プレスリリース:
機関投資家も東京海上に働きかけ
~パリ協定の目標に整合し、新規化石燃料事業への保険引受停止を~
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
国際環境NGO FoE Japan
国際環境NGO 350.org Japan
メコン・ウォッチ
Insure Our Future
国内外の環境NGO6団体は、東京海上ホールディングス株式会社(以下、東京海上)の大株主である金融機関50社に、同社に対してパリ協定の長期目標と整合化を図り、化石燃料事業の保険引受および投融資を停止するようエンゲージメントを求める要請書(※1)を7月末に送付したところ、現在までに10社から回答があり、その中で、同社にエンゲージメントを行った、あるいは今後エンゲージメントを行う、と回答した金融機関は2社でした。
寄せられた回答の中には、機関投資家として、以前より東京海上に対しエンゲージメントを行っており、同社がネットゼロ達成のための長期目標を掲げ、目標達成のための道筋を構築するよう、今後も引き続きエンゲージメントを行うとの趣旨の回答もあり、今回のみならずより継続的なエンゲージメントに積極的な姿勢も窺えました。
一方、6社からは、個別の投資先とのエンゲージメントの状況については回答できないとの趣旨の回答を頂きました。しかし、融資先とは異なり、投資先とのエンゲージメントに守秘義務は生じないはずです。また、各金融機関は投資先の議決権行使結果やその理由についてをすでに公表していることから、このような回答は一貫性を欠いた対応であり、機関投資家としての社会的責任を果たすためには早急な改善が必要です。
東京海上のライバル企業であるSOMPOホールディングス株式会社(以下、SOMPO)は、5月27日にオイルサンド開発・北極野生生物国家保護区でのエネルギー採掘事業への新規保険引受停止を日本の金融機関として初めて発表し(※2)、6月28日には、2025年1月までに温室効果ガス(GHG)削減計画の策定がない「石炭事業を主業にする企業」等の保険引受・投融資を停止する方針を発表しました(※3)。後者の方針については、制限対象に含まれる企業のしきい値が実際に石炭事業を拡大している企業の半数程度しかカバーできないとされる30%であることや(※4)、停止対象のGHG削減計画の内容に具体的な要件が設定されていないこと等、依然として内容に課題はあるものの、気候変動の観点から保険引受および投融資対象を企業単位で制限する方針を掲げたのは日本の金融機関として初めてでした。このように、SOMPOは日本の大手損害保険会社の中でも先駆的な取り組みを見せています。
一方、東京海上は日本国内で最大の損害保険会社であり、化石燃料事業に保険サービスを提供している世界10大損害保険会社の一つでありながら、いまだに新規の石油・ガス事業の保険引受に対し何も制限を設けていません。東京海上は、石油の流出や現地住民との軋轢で問題となっているブラジルのオフショア石油採掘事業の主要な保険引受者であることが判明しており(※5)、米国アラスカ州の野生生物保護区での石油・ガス採掘事業、貴重な自然の破壊や現地住民への人権侵害などが懸念される1,400kmにも及ぶ東アフリカ原油パイプライン事業(EACOP)についても特に制限を設けずに今後保険の引受者になる余地を残しています。東京海上の方針強化の動きは鈍く、日本において先駆的な方針を発表したSOMPOや、石油・ガス事業への包括的な制限を設けている独アリアンツやスイス再保険を含む海外の10社に大きく遅れをとっている状態です。
以上の事から私たちは、東京海上に対して、気候変動の深刻さを認識し、同社の保険引受および投融資方針をパリ協定の長期目標に整合するよう、引き続き求めます。また、機関投資家に対して東京海上へのエンゲージメントの継続・強化を求めます。
脚注
- http://jacses.org/1879/
- https://www.sompo-hd.com/-/media/hd/files/doc/pdf/ir/2022/20220527.pdf?la=ja-JP
- https://www.sompo-hd.com/-/media/hd/files/news/2022/20220628_1.pdf?la=ja-JP
- ドイツの環境NGOウルゲバルトは、30%のしきい値では実際に石炭事業を拡大している企業の半数程度しかカバーしないため、石炭事業に関与する企業のデータベース『Global Coal Exit List(GCEL)』の対象企業になるしきい値を30%から20%に厳格化しています。詳細は以下のURLを参照。https://www.coalexit.org/methodology
- http://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2022/01/2778bedf0776ccb21474257b1f0de751.pdf