本日、2023年12月26日、気候ネットワークでは水素・アンモニア政策小委員会/脱炭素燃料政策小委員会/水素保安小委員会中間とりまとめ(案)に対しての意見を提出しました。グレー水素を認め、化石燃料との価格差を政府が補填する極めて問題の多い、とりまとめ案です。1月6日(土)締め切りのパブリックコメントに多くの人から意見書を提出しましょう。

1.水素の位置づけについて

 カーボンニュートラルの実現にあたって、水素の利用は不可欠であるが、再生可能エネルギーによる水素を基本とすべきであり、その対象はCO2排出削減が困難な分野とすべきである。発電の分野においては既に実用化され、コストも低減し、今後も低減が見込まれている再生可能エネルギーがあり、その普及拡大にこそ、投資を拡大すべきである。火力由来の水素やその水素からさらにコストがかかるアンモニアはCCSのコストも不可避であり、将来的にも高コストとなり、かつ火力発電からの脱却をより遅らせることになる。本中間とりまとめ(案)の価格差に着目した支援制度の支援範囲のイメージにおいてもCCUSが含まれている。水素やアンモニアを発電燃料の主力とするようなことは、1.5℃目標と整合せず、かつ、無駄な投資である。再生可能エネルギーを拡大し、その電力の余剰を出力抑制するのではなく、グリーン水素の製造に使うためのインフラを整備することが、長期的に再エネ水素を安定的に供給し、価格を下げる最大の近道である。

 大規模サプライチェーン構築のためとして、大量の需要がある発電部門でグレー水素の燃料格差の15年もの経済的支援を制度化することは、日本及び東南アジアの国々において石炭火力を今後も長期的に使い続けることに他ならない。水素・アンモニア混焼を水素のサプライチェーン構築の口実とすることは、脱化石燃料化を加速させるべきときに、本末顚倒である。価格が乱高下する化石燃料由来のグレー水素を海外から輸入することは、将来的に水素価格が乱高下することにもなる。この構造を維持拡大するような方向性をつくるべきではない。

2.低炭素水素等の定義について

①水素の基準について

 低炭素水素の基準については、「CO2未処理のプロセスと比較して、約70%の排出削減を実現する水準として、3.4kg-CO2/kg-H2を原則とすることが適当」としており、この水準を定めるなら早急に国内水素の流通に適応するべきである。2030年からの導入を検討するなどというのは遅すぎる。ましてや、発電部門でこの基準を満たさない水素の利用を容認することは、気候変動対策として不可避とされている石炭火力の廃止、削減に逆行するものである。

 EUタクソノミ―では、3kg-CO2/kg-H2を基準としており、天然ガスに対して約70%の削減にしかならない3.4kg-CO2/kg-H2は、将来的にはゼロとなるように段階的な見直しを行えるような制度設計とするべきである。

②アンモニア等の基準について

 とりまとめ案では、「水素はアンモニアや合成メタン、合成燃料等のキャリアや燃料種の形でも供給されるが、アンモニアその他、本制度の対象となり得る水素化合物についても、低炭素水素の水準を参考とした基準値を定めていく」としているが、これらについても上記の意見同様、最低限、現時点では天然ガスの7割程度の削減と同等水準で定めたとしても、2030年には3kg-CO2/kg-H2以下、さらにその後のゼロを目指すべきである。 

③支援制度への基準の適用について

 「価格差に着目した支援及び拠点整備支援に係る支援要件としての遡及適用は行わないものとする」としているが、それでは基準を定める意味がなく、最低でも3.4kg-CO2/kg-H2を適用すべきであり、CO2の排出が天然ガスと同等もしくは上回るようなグレー水素に対して、支援などするべきではない。また、遡及適用を行わないのであれば、少なくとも2030年の導入時期を待たずに、現時点で基準以上のグレー水素およびその製造過程での排出削減が証明されていない水素については支援すべきではない。さらに、3.4kg-CO2/kg-H2であることが確実に確認できる証明制度などの導入を同時に行わなければならない。

3.価格差に着目した支援・拠点整備支援について

①価格差に着目した支援・拠点整備について

 基準価格と参照価格の価格差を政府が補填するという案だが、そもそも、水素やアンモニアの導入については、グリーンイノベーション基金等で多額の補助がついている上に、脱炭素電源オークションの導入で、電力分野については多額の設備投資費用が容量市場の一部として支払われるしくみが導入されている。すでに様々な支援策があるにもかかわらず、さらに追加してこのような制度を導入することには強く反対する。ましてや、CO2の排出削減にもならないグレー水素も支援の対象にするなど、言語道断である。このような仕組みで価格差を埋めることは、消費者の負担を減らすことにもならず、将来的な負債を増やすだけである。

②基準価格等の算定について

 価格の算定について、案では「事業者が事前に基準価格の算定式もしくは固定値として提示する」などとされており、ほぼ事業者の言い値で決められるようなしくみになっていることは問題である。再生可能エネルギー固定価格買取制度でも、価格等算定委員会が設置されて第三者が価格を設定している。制度の導入自体に反対だが、事業者が安易に水増しすることも想定されるような制度をつくるべきではない。

 以上、そもそも、このように水素やアンモニアの導入に手厚い措置をつけていくことこそが、国内の火力発電所の延命・維持につながり、再生可能エネルギーの普及を阻害する最大の要因になっている。そのことが、再生可能エネルギーの価格低下を阻み、巡り巡ってグリーン水素の価格を高止まりする要因となり、本来の脱炭素が進まない悪循環を生み出すことになる。国内でのグリーン水素製造を進めるには、再生可能エネルギーの普及拡大を最優先すべきである。

参考

パブコメ:https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620223036&Mode=0

資源エネルギー庁 水素・アンモニア政策小委員会/脱炭素燃料政策小委員会/水素保安小委員会中間とりまとめ(案)

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