Kiko」は、温暖化問題の国際交渉の状況を伝えるための会期内、会場からの通信です。

会議場通信 Kiko ドバイNo.1(2023年12月4日) 

COP28 開幕初日に「損失と損害基金」の運用ルールが採択!

11 月 30 日、アラブ首長国連邦・ドバイで COP28 が開幕した。会議初日に注目を浴びたのは、「損失と損害」基金に関する合意だ。
COP27 で設立が決定した損失と損害基金は、その後、移行委員会での議論を経て、COP28 で基金の運用ルールが採択されることになっていた。COP 期間を通じて厳しい交渉となることが予想されていたが、開会前日の 11 月 29 日に移行委員会の勧告に基づいた決定文書の草案が公表され、開会式での異例の採択となった。会場はこの採択をスタンディングオベーションで讃えた。その後、ドイツや日本などが資金拠出を表明したが、伝統的な資金拠出国ではない UAE が率先して 1 億ドル(約 150 億円)の拠出を表明したことの意味は大きい。

資金管理を暫定的に世界銀行がおこなうこと、先進国の拠出の義務化が見送られたことなど、必ずしも、気候変動の悪影響をより大きく受けてきた途上国の意向が反映されたものではない。気候正義にもとづき、影響を最も受けている人々のニーズに沿った資金支援が実現できるよう改善の余地はある。こうした課題を残しつつも、過去 30 年にわたって議論が避けられてきた損失と損害基金が運用化にこぎつけたのは大きな一歩だ。

一方で、CO2 を大幅かつ急速に削減しなければ、温暖化が進み、損失・損害は拡大し続ける。COP28 直前に公表された NDC 統合報告書では、パリ協定の 1.5℃目標を達成するには未だ不十分であることが一層、明らかになった。「損失と損害基金の採択」という前向きな流れに乗り、各国の野心強化を促す指針となるべき合意形成ができるのか、各国政府の姿勢が問われる 2 週間となる。

日本の道筋の先には何がある?岸田首相のスピーチを振り返る

12 月 1 日からの首脳級会合には、日本の岸田首相も参加。グテーレス国連事務総長が、全ての化石燃料を「低減する」や「対策をとる」のではなく、「1.5℃目標達成のために期限を定めて廃止しよう」と力強く訴えた。その同じ場で、岸田首相は何を語ったのか。

排出削減対策の強化は?

スピーチでは、日本は自国の削減目標(2030年度に 2013年度比で 46%-50%削減)にむけて着実に進んでいるとアピール。すでに約 20%の削減に成功していると誇ってみせたが、福島事故後の省エネと FIT 法の結果。他方で、石炭火力の延命支援策をさらに加え、再エネ拡大に消極的で、カーボンプライシングも先送りしている。このままでは、2030 年度 46%削減の達成も危ぶまれる。

石炭火力はどうするの? 原発 3 倍?

「排出削減対策が講じられていない新規の国内石炭火力の建設の終了」を表明した。驚くなかれ、これは「新設終了」ではない。「水素・アンモニア混焼石炭火力」は立派な「排出削減対策」というのが日本政府の解釈。GENESIS 松島計画は進められる。今、日本に求められていたのは既設石炭火力の廃止年の表明だったが、何の言及もなかった。日本は 2 日、原発3倍拡大宣言にも賛同した。

再生可能エネルギーの導入拡大の意思は?

議長国(UAE)が提案する、2030 年までに世界で再エネ設備容量を 3 倍に、エネルギー効率を 2 倍にすることに賛同したことは歓迎する。しかし、実現のための政策強化に踏み込んだ発言は何もなかった。賛同国に問われているのは、自らが実行する決意と行動であることをお忘れなく。そして、スピーチで“クリーンエネルギー”に数えた原子力については、利用を減らしていくはずだったことも。

世界の脱炭素に貢献?

日本による脱炭素の貢献として AZEC(アジアゼロエミッション共同体)をアピールした。この AZEC 構想のもと、企業とも連携してアンモニアや水素の利活用に向けた技術開発およびサプライチェーン構築支援を推進しようとしている。だが、この構想は、世界の脱炭素に逆行する。石炭火力からの脱却を目指そうとする東南アジア諸国の動きを妨げ、途上国で石炭火力のロックインをもたらし、再エネの加速的拡大を阻害すると、懸念されている。岸田首相は「多様な道筋のもとで、全ての国がネットゼロという共通の目標を目指そう」と呼びかけた。だが、目指すべきは 1.5℃。日本の道筋は、残念ながら、1.5℃目標の実現の道筋とは程遠い。

日本は COP28 でも「本日の化石賞」を受賞(12 月 3 日)

