Kiko」は、温暖化問題の国際交渉の状況を伝えるための会期内、会場からの通信です。

会議場通信 Kiko バクーNo.4(2024年11月25日) 

中断に次ぐ中断のCOP29 最終交渉の行方

COP29は会期を2日延長し、11月24日早朝に閉幕した。会議が何度も中断されるなか、会場の給水器は撤去されはじめ、食べ物を買う場所もなくなったが、会場と街をつなぐバスは早朝まで延長された。オブザーバーの中には諦めて会場を去る者もいれば、徹夜で最終結果を待つ者もいた。Kikoは最終結果を聞くために会場にいた。これから、その最終結果をお伝えしよう!

気候資金

資金の新規合同数値目標(NCQG)に関する議論は予想通り難航した。最終文書には、先進国から年間「1.3兆米ドル」の気候資金という具体的な数値が記載されたが、これは途上国に流れるすべての資金をまとめた金額であり、実質的な気候資金は年間「3000億米ドル」である。また、公的資金だけでなく民間資金も含むため、途上国にとっては受け入れがたい内容だった。最終的に合意されたものの、インドやナイジェリアなどは強い言葉で反発し、この決定を受け入れない立場を強調した。

損失と損害

スウェーデンやオーストラリアから資金提供のプレッジがあった一方で、NCQGの資金目標において損失と損害に対する資金をサブゴールとして位置づけることができるかどうかが焦点となっていたが、決定文書の中でそれが明確に示されることはなかった。資金以外ではワルシャワ国際メカニズムのレビューが行われたが、レビュー内容の合意には至らず、来年へと持ち越された。

緩和

昨年COP28での第1回グローバル・ストックテイク(GST)で合意された化石燃料からの脱却や再エネ3倍といったGHG排出削減への貢献を促せるかが焦点の一つだった。GSTのフォローアップのためのUAE対話での合意に盛り込まれることが期待されていたが、今回合意ができず実質的に議論は先送りとなってしまい、緩和の成果は非常に弱いものとなった。

パリ協定6条

会議初日に6条4項の方法論に関する合意がなされたが、加えて6条2項と6条4項の残された論点、そして6条8項に関する交渉も進み、早い段階でそれぞれの文書からはブラケットやオプションが消えた。登録簿などは閣僚級会合でも意見のすれ違いが見られたようだが最終的に合意に達し、10年にわたり欠如していたパリ協定のパズルピースがはまる形となった。

公正な移行

公正な移行作業計画(JTWP)の議論はCMAで継続されたが、この1週間はCOP議長との私的協議に時間を費やされたため、締約国は合意文書案への提案や他国と交渉する機会がないことを嘆いた。会議終盤に議長が示した合意文書案には先進国の意見が大きく反映されたが、途上国が支持している要素は反映されなかった。結局、交渉する時間も足りず、議論を促進するための工夫もされず、COP29では合意には至らなかった。

閣僚級会合での浅尾大臣演説は?

20日の閣僚級会合では浅尾慶一郎環境大臣が演説を行った。COPの歴史を知るKikoより、僭越ながら申し上げる!

「資金のCOP」であり、これまでの日本の気候資金への貢献の実績をアピールしたのは理解できる。だが、日本の気候資金の実績は、バングラデシュの石炭火力発電所など排出増につながる事業への支援も含む。金利の高いローンが多いことでも悪名高い。金額の積み増しに加え、資金貢献のあり方を改善することも必要だ。今回特にがっかりなのは、浅尾大臣から、新たな気候資金への貢献の意思表明がなかったことだ。

大臣がパリ協定の1.5℃目標に整合する野心的な目標を策定すると述べたことにKikoは心強さを感じた。しかし、1.5℃目標の達成に必要となる「2013年比で2035年までに81%削減」への言及も「石炭火力発電の2030年までの全廃」の約束もなかったし、化石燃料からの脱却、再エネ3倍や省エネ改善率2倍といったCOP28での合意にも触れなかったのは残念だ。

浅尾大臣には、新しいエネルギー基本計画や国別貢献(NDC)に、脱石炭や再エネ3倍といった『魂』を込めることに、ぜひリーダーシップを発揮いただきたい。Kikoは、心から応援する!

