気候ネットワークは、株式会社JERAによる袖ケ浦火力発電所新1~3号機建設計画の環境影響評価方法書に対し、意見書を提出しました。
資料閲覧や意見提出は以下リンク先へアクセスしてください(意見書の提出方法は郵送/提出期限は2026年8月31日消印有効)
(仮称)袖ケ浦火力発電所新1~3号機建設計画 環境影響評価手続きについて
この計画の概要
- 袖ケ浦火力発電所の既設1~4号機を段階的に廃止・撤去し、新たに最新の高効率ガスタービン・コンバインドサイクル発電設備3基(新1~3号機)を設置する。
- 運転開始時期は以下の通り
- 新1号機:2032年
- 新2号機:2033年
- 新3号機:2041年
- 水素・アンモニアの導入と段階的な転換、CCSやCCUS等の活用を検討するとしている。

【意見①】気候危機の深刻化と化石燃料インフラ新設の不当性
世界各地で気候危機が急速に深刻化する中、パリ協定の1.5℃目標達成に向け、国際社会は化石燃料からの脱却を加速させています。G7サミットにおいても「2035年までの電力部門の完全又は大宗の脱炭素化」が合意されており、IPCCやIEAの示唆するシナリオに照らせば、2030年代以降に新たな大型化石燃料インフラを建設・稼働させる猶予は残されていません。
本事業(袖ケ浦火力発電所新1~3号機建設計画)は、新1号機(2032年)、新2号機(2033年)、新3号機(2041年)と、まさに電力部門の脱炭素化を完了させるべき時期に相次いで大型LNG火力発電所を新設・稼働させる計画です。想定される耐用年数(40年程度)を勘案すれば、2070年代〜2080年代に至るまで大量の温室効果ガス(CO₂およびメタン)の排出を将来に固定化(ロックイン)させるものであり、気候科学の要請および国際的な脱炭素の潮流に真っ向から反するものです。
【意見②】配慮書に対する経済産業大臣意見への著しく不十分な対応
本方法書は、計画段階環境配慮書に対して提示された経済産業大臣意見[方法書 p.293-294]に真摯に向き合っておらず、大幅な説明不足・検討不足を抱えたまま提示されています。
大臣意見では、特に以下の重要事項が要請されていました。
- 1.5度目標およびG7合意との整合:2035年・2040年・2050年に向け1.5度目標と整合する道筋が描けない場合は、あらゆる選択肢(事業不実施や縮小、休廃止等)を勘案して検討すること[大臣意見(4)(6)]。
- サプライチェーン全体の排出削減:発電時のみならず、燃料の製造・輸送等を含むサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を算定し削滅すること[大臣意見(5)]。
しかしながら、本方法書においては、不十分な国の第7次エネルギー基本計画や自社の「JERAゼロエミッション2050」への依拠にとどまり、1.5℃目標との定量的整合性や事業不実施(ゼロオプション)の検討結果を示していません。また、サプライチェーン全体の排出量やメタン漏洩についても、具体的な調査・算定・評価手法を一切提示せず「低減に努める」との定性的表明に終始しています。これは環境影響評価手続きとして極めて不誠実と言わざるを得ません。
【意見③】国内最大の発電事業者としての責任と代替選択肢への転換
事業者である株式会社JERAは、国内最大の発電事業者として日本の脱炭素化をリードすべき立場にあります。不確実でエネルギー効率の低い将来の水素転換やCCS・CCUSに依拠して化石燃料インフラを正当化する姿勢は、将来的な座礁資産化や国民・需要家へのコスト転嫁を招くリスクを孕んでいます。
貴社におかれましては、本事業計画(新1~3号機建設)がもたらす致命的な気候影響と事業リスクを再認識し、「LNG火力ありき」の方法書を取り下げ、本建設計画の中止(既設設備の順次廃止)および再生可能エネルギー・系統柔軟性向上への直接的な投資・事業転換を強く求めます。
【意見④】データセンター併設等の需要増加を口実とした化石燃料火力の新設・長期運用について
報道等によれば、東京湾内のLNG火力発電所に隣接・併設する形での大規模データセンター(DC)建設計画が取り沙汰されており、本事業(袖ケ浦火力発電所)もその候補地となり得ることが指摘されています。