12 月 1 日の岸田首相のスピーチを受け、日本がニュージーランド、アメリカとともに「本日の化石賞」を受賞した。日本政府が脱炭素化への貢献と銘打って火力発電への水素・アンモニア混焼を国内外で推進していることがグリーンウォッシュであるというのが受賞理由である。世界130 カ国以上・1800 以上の国際 NGO ネットワークである Climate Action Network(CAN)が主催する「本日の化石賞」は、COP 等国際会議の期間中に気候変動交渉・対策の足を引っ張った国に毎日贈られるもので、その国に対する批判と改善への期待の意味が込められている。

CAN は「本日の化石賞」を発表するプレスリリースで、「日本が推進する化石燃料への水素・アンモニア混焼はグリーンウォッシュ。実質的な排出削減にはつながらないどころか、日本のエネルギーの脱炭素化と化石燃料フェーズアウトの可能性を潰してしまう」と厳しく批判している。日本政府の方針に世界の市民社会が厳しい評価を下したことを、真摯に受け止めなければならない。

COP28 の最も野心的な成果という宝探し、さあ始めよう!(eco1 抄訳 11/30)

皆さん、金の街ドバイへようこそ。COP28 での最も野心的といえる成果を探しに行こう!宝探しに出発だ!
この COP が終了するまでに到達すべき道のりは高層ビルや山のように険しくそびえたっている。交渉官たちは、迷路のような廊下やプレスルーム、いっせいに押し寄せる議題やプレッジやイニチアチブをかいくぐりながら、道を切り開き、宝物を探し出さなければならない。COP28 での成功に辿りつくために役立つヒントを教えよう。

1.野心的で公正かつ衡平なエネルギー政策パッケージ

エネルギー政策パッケージに必要なのは、公平で迅速、完全な、さらに資金援助付きで全ての化石燃料を段階的に廃止することだ。
そして、そう、ここにはガスも含まれる。「低炭素ガス」や「クリーンな石炭」といった言葉に騙されてはいけない。さらに包括的なパッケージには、ネイチャーポジティブでコミュニティーに恩恵のある再生可能エネルギーや、野心的なエネルギー効率化の目標も含まれなくてはならない。ただし、仮にこれらの目標が達成できたとしても、見せかけだけで、決定的に重要なこと―致命的な化石燃料からの迅速かつ公正な脱却スケジュールを見落とすことになる。二酸化炭素回収 ・貯蓄 ( CCS)や 「排出削減対策の講じられていない(unabated)」といった言葉の罠、有害な原子力発電への投資といった、気をそらす危険な障害に足元を取られないように気を付けて。最後に、エネルギー転換を進めるには、公正な移行を加速させる方法を示さなくてはならない。

2.気候変動の影響に対応しよう(命を救うヒントだ)

事実から目をそらすのはやめよう。私たちは、洪水、熱波、サイクロン、水面上昇といった気候変動の影響を目のあたりにしていて、それらに対応する必要があると分かっている。お手上げだって言うなら、やるべきことのヒントをあげよう。

  • 適応に関する世界全体の目標(GGA)の包括的なフレームワークについて、合意、施行、運用する
  • 適応資金がどれほど必要とされているか、心に留めておく。資金ギャップへの対応に必要とされる規模で、実質的な資金こそが、困難を乗り越えるための架け橋となる
  • 気候危機の影響を最も受けている人々のニーズや優先事項を満たし、人権を保護できるよう、損失と損害(ロス&ダメージ)の基金運用化を実現し、脆弱なコミュニティーを支援する
  • 可能な限り早く損失と損害基金の運用を始める。実際、動きだしていると ECO は思う。いいことだ。脆弱な人々のニーズに実際に応える基金を作ることに合意する
  • 真の気候正義を実現させるために、数千億ドル規模の、新しい、追加的かつ予測可能で、十分な資金を提供する。「基金」と銘打っても中身がなけりゃ意味がないだろう

3.資金が届かなかったら動けなくなる

十分かつ実際に使える資金がなければ、プレッジや目標は機能しない。 さあ、代表団の皆さん、今こそ野心的目標を実現させる手段を自分自身に与えよう!失われた時間をどうやって取り戻し、残された資金ギャップをどのように埋め合わせるかの説明もなしに、1,000 億ドルの目標を 3 年遅れで達成したことを喜んではいられない(しかも、二重計上やローンを使って数字を積み上げるのでは、本末転倒だ)。

4.最後に、過去、現在、未来の状況を把握しよう

おめでとう!ここにあげたヒントを注意深く追いかけてきてくれたなら、ほぼ頂上に到達だ。ただし勝利を宣言する前に、やるべき重要なことが一つ残っている。自分の旅を評価することだ。親愛なる政府代表団のみなさん、真の気候変動対策という宝は、自分の過去を振り返り、どこから来たのかを理解し、そして将来を見据え、現在 2.7℃以上の地球温暖化をもたらしている経路を修正することをコミットできた場合にのみ、手に入るものなのだ。

  1. ※ECO は、気候変動問題に取り組む NGO の国際ネットワーク Climate Action Network が COP などで発行しているニュースレターです。 ↩︎

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