共同声明:東京海上は2030年中間目標を発表も企業エンゲージメント指数に留まる
〜大手損保3社は早急に保険引受ポートフォリオ排出量目標の設定を!〜

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
国際環境NGO FoE Japan
国際環境NGO 350.org Japan
メコン・ウォッチ
Insure Our Future

9月29日、日本の大手損害保険会社の1つである東京海上ホールディングス株式会社(以下、東京海上)は、「脱炭素社会の実現に向けた2030年中間目標の設定について[1]」を発表し、「2030年までに、グループ会社の主要子会社である東京海上日動火災保険株式会社において、保険引受に伴うGHG排出量の約9割を占める大口顧客200社と対話し、160社以上との対話水準を課題を踏まえた提案(下記のレベル②)以上とすること」を目指すとの目標設定を行った。当社は中期目標を発表した日本で初の損害保険会社となったものの、自社の保険引受ポートフォリオにおける温室効果ガス(GHG)削減量の目標については未だに発表しておらず、パリ協定1.5度目標達成に向けた取り組みは不十分なものである。

「脱炭素社会の実現に向けたお客様との対話(エンゲージメント)に関する目標」(東京海上資料)

出典:https://www.tokiomarinehd.com/release_topics/release/2023/l6guv3000000hwi3-att/20230929_engagement_j.pdf

東京海上は、今年春に米国で反ESG運動が加速したことを受け、5月に保険業界における2050年までの温室効果ガス排出ネットゼロを目指す国連主導の国際イニシアチブであるNZIAから脱退した[2]。2023年1月にNZIAは、加盟保険会社に対して、保険・再保険引受ポートフォリオの排出量ネットゼロ達成に向けた中期目標を設定することを促す「目標設定プロトコルのバージョン1.0(NZIA Target-Setting Protocol Version 1.0[3])」を公表し、当初東京海上を含むNZIA加盟の保険会社は、目標設定プロトコルのバージョン1.0(NZIA Target-Setting Protocol Version 1.0)の最低要件として、2023年7月末日までに、1.包括的な排出削減目標(Overarching emissions reduction targets)、2. セクター別脱炭素化目標(Sectoral decarbonisation targets)、3. ポートフォリオカバー目標(Portfolio coverage targets)、4. エンゲージメント目標(Focused Engagement targets)、5. 保険/再保険の移行目標(Re/insuring the transition targets)の5つのターゲットタイプのうち、少なくとも一つを設定・公開することが求められていた。今回の発表で東京海上は「4. エンゲージメント目標」を選択したとみられる。

Insuramoreの調査によると、東京海上は損害保険業界において世界トップ7位のシェアを有するグローバル企業である。今回の中期目標は国内損保子会社の東京海上日動火災株式会社だけにとどまっているが、海外の子会社である東京海上キルン等を含めたグループ全体で中期目標を発表する必要がある。また、今回の東京海上の中期目標には、エンゲージメントを行った結果として、顧客のGHG排出削減の成果が見られない場合にどのような対処をとり、パリ協定1.5度目標と整合する計画なのかという点が欠けており、エンゲージメントの実行力に疑問を持たざるを得ない。

東京海上は本発表について、2050年カーボン・ニュートラル実現や保険引受・投融資ポートフォリオにおけるGHG排出量削減のためには、東京海上のみならず、顧客や投資先企業においても脱炭素化に向けた取り組みを進展させる必要があると説明しているが、肝心の自社の保険引受ポートフォリオにおけるGHG削減量の目標については未だに公表していない。仏大手のアクサは5月にNZIAを脱退したが、その後、「2021年を基準年として、2030年までにアクサの商業保険の大口顧客の絶対炭素排出量を30%削減する」等、2030年目途とした具体的な保険引受ポートフォリオの中期目標を発表している[4]。また、独大手アリアンツも「2030年までに商業保険のGHG排出原単位を45%削減する」等の中期目標を発表している[5]

以上から、東京海上に対し、早急に自社の保険引受ポートフォリオにおけるGHG削減量の目標を発表することを求める。また、SOMPOホールディングス株式会社とMS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社に対しても、早急に保険引受ポートフォリオにおけるGHG削減量の目標を設定するよう求める。

注釈

  1. tokiomarinehd.com/release_topics/release/2023/l6guv3000000hwi3-att/20230929_engagement_j.pdf 
  2. https://www.tokiomarinehd.com/release_topics/topics/2023/l6guv3000000h4qa-att/20230529_NZIA_j.pdf 
  3. https://www.unepfi.org/wordpress/wp-content/uploads/2023/01/NZIA-Target-Setting-Protocol-Version-1.0.pdf 
  4. https://www-axa-com.cdn.axa-contento-118412.eu/www-axa-com/6caad3e0-bf63-48b5-a3c4-78c904b26fbb_axa_climate_and_biodiversity_report_2023_va.pdf 
  5. https://www.allianz.com/en/press/news/commitment/environment/230907_Allianz-announces-first-net-zero-transition-plan-with-2030-intermediate-targets-for-core-business-segments.html 

本件に関するお問合わせ先

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、
田辺有輝/喜多毬香   tanabe@jacses.org/kita@jacses.org