GX2040ビジョン(案)に対する意見
火力・原子力維持のための誤った脱炭素ではなく、再エネシフトで経済成長を
2025年1月23日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵
日本政府は、2024年12月26日に脱炭素社会と産業振興の両立を目指す国家戦略「GX2040ビジョン」案を公表した。この案は、2023年6月に成立した「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」に基づき策定される「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(GX推進戦略)」の改定版としてまとめられたもので、2040年を見据えて脱炭素社会と産業振興の両立を目指す国家戦略であり、脱炭素技術への投資を促進するものとされている。しかし、GXと銘打った「脱炭素」の方向性や内容、策定プロセスともに問題が多く、今回の改訂作業とともに平行して行われてきた「第7次エネルギー基本計画(案)」「地球温暖化対策計画(案)」などと合わせて、誤った方向性のもと、その実現のための政策を固定化しようとするもので、科学が要請する気候変動対策にはほど遠いものだ。以下にその問題点を示す。
偏った委員によるGX実行会議での不透明かつ閉鎖的な策定プロセス
この案をとりまとめたGX実行会議は、議長に内閣総理大臣、副議長にGX実行推進担当大臣(経済産業大臣が兼務)、内閣官房長官、外務大臣、財務大臣、環境大臣及び以下の有識者が参加している。有識者として加わる委員は、エネルギー関連産業に関わる利害関係者が多数を占め、本来は大規模排出事業者として排出を規制されるべき団体の代表や出身者である。そして、実行会議は資料が公開されるのみで、会議自体中継もされず非公開で行われており、非常に不公正で不透明かつ閉鎖的な策定プロセスでまとめられている。
2040年の国の骨格となるようなビジョンを決めるにあたっては、議長である内閣総理大臣および参加する大臣は、国民の多様な意見を聞くべきだが、この実行会議では非常にアンバランスな一部産業界を代表する意見のみで国の重要な戦略をまとめており問題だ。国民に開かれた公正なプロセスで実行会議を開き、将来世代、一次産業従事者、地域住民、気候災害や原発災害の被害者、科学者、環境団体等の意見をふまえて策定されるべきである。
経済成長と火力・原子力に固執する”脱炭素政策”は両立しない
GX2040ビジョンでは、経済成長と脱炭素の同時実現を目指すとしており、「S+3Eの原則に基づき、脱炭素化に伴うコスト上昇を最大限抑制し、経済合理的な対策から優先的に導入していく」との方向性が示されている。経済合理性の観点からも、世界的に価格が下がっている風力や太陽光などの再生可能エネルギー(再エネ)の拡大に最優先で取り組むことこそ重要だ。しかし、現在政府が推し進めているのは、それとは逆で経済合理性のない火力発電や原発を維持するための「容量市場」「長期脱炭素電源オークション」「水素社会推進法による価格差補填」といったしくみである。 世界では、各地で再エネが急速に拡大しており、日本が投資を振り向けている水素やアンモニアなどは再エネで水を電気分解するグリーン水素やグリーンアンモニアでなければ削減効果が得られないが、高コストでこれを発電の主力として用いる方策はありえない。再エネを拡大し、その余剰電力を活用して得られる貴重な”エネルギー”である水素を、電力分野以外の高温熱利用分野で利用を図るべきものである。まずは、再エネの普及拡大、省エネに寄与する技術の研究開発および設備投資等にこそ政策的な支援を振り向けるべきである。
また、真に「アジアでの脱炭素・経済成長・エネルギー安全保障の確保の同時実現及び多様な道筋によるネットゼロの実現を目指す。」のであれば、日本独自の見解に基づく「脱炭素技術」をアジア諸国に押し付けるのではなく、再生可能エネルギーの拡大、あるいは省エネ技術の発展を支援すべきであり、既存の火力発電を維持するための策、あるいは新規の火力発電所の建設計画を導入すべきではない。
火力や原子力は経済性、エネルギー安全保障(自給率)、環境適合性の観点から合理的ではなく、日本の産業競争力の強化にもつながらない。
カーボンバジェットをふまえたカーボンプライシングの設定を
カーボンプライシングとしての化石燃料賦課金は2028年度から導入、排出量取引制度は2026年度から本格稼働、発電事業者への有償オークションは2033年度から導入となっているが、気候変動対策は1.5℃目標をふまえて2030年までの大幅削減が求められており導入時期を大幅に前倒しすべきである。
まず、化石燃料賦課金として設定しているものは、国会を通さずに官僚の裁量だけで決められる「賦課金」ではなく、国会で審議した上で設定する「炭素税」として2026年度からの本格導入とするべきである。また、炭素税の税率は、削減効果が得られる程度の高い水準で設定すべきである。
また、排出量取引は年間10万トン以上排出している企業を対象とし、無償の排出枠を設定することとしているが、段階的削減を効果的に行うためにも排出枠の総量は1.5℃目標に整合するカーボンバジェットをふまえて設定することが求められている。排出枠の設定についても、国民的議論をふまえて、透明性の高いプロセスで実施されるべきである。
<GX実行会議委員>
淡路 睦 株式会社千葉銀行 取締役常務執行役員
伊藤 元重 国立大学法人 東京大学 名誉教授
岡藤 裕治 三菱商事エナジーソリューションズ株式会社 代表取締役社長
勝野 哲 中部電力株式会社 代表取締役会長
河野 康子 一般財団法人 日本消費者協会 理事
小林 健 日本商工会議所 特別顧問、三菱商事株式会社 相談役
重竹 尚基 ボストンコンサルティンググループ Managing Director & Senior Partner
白石 隆 公立大学法人 熊本県立大学 理事長
杉森 務 ENEOS ホールディングス株式会社 代表取締役会長
竹内 純子 特定非営利活動法人 国際環境経済研究所 理事・主席研究員
十倉 雅和 一般社団法人 日本経済団体連合会 会長
林 礼子 BofA 証券株式会社 取締役 副社長
芳野 友子 日本労働組合総連合会 会長
出典)GX実行会議(第1回)資料1より
参考
気候ネットワークからの意見発信
【意見書】日本のNDC(国別削減目標)のとりまとめに対する意見 ~温室効果ガスの2035年目標は2013年比80%削減に~(2024年12月3日)
お問い合わせ
本プレスリリースについてのお問い合わせは以下よりお願いいたします。
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
(京都事務所)〒604-8124 京都市中京区帯屋町574番地高倉ビル305号(→アクセス)
(東京事務所)〒102-0093 東京都千代田区平河町2丁目12番2号藤森ビル6B(→アクセス)
075-254-1011 075-254-1012 (ともに京都事務所) https://kikonet.org