<プレスリリース>
環境アセス準備書に対し、環境大臣がまたもや「再検討」を要請
JERAは横須賀石炭火力建設計画の中止判断を
2018年8月21日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美惠
8月10日、株式会社JERAが神奈川県横須賀市で計画している「(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機建設計画」の環境影響評価準備書に対する環境大臣意見が公表された。今回の大臣意見書においては、本事業により、「追加的な二酸化炭素の年間排出量は726万トン程度にも及ぶことから、環境保全面からは極めて高い事業リスクを伴う」ものであるとし、事業者に対しては、そのことを改めて自覚し、「2030年度及びそれ以降に向けた本事業に係る二酸化炭素排出削減の取組への対応の道筋が描けない場合には事業実施を再検討することを含め、あらゆる選択肢を勘案して検討することが重要」だと指摘されている。
環境大臣は、2016年2月の大臣合意以降、石炭火力計画の環境アセスで「是認できない」という断定的な意見をしておらず、石炭火力発電所建設計画にブレーキをかけられていない。これまで、本計画を含め5つの計画に対して「再検討」を要請してきたが、実際に再検討し、事業を見直した事業者は皆無であり、事業の継続もしくは着工を次々と迎えている。もはや、環境アセスメント制度の形骸化に環境省が自ら加担するばかりか、気候変動対策の強化を訴える市民の声に応えようという姿勢すら感じられない。パリ協定の目標達成を危うくするばかりか、国際的に「不十分」と厳しい評価を受けている削減目標の見直しすらままならない状況にある。一刻も早く、温室効果ガスの大排出源である石炭火力規制へ踏み込むべきだ。
本事業の問題を下記3点に示すとおり、社会的に「是認」されるものではなく、中止すべき計画である。
第一に、本計画は、石油を燃料とする3~8号機、軽油・ガスを燃料とする非常用設備1-2号ガスタービン発電設備を廃止し、新たに石炭を燃料とする発電設備(出力約130万kW)を設置するものである。準備書では、既設の6基(石油)と、ガスタービン2基を「既設稼働時(現状)」としたうえで、新設する石炭火力とを比較し、環境負荷の低減が謳われた。しかし、既存の設備の大半は2001年から順次、長期計画停止となっており、その後、東日本大震災時に一部が運転を再開したものの2014年4月以降、再び長期計画停止となっている。東日本大震災以降、節電や省エネによる国内の電力需要は減少傾向にあり、新たに130万kWもの大規模な発電所を建設する必要性がない。
第二に、環境大臣意見でも指摘されているとおり、2030年度における石炭火力発電の設備容量は約5970万kW、CO2排出量は約2.9億トンと推計され、2030年度のCO2排出削減目標を約6800万トン超過する可能性がある。USC(超々臨界圧)を採用することによってCO2の排出源単位を低減するとしているが、予測される原単位は0.749kg-CO2/kWhとLNGの約2倍にのぼる。さらに電気事業低炭素協議会の掲げる「低炭素社会実行計画」で示された「2030年度に排出係数0.37kg-CO2/kWh」とする目標に対しても約2倍と大きく上回っている。本計画が稼働すれば、CO2が30~40年にわたって排出されることとなり、達成への道筋が明確ではない状況で、大量のCO2排出を固定化する事業は容認されるべきではない。
第三に、2016年に「パリ協定」が発効し、気温上昇を1.5~2度未満に抑えることを目標として、人為的な温室効果ガス排出を実質ゼロにすることに対し日本も合意した。脱炭素社会の構築に向けた世界の潮流の中で石炭火力発電を抑制していく流れがある状況、更にはパリ協定に基づき中長期的には世界全体でより一層の温室効果ガスの排出削減が求められる状況にある。大臣意見においても、「世界の潮流に逆行するような地球温暖化対策が不十分な石炭火力発電は是認できなくなるおそれ」もあると指摘している。パリ協定の要請と整合せず、社会的説明責任も果たされていない状況であり、本来であれば容認されるものではないことは明らかである。また、様々な金融機関や機関投資家等が投融資を引き揚げるダイベストメントの動きが広がっており、石炭火力発電所に対する投資リスク、経済的リスクを考慮すれば、本事業は中止するしかない。
以上より、事業者は、環境大臣の意見を真摯に受け止め、あらゆる選択肢を考慮して事業を再検討するのは、当然であるが、経産大臣にあっては、環境大臣意見を勘案し、事業の見直しを勧告すべきである。
プレスリリース(本文)
環境アセス準備書に対し、環境大臣がまたもや「再検討」を要請‐JERAは横須賀石炭火力建設計画の中止判断を‐
参考
(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機建設計画に係る環境影響評価準備書に対する環境大臣意見の提出について(環境省)
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