって安定的かつ確実に貯留できる適地は極めて乏しいというべきである。その意味でも、CCS事業を行うとしても、どうしてもその方法によらなければならないセクターに限られるのであり、発電事業の継続のためのCCS利用は前提となりえない。

実際、本案でも、「貯留事業に適した、CO₂を半永久的かつ安定的に貯留することができる地層構造(貯留層)は有限である」(P.16)など、有限性を各所で強調している。しかるに、本案は、上記のように沿岸地域での基礎データが乏しいと述べつつ、「(貯留)可能性のある地点として、これまで11地点約160億トンの貯留可能量が推定されている」(P.5、30)と記載し、3D 弾性波探査データと比べてデータ密度が粗い2D 弾性波探査データを用いて簡易的に評価したところ、2,400億トンの貯留ポテンシャルがあるとのRITEの極めて楽観的な推計も記載されている(P.30)。日本の残余のカーボンバジェットと算定されるCO₂量をはるかに凌駕するものであり、日本の現状でのCO₂排出量(約10億トン)に照らしても膨大である。しかし、CO₂貯留層賦存量マップとの名称の地図がCCS長期ロードマップ検討会中間とりまとめに掲載されているのみで、本案及び注に記載されている資料には、具体的な場所の記述も地図の掲載もない。適切な貯留地であるとの根拠を示さないまま、このような膨大な量の推計を記載しているのは、CCSの利用を促進させる狙いがあるというほかない。

さらに、「貯留サイト選定の段階では、必要な安全性を確保することが実質的に不可能な領域を避けるようにして決定された候補地のなかから、‥サイトキャラクラライゼイションに進めるサイトを選定する」(P.9)とし、「これにより、・・既存の情報に基づいて、安定的かつ安全に事業を行う上での様々な潜在的リスクを低減させることが可能になる」としている。CCSの抱える上記の多大なリスクに照らせば、「安全性を確保することが不可能な領域を避け」ればよいのではなく、「安全性が確保された領域を選定すべき」であることはいうまでもない。そのための検討が全く欠落したままではモニタリングも機能せず、その結果に対する信頼性もない。本案におけるCCSに係る制度化の提案は、このような楽観的な視点からCO₂回収・分離・貯留に係る事業者に特権を付与する制度を作出して公的支援を推進し、あわせて、CCSによるCO₂回収・貯留への期待願望をもって石炭火力の延命を正当化させることは論外である。

3.CCSの実施にあたっての制度の在り方について

(1) 法的制度の基本的枠組みについて

以上を踏まえれば、CO₂の貯留について一件ごとに許可制とすべきはいうまでもないが、分離・回収、輸送についても、一件ごとに許可制とし、その前提として、CCS対応の必要量を最新情報に基づいて検証し、輸送及び貯留に係る自然環境や地域住民の生活環境への影響やCO₂漏洩についてのアセスメントを義務付け、許可後も継続的なモニタリングを義務づけるとともに、利害関係者によらない第三者機関による検証を要件とすべきである。

(2)CCS事業の影響のモニタリングはより実効性あるものとすべきであり、簡素化すべきでなく、その結果を、利害関係のない第三者機関による検証を要件とすべきこと

本案には、CCS事業のモニタリングに関して苫小牧の実証試験での経験を元に「事業者からは、義務付けられているモニタリング項目の一部が非常に厳しく、CO₂ の漏えいの可能性と科学的根拠との関係が乏しい監視項目があるとの意見があった。また、安全性と合理性のバランスを図るべきとの意見、リスクベースで科学的知見を随時取り入れるべきとの意見、項目や内容を必要以上に厳しく定めないようにすることが重要であるとの意見があったところであり、モニタリング義務の具体的な内容をこうした意見も十分に踏まえながら、検討すべきである」(P.19)とある。しかし、海底下の地質構造などはそれぞれの貯留地点によって異なり、苫小牧の実証試験での経験を過度に一般化するのはCO₂の漏洩のリスクの見過ごしや過小評価につながる。CCS、特に海底下CCSについては国内外で十分な経験や科学的知見の蓄積がなされていないのであるから、その収集から開始し、十分に検討したうえでモニタリングを実効性あるものとしてから、CCSに係る法制化を行うべきであり、モニタリングの簡略化は論外である。
  
