岸田首相は訪米の機に脱炭素化への多国間協力の強化を
国際的な化石燃料事業への支援は停止すべき
2024年4月8日、日本の岸田文雄首相が訪米し、10日にジョー・バイデン米大統領と会合を、また翌日11日には議会での演説とフィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領と三者で会合を行います。これに合わせ国内外の環境団体は、岸田首相に対し、化石燃料事業への公的支援を完全に停止し、脱炭素への多国間協力を強化するよう求める声明を発出しました。
バイデン大統領は、2024年1月26日に液化天然ガス(LNG)の輸出許認可についての判断基準の改訂を行うとし、その間、輸出許可判断を一時停止すると発表していますが、特に米国南部のLNG事業に関わる多くの日本の官民はバイデン大統領の方針に反発していると報じられています。日本は、化石燃料ではなく再エネへのシフトを加速するための政治的意思を示すべきです。
詳しくは以下声明をご覧ください。
共同声明(本文)
NGO共同声明
岸田首相は訪米の機会に真の脱化石燃料に向けた日米フィリピンの協力強化を
2024年4月9日
2024年4月10日に日本の岸田文雄首相が、ジョー・バイデン米大統領と会合を、また翌日11日には米国議会での演説とフィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領と三者で会合を行うと報道されている 。
私たちNGOは、岸田首相が今回の訪米の機会に、脱炭素化の流れを阻害するのではなく、米及びフィリピンの両首脳とともに気候対策への強いコミットメントを世界に発信することを要請する。
バイデン大統領は、2024年1月26日に液化天然ガス(LNG)の輸出許認可について判断基準の改訂を行うとし、その間輸出許可判断を一時停止すると発表した 。米国南部のLNG事業の多くに日本の官民が関わっており、バイデン大統領の方針は日本のエネルギー安全保障に影響するとして日本側で反発があると報道されているが 、日本はバイデン政権の決定に反対するべきではない。
G7サミットの約束に反し、日本政府はいまだに多くの化石燃料事業を支援
2022年6月のG7エルマウサミットで採択された首脳宣言には、パリ協定の1.5℃目標に整合的である限られた状況以外において、排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門に対する新規の公的直接支援を2022年末までに終了する約束が盛り込まれた。同様のコミットメントは翌2023年のG7広島サミットでも再確認された。
一方、日本政府は、これらの表明の後も新規の化石燃料事業への融資を継続している。2024年3月26日にも、国際協力銀行(JBIC)及び独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、西オーストラリア州ピルバラ地域の北西部沖合に計画中のスカボロガス田開発事業への支援を決定した。スカボロガス田開発事業では、影響を受ける先住民族の「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」が確保されておらず、訴訟も行われている 。また、同日、JOGMECはベトナムにおける天然ガスの開発・輸送事業にも債務保証を決定した。さらに、3月28日及び29日には、JBIC及び日本貿易保険(NEXI)が、メキシコのサン・ルイス・ポトシ及びサラマンカでのガス焚複合火力発電事業2案件への支援を決定したと発表した 。日本は、文字通り連日、新規のガス事業への公的支援を決定している。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、現在稼働中・計画中の化石燃料インフラが想定年数稼働するだけでも1.5℃を超える温度上昇につながる量のCO2が排出されると試算している 。国際エネルギー機関(IEA)が2023年に発表した報告書でも 、2050年までに温室効果ガス排出のネットゼロを達成するには、新規の化石燃料採掘事業へのファイナンスの余地はないと結論付けている。日本政府による化石ガス事業への公的支援の決定はG7の約束に違反する。上述のような支援を撤回するとともに、今後かかる支援は行わないと約束し、日本以外のG7諸国がすでに賛同しているクリーンエネルギートランジションパートナーシップ に参加すべきである。
アメリカでも多くの化石ガス事業に関与
日本の官民はアメリカにおいても多くのガス事業に関与している。例えば、ルイジアナのキャメロンLNG事業には三菱商事やJBICが関与しているが、現在拡張計画にNEXIが保険契約の締結を検討している 。メキシコ湾岸部におけるガス関連事業への、日本の大手損害保険会社3社による積極的な関与も明らかになっており、リオグランデLNGの保険をSOMPOが、ガルフLNGの保険をSOMPO及び東京海上が、キャメロンLNGの保険を東京海上及びMS&ADが引き受けている 。これらの事業に対しては、既存施設による環境汚染や漏出事故、漁業への悪影響などから、地元の市民やNGOから反対の声も上がっている 。
産業界や政府は「ガスは石炭よりもクリーン」で「つなぎの燃料」になると主張するが、これは大きな誤りである。化石ガスは、掘削から、液化してガスタンカーに積載し、再びガス化して火力発電所で燃やすまでに、周辺の環境を汚染し、多くのエネルギーを消費し、温室効果ガスや大気汚染物質を排出する 。岸田首相は地元でガス開発の影響をうける地元の声に耳を傾け、企業の利益のためではなく地元の人々が望む支援を行うべきである。
日本の「LNG拡大による脱炭素支援」はアジアの脱炭素化を阻害する
