2024年6月16日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵

 2024年6月13日から15日にイタリアで開催されたG7プーリア・サミットは、14日(現地時間)に会議の成果をとりまとめた首脳声明(コミュニケ)を発表した。本コミュニケは、ウクライナ支援やロシアへの制裁、アフリカ支援・連携強化、AIなどに焦点を当てたものとなった。

G7は化石燃料から再エネへの転換に向けた実施の後押しを

 気候変動・エネルギー分野は、4月にトリノで開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合でとりまとめられたコミュニケの内容を確認し、1.5℃目標に整合したNDC(国が決定する貢献)の提出を約束するとともに、COP28の合意内容である化石燃料からの脱却、再生可能エネルギーの設備容量3倍、エネルギー効率倍増という目標があらためて記載された。そして、G7首脳級の合意文書で初めて、2030年代前半(この重要な10年と記述)と期限を付して、既存の排出削減対策が取られていない石炭火力の段階的廃止が明記されることとなった。一方、ロシアへのエネルギー依存からの脱却や収入制限の文脈で、ガスへの公共投資を許容する内容が盛り込まれた。原子力については紛争下での危険性を強調しつつ、そのエネルギー利用に紙面を割くなどの課題も残る。

 COP29では気候資金が大きな焦点となる。G7諸国は、国内はもちろん、国際協力においても、ガスを含む化石燃料や原子力ではなく、COP28で合意された化石燃料からの脱却、省エネルギーの徹底や再生可能エネルギーの拡大・普及に資金を振り分け、世界全体での実施を後押しすべきである。

日本政府は1.5℃目標達成に向けた政策転換を

 本コミュニケにおいても、2030年代前半までの排出削減対策が講じられていない石炭火力の段階的廃止が盛り込まれた。日本は国内で、発電における水素・アンモニア混焼を「排出削減対策」と位置付け、廃止の対象ではないと主張しているが、これは国際社会では認められていないものである。
 「排出削減対策のとられていない(Unabated)石炭火力発電所」とは、「CCSによりCO2を90%程度回収するような対策がとられていないもの」(IPCC第6次評価報告書)を指している。現状でのCCSによるCO2回収は6~7割程度にとどまり、2030年代にも間に合わないものである。アメリカでは 、環境保護庁(EPA)が4月に火力発電所からの汚染に関する最終基準を発表し、長期稼働を計画している既存の石炭火力発電所では、2032年以降、炭素排出量を90%抑制することとされている。日本の石炭火力へのアンモニア混焼や、老朽化した石炭火力にガス化設備をつけるGENESIS松島計画などは、CO2削減効果が乏しく、1.5℃目標との整合性についての国際社会の認識の前提とされているIPCCが示す水準の「排出削減対策」とは全く異なり、再生可能エネルギー導入の足かせとなるだけである。

 現在、日本では第7次エネルギー基本計画の策定に向けた議論が続けられているが、G7諸国で唯一石炭火力の廃止期限を明示していない国であることに向き合い、早急に石炭火力の段階的廃止に向けた具体的なロードマップを示すべきである。なお、1.5℃目標達成のためにはOECD諸国に2030年までの石炭火力の廃止が求められており、G7合意の2030年代前半を待たずに段階的廃止を達成することが望ましい。
 また、データセンターの大型化等による電力需要の増加が強調され、安定供給に議論が集中し、原子力の新増設にも踏み出そうとしている。福島原発事故を経験し、原子力への依存度低減の公約を放棄するもので、新増設の容認はあってはならない。
 気候危機を直視し、気候の科学と国際合意に真摯に向き合い、省エネの一層の推進、再生可能エネルギーの最大限の拡大、石炭火力ひいては化石燃料の少なくとも2030年代前半までの廃止に向けたロードマップを徹底的に議論し、1.5℃目標達成に向けたエネルギーミックスを検討することが求められる。

参考

Apulia G7 Leaders’ Communiqué(G7 Italiaウェブサイト)

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