また、モニタリングの結果については、利害関係のない第三者機関による検証が必要である。

(3)CCS事業終了後の貯留事業場管理は本来、事業者の責任であるので、国に管理を移管することは慎重であるべきであり、移管するにあたっての条件は慎重な審議が必要であること

本案では、CCS事業終了後の貯留事業場管理について、「我が国においても、民間事業者の貯留事業への参入を促進するとともに、貯留事業終了後においても貯留事業場をしっかりと管理するため、貯留事業場の管理業務等については、貯留事業終了後、一定期間が経過した後、公的機関に移管する仕組みを設けることが適当である。この点、既にCCS に適した地質構造の調査等を行うこととされており、貯留事業に必要な技術・知見を有するJOGMEC にこうした業務を移管することが適当である」(P.22)とある。

しかし、CCS事業による安全上及び経済的リスクや問題の重大さに照らせば、民間事業者の貯留事業への参入を促進するために事業者の長期に渡るリスク管理責任を軽減することはあってはならない。CCSが必要で漏洩を防ぐ措置が確実にとられている事業に限定して許可を行い、確立したモニタリングの手法を持たないことから国に管理業務を移管するとする場合にも、事業者に管理にかかる費用負担など一定の責任を残すことにより、長期的な様々なリスクを踏まえた上でCCS事業に参入し、最後まで責任をもって進める仕組みが不可欠である。

また、CO₂漏洩は気候変動対策とならず、逆に加速させる要因となることだけでなく、周辺住民の生命にもかかわりかねないが、モニタリングの手法も確立していない。国の管理の主体は推進主体とは切り離して、専門性の高い第三者機関によるものとすべきである。仮にCO₂の漏洩などが確知された場合にも、例えば付近で進行中の他のCCSプロジェクトがあれば、影響を考えそれを隠蔽されるおそれもある。この点、JOGMECはCCS事業の推進を支援している機関であり、管理を担う組織としての中立性を欠くと言わざるを得ない。

よって、国が管理監督する場合には、経済産業省と環境省の共管とし、事業者の経済的負担のもとに、CCSに関して知見を有するが、プロジェクト実施に利害関係を持たない中立的な国内外の科学者からなる第三者委員会による監査体制を組織するなど、長期間の貯留事業場管理を担える体制を構築すべきである。また、そのコストを安易に電気料金に転嫁すること等は許されず、事前にそのコストを踏まえた上で、事業への参入及び事業性の可否の判断がなされるべきである。

4.CCS制度の在り方についての議論及び個別CCS事業の許可にあたっては、その分離・回収、輸送、貯留・固定における様々なリスクや限界、電気料金への転嫁の可能性とその程度など国民負担の可能性とその程度などについて、予め、国民・消費者に周知され、国民・消費者の意見が反映されるべきであり、実施にあたっては、貯留地周辺やパイプラインが敷設される地域での環境アセスメント及び地域住民との対話が不可欠であること

本案においてCCS事業に関する国民理解の増進について「まず2030 年まで当面、 国主導により地域毎に説明会等を開催し、CCS の政策的意義や負担、科学的根拠に基づいてCCS の安全性、CCS の立地による地域への投資効果、雇用創出効果、消費拡大効果等についての国民の理解を得るとともに、CCS に対する懸念の払拭を図る」(P.27)とあり、説明会での伝達項目としてCCS事業を推進する必要性やメリットが列挙されている。
 
しかしCCSについては国内外の経験や知見が十分に確立しておらず、技術課題や限界、そしてとりわけ日本には貯留・固定におけるリスクが存在する。これは経済的リスクでもある。本パブリックコメントは年末年始という特殊な時期の短期間に行われており、パブリックコメント募集に気づく国民は限られており、本パブリックコメントをもって、国民の意見を聴取したとは到底いえない。また、複雑で科学的調査、検討、評価が不可欠なCCSについて国民の理解を得たというためには、「国主導による必要性やメリットの伝達」ではなく、まず、CCSの利用を必要とする根拠とその妥当性、CCSの実施に関して明らかになっているさまざまなリスクやデメリットの内容を開示し、政策担当者と専門家や市民・消費者が双方向でオープンに話し合える場が設定され、そこで熟議の機会が確保されることが不可欠である。政府からCCSの必要性やメリットを一方的に「説明」することで、国民理解を得たとすることがあってはならない。
 