本事業において、このような特定の高負荷需要(データセンター等)への供給や施設併設が想定・検討されている場合、以下の理由から気候変動対策および環境影響評価手続き上の重大な問題が存在します。
1. デジタル化・AI需要を理由とした化石燃料ロックインの不当性
データセンターの急速な電力需要増加に対応するためと称して、今後数十年にわたり大量の温室効果ガスを排出し続ける大型LNG火力発電所を新設することは、脱炭素社会への移行を根本から阻害するものです。デジタルインフラの拡大に必要な電力は、火力発電の延命や新設によって賄うのではなく、再生可能エネルギーの新規開発および系統蓄電池やデマンドレスポンスの活用によって優先的に供給されるべきです。
2. 需要家企業(RE100加盟企業等)の脱炭素要請との乖離
現在、データセンターを利用する国内外の主要企業やIT事業者は、RE100やSBT(Science Based Targets)に基づき、自社が使用する電力の100%再生可能エネルギー化を厳しく求めています。例えば、弊社が提携するさくらインターネットも早期からSBT認定を取得するなど、業界内での脱炭素化への動きは加速しています。 このような状況下で、 化石燃料(LNG)で発電された電気をデータセンターに供給することは、需要家企業のサプライチェーン排出量を増大させ、我が国の産業競争力を削ぐ結果となります。仮に「LNGの冷熱利用によるDCの冷却効率化」などが提示されたとしても、発電に伴う膨大な絶対排出量を正当化する根拠にはなり得ず、実質的なグリーンウォッシュと言わざるを得ません。
3. 事業計画・電力需要想定における情報開示の欠如
本方法書においては、本事業の目的として単に「需給バランスを柔軟に調整できる火力発電」[方法書 p.3]といった定型的な説明がなされるにとどまり、敷地利用や送電先として想定される大規模需要(データセンター計画等)との関連性についての説明が一切ありません。事業の前提となる電力需要の性質や設備利用率の想定、さらには敷地利用の全容が開示されないまま環境影響評価が進められることは、住民や自治体による適切な調査・予測・評価および意見提出の機会を奪うものであり、アセスメント手続きの透明性を著しく欠いています。
4. 求める対応
1. 特定の大規模データセンター事業等への電力・冷熱供給を前提、あるいは考慮しているか否かについて、事業計画および需要想定の事実関係を明確に開示すること。
2. データセンター等の電力需要増を口実とした新規LNG火力の建設を撤回し、需要増加に対しては100%再生可能エネルギーによる供給計画へと転換すること。
【意見⑤】計画段階配慮書について提出した意見に対する事業者の見解(No.1)について[方法書 p.394]
配慮書に対する当方の意見に対し、貴社は「第7次エネルギー基本計画」においてLNG火力が「トランジションの手段」や「供給力確保」として位置づけられていること、ならびに自社のロードマップに基づく将来的なゼロエミッション化を根拠に、本事業の正当性を主張しています。
しかしながら、以下の理由から貴社の回答は当方の指摘および配慮書に対する経済産業大臣意見に正面から答えておらず、本計画の正当化の根拠とはなり得ません。
1. 不十分な国の計画への依拠は1.5℃目標との不整合を免責しない
貴社が依拠する「第7次エネルギー基本計画」および政府目標(2030年度46%削減、2035年度60%削減等)は、国内外の科学者コミュニティや国際機関から「1.5℃目標の達成には不十分である」と一貫して指摘されています。G7で合意された「2035年までの電力部門の完全又は大宗の脱炭素化」やIEA(国際エネルギー機関)の1.5℃シナリオ(天然ガス発電量を2030年にピークとし2040年までに90%削減)とも整合していません。配慮書に対する経済産業大臣意見においても、「1.5度目標と整合する形で可能な限り早期に進めること」[方法書 p.293]や、「二酸化炭素排出削減の取り組みの道筋が1.5度目標と整合する形で描けない場合には、あらゆる選択肢を勘案して検討すること」[方法書 p.294]が求められています。科学的要請から乖離した国の計画を楯に、1.5℃目標との定量的整合性を示さない姿勢は到底認められません。
2. 運転開始時期(2032〜2041年)と長期的な排出固定化(ロックイン)の矛盾
