2024年10月16日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク


 第50回衆議院議員総選挙が、2024年10月15日に公示され、10月27日に投開票となる。気候ネットワークでは、この選挙に先立ち、政党*の選挙公約(マニフェスト・政策)をもとに、各政党の地球温暖化対策に関連した政策を評価分析した。

*立憲民主党の政策集の更新を反映し、修正(10月17日)
*公明党、日本維新の会の政策集やマニフェストの更新、他党も含めたこれまでの評価内容の再検討を反映し、修正(10月22日)

♦第7次エネルギー基本計画とNDC策定を年度内に控えた選挙

 岸田文雄内閣が、2024年10月1日の閣議で総辞職した。在職日数は1094日と長期に渡り、この間、2022年7月に内閣総理大臣を議長とするGX実行会議を発足。そこで示されたグリーントランスフォーメーション(GX)関連施策が次々と固められた。次世代革新炉への建て替えの具体化や60年の運転延長など原子力推進体制の強化、水素・アンモニアの生産・供給網構築、既存燃料との価格差に着目した支援制度の導入、容量市場の着実な運用、長期脱炭素電源オークションの導入など、脱炭素電源投資を後押しする方針を打ち出した。しかし、「脱炭素電源」として積極的に推進されたのは、既存石炭火力のアンモニア混焼、原子力であり、LNG専焼火力まで脱炭素電源の位置づけで1000万kWの増設を図ろうとしてきた。このように化石燃料依存構造の維持・原子力回帰という気候変動対策に逆行する政策が実施され、気候変動対策として重要な「この10年の取り組み」で、具体的な削減策につながる再エネや省エネの普及は軽視され、伸びは鈍化していた。
 同10月1日に石破茂内閣が発足。政権誕生からわずか8日で衆議院が解散した。今回、第7次エネルギー基本計画やNDCを年度内に控えた重要なタイミングで、自公政権によるGX関連のエネルギー政策や気候変動政策を維持するか、新たな気候エネルギー政策に向かうかを方向づける選挙となる。しかし残念ながら、公約で主要政策として上げている政党はほとんどなかった。今回のマニフェスト比較では、2030年以降の温室効果ガス削減目標の設定、脱石炭火力発電の方向性、火力発電における水素・アンモニアの混焼、CCUSの導入、再生可能エネルギーの導入と野心的目標の設定、脱原発の実現などの記載を総合的に評価し、得点を出した。

注)この分析は気候変動対策・政策に関して評価するものであり、特定の政党・候補者を応援したり支持したりするものではありません。

*総務省「政治団体名簿-政党」(2023年10月6日現在)に掲載のある政治団体とした。

記号の読み方
◎(5点)  具体的な記載があり、なおかつ意欲的な内容・目標となっている政策
〇(3点)  記載があるが、現状からの向上はあるが、意欲的とは言いがたい政策
△(1点)  記載があるが、内容・目標は現状追認の政策
×(-1点)記載はあるが、時代に逆行する政策
―(0点) 記載がない

◆論点:2030~35年の温室効果ガス削減目標の設定

 温室効果ガス削減目標については、1.5℃目標に整合させるため、日本は2013年度比で60%以上の削減が求められている。現行の政府の目標は2013年度比で2030年46%~50%削減であり、2050年カーボンニュートラルが示されてはいるものの、1.5℃目標とは整合しないことが指摘されている。

 また、国連気候変動枠組み条約においては2025年2月が国別削減目標(NDC)の提出期限となっており、各国は2035年の野心的な削減目標を提出することが求められている。日本として1.5℃目標に整合する削減目標を提出できるかどうか政治的決断が必要である。

  各党の温室効果ガスの2030年の目標は、自由民主党と日本維新の会が現行どおり46%削減、立憲民主党は55%以上削減(2013年比、60%も可能)、日本共産党は50~60%削減(2010年度比)、社会民主党は60%削減、れいわ新選組は70%削減と現行の削減目標を深堀した。公明党、国民民主党、参政党は記載がなかった。また、2035年目標を示したのは日本共産党のみであった。

