<プレスリリース>
長期戦略懇談会提言を受けて
「脱炭素社会」への具体目標・具体政策が欠如
政府戦略では石炭火力フェーズアウト・再エネ100%を明示すべき
2019年4月2日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡美恵
安倍首相の指示によって設置された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会(以下、懇談会)」が、パリ協定において策定が求められている「長期低排出発展戦略」についての提言を取りまとめた。
提言では、長期戦略は、世界の目標に貢献するものであること、環境と成長の好循環の実現に向けたものであること、野心的なビジョンであること、望ましい社会像への移行を目指すものであること、スピード感を持って取り組むものであること、そして、世界に貢献・発信するものであることが必要であるとして、「脱炭素社会」という未来像を最終到達点とし、それを今世紀後半のできるだけ早期に実現し、1.5℃目標を含むパリ協定の長期目標の実現に向けた日本の貢献を示していくべきだとしている。
しかしながら提言は、1.5℃目標に触れながらも、2050年80%削減という長期目標を前倒しすることはなく、現状のままに留めている。これでは1.5℃目標と整合させることは難しい。それだけでなく、1.5℃の実現のためには、今ある実現可能な技術を通じて速やかかつ大胆に対策を加速させる必要があるにもかかわらず、2030年目標の引き上げや、対策をさらに深堀りするための手段の具体化に踏み込んでおらず、今最も必要とされている対策・政策の転換へのシグナルを欠いている。
何より、今、多数の石炭火力発電所の建設計画が国内で進み、このままでは将来にわたり大量の温室効果ガス排出が長期間固定化されてしまう問題については、「パリ協定の目標と整合的に石炭火力の依存度を可能な限り引き下げいく」とするだけで、具体的な対応策に触れていない。パリ協定との整合性を図るなら、2030年に全廃するしかなく、それを明確に提言するべきであった。同様に、海外への石炭火力への支援についても、当然、中止することを明示するべきだが、そのことにも踏み込めていない。日本の石炭火力の推進の方針転換を含まなければ、長期戦略は、見せかけだけの極めて不適切なものにしかならない。
さらに、イノベーションとして、CCSやCCU、宇宙太陽光や次世代原子力といった、実用化のめどが立たず問題の多い技術を並べ、それらがすべての解決策のように強調されていることは極めて問題が大きい。これらの将来の技術の可能性に過度に依存することは、化石燃料利用やエネルギー多消費社会の継続を正当化させ、取るべき対策を遅らせるだけであり、道筋として危うい。
本提言は、脱炭素社会という、日本が向かうべき方向性を示した点では評価できるが、その道筋のあり方と努力の水準、さらに具体的対策・政策においては問題が多いといわざるを得ない。この提言を受けて、政府は、長期戦略策定に取りかかることになるが、以下の点を盛り込んだ、G20前に世界に示すことに相応しい、意欲的な戦略を策定するべきである。
- パリ協定の1.5℃目標の達成を目指し、2050年に温室効果ガス排出を実質ゼロとすること
- 2050年に再生可能エネルギー100%を目指すこと
- 現在進行中の石炭火力発電所の建設計画は、アセス中・アセス完了・建設中を含め全て中止し、2030年には石炭火力をフェーズアウトすること。また、途上国への石炭火力発電への支援は直ちに停止すること
- 現行の2030年26%削減目標の引き上げのためのプロセスを開始し、再エネ100%・石炭火力フェーズアウトを着実に進めるため2030年のエネルギーミックスも見直しすること
- カーボンプライシングの導入し、省エネ・再エネの促進のための経済的なCO2削減へのシグナルを発信すること
なお、今回の提言策定に関しては、その策定プロセスは不透明で、開かれたものとは言えなかった。政府の長期戦略策定は、透明性の高いプロセスで市民参加の下で十分な議論を経ることを通じて策定することを要請する。
リリース本文(PDF)
プレスリリース「長期戦略懇談会提言を受けて 「脱炭素社会」への具体目標・具体政策が欠如~政府戦略では石炭火力フェーズアウト・再エネ100%を明示すべき~」
参考