<プレスリリース>
小規模石炭火力の新設禁止規制 方向性は歓迎だが遅きに失した対策だ
~脱炭素化には、今ある小規模計画だけでなく、大規模計画も、すべて中止が必要~
2018年7月27日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡美恵
報道等によると、経済産業省が発電効率の低い小規模石炭火力発電所の新設を事実上禁止する方針と報じられた。パリ協定に基づき、早期の脱炭素化が求められている中で、火力発電所のなかで最もCO2排出が多い石炭火力への規制は急務であり、そこに着手する点は評価できる。しかし、今回の規制の対象である小規模設備も、2012年以降に19基が計画され、現在、それらの大半は既に着工もしくは、運転開始を迎えており、遅きに過ぎた。規制の対象範囲等は、今後、ワーキンググループを立ち上げ、事業者へのヒアリング等を行い、決定する方針とのことであるが、現在着工前の小規模石炭火力発電所計画は全て対象とすべきである。
石炭火力発電所は、2030年の電源構成見通しでは26%と位置づけられ、それ自体、過大であるが、福島第一原子力発電所の事故以降、大小50基もの新設計画が浮上し、そのまま実施されれば、その限度をも超え、2030年の国の削減目標(これも低きに過ぎる)の達成が危ぶまれている状況にある。こうした中、とりわけ小規模石炭火力発電所は、大型石炭火力発電所に比べると、低効率であるばかりか、環境アセスメントの対象外とされ、情報公開や住民とのコミュニケーションも十分に行われていない。宮城県仙台市においては、住民らが稼働に入った小規模石炭火力発電所の運転差し止めを求めて提訴し、係争中である。
また、一部計画においては、石炭・バイオマス混焼を行うことで、固定価格買取制度(FIT)による設備認定を受け、財政的に優遇されるとともに、省エネ法における特例措置によって、発電効率の改善にも使われてきた。これらは、石炭火力を延命させる措置として、一刻も早い対策が必要であることも指摘をしてきたところである。
昨今、日本の金融機関において、石炭火力に対する融資の厳格化または制限の動きが見られつつあるが、これらはパリ協定のもとで急速に進む脱炭素・脱石炭の流れの、最初の段階でしかない。小規模石炭火力発電所の規制にとどまり、2020年以降に順次、運転開始を迎える予定の多数のUSC(超々臨界圧)、IGCC(石炭ガス化複合発電)を採用した大規模な高効率石炭火力計画については、今後もその推進を是とする方針である限り、国際的な批判は免れえず、金融リスクの軽減にもつながらない。今後は、CCS(二酸化炭素固定貯留技術)の供えのない、いかなる石炭火力技術も、国際的な理解が得られる可能性はない。脱石炭の流れを加速化させなければならず、日本には、その方向性を示すことが求められている。そのためには、大規模を含め、石炭火力を巡る規制全体を抜本的に見直し、強化が必要である。既に稼働したプラントについても、カーボンプライシングによる価格シグナルの導入など実効性のある対策を講じることが不可欠である。
プレスリリース(PDF)
小規模石炭火力の新設禁止規制 方向性は歓迎だが遅きに失した対策だ-脱炭素化には、今ある小規模計画だけでなく、大規模計画も、すべて中止が必要-
参考
石炭火力の新設規制 経産省方針、小型は事実上禁止(日経新聞2018年7月26日)
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