日本の官民は、特にアジア地域で、LNGの市場を広めるべく開発や投融資を行っているが、これはアジアの脱炭素化を阻害する。日本政府はアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)やアジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)といった枠組みを立ち上げ、ガスやアンモニア・水素・バイオマス混焼、CCS(炭素回収貯留)といった技術を推進しているが、これらは経済合理性を欠くのみならず、化石燃料利用を長引かせるとしてアジア各地で反対の声が上がっている 。
東南アジアの電力消費者にとっても、ガスインフラの拡大は特に、ガス価格の変動に伴って市場価格が急激に上昇するため、安定した安価な電力へのアクセスが阻害され、大きな経済的負担となる懸念がある 。
現在バングラデシュでは、国際協力機構(JICA)がモヘシュカリ・マタバリ地域の統合的な開発計画であるMIDI統合開発策定プロジェクトを計画しており、輸入LNGに依存した電力計画の導入を見込んでいる。しかし、バングラデシュは、2021年にLNGスポット価格が急騰して以降、電気・ガス料金の引き上げやスポット市場からのLNG購入の中止を余儀なくされている。また、設備余剰の状態でありながらも、高価な輸入化石燃料への支払いが困難なため燃料不足に陥り、各地で計画停電が頻発している。今後も化石燃料への依存度を高めることは、バングラデシュで既に発生している計画停電を悪化させ、市民や産業への影響を深刻化させるリスクがある。
ガス事業の拡大には環境社会影響のリスクもある。フィリピンでは、JBICと大阪ガスがイリハンLNG 輸入ターミナルの事業者の親会社に出資をしているが、「海のアマゾン」として知られるヴェルデ島海峡(The Verde Island Passage: VIP)の豊かな海洋生態系への影響が懸念される 。生計手段への悪影響を懸念する現地の漁業者らも2023年12月、JBICに異議申立書を提出しているが、JBIC審査役による公正かつ徹底した調査とJBICの出資撤退という賢明な判断が待たれる。
これまでに日本の官民が海外で推進してきたその他の多くのガス開発事業でも、現地の環境破壊や先住民族に対する人権侵害が報告されている。日本の官民によるガス事業への投融資は、脱炭素への転換を遅らせるだけでなく、現地の住民の人権や自然環境をもリスクに晒している。
日米による気候目標及び途上国支援のさらなる強化を
2023年のG7サミットやCOP28ドバイ会議において、パリ協定1.5℃目標のため、世界で2035年までに2019年比60%の温室効果ガス削減が必要と認識された 。温室効果ガス排出の歴史的責任があり、また対策強化の能力を持つ日米両政府は、60%削減を大きく上回る削減目標を検討し、それを国別貢献(NDC)に位置づけ、世界に先駆けて国連に提出することが求められる。なお、米国政府は年内に新たなNDCをまとめる意向を示しているが、日本政府は提出時期について意思表示をしていないだけでなく、化石燃料の段階的廃止(フェーズアウト)に関する具体案の検討も行われていない。COP28における合意では、2030年までに世界の再エネ設備容量を3倍にするとともに、省エネ改善率を2倍にすることをめざす目標も合意された。日米両政府は、フィリピンを含む世界でこれを可能とするため、化石燃料ではなく再エネへの公的資金支援の強化を進める政治的意思を表明する必要がある。
また、報道では原子力、特に小型原子炉や鉱物資源分野でも3カ国の協力を深めるとしているが 、原子力はコストが高くリスクも大きい。フィリピンではJBICや、IHI日揮ホールディングスなどが出資する米新興企業のニュースケール社が次世代原発「小型モジュール原子炉(SMR)」の建設を検討しているが、SMRも通常の原発と同じく廃棄物の問題や放射能の問題を抱えている 。
鉱物資源については、特にフィリピンが電池材料であるニッケルの生産国であることから、3ヵ国間でのサプライチェーンの強化を目指すものと推測される。しかし、フィリピンのニッケル開発の現場では、これまで先住民族が先祖伝来の土地から追いやられたり、伝統的な生活ができなくなるなど、甚大な影響を受けてきた。自分たちの土地や生活を守ろうと声をあげる先住民族に対する超法規的殺害や脅迫等も起きており、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を確保するための人権状況の素地がフィリピンでは大きく損なわれていることに留意すべきである。このような問題は、フィリピンですでにニッケル・アジア・コーポレーションと提携している住友金属鉱山が関わり、パナソニックを通じてテスラ向けに供給されているニッケル原料も同様である。国連「ビジネスと人権指導原則」に則り、ニッケル鉱山開発から生活を守ろうとしている人びとの人権を保護する国家の義務を3ヵ国の政府は忘れるべきではない。エネルギー移行によって他の犠牲が助長されることは避けなくてはならない。
気候危機は日々深刻になっている。岸田首相は、この訪米の機会に気候変動対策の強化を後押しするためにも、G7で合意した新規の化石燃料事業への公的支援の停止の完全履行と、再生可能エネルギーや省エネルギーを中心とした公正なエネルギー転換への支援を表明すべきである。
国際環境NGO FoE Japan
国際環境NGO 350.org Japan
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
メコン・ウォッチ
気候ネットワーク
マーケット・フォース
Friends of the Earth U.S.
The Legal Rights & Natural Resources Center (FoEフィリピン)
Center for Energy, Ecology, and Development (フィリピン)
声明文(PDF)はこちら
NGO共同声明 岸田首相は訪米の機会に真の脱化石化燃料に向けた日米フィリピンの協力強化を(PDF)
この声明に関する連絡先
国際環境NGO FoE Japan
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