特定非営利活動法人 気候ネットワーク

2023年4月11日、国内外の環境NGOとその代表者を含む個人株主が、金融、商社、電力の3業界の6企業(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、三菱商事、日本最大の発電会社・JERAの経営に大きく関与する東京電力ホールディングスと中部電力)に対し、気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました。これらの提案は、2023年6月後半に開催された各社の株主総会にて否決されていますが、2020年のみずほフィナンシャルグループへの株主提案から数えると4年目となる株主提案活動の中での変化も踏まえ、議決権行使の結果を報告します。

議決権行使結果

今回、これらの提案に対する議決権行使助言会社大手のグラスルイス(Glass Lewis)とインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)の判断は、すべてに反対というものでした。従来であればこの2社の判断が投資家の議決権判断に影響すると見られていましたが、各社の議決権行使結果をみると、それぞれの基準で判断をする会社が増えているようです。判断およびその理由はさまざまでした。

議決権行使助言会社の判断結果

 MUFG-3SMFG-3Mizuho-2TEPCO-2Chubu-10MC-5MC-6
ISS反対反対反対反対反対反対
GL反対反対反対反対反対反対反対

国内外の主な運用受託機関・信託銀行の議決権行使結果

株主提案活動を重ねてきた中で、我々が定款変更という枠内で提案を提出することに対しては、一定の理解が広がっており、業務執行に具体的な制約を加える可能性のある内容を含んでいることから定款への記載は妥当でないので反対とする意見がある一方で、業務執行への影響は限定的と判断し、それよりも中長期的な企業価値に対する気候変動問題の重要性を考慮して賛成するとの判断も見られました。

株主提案に対する議決結果

6社の提案に対する運用受託機関および機関投資家の議決権行使状況を2023年12月末時点での公開情報から調査した結果、それぞれの提案に対する賛否(企業・団体の数)は下表のようになりました。各提案に対する議決権行使の調査結果詳細は添付ファイル(PDF)にてご確認ください。 

株主提案に対する議決権行使 調査結果

MUFG-3SMFG-3Mizuho-2TEPCO-2Chubu-10MC-5MC-6
全体賛成29272722262827
 反対48403126263234
 分裂1000020
         
国内資産賛成6565575
運用会社反対12131212131113
 分裂0000000

*分裂とは、企業またはグループ会社の中で議決権行使の賛否が分かれているケース。調査対象とした105企業の議決権行使結果から、我々の提案に対する議決権行使結果が確認できた企業・団体のみをカウントしたもの。

この数年で、世界的に見ても気候変動に関連する株主提案の数自体が増加していますが、日本企業の気候変動対策に対する監視も強まっています。ISSは、2023年2月から施行となった『2023年版 日本向け議決権行使助言基準』において、Climate Action 100+により選定された企業が気候関連財務情報開示タスクフォース (TCFD) などの枠組みに従い気候変動リスク情報が適切に開示されているとは見なせない場合には、取締役の選任に反対を推奨することを提案しています。グラスルイスも同様の改定を行っており、気候変動リスクに関連する情報の開示ついては、取締役が責任を負うべきとの見解が強まるにつれ、対象となる企業がClimate Action 100+選定企業以外にも拡大していく可能性は残されています。さらに、国内運用受託機関も議案判断基準(議決権行使ガイドライン)を改定したり、企業が直面する気候変動リスクの管理について取締役会が説明責任を果たすよう促したりするようになってきています。アセットマネジメントOne] は、供給網全体の温暖化ガス排出量を示す「スコープ3」を含めた温暖化ガスの排出削減などについて、具体的な計画策定や開示を求めるように改定しており、日興アセットマネジメント は、取締役選任の中に、「パリ協定に整合する中期・長期の排出量削減目標の設定」や「目標実現に向けたロードマップ策定・実施」などの項目を盛り込んできており、気候変動対策の重要性は広がってきていると言えます。

しかし、企業が2050年目標を掲げていることを評価する、あるいは当該企業の取り組みを評価するので提案に反対するとの傾向も強く残っており、このままの対策だけで2050年までに間に合うのかとの危機感を感じることは否めません。

世界中で提出されている気候変動に関する株主提案の中には、企業とのエンゲージメントの結果、株主総会前に撤回されるものも多々あります。企業側からすれば、提案が公開議決(各社による議決権行使)に至る前に、提案者との対話を通して合意に至る必要があるわけですが、残念ながら我々の場合には事前合意が得られませんでした。とはいえ、株主による議決権行使の結果からは、気候変動対策を重要視し、企業の説明責任を求めている投資家が一定数いることが示されています。とはいえ、もはや理解を得るだけでなく、いかに対策を少しでも早く進めるかが課題となっています。

今後に向けて

日本政府が2050年ネットゼロを掲げたことにより、企業側も2050年に向けた長期目標を設定し、独自の気候変動対策計画を公開するといった取り組みを進めてはいますが、株主提案の対象となったいずれの企業も目標達成に向けた具体的な計画については、日本政府主導のアンモニア・水素、CCS/CCUSの利活用といった現状では商用化が確立していない技術革新に大きく依存しており、実質的な削減策となる火力発電所の廃止や再生可能エネルギーの普及拡大、公正な移行に向けた対策は不十分です。エネルギー安全保障の視点からも、各社が脱炭素目標に向けて現実的かつ具体的な行動を盛り込んだ行動を起こす必要性に迫られています。今後、株主提案を続けるとしても、情報開示を求めるだけでなく、企業の気候変動対策の遅れに関する責任を追及していくことも検討すべきだと考えています。

集計結果

株主提案への議決権行使結果(PDF)(2023年12月時点)

関連情報

  • 【プレスリリース】国内外の環境NGOが東証プライム6企業に株主提案〜メガバンク全3社含む日本企業の気候変動対策に問題提起〜(2023年4月11日)(リンク
  • 【ブリーフィング】メガバンクに提出した株主提案に関する投資家向け説明資料更新(2023年6月5日)(リンク
  • 【プレスリリース】日本企業に気候変動対策を求める投資家の圧力、一段と強力に(2023年6月29日)(リンク