「Kiko」は、温暖化問題の国際交渉の状況を伝えるための会期内、会場からの通信です。
会議場通信 Kiko ドバイNo.3(2023年12月9日)
8日から閣僚級会合へ。COP28第1週目の動きをふりかえる
12月6日、補助機関会合が終了し、交渉は折り返し地点を迎えた。8日から閣僚級会議が始まったが、COP28で期待される最終合意に向けて、特にエネルギー関連の動きを振り返りたい。
損失と損害基金の運用ルールが採択
会議初日、損失と損害基金の運用ルールが採択され、周りを驚かせた。会議冒頭での重要議題の採択は異例のこと。30年にわたって議論が避けられてきた損失と損害基金の運用化に踏み出したのは大きな一歩だ。しかし、これでCOP28での損失と損害基金の議論が終わったわけではない。グローバル・ストックテイク(GST)の成果物において、損失と損害の資金の増額に向けた政治的気運をいかに高めていけるかがこれからの課題である。
グローバル・ストックテイク(GST)
第1回GSTはCOP28で完了する。各国が1.5℃目標の達成に向けて削減目標引き上げを促す具体的な指針となるような成果物が期待される。
そこに何を盛り込むかについて、連日、長時間にわたる議論が続けられてきたが、草案には緩和分野でも多くの案が記載されている。例えば、2030年までに再エネ3倍・エネルギー効率2倍に加えて、化石燃料の段階的廃止、排出削減対策の講じられていない石炭火力の段階的廃止や新規建設の終了、非効率な化石燃料補助金の廃止、ZEV(排出ガスを一切出さない電気自動車や燃料電池車)の普及加速などが提案される一方、これらをなしとする案もある。CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)もオプションに入っている。8日の改定案にはさらに多くのオプションが記載されていて、日本の立ち位置がよくわかるものとなっている。今後の交渉の行方を注意深くウォッチする必要があるだろう。
公正な移行作業計画
「公正な移行作業計画」もCOP28でその枠組を決定することになっている。途上国側はこの議題に強い意欲を見せており、共通だが差異ある責任および各自の能力(CBDR-RC)原則を含んだグローバルな公正な移行の実現を成果にしたいと見られる。一方、先進国側は公正な移行を国内問題ととらえ、グッド・プラクティスを共有する形で、作業計画の早期の実施を優先させたいようである。現状の草案には多くのブラケット(括弧書き)やオプションがついており、2週目は、合意に向けた厳しい交渉となりそうだ。意見の相違を乗り越え、歴史的な排出責任を鑑みて、人権保護、社会的包摂や国際協力も含んだ公正な移行を進めていくという方向性が示されることが期待される。
エネルギー移行に関するプレッジが次々と
12月2日、議長国のリードによる「再エネの設備容量3倍・エネルギー効率2倍」のプレッジ(誓約)に日本を含む100カ国以上が賛同した。賛同国は現在も数を伸ばしている(8日時点での議長国UAEの発表によると124カ国)。同日、PPCA(脱石炭国際連盟)にアメリカ、ノルウェーなど7カ国が加盟することが発表され、5日にはCOP28議長国であるアラブ首長国連邦とマルタの加盟が発表されている。G7諸国でPPCAに加盟していないのは日本だけとなった。さらに、フランスとアメリカ主導で石炭からの公正な移行を支援するためのイニシアティブ(CTA)が発足したが、日本は参加しなかった。石炭依存から抜け出せない日本の姿が浮き彫りになっている。
一方で、アメリカ政府のリードのもと、2050年までに原発による発電容量を世界で3倍にすることを目指す宣言が発表されたことに対し、市民社会は断固反対する意思を示した。
※詳しくは会議場通信 Kiko ドバイNo.2(https://kikonet.org/content/32763)をご覧ください。
8日からは、合意に向けた閣僚級の議論が始まる。6日、ジャベル議長はこの1週間をふりかえり、損失と損害の基金に関する合意等のポジティブな動きを評価するとともに、締約国に対し「世界に良いニュースを届けよう、1.5℃目標を手の届く範囲にとどめ、最も弱い立場の人々を保護し、全ての人に社会経済的発展をもたらす未来のために明確な方向性を示そう。」と呼びかけている。エネルギー移行が重要な論点として交渉内外で取り上げられる一方で、”Kick Big Polluters Out”の分析によると、過去最多となる2,400人以上の化石燃料ロビイストが参加登録していることがわかった。化石燃料からの脱却・再生可能エネルギーへの公正な移行の実現の具体的な指針となるような合意形成を期待したい。
先住民の住む地域でのガス田開発事業に市民社会の厳しい目が向けられる
12月6日の「本日の化石賞」(Climate Action Network (CAN)主催)は、カナダ(アルバータ州)、ノルウェーとともに韓国が受賞した。韓国の受賞理由は、オーストラリアのバロッサガス田開発事業に出資をしていることだったが、これは、日本のJERAやJBIC(国際協力銀行)が融資を決めている事業でもある。
バロッサガス田からのパイプラインは、ティウィ諸島の先住民が生活を営んできた地域からわずか6kmの距離に設置されため、海洋環境、生計手段、文化など先住民への影響が懸念されている。2022年には先住民の代表者が韓国で起こした訴訟は、仮処分が出されたものの、2022年に棄却されたが、その後、オーストラリア連邦裁判所に提訴し、認められた。
今回の韓国の受賞を伝えるCANのプレスリリースでは、日本の関与についても言及されている。日本政府や企業の化石燃料依存の姿勢に、三度目の厳しい指摘が向けられたと言えるだろう。
※バロッサ事件については、12月15日(金)14時からウェビナーを開催(https://kikonet.org/content/32355)
尊厳ある生活の希求と地球をスクラップにすることは同義ではない!(eco抄訳12/6)
締約国が公正な移行作業計画(JTWP)文書をまとめている間、ECOはずっと待ち続けてきた。交渉文書には最終的にどんな選択が入るだろうか?多様な地理的、政治的、経済的条件のもとで、包括的かつ権利尊重型の公正な移行は実現するだろうか?
公正な移行は、各国が自国内の経験を共有するだけでは実現しない。実際の行動に結びつく決定を推奨し、労働者と地域社会の必要を満たす「作業計画」が求められる。
公正な移行は、労働者(公式・非公式を問わず気候変動対策の影響を直接受けるセクターや、医療従事者介護労働者など表にでないセクターで働く人々)、労働組合、地域社会が主人公となって初めて実現する。
公正な移行の実現には、諸々の権利(人権、労働の権利、ジェンダーの権利、先住民の権利など)が尊重され、権利の主体が誰なのかを明確に認めることが不可欠だ。
さらに、気候変動対策を、貧困、排斥、抑圧を克服し、すべての人の尊厳を守るという喫緊の課題に対処する特別な機会と捉え、国際的な協力と支援を得て、多国間で取り組まなければ実現しない。
ECOは、最低限、作業計画が以下の項目に焦点を当てることを期待している。
- 労働関連:国際労働機関(ILO)基準に基づく、労働権、社会的対話、社会的保護、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)
- パリ協定実施上の社会的・ 経済的側面:ジェンダーの公正な移行の確保の重要性を含む
- 気候変動対策と持続可能な開発を関連付け、公正な移行を促進させる多国間戦略を調査・形成するための国際協力
また、移行プロセスが適切に行われた場合にのみ公正な移行が実現する。それゆえ、作業計画は、締約国ではないアクターが締約国とのパートナーシップの下でしっかりと取り組み、重要な成果の達成を目指せるよう明確な役割を与えるべきである。 今の世界は残酷だ。ECOは、公正な移行作業計画が、尊厳ある生活の希求が地球破壊には繋がらない道筋を人々に与える可能性があると信じている。この機会を逃してはならない。
原発3倍の狂気(eco抄訳12/6)
ECOは3倍という言葉が好きだ。でも、あらゆるものを3倍にするのがいいとは言っていない。ここドバイで22カ国が、2050年までに原子力発電設備容量を3倍にするのに合意したことには大反対だ。この22か国が、このハイリスクな試みに乗り出す経済的、技術的、そして環境的な見解はECOにはとても理解できない。
原子力発電は現在、世界の電力供給の10%を占めている。ECOは、10%でも既に十分すぎると言いたい。原子力に対してあまり厳しい態度をとらないIEAの案でさえ、2050年までに2倍増やすだけだ。
この宣言では、原子力発電の拡大には核廃棄物を責任を持って安全に処理しなければならないとはしているが、原子力発電を問題なく運転させるのは、宝くじのようなものだ。30年間、宝くじを買い続ければ、わずかな賞金を手に入れるかもしれない。だが、一度でも事故が起これば、状況は一変する。爆発のような大事故とはならなくても、原子力発電は最もコストのかかる発電方法だ。新規の原子力発電の1kWhあたりの発電コストは、現在の太陽光や風力発電のコストのおよそ3~8倍となっている。再生可能エネルギーが拡大し、コストが下がるにつれこの差は拡大していくだろう。
最後に、この宣言が、世界銀行グループを含む全ての国際金融機関に対し、発展途上国における原子力発電への積極的な資金提供を促していることについて、ECOは、すべての原発に反対する国々、特に国際金融機関に資金拠出を提供している国に対し、この提案を直ちに却下するよう求める。発展途上国や他の誰にとっても、エネルギー生産におけるコスト、危険性、無謀さを3倍にすることは最も避けるべきことなのだから。
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