(国際環境NGO 350.org Japan 伊与田昌慶)

People’s Plenary

交渉も大詰めとなった11月21日、市民社会による「People’s Plenary」が行われた。普段は交渉官が議論を行う本会議場に、世界各国のNGOやアクティビストが集まった。イベントでは、先住民や紛争地域の出身者、気候災害の被害者など多様なバックグラウンドを持つ人々がスピーチを行った。涙を見せながら紛争や気候災害の悲惨な現状や想いを伝える話し手に、会場からはスタンディングオベーションが起こった。イベント後半では、ヨーロッパ、北米、日本などの先進国出身者が立ち、Pledge (宣言)を読み上げた。ジェノサイドに対する連帯や公的な気候資金のために声を上げ続けることなどであった。先進国に続き、アフリカやラテンアメリカ、アジアなどの途上国出身者が宣言した。このような市民社会の連帯感が国際交渉においてポジティブな結果を生み出すことをKikoは願っている。

気候資金の新規合同数値目標は本当に必要とされるところに割り振ろう(eco抄訳11/19)

気候資金へのアクセス改善に関する議論は、NCQGの決定文書において注目を集め、いくつかの提案が出されてきた。しかし、議論を進めるためには具体的な方法を獲得することが重要なのだと強調しておきたい。

現在の気候資金の仕組みは、不平等を助長している。地元の組織、女性主導の団体、若者グループ、農民団体、紛争の影響を受けたコミュニティ、先住民族など資金を最も必要とする国やコミュニティに対して、適切な資金調達が行われず、利用しやすいものとなっていないのが現状だ。

紛争が起きたり多元的な脆弱性に直面している地域を含め、気候資金を最も必要としている地域に流れている資金は、優先順位が偏っている上に気候資金の提供者がリスク回避を行っていることにより、依然として不足している。

NCQGの決定において具体的な行動を提案し、これらの問題に取り組むことは、すべての当事者に利益をもたらすものであると同時に義務でもあるが、損失と損害基金の運用を開始する状況においても同様である。ここで言う具体的な行動としては次のことが挙げられる。 (1)気候資金へのアクセスと承認手続きを簡素化する具体的な方法について合意する、(2) 資金提供を妨げている協調融資やその他の非常に厳しい要件を緩和する、能力の強化を支援する、(3) さまざまなグループを対象に、その特殊性を認識した直接のアクセス窓口を設ける、 (4) 意思決定のあらゆる領域において、これらのグループの声が十分に取り入れられる、(5) 情報の公平かつ効率的なアクセスを支援する。

※ECO は、気候変動問題に取り組む NGO の国際ネットワーク Climate Action Network が COP などで発行しているニュースレターです。

新たな気候資金目標における損失と損害 勝ち目はあるのか?(eco抄訳11/20)

11年前のCOP19のさなか、大型の台風30号がフィリピンに上陸し、甚大な被害をもたらした。この事態が昨年のCOP28で「損失と損害基金」を立ち上げる後押しとなった。

そして今年、COP29が開催されているさなかに、またもフィリピンは異常事態に見舞われた。10月下旬から11月のわずか1ヶ月の間に、2つの超大型台風を含む計6つの台風が襲来し、いずれも大雨をもたらした。

こうした状況にもかかわらず、先進国は損失と損害をNCQGに組み込むべきではないと言っている。一体どういうつもりなのか?彼らはパリ協定を文字通りに解釈し、説明責任と義務を逃れるのを正当化しようとしているのだ。

COP29の後半に向け、途上国は、毎年最低でも1.3兆米ドルの公的資金を確保するだけでなく、損失と損害がNCQGの対象に確実に含まれるように戦わなければならない。

気候変動交渉が「ニーズに基づく」ものであることを確実にするために真剣に取り組むというのであれば、先進国は損失と損害を適応や緩和と切り離して考えるのをやめる必要がある。気候変動対策の3本柱である適応、緩和、損失と損害は、互いに影響し合っている。損失と損害にせよ、気候変動対策全般にせよ、単に誓約に参加するだけでは十分ではない。先進国が、実際の資金提供やその他の実施手段を通して確実に支援の約束を実行に移すことを確認する必要がある。

気候変動を引き起こす国(人)は代償を支払わなければならない。問うべきは、いつ支払うかということだけだ。

会場通信Kiko COP29 CMP19 CMA6 No.4

2024年11月25日 アゼルバイジャン共和国 バクー発行
執筆・編集:浅岡美恵、鈴木康子、榎原麻紀子、稲葉裕一、森山拓也、ギャッチ・エバン、中西航、田中十紀恵