
「Kiko」は、温暖化問題の国際交渉の状況を伝えるための会期内、会場からの通信です。
会議場通信 Kiko ベレンNo.1(2025年11月12日)
COP30開幕 1.5℃目標達成に向けた議論が始まる
国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)が11月10日に開幕した。開催地はブラジル北部、アマゾン熱帯雨林地域の港町、ベレンである。議長国ブラジルはアマゾンでの開催にこだわった。2025年現在、ブラジルではルーラ大統領率いる左派政権が気候変動対策に比較的前向きな姿勢を見せており、彼らのリーダーシップがCOP30で期待される。
11月10日に行われた開会式では、ルーラ大統領が力強いスピーチを行い、Multilateralism(多国間主義)の重要性を訴えた。また、サイモン・スティルUNFCCC事務局長は、科学に基づき、上昇した気温を戻すための努力が必要であると呼びかけた。
続いてアジェンダ(議題)の採択が行われた。なお、パリ協定9条1項(先進国から途上国への気候資金支援)や一方的な貿易に係る制限的措置など、締約国からの8つの議題提案については、交渉議題に含まれなかったが、議長コンサルテーションやイベントなどで議論の機会が設けられることとなった。
注目議題やテーマは
パリ協定の合意から10年の節目となる2025年、国際社会は気候変動対策の本格的な「Implementation(実施)」のフェーズに入らなければならない。COP30に先立って行われた首脳級サミットでは、アントニオ・グテーレス国連事務総長が「実施」という言葉を繰り返し唱えた。
COP30では、各国の2035年の排出削減目標(NDC)の強化や実施に向けたメッセージが期待されるほか、適応に関する世界全体目標(GGA)では適応指標の最終合意などが目指される。また、公正な移行作業計画(JTWP)では、今年6月に行われた補助機関会合で合意された非公式ノートをもとに、作業計画の具体的な内容の合意に向けた議論が引き続き行われる。
さらに、COP29に引き続き、パリ協定2.1項及び9条などを含む気候資金の内容についても議論される見通しだ。先日発表さ れた「1.3兆ドルに向けたバクー・ベレンロードマップ」の動向からも目が離せない。これらパリ協定の「実施」に焦点が当たるだろう。
議長国ブラジルは、今回のCOPを「森林のCOP」と呼び、森林や生物多様性、先住民の権利にも焦点を当てたい意向がある。熱帯雨林保全のためのTFFF (次ページ) の設立も大きな成果の一つとして期待している。ブラジルは自ら10億ドルの資金拠出を発表しているほか、日本など50ヵ国超がこの基金への賛同を表明している。
気温上昇を1.5°未満に抑えるというパリ協定の目標の達成に懸念が広がっているが、野心的な気候変動対策の実行により目標達成は可能である。これから2週間行われるCOP30において、世界の気候変動対策が前進し、前向きな機運が醸成されることを期待する。
会議場の様子
日中の気温が30℃を超え湿度も非常に高いアマゾンの熱帯雨林気候の中、会議がはじまった。11月はブラジルで最も暑くなる月であり、朝晩はマラリアやジカ熱を媒介する蚊に注意を払い、急なスコール対策も欠かせない。このような気候であることから、服装については「スマートカジュアル」が推奨され、会場は比較的ラフな服装で参加している人も多く見受けられる。
COP会場は東西に長く、端から端まで歩くと15分はかかる。会議が始まった10日時点でまだ工事中の建物もあるが、概ね空調は効いており、ウォーターサーバーもいたるところに設置されている。