本計画では新1号機が2032年、新2号機が2033年、新3号機が2041年に運転開始を予定しています。火力発電所の耐用年数を40年と仮定すれば、2070年代〜2080年代まで大量の温室効果ガスを排出し続けることになります。 IPCC第6次評価報告書が明示している通り、世界全体の残余カーボンバジェットは極めて限られており、既存の化石燃料インフラすら早期廃止が求められる中で 、2030年代以降に新たな大型化石燃料インフラを建設・稼働させる余地はありません。最新式の高効率ガスタービンであっても、排出係数(0.32〜0.36 kg-CO₂/kWh程度)はIEAの1.5℃シナリオが求める2030年目標(0.186 kg-CO₂/kWh)の2倍近くに達し、明確に不整合です。
3. 「調整力」を理由とした新規建設の合理性の欠如
再生可能エネルギーの出力変動に対する「調整力」や「柔軟性」の確保は、蓄電池、デマンドレスポンス、送配電網の強化(広域系統連携)、既存火力の柔軟な運用など、より低炭素で経済合理的な代替手段によって達成可能です 。調整力を口実に、巨額の資金を投じて長寿命の化石燃料インフラを新設することは、大規模なCO₂排出源を固定化させるだけでなく、将来的な座礁資産化のリスクを高めるのみです。
4. 条件付きの「ゼロエミッション化」による説明責任の放棄
貴社は水素転換やCCS・CCUSの活用を掲げていますが、配慮書等において「技術開発の実現や投資回収等の条件を満足することを前提」[方法書 p.4]としており、条件が整わなかった場合の具体的な代替策やリスクを示していません 。 実証段階でコストや技術・供給体制に課題が多い水素・アンモニアやCCSを根拠に 、現時点での膨大な排出を伴う新規LNG火力建設を推し進めることは、不確実な未来技術に依存して確実な排出源を確定させる無責任な行為(グリーンウォッシュ)です。
以上より、国の計画や不確実な将来技術を口実に新規建設を正当化する回答を取り下げ、本リプレース計画(新1〜3号機の建設)の中止および再生可能エネルギーへの直接的投資や系統柔軟性の向上への転換を強く求めます。
【意見⑥】計画段階配慮書について提出した意見に対する事業者の見解(No.2, No.3)について[方法書 p.394-395]
貴社は自社の長期ビジョン「JERAゼロエミッション2050」および中間目標である「JERA環境コミット2030/2035」を挙げ、本計画が国のエネルギー政策や1.5℃目標と整合していると主張しています[方法書 p.394-395]。しかしながら、以下の通り、貴社が提示した目標や根拠自体が国際合意や気候科学の要請から大きく乖離しており、本計画を正当化する説明としては著しく不十分です。
1. 自社目標「JERA環境コミット2035」はG7合意および1.5℃目標と明確に矛盾する
貴社は「JERA環境コミット2035」において「2035年度までに国内事業からのCO₂排出量を2013年度比60%以上削減」することを掲げています[方法書 p.395]。しかし、2023年G7広島サミットおよび2024年G7プーリアサミットで合意された国際約束は「2035年までに電力部門の完全又は大宗の脱炭素化」です。2035年時点で4割もの排出を残存させる目標は「完全又は大宗の脱炭素化」とは到底言えません。さらに、新3号機にいたっては2041年という、G7が掲げる脱炭素化期限(2035年)を大幅に過ぎた時期に運転開始が計画されています。国際的な研究機関(Climate Action Tracker)等の分析によれば、日本が1.5℃目標と整合するためには2035年までに78%以上の削減が必要とされており、貴社の2035年目標および本建設計画は、1.5℃目標およびG7合意のいずれとも明確に矛盾しています。
2. 「排出原単位の改善」は「CO₂累積総排出量」の増加を誤魔化す論理すり替えである
貴社は「老朽火力の更新を通じて排出原単位を大きく改善する」と説明します[方法書 p.395]。しかし、地球温暖化の進行を左右するのは「累積のCO₂総排出量(カーボンバジェット)」であり、発電効率の向上(原単位の改善)ではありません。最新式のガスコンバインドサイクルであっても、排出係数は0.32〜0.36 kg-CO₂/kWh程度であり、IEA(国際エネルギー機関)の1.5℃シナリオが求める2030年の電力部門平均(0.186 kg-CO₂/kWh)の約2倍に達します。2030年代以降に新設され、今後数十年にわたり稼働し続ける新1〜3号機は、莫大な量のCO₂排出を将来にわたって固定化(ロックイン)させるものであり、「原単位の改善」を理由に巨額の化石燃料インフラ投資を正当化することは許されません。
