
「Kiko」は、温暖化問題の国際交渉の状況を伝えるための会期内、会場からの通信です。
会議場通信 Kiko ベレンNo.3(2025年11月17日)
第1週目の交渉ふりかえりと2週目の見通し
COP第1週目の最後となる15日には、各議題の進捗が報告され、来週以降の交渉に向けて議長が説明を行った。
主要な論点がそのまま2週目の交渉へ先送りに
COPでは、1週目の交渉官レベルでの議論を結論文書にまとめ、2週目の閣僚級会議に送る。しかし、「公正な移行に関する作業計画(JTWP)」、「UAE対話」、「緩和作業計画(MWP)」、「適応に関する世界全体の目標(GGA)」などの重要な議題については、「意見の違いが多く、さらなる作業が必要である」「作成された文書は締約国が合意した内容ではない」という報告が行われた。実際、これら議題の最新の文書は、意見が集約されていないことを反映して、まだオプションやブラケット(括弧)が多い。2週目の会議でどこまで意見をすり合わせ、合意に向けた話し合いができるのか、議長国の手腕が問われることになる。
たとえば、第1回グローバル・ストックテイク(GST)の実施をフォローアップする「UAE対話」では、対話プログラムの進め方について、緩和等も含むGSTの成果全体をカバーするのか、資金だけに絞るのかで意見が分かれている。JTWPは、2026年の作業計画終了に向け、これまでの対話イベントでの教訓やメッセージ、今後のガイダンスを盛り込んだ文書を作成している。作業計画終了後を見据えた新たな枠組みを作るか、貿易における一方的措置について言及するのか、エネルギーに関する言及はどうなるかといったあたりが論点になるだろう。
化石燃料からの脱却に向けたロードマップ
COP28のGSTの成果文書で「化石燃料からの脱却」「再エネ3倍」「エネルギー効率倍増」をしていくことが合意されてから、その実施に向けて、どの議題で話し合うかがCOPでの争点となっていた。COP29ではいずれの選択肢もうまくいかず合意は流れ、COP30での焦点は森林や資金に論点が移ってしまった。しかし、ブラジルのルーラ大統領が開会式で「化石燃料からの脱却、森林破壊の停止と逆転へのロードマップが必要」と訴えたことや、ロードマップづくりを支持する国々が増えたことを受け、にわかに化石燃料に関する動向に注目が集まってきている。ロードマップについて、カバー決定(会議全体に関する合意文書。各議題に入らないが重要なトピックについて盛り込まれることがある)などで言及されるのか、関連する交渉議題でも化石燃料からの脱却が言及されるのか、その動きを追っていきたい。
会場のようす
現地参加の登録人数はUNFCCC事務局によると約37,000人であり、COP28やCOP29と比べると宿泊費の高騰や会場のキャパシティなどを理由に参加者は少なくなっているが、それでも会場は熱気にあふれている。会場を歩いていると、アメリカ政府代表団の不在など感じさせないほどだ。近年、COPの肥大化も指摘されているが、COPは気候変動の影響の最前線にいる人々が世界各地から参加し、声を上げることができる場でもある。交渉では島嶼国の代表が国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見を引き合いに意見を述べるなど、人権を核とした気候変動対策についての議論の進展にも注目したい。
国際司法裁判所(ICJ):動きを妨げることなく、物事を明確に(ECO抄訳11/14)
ICJの勧告的意見は新しい規則を創るものではない。各国が既に署名した宣言を読み上げているに過ぎず、気候変動に関する国家の義務、損失と損害に関して長年延びていた法的な明確性を示すものである。ECOは、締約国が交渉においてこの明確性を積極的に利用することを歓迎する。
- 温暖化が進むにつれ損失と損害は拡大する。締約国はNDCを再検討し、化石燃料を段階的に削減させよ。
- 各国は、共通だが差異ある責任および各自の能力に基づき、損失と損害のニーズに見合った規模のリソースを提供せよ。
- 義務に違反した国は、被害を修復しなければならない。
損失と損害は人権侵害であり、それらを引き起こした者には、是正処置、再発防止、そして何よりも賠償を通して責任を問われなければならない。こうした義務を帳消しにする手続き上の抜け穴や決定上の脚注は存在しない。
気候を破壊することに対する責任を自国の民間企業に問うのは国の責務だ。大企業への規制と課税は、損失と損害の支払いに役立てることができる。責任を追及することが予算の問題の解決につながると誰も気づいていなかったのか? いざ、行動に移そう!