COP30リーダーズ・サミット:実施とアカウンタビリティが求められる
交渉会議に先立ち、ブラジル・ベレンのCOP会場で11月6日~7日にかけてCOP30リーダーズ・サミットが開催され、2日間で50人以上の首脳らがスピーチをおこなった。
冒頭、国連のグテーレス事務総長は一時的なオーバーシュートは避けられないが、我々が今、真剣な行動をとれば、オーバーシュートを最小限に抑え、気温を再び下げることができると述べ、そのための大幅な排出削減を求めた。議長国を務めるブラジルのルーラ大統領は、多国間協力を強調し協働が成果を生むとした。また、現実に向き合い、変化に必要な勇気と決意を持つ時であると述べ、アマゾンで開催するCOPの成功に意欲を見せた。
リーダーズ・サミットは各国のトップが世界に向けて気候変動対策への決意を表明し、取り組みをアピールする機会となるが、日本の高市首相は国会対応のために参加しなかった。アメリカのパリ協定離脱が近づくなか、日本には気候変動問題解決に向けた国際協調をリードすることが期待されるが、首相が自らの言葉で気候変動への対応を世界に語ることがなかったのは残念だ。

また、リーダーズ・サミットの期間に6つのプレッジ(約束)や宣言が発表された。なかでも議長国ブラジルがとりわけCOP30に向けて力を入れたのが、熱帯雨林の保全に対する経済的インセンティブを与える国際投資ファンド「TFFF(Tropical Forest Forever Facility)」である。6日にはTFFFの設立が正式に発表され、ブラジル、ノルウェーなど7カ国が資金拠出や賛同を表明した。TFFF設立をCOP30の成果の柱にしたいという議長国ブラジルの強い意向がうかがえる。また、2035年までに「持続可能な燃料」の利用を4倍にすることなどを目指す「Belém 4X Pledge on Sustainable Fuels」もプレッジとして発表された。ブラジル、日本、イタリアの共同提案の宣言で、11月7日時点で19カ国が賛同しているという。この宣言を読むとバイオガス、バイオ燃料、再エネ、クリーン/ゼロエミッション、低炭素の水素やその派生物(合成燃料、e-メタンも含まれる)を「持続可能な燃料」として例示しているが、水素等の利用は運輸と化学産業のように排出削減が困難な部門(hard-to-abate部門)を対象とするものである。日本も本プレッジの主旨を踏まえ、削減が困難な分野での利用に限定すべきである。また、市民社会からは、バイオマス燃料の促進が気候変動の深刻化や森林破壊につながることを懸念する声も上がっている。気候変動対策のための実施の強化において、アカウンタビリティの問題も忘れてはならない。今後のCOPでは、アカウンタビリティの強化も重要な論点となるだろう。
野心のギャップへの対応計画 (ECO抄訳11/11)
ツイートやWhatsApp、AIによるコミュニケーションが主流の時代に、議長国ブラジルから届いた丁寧なレターは誠実さを感じさせた。その大半は、COP30の最優先課題として多国間主義の強化を強調したものだったが、これまで提出されたNDCでは1.5℃目標達成の道筋に乗れていないという現実と向き合う必要がある。
ECOは、以下の点が盛り込まれた計画には大賛成だ;
・問題を明確に認識する
・人、コミュニティ、自然の公平性を中心に据える
・更新版NDC統合報告書の要請
・NDC(国が決定する貢献)改定の義務化
・第1回グローバル・ストックテイクのガイダンスを運用化
この計画は、「公正な移行作業計画」が、公正な移行の原則について合意に達し、NDCの実施を支援するためのBAM(ベレン・アクション・メカニズム)の設立を確約して初めて成り立つ。また、開発途上国のニーズが年間最低1兆ドルの無償資金に及ぶことを認めなければならない。ECOは、紙切れの言葉だけでは不十分であり、多国間主義を再確認するCOP30の正式な成果が必要だと確信している。ベレンでは、全ての締約国がパリ協定の野心サイクルを取り戻す政治的意思を有していることを示す必要がある。

※ECOは、気候変動問題に取り組むNGOの国際ネットワークClimate Action NetworkがCOPなどで発行しているニュースレターです。
会場通信Kiko COP30 CMP20 CMA7 No.1
2025年11月12日 ブラジル・ベレン発行
執筆・編集:浅岡美恵、鈴木康子、菅原怜、榎原麻紀子、森山拓也、田中十紀恵、中西航