3. 不確実な「水素・アンモニア転換」を前提とした説明責任の回避
貴社は「将来の水素転換等のゼロエミッション化に対応しうる柔軟なインフラ」[方法書 p.395]と主張しますが、配慮書に対する経済産業大臣意見(5)において求められている「燃料の製造・輸送等を含むサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量の算定と適切な削減」[方法書 p.293]に対する具体的な回答を行っていません。現状、商用利用が検討される水素・アンモニアの多くは化石燃料由来(グレー水素等)であり、製造・輸送時の排出を考慮すればライフサイクル全体で削減にならない懸念があります。また、専焼・大規模利用に必要な燃料調達の具体性や経済合理性も示されていません。実証段階で不確実性の高い技術への期待を盾に、現時点で確実な大量排出源を創出する姿勢は「グリーンウォッシュ」との批判を免れません。
4. 求める対応
配慮書に対する経済産業大臣意見(6)では、「1.5度目標と整合する形で道筋が描けない場合には、あらゆる選択肢を勘案して検討すること」[方法書 p.294]が命じられています。 G7合意や1.5℃目標と不整合な自社目標・国の方針を根拠とする回答を撤回し、本新設計画の中止(リプレースを伴わない既設1〜4号機の廃止 )および再生可能エネルギー・系統柔軟性への直接投資を選択肢として検討することを強く求めます。
【意見⑦】計画段階配慮書について提出した意見に対する事業者の見解(No.6)について[方法書 p.396]
配慮書に対する意見提出において、近年の学術研究で明らかな通り、天然ガスの採掘・液化・輸送プロセスにおけるメタン漏洩や消費エネルギーを考慮すると、LNG火力のライフサイクル全体の温室効果ガス(GHG)排出量が石炭火力に匹敵、あるいはそれを超える可能性があることを指摘しました。
これに対し貴社は、「研究が行われていることは把握しております。当社としては、ライフサイクル全体での温室効果ガスの排出を可能な限り低減するように努めてまいります」とのみ回答しています[方法書 p.396]。しかしながら、この回答は以下の理由から極めて不誠実であり、環境影響評価手続きとして到底認められません。
1. 経済産業大臣意見(5)への明確な軽視・無視
配慮書に対する経済産業大臣意見(5)においては、「燃料の製造、輸送等も含む本事業のサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を算定し、適切に削減していくこと」[方法書 p.293]と明確に要請されています。 貴社が「低減に努める」という抽象的な精神論に終始し、どのような前提・算定手法を用いてサプライチェーン全体の排出量やメタン漏洩の影響を定量的に評価するのかを方法書に明記しないことは、大臣意見を著しく軽視・無視するものです。
2. メタン漏洩および上流工程排出の科学的重大性への不誠実な対応
天然ガスの主成分であるメタンは、短中期的にCO₂の数10倍におよぶ強力な温室効果をもたらします。近年発表された研究(Howarth 2024等)が示すように、採掘から輸送・液化に至るサプライチェーンでごくわずかなメタン漏洩(数%程度)が生じるだけで、LNGの「石炭より低炭素」という前提は完全に崩壊します。 日本国内最大のLNG取扱事業者である貴社が、調達先ガス田や輸送プロセスにおけるメタン漏洩率の想定値、サプライチェーン全体のGHG排出係数、それらを踏まえた影響評価手法を提示しないまま「低減に努める」と述べるだけでは、気候影響の正当な予測・評価とは言えません。
* Howarth RW. [2024] “The greenhouse gas footprint of liquefied natural gas (LNG) exported from the United States,” Energy Sci Eng, Volume12, Issue1112: 4843-4859.
