計画全体について

 世界気象機関によると2023年の世界の平均気温は観測史上最高となった。2024年も世界中で猛暑や大雨などの異常気象に見舞われ、災害が拡大している。日本でも年平均気温および日本近海の平均海面水温がいずれも観測史を塗り替える状況にあり、記録的な大雨や熱中症などの被害が深刻化している。国連のグテーレス事務総長は深刻化する状況を「地球沸騰化」と表現し、地球温暖化を1.5℃以内に抑えるための行動の加速を訴えている。COP28では、2030年までのエネルギー効率2倍と、再生可能エネルギー3倍が世界の目標として合意され、化石燃料からのエネルギー転換の重要性が強調されている。

 気候変動対策の強化が要請されている世界情勢のもとで、温室効果ガスを大量に排出するガス火力を新設することについて、以下の点について「意味ある応答」を求めるとともに、事業の再考を求める。

温室効果ガス排出について

 本計画では、2030年3月に、新2号機の運転開始が予定されている。本計画により柳井発電所全体の出力は、現状(153.9万kW)から約179万kWとなる増設計画である。老朽設備からのリプレースを強調するが、GTCCを採用してもLNG火力が膨大な量の二酸化炭素(CO2)を排出することに変わりはない。また、火力のトランジション計画に則った取り組みとして、本計画の必要性が強調されているが、その必要性を示す定量的なデータは何も示されておらず、事業者の論理が語られているに過ぎない。さらに、温室効果ガス排出量について「CO2の年間排出量については、準備書段階において設備の稼働率、燃料使用量等を詳細検討し、予測評価を行ってまいります。 」としているが、温室効果ガスを大量に排出する事業特性を踏まえると、配慮書段階において開示するべき情報である。情報開示が遅れることにより、回避し得る環境影響、対策の選択肢が狭められてしまう。将来の水素混焼に対応可能な設備とすると記載されていることも踏まえ、早期に稼働開始時および混焼開始以降の推定CO2排出量を公開するべきである。

科学的知見について

 IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書は、既存の化石燃料インフラが今後その耐用期間中に排出する累積のCO2総排出量を6600億トンと予測している(報告書作成時点で計画されている化石燃料インフラからの累積総排出量を加えると8500億トン)。これは、同報告書で地球温暖化を50%の確率で1.5℃に抑えるための限度として示されたCO2の累積総排出量5000億トンを大きく上回ってしまう。つまり、科学的な観点から見れば、新規建設の余地はなく、既存の化石燃料インフラであっても耐用期間の終了を待たずに廃止する必要がある。本計画のようにリプレースであっても、運転開始後、長期にわたってCO2を排出し、残された累積排出量の枠を消費することになるため、1.5℃目標との整合性について、市民に分かるように説明することを求める。

排出係数について

 LNG火力の排出係数は、ガスコンバインドサイクルが0.32~0.36kg-CO2/kWh程度とされており、これは国際エネルギー機関(IEA)が2021年5月に「Net Zero by 2050」で示した1.5℃シナリオで求められている2030年の排出係数0.138kg-CO2/kWhと比べ約2.5倍にもなり、1.5℃目標に整合しないことは明らかである。本リプレース計画の排出係数について、いかなる形でも良いので数値を示す形で回答(情報公開)することを求める。

配慮書における経済産業大臣意見について

 貴社は配慮書において、「再生可能エネルギーの導入拡大が進む中で、LNG火力は需給運用における調整力として重要な電源と認識しており、ゼロオプションは検討しておりません。」としている。しかし、経産大臣意見において「本事業に係わる二酸化炭素排出削減の取組の道筋が、1.5℃目標と整合する形で描けない場合には、稼働抑制や休廃止などを計画的に実施することも含め、あらゆる選択肢を勘案して検討すること」と述べられており、あらゆる選択肢の勘案には、リプレース計画の断念も含むと解するべきである。今回の方法書には「バイオマス発電や水素・アンモニア発電、IGFC+CCUS/カーボンリサイクル等のあらゆる選択肢を追求していく。」と記されているが、実質的な削減の道筋を示していない以上、あらゆる選択肢を勘案して検討したとは言い難い。

1.5℃目標との整合性について

 本計画は、「当社『2050年カーボンニュートラルへ向けたロードマップ』及び国が第6次エネルギー基本計画(令和3年10月)で示した2050年カーボンニュートラル実現に向けた対応にも合致するものである。」と記載されているが、気候ネットワークが貴社のロードマップを検証した結果からは、貴社のロードマップ自体、1.5℃目標との整合性の検証や、2030年に向けた排出削減の進捗を評価することが難しいことが判明している。よって、2050年カーボンニュートラル実現に対応していると評価するための根拠をCO2排出量も含めて明示することを求める。

水素やアンモニアを「カーボンニュートラル燃料」とすることについて
本事業における国民負担等について

 本リプレース計画は、長期脱炭素電源オークションにおける落札電源となっている。これにより、20年間に渡って多額の費用が支払われることになる。リプレース後の柳井発電所のCO2排出量は、年間で約20万t低減する計画とあるが、2050年ネットゼロを目指す中での脱炭素策として十分とは言えない。さらに、貴社にとっては投資回収が容易になるかもしれないが、消費者負担、環境負荷の面を考慮すれば、本リプレース事業が脱炭素社会の早期実現に不適切である。費用の原資は、小売事業者らの容量供出金であり、小売事業者において電力料金に上乗せされる可能性もある。結果的に、消費者の意思に関わらず負担を強いられ、選択の自由を狭めてしまう恐れがあるため、事業者として真摯な説明を求める。

参考

柳井発電所2号系列リプレース計画 計画段階配慮書(中国電力HP

柳井発電所2号系列リプレース計画 環境影響評価方法書(中国電力HP

中国電力株式会社「柳井発電所2号系列リプレース計画 計画段階環境配慮書」に対する意見について(経産省HP

柳井発電所2号系列リプレース計画 計画段階環境配慮書に対する環境大臣意見の提出について(環境省HP

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