また、個別CCSの許可及び実施にあたっては、日本ではパイプラインによる輸送が不可欠であり、安定的な貯留・固定の適地が乏しいのが実態であることを踏まえ、導管輸送事業者のCO₂排出者に対する優越的地位や保安上の規律や貯留地への事業者のアクセス確保の視点だけでなく、輸送及び貯留に係る自然環境や地域住民の生活環境への影響やCO₂漏洩の可能性についてのアセスメント手続き及び地域住民の意見を反映させる手続きの確保が必要である。

5.本案における法制化における内容はいずれも、実質的には白紙状態であり、CCS推進のための財政等の支援を推進し、石炭火力の利用を継続させるもので、気候変動対策としての適切性とその必要量を再検討し、ロードマップから再検討すべきであること

本案は、2050年までにCCSによる年間貯留量を1.2~2.4億トン、2030年までに年間貯留量600~1,200万トンを目安とし、支援制度を検討するとしている(P.31)。これはIEAの世界全体のCCSの年間貯留量から現状の排出量割合に応じて日本のCCS年間貯留量を算定したものである。

CCS長期ロードマップ検討会中間とりまとめにも、このような膨大は量が記載されているが、必要量については、2023年12月に発行されたIGESの1.5℃ロードマップにおける分析によれば、必要貯蔵量は将来的な社会変容及び技術変容によって大きく変わることが指摘されている。それによれば、2050年段階ではDACを含む地下貯留全体で3,000万~1.8億トン、石炭、天然ガス火力のCCSについては500万~1.3億トンと大きなバラツキがある(同ロードマップP.102)。更に排出削減対策を強化することによってCCSの必要量を低減させることがまず追求されるべきである。

そもそも、日本列島は4つのプレートにまたがり、フィリピン海プレートや太平洋プレートが常に海底に沈み込む場所に位置し、近年、地震活動が活発化し、頻繁に地震が発生しており、本年1月1日にも能登半島沖で、日本海側で最大規模の地震が発生したところである。CCSなどで長期的に地中にCO₂を貯留・固定するのは極めて困難な日本で、このような過大な目標を設定し、2030年に向けた実現可能性の乏しいロードマップを描き、火力発電所を温存させることがあってはならない。

また、上記のとおり、貯留サイトのスクリーニング、事業選定に不可欠なCO₂圧入計画やモニタリング計画の評価が適切に実施される状況にないなかで、推進のための法制化を先行させ、そこで物権的な試掘権、貯留権を創出し、さらに推進のために事業者に「公益特権」の付与まで言及しているのは、もってのほかというべきである。このような法制化を進めることは、経済産業省に事業の選定、実施の推進、とりわけ財政支援を白紙委任し、結局は石炭火力発電所の利用の継続を正当化させることになるだけである。慎重な議論が求められる。

6.海外へのCO₂の輸出については、公平性の観点からも慎重に検討すべき

本案では、国内での貯留・固定の適地が乏しいことから、「CO₂ 輸出を実現するため、必要となる環境整備についての検討を加速する」(P.34)としているが、例示されているマレーシアとの関係で言えば、日本はマレーシアから輸入する化石燃料から得られる便益を享受しつつ、その負の産物であるCO₂をマレーシアにおいて貯留させるというものである。輸送・貯留のさらなるコスト増加を国民・消費者負担とするだけでなく、公平性の観点から国際的に極めて問題が多い。そもそも、CO₂を大量に排出しつづけることを前提とするのではなく、CCSに依存しないために、再生可能エネルギーの飛躍的拡大のために、人的、物的、経済的資源を活用すべきである。

以上

参考

パブコメ(1月9日13時締切):https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620223035&Mode=0

資源エネルギー庁:中間取りまとめ(案) CCS に係る制度的措置の在り方について

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