3. 方法書として調査・予測・評価手法を示す説明責任の欠如
本手続きは「環境影響評価方法書」であり、事業計画に伴う環境影響をどのように調査・予測・評価するかという「方法」を住民や関係自治体に開示し、意見を聴く場です。 単に「低減に努める」との意思表示をするだけで、配慮書段階で問われた主要なリスク(サプライチェーン全体の排出・メタン漏洩)についての評価手法を一切提示しないのは、環境アセスメント制度の趣旨を根底から害するものです。
4. 求める対応
貴社に対し、以下の点を準備書に向けて速やかに検討し、評価手法および算定結果を明示することを強く求めます。
- 本事業で使用するLNGの調達先・サプライチェーン全体におけるGHG排出量、特に採掘・液化・輸送工程でのメタン漏洩量を織り込んだ定量的算定手法および前提条件を方法書・準備書において提示すること。
- 配慮書大臣意見(5)に直結する内容として、サプライチェーン全体の排出削減に向けた具体的・実効性のある取り組み(調達先への漏洩対策要請、低排出LNGの優先調達等)を定量的根拠とともに明示すること。
【意見⑧】計画段階配慮書について提出した意見に対する事業者の見解(No.8)について[方法書 p.396-397]
配慮書に対する意見提出において、発電部門における水素・アンモニア利用のエネルギー効率の低さ(非合理性)、クリーン水素の需要供給のアンバランス、ブルー水素のライフサイクルにおける排出リスク、ならびに条件が整わない場合における化石燃料運用の長期化(ロックイン)リスクを具体的に指摘しました。
これに対し貴社は、「JERAゼロエミッション2050」の宣伝や、パートナー企業との協業によるクリーン水素サプライチェーン構築の取り組みを定性的に説明するのみで[方法書 p.396]、当方が提示した課題や科学的指摘に対して正面からの回答を避けています。
1. 「エネルギー効率の低さ(非合理性)」という根本課題に対する回答の欠如
再生可能エネルギーを用いて製造されたグリーン水素であっても、それを輸送・貯留し、再び火力発電所で燃焼して電気に戻すプロセスでは、膨大なエネルギーロス(熱効率の大幅低下)が発生します。 再エネを直接電力として利用、あるいは蓄電池や系統強化で調整力を確保する代替手段が存在する発電部門において、わざわざ水素に変換して発電に用いることは極めて非効率かつ高コストです。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が「無差別な使用はエネルギー転換を遅らせる」と警鐘を鳴らしている点について、貴社は何ら科学的な反論を示していません。
2. クリーン水素の供給限界と「優先的用途」の無視
大規模な大型コンバインドサイクル発電所で混焼・専焼を行うために必要な量のクリーン水素(グリーン/ブルー水素)を、経済合理的かつ安定的に調達できる見通しは立っていません。また、水素は脱炭素化の代替手段が存在しない熱需要産業(鉄鋼、化学等)や長距離輸送等に優先的に割り当てられるべきであり、代替手段(再エネ・蓄電池等)が存在する発電部門で大量消費することは、社会全体の脱炭素化をかえって阻害します。貴社の回答は、こうした需要の競合や調達の現実性に関する定量的な説明を欠いています。
3. 「ブルー水素・アンモニア」の気候影響の過小評価
貴社は「化石燃料を原料としてCO₂を分離回収するブルー水素・アンモニア」をクリーン燃料の選択肢として挙げています[方法書 p.396]。しかし、ブルー水素は原料となる天然ガスの採掘・輸送過程におけるメタン漏洩(前述の通り強力な温室効果ガス)や、CCS(炭素捕獲・貯留)の回収率の限界(実質6〜8割程度にとどまる事例が多い)が存在するため、ライフサイクル全体で見れば十分な温室効果ガス削減効果が得られないリスクがあります。配慮書大臣意見(5)が求めた「サプライチェーン全体のGHG排出量の算定」を欠いたままブルー水素を正当化することは許されません。
4. 条件不成立時における責任回避とロックインリスク