◆論点:脱石炭火力発電の方向性

 1.5℃目標を達成するには、世界全体で石炭火力を段階的に廃止し、先進国は2030年までに全廃、途上国も遅くとも2040年までに全廃することが不可欠だとされている。日本を除くG7各国では、段階的廃止が進み、今年9月30日にはイギリスの最後の石炭火力が廃止になるという「脱石炭時代のはじまり」を象徴する出来事もあった。また、今年6月のG7首脳会議の合意文書には、二酸化炭素排出削減対策が講じられていない(Unabated)石炭火力発電の段階的廃止について、2030年代前半との期限が初めて記された。日本も合意している以上、具体的に脱石炭を国内でいつまでにどのような形で実現するか具体的なロードマップを打ち出す必要がある。しかし、与党の自由民主党、公明党だけでなく、野党第一党の立憲民主党も石炭火力を緊急時のバックアップ用と限定しながらも脱石炭の記載はなく、アンモニア混焼技術を支援する立場をとった。日本共産党、れいわ新選組、社会民主党はいずれも2030年に石炭火力を全廃するとしている。

 なお「火力発電の次世代化・高効率化を推進する」という現行の政府の方針は、火力発電の延命策であり、気候変動政策に逆行するものである。

◆論点:水素・アンモニア燃料、CCUS

 政府は、2050年のカーボンニュートラルに向けて、GX基本方針、GX推進法、水素社会推進法やCCS事業法を制定してきた。この中で水素・アンモニアを脱炭素の柱と位置づけ、石炭火力へのアンモニア混焼を推進し、火力発電を2050年以降も使い続け、排出されるCO₂を回収して貯留するCCSで対応するとしている。しかし、これらは実用化には程遠く、石炭火力の延命策にすぎない。水素社会推進法では、水素やアンモニアの炭素集約度の基準を設定することとしたものの、生産時のCO₂排出削減量や、基準が達成できているか確認する方法が何ら講じられていない。ライフサイクルで見た場合の削減効果がないばかりか、製造や輸送段階で高コストであることも度外視した予算支援策が次々と打ち出されている。選挙で争点化し、この問題を明らかにする必要がある。

 多くの政党は具体的に記載がなかったが、自由民主党や公明党は水素やCCSを積極的に推進する方向を示した。立憲民主党はグリーン水素やグリーンアンモニアの活用を前提としつつも、発電に必要な量の確保に関する取り組みを支援する現行施策を追認した。日本維新の会は、研究開発に積極的に取り組むとした。日本共産党は、アンモニア混焼やCCSに合理性がないとしている。れいわ新選組は再エネを利用した国産グリーン水素の活用を示した。

◆論点:再生可能エネルギーの導入と野心的目標の設定

 「第6次エネルギー基本計画」では再生可能エネルギーを2030年電源構成で36~38%としているが、英国やドイツなど、既に日本の2030年目標を大きく上回る再エネ比率を達成した国も増えている。2023年のCOP28では、2030年までに世界の再生可能エネルギー設備容量を3倍にする目標が合意された。環境省は、日本の再生可能エネルギーの発電ポテンシャルは、最大で現在の電力需要の7倍と示しており、第6次エネ基の目標を上回る目標設定が求められる。

 自由民主党と公明党は再エネの最大限導入を掲げたが、具体的な数値目標は示さなかった。

 立憲民主党と社民党は、2030年50%、2050年100%を目指すとした。日本共産党は、2035年の再エネ導入目標80%を掲げた。れいわ新選組は、2030年までにエネルギー供給の70%、2050年までに100%を目指すとした。国民民主党は、2030年代40%と目標を掲げたが、再エネ賦課金の徴収停止など、再エネ普及支援に慎重な姿勢も示した。参政党は現在の再エネ推進策は行き過ぎであり、見直すとした。

◆論点:脱原発の実現

 自由民主党は、既存の原発の最大限活用のほか、次世代革新炉の開発・建設や核燃料サイクルの推進を掲げた。公明党は「原発の依存度を低減しつつ、将来的に原子力発電に依存しない社会」をかかげた、日本維新の会は次世代原子力発電の活用推進、国民民主党は次世代革新炉の開発・建設の推進に舵を切った。立憲民主党は「原発ゼロ社会を一日も早く実現」としたほか、日本共産党、れいわ新選組、社民党は明確な脱原発の立場をとった。

ペーパー全文

【プレスリリース】第50回衆議院議員選挙 各党選挙公約の気候変動エネルギー政策に関する分析(10月22日修正)

参考

国政選挙での政党マニフェスト評価

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