気候正義のためのグローバル気候マーチ
11月15日、ベレン市内で「気候正義のためのグローバル気候マーチ」が開催された。会場外でのマーチは実に4年ぶりである。マーチには、先住民グループ、ユース団体、NGOなど7万人が参加し4.5kmのルートを歩いた。このマーチは世界各地でも同時に行われ、27ヵ国で100以上のマーチが開催されたという。
ベレンでのマーチには、ブラジルのマリナ・シルバ環境・気候変動大臣やソニア・グァジャジャラ先住民大臣も参加した。シルバ大臣は「ここブラジルは私たちが前進し、COPでなすべきこと—つまり化石燃料と森林破壊からの脱却の道筋を描く場所です」と述べたとロイター通信は伝えている。
初夏の太陽が照り付けるなか、朝の8時半にはスタート地点のサン・ブラス市場に多くのグループが集まっていた。参加者はさまざまなメッセージを掲げて歩き、歌や踊り、スピーチでマーチを盛り上げた。また水を配ったり、屋台で軽食を売ったりと、ブラジルらしい陽気な雰囲気の中での開催となった。
しかし、マーチの参加者が訴える内容は「アマゾンは売り物ではない」「ガス事業を南の国々に持ち込むな」「気候変動ではなくてシステムチェンジを」「パレスチナ解放なくして気候正義はない」「化石燃料はいらない」など深刻な課題である。COP30では先住民の伝統や知恵を尊重することも重要なテーマとしてあげられているが、実際には彼らは土地を奪われ、脅かされてきた歴史がある。その数日前にはCOP会場前で先住民によるデモも行われた。
ルーラ大統領はCOP30開催にあたり「真実のCOPとして、地球に対する共通の責任を果たす真剣さを証明する時である」と述べている。COP会場では主要な議題の多くについて各国の意見を集約することができないまま、2週目の協議に送られる。残り半分の会議では、こうした市民の声に耳を傾け、真摯に合意に向け尽力することを期待したい。


移行鉱物は公正な移行の穴を埋められるのか(ECO抄訳11/14)
世界的な再生可能エネルギーブームは、前例のない移行鉱物(重要鉱物、あるいはクリティカルミネラルと称されていることも)の争奪戦を引き起こした。しかし、気候変動に関する議論の中心には大きな穴が開いている。誰もがクリーンエネルギーへの移行を加速させることについて話をするが、ほとんどの者はそれを実現させるために何が必要かという最も根本的な疑問を口にしない。
ガバナンス、人権、経済的な公正さと向き合うことなしに、移行を支える鉱物資源について語ることはできない。そして今年、「公正な移行作業計画(JTWP)」の議論において、一部の先進国が初めて移行鉱物は重要な要素だと認識する必要性を公式に認めた。JTWPにおいて以下が確実に行われることが、エネルギー転換の議論におけるギャップを埋める助けとなる。
- JTWPの文書に移行鉱物について明記し、鉱物資源の役割が明確に取り扱われるようにする。
- 国連事務総長の「エネルギー移行に重要な鉱物に関するパネル」のロードマップを支持し、次の段階の作業の支援を約束する。
- 世界的な公正の移行を進めるための「ベレン行動メカニズム(BAM)」にパネルの主要原則を組み込み、コミュニティ、生態系、地域の発展が中心に位置付けられるようにする。
真の公正な移行は、世界のクリーンエネルギーの未来を供給する国々において、採鉱によって掘られた穴が、最後に正義と権利と発展で埋められた時に始まるのだ。
※ECOは、気候変動問題に取り組むNGOの国際ネットワークClimate Action NetworkがCOPなどで発行しているニュースレターです。
会場通信Kiko COP30 CMP20 CMA7 No.3
2025年11月17日 ブラジル・ベレン発行
執筆・編集:浅岡美恵、鈴木康子、菅原怜、榎原麻紀子、森山拓也、田中十紀恵、中西航