当方が指摘した「技術の実現や経済合理性等の条件が整わなかった場合の想定リスク・代替策」に対し、貴社は一切答えていません。実証段階で不確実性の高い技術への期待を口実に、現在確実に大量のCO₂を排出し続ける大型LNG火力発電所を新設・長期稼働させることは、将来的な座礁資産化を招くとともに、気候変動対策の責任を未来に先送りする行為(グリーンウォッシュ)です。
5. 求める対応
不確実で非効率な水素導入やCCS・CCUSへの期待を理由に新1〜3号機の建設を正当化する回答を取り下げ、本建設計画の中止(ゼロオプション)および再生可能エネルギーや系統柔軟性への直接投資を事業計画として真摯に検討することを強く求めます。
【意見⑨】計画段階配慮書について提出した意見に対する事業者の見解(No.11)について[方法書 p.399]
配慮書に対する意見提出において、気候危機に対応するための再エネ転換や、リプレースを伴わない既設1〜4号機の廃止(ゼロオプション)、燃料高騰リスクや需要家要請(RE100等)を踏まえた複数案の検討を求めました。
これに対し貴社は、「同じLNGを燃料とする高効率な設備に更新することを目的とした計画であるため、再エネやLNG以外の燃料種との複数案は検討しておりません。また、本事業を実施しないという複数案についても、検討しておりません」[方法書 p.399]と回答しました。
しかしながら、この回答は以下の通り、環境影響評価制度の根幹を揺るがすものであり、到底認められません。
1. アセスメント制度の趣旨および経済産業大臣意見に対する明確な違反
環境影響評価(アセスメント)手続き、とりわけ計画段階環境配慮手続きの核心は、事業計画が固定化する前の段階において、「事業を実施しない案(ゼロオプション)」や「規模・電源種の変更案」を含む複数案を比較検討し、真に環境負荷の少ない選択肢を模索することにあります。「事業目的がLNG火力の更新だから他案は検討しない」という論理は、「結論(LNG火力新設)ありき」で手続きを進めていることを自認するものであり、環境影響評価制度の趣旨を根本から否定するものです。 また、配慮書大臣意見(6)においても、「1.5度目標と整合する道筋が描けない場合には、あらゆる選択肢を勘案して検討すること」[方法書 p.294]と命じられており、ゼロオプションや代替案の検討をハナから拒否する姿勢は、大臣意見への明確な違反です。
2. 環境影響の「軽重」の意図的なすり替え
貴社は「既存施設の活用により大規模な土地改変を回避し、環境負荷を軽減できる」[方法書 p.399]と主張します。しかし、本建設計画(新1〜3号機)において最も深刻かつ広域的・長期的な環境影響は、今後数十年にわたって排出され続ける大量の温室効果ガス(CO₂およびメタン)による気候変動への及ぼす影響です。 局所的な土地改変の回避という限定的な要素をもって、地球規模の気候影響を及ぼす化石燃料インフラの新設を正当化し、より劇的に温室効果ガスを削減できる「ゼロオプション」や「再エネ・蓄電池への代替案」の検討を放棄することは、重大な論理のすり替えです。
3. 需要構造の変化や事業リスクに対する分析の不備
当方が指摘した、世界的な燃料価格高騰リスク、カーボンプライシング導入による発電コスト上昇、さらにはRE100やJCI等に加盟する需要家企業による「再エネ電力」への急速なシフトといった経済的・社会的背景について、貴社は自社の再エネ開発目標(2035年度2000万kW)を繰り返すのみで、本事業(袖ケ浦火力)における経済性や需要リスクの分析を行っていません。 化石燃料由来の電気が市場で忌避され、座礁資産化するリスクが高まる中で、巨額の資金を投じて新設することが将来にわたり国民や需要家にどのような経済的負担をもたらすのかについての検証も皆無です。
4. 求める対応
貴社に対し、以下の対応を強く求めます。
- 「LNG火力新設ありき」で複数案およびゼロオプション(不実施案)の検討を拒否した回答を取り下げること。
- 準備書手続きに向けて、①リプレースを行わず既設1〜4号機を廃止する「ゼロオプション」、②敷地内・周辺における大規模再生可能エネルギーや大型蓄電池・系統連携施設への転換案、③設備規模を最小限に抑える縮小案、を具体的に設定し、温室効果ガス排出量や累積気候影響についての定量的・科学的な比較評価手法を方法書・準備書に